PMIの現場から ~M&A成功の鍵は“ヒト”にあり~
⽬次
- 1. “M&Aの成果” 実現に向けたディスクローズ
- 2. PMIにおいて“忖度”は禁物
- 3. PMIでは“ヒト”が大切
- 3-1. 著者
近年においてM&Aは広く周知され、中堅・中小企業の間でも一般的な手法として採用されるようになりました。当社でも年間300組を超えるM&Aの成約をお手伝いさせていただいています。 そして、時代は「M&Aを実行する」という第一幕から、「M&Aの成果を問う」という第二幕に移りつつあるといえるのではないでしょうか? では“M&Aの成果”とは何でしょうか? そもそものM&Aの目的は、譲渡側と譲受側で大きく違うものです。 譲渡側の目的が「後継者不在や将来不安の解決」に重点がおかれていれば、M&Aが成約した時点で当初の目的の達成度は高いといえます。 一方、譲受側けでは商圏や販路の拡大、内製化やコストの削減など様々な理由があり、それらをスピーディかつ効果的に実現させることが“M&Aの成果”であり、“PMIの成功”といえます。
※PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)とはM&A成立初日から当面の融合プロセスのこと
M&A成功のためには、従業員一丸となって取り組める体制が必要
“M&Aの成果” 実現に向けたディスクローズ
M&Aのディールプロセス中は、両社とも価格や条件の交渉などに注意が集中しているため、PMIのことをしっかり考えられずに成約を迎えるケースがあります。 しかし成約したその日からPMIは始まってしまいます。しっかり準備をしていなければ思わぬところでつまずいてしまうでしょう。 よくあるつまずきの例としては、従業員への発表のときに起こります。 M&Aのディールを進めていた両経営者は当事者同士ですからM&Aに対する覚悟は当然できています。しかし従業員からすると、急に「M&Aをしました」と言われるわけですから、まさに寝耳に水です。 そのため成約後“人心が落ち着くまで何も変えない”という「様子見アプローチ」をすることがあります。 しかし、それでは逆に従業員の不安を掻き立てる結果になってしまうことが多いのです。 従業員からすると、
- 何故M&Aを行ったのか?
- これからどんな目標に向かっていけばいいのか?
- 自分たちの扱いはどうなるのか?
- 取引先に何と説明したらよいのか?
- 仕事のやり方は何が変わって何が変わらないのか?
という不安や疑問があります。 それらの心配や疑問に対してきちんと応えられないと、通常業務に支障が出たり、両社で軋轢を生んだり、退職を考える人が出てきたり・・・と、スムーズな離陸ができなくなってしまいます。 そのような事態を避けるためにも、M&Aのディールの途中から将来ビジョンを言葉や数字に落とし込み、具体的なアクションプランやそれを実現させるためのコミュニケーションプランを策定しておく必要があります。
PMIにおいて“忖度”は禁物
最近よく耳にする言葉として“忖度”というものがありますが、PMIにおいて忖度は禁物です。 日本では空気を読んだり察することを美徳とする文化がありますが、PMIではきちんと言葉として伝えなければ、コミュニケーションロスやすれ違いにつながります。 「言わなくても分かってくれるだろう」というアプローチではお互いの理解は進まず、何をしたいのかも理解できないままとなってしまい、人心が落ち着いた頃に何か変えようとすると、「何でいまさら変えるの?」「そんなことするつもりだと思ってなかった」とせっかく落ち着いた人心がまた乱れることになります。 いくら日本人同士といってもM&A直後は“新婚状態”ですから、お互いが「何をしたいと思っているのか?」「何を心配しているのか?」「どうすれば解決できそうか?」などを話し合って理解を深めていくプロセスが必要です。 PMIではしっかりコミュニケーションをとれるような機会の確保と、それを継続する組織づくりを目指さなければなりません。
PMIでは“ヒト”が大切
譲受け側からすると、せっかく時間やコストをかけてM&A成約に至ったわけですから、そもそもの目的だったビジネス拡大やコスト削減にすぐにでも力を注ぎたいと考えがちです。 しかし、それを実行するのはその会社に属している従業員―“ヒト”です。 M&Aの成約までは”モノとカネ“をメインに検討を進めますが、PMIにおいては“ヒト”がメインになります。そのため、“ヒト”にスポットを当てた準備しておく必要があるのです。 それを疎かにすると、結局やりたかったことが出来なくなったり、実現が遅くなったりすることになりかねません。 “M&Aの成果”を早期に実現させるため、PMIでは従業員に対して「ちゃんと伝える」「ちゃんと聞く」という姿勢をもって臨む必要があります。 “ヒト”を考えることは、PMIにおいて非常に大切な心構えなのです。