M&A取引における適正価格とは
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誰もが安心してM&Aを行えるマーケットには何が必要でしょうか?
私は“ 適正な価格決定メカニズム ”だと考えています。
では、“適正価格”はどうやって決まるのでしょうか? 少し堅い話をします。
一般的に“価格”と“価値”は異なると言われています。 日本公認会計士協会が公表している企業価値評価ガイドラインによると、
「価格とは、売り手と買い手の間で決定された値段である。それに対して価値は、評価対象会社から創出される経済的便益である。価格が当事者間で取引として成立しているのに対して、価値は、評価の目的や当事者のいずれの立場か、又は売買によって経営権を取得するか等の状況によって、いわゆる一物多価(多面的な価値)となる。」
とされています。
M&Aの適正価格はどうやって算出される?企業評価と価値算定
企業評価といったとき、その意味するところは“価値算定”というのが一般的です。
しかしながら、評価の目的、評価者の立場等により一物多価となる価値算定結果が、売り手・買い手にどの程度腹落ちするものなのかという点は疑問が残ります。
価値算定にはそれなりの理論や実務慣行があり、それに基づいた算定結果は異論を唱えにくいものです。でもそれが、売り手・買い手双方にとって納得できる“適正価格”かどうかは、全く別の問題です。
どのような価格なら適正だと思うか?
みなさんは、買い物をするときに適正価格について考えることってありますか? 私はよくあります。
例えば、ちょっと高額な買い物の場合。 「今年はダウンコートを新調しよう!」と思っていて気に入ったコートがあったとしても、すぐに購入することはありません。
自分が見た値段は適正なのか、インターネットで最安値を調べます。最安値のお店で買うわけではないですが、最安値と大きく異なる金額で買うこともありません。
インターネットショッピングがこれだけ発達した時代、同じものが他にあるならインターネットで調べて、一番安い価格で売られているお店を探して購入するのは当然の消費行動となっています。最安値で購入しなくとも、最安値とほとんど変わらない価格であることを確認することで、安心して購入に踏み切ることができますよね。
適正価格とは決して最安値ではありませんが、5万円のコートがほかの店で10万円で売られていた場合、そのコートの価格として10万円が適正価格といえるのか?ということです。
もちろん、10万円の事情があるかもしれません。
・実はそのコートは数量限定品で残り少ない
・日本国内でそのコートを正規輸入している店はそこしかない
・実はお店とのコラボで特別な裏地になっている ・・・
その事情について自分が納得し、安心して購入できるなら、それは“適正価格”だと思います。 つまり、適正価格とは 自分が損をしていないという安心感を与える価格―“安心価格” ですね。
同じものが売られていない、比較対象がない不動産の場合
コートは同じものがあるので比較検討できました。
それでは、世の中に同じものが2つとなくて価格の比較ができないもの―例えば不動産の場合、取引をする当事者は、どのように“安心価格”を求めればよいのでしょうか?
この場合、類似物件の販売価格や取引実績を参照します。 対象物件と同じような立地・広さ・設備・住環境等の物件の販売価格や取引実績を参照して、対象物件の価格が割高かどうかを判断します。
会社の価格についても、同じものはふたつとありませんから、不動産と同様に考えることができますね。
取引事例の把握が困難な“会社の価格”
会社の価格も、理論的には不動産と同様、類似企業の取引事例を調べることで、対象企業がどの程度の価格で取引されるべきなのかが判断できると思います。
ただし、不動産と大きく異なるのは、類似の取引事例が把握しにくいという点です。
不動産の取引事例であれば、対象物件の近隣の不動産業者に聞いたり、それこそインターネットでもある程度の情報が入手可能です。
しかしM&Aの場合、類似企業の取引事例を価格まで把握するのは、非常に難しいことです。
大企業のM&Aは新聞などでも大々的に報じられますが、中堅・中小企業のM&Aについて調べるとなると個人の力ではほぼ不可能に近いです。
そこで、日本M&Aセンターグループ内に2016年、企業評価総合研究所が誕生しました。
当社の圧倒的な成約実績をデータベース化することによって、企業の売り手、買い手、双方に安心感を与える価格の提示が実現できます。
すでに取引事例法として当該データベースの活用が始まっています。この具体的な取り組み状況については、2018年2月のM&Aカンファレンスで説明させていただきますので、興味のある方はぜひご参加ください!