M&Aのフェアバリュー実現に必要な「取引事例法」とは
⽬次
- 1. 売り手と買い手双方が納得できる適正価格
- 2. 過去事例把握が困難な会社の価格
- 3. データ蓄積により「取引事例法」が可能に
- 3-1. 著者
売り手と買い手双方が納得できる適正価格
未上場会社のM&Aは活況を呈しており、マーケットが形成されつつある。そんな中、一層のM&Aの普及に関しては、M&Aにおける取引価格決定の透明化・円滑化が大きな課題のひとつとなっている。 一般的に“価格”と“価値”は異なると言われている。日本公認会計士協会が公表している企業価値評価ガイドラインによると、
「価格とは、売り手と買い手の間で決定された値段である。それに対して価値は、評価対象会社から創出される経済的便益である。価格が当事者間で取引として成立しているのに対して、価値は、評価の目的や当事者のいずれの立場か、又は売買によって経営権を取得するか等の状況によって、いわゆる一物多価(多面的な価値)となる」
とされている。では“適正価格”とはどうやって算出されるべきなのか?
過去事例把握が困難な会社の価格
企業評価といったとき、その意味するところは“価値算定”というのが一般的だ。しかしながら、評価の目的、評価者の立場等により一物多価となる価値算定結果が、売り手・買い手にどの程度腹落ちするものなのかという点は疑問が残る。価値算定にはそれなりの理論や実務慣行があり、それに基づいた算定結果は異論を唱えにくいもの。しかしそれが、売り手・買い手双方にとって納得できる“適正価格”かどうかは、全く別の問題である。
不動産の場合は、類似物件や近隣物件の販売価格や取引実績を参照することが可能だ。対象物件と同じような立地・広さ・設備・住環境等の物件の販売価格や取引実績を参照して、対象物件の価格が割高かどうかを判断する。 会社の価格も、理論的には不動産と同様、類似企業の取引事例を参考にして、対象企業がどの程度の価格で取引されるべきなのかが判断できる。ただし、不動産と大きく異なるのは、類似の取引事例が把握しにくいという点である。大企業のM&Aは新聞などでも大々的に報じられるが、中堅・中小企業のM&Aについて調べるとなると個人の力ではほぼ不可能に近いのが現状だ。
データ蓄積により「取引事例法」が可能に
日本M&Aセンターには、年間300組(記事当時)の成約実績があり、これをデータベース化することによって、過去の取引事例を参照することが可能となる。そして、過去の実際に取引された成約金額と譲渡会社の財務数値から、利益の持続年数やEBITDAの倍率を算定する。これらのパラメータを企業評価に用いることで、より客観的な価格を提示できると考えている。 この企業評価の中立的なバリューの算出やデータ蓄積を行う専門機関が企業評価総合研究所である。売り手・買い手双方が納得し安心してM&Aを行うために「取引事例法」は欠かせないものとなっていくだろう。今後、中小企業のM&A実行時に適正な価格算出が行われるため尽力し、存在意義を発揮していきたい。
Future vol.13
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.13」に掲載されています。