人手不足が深刻な業界とは?原因・対応策を紹介
⽬次
- 1. 人手不足の現状
- 2. ①人手不足の原因
- 2-1. 少子高齢化による労働人口の減少
- 2-2. ②都市部への人口集中
- 2-3. ③求人の需給ギャップ
- 3. 人手不足が深刻化する業界
- 3-1. 物流・運送業界
- 3-2. 宿泊・飲食サービス業界
- 3-3. 建設業界
- 3-4. 医療・介護業界
- 3-5. IT・情報サービス業
- 4. 人手不足を解消するための7つの解決策
- 4-1. ①採用要件・基準の見直し
- 4-2. ②待遇・労働改善
- 4-3. ③研修・教育制度の充実
- 4-4. ④生産性の改善・業務の抜本的見直し
- 4-5. ⑤アウトソーシングの活用
- 5. 人手不足を解決する方法として、M&Aも選択肢のひとつに
- 5-1. 人手不足を解消に導いたM&A事例インタビュー
- 6. 終わりに
- 6-1. 著者
「人手不足」は多くの企業が直面している問題であり、業務の停滞、サービスの品質低下など、企業経営に大きな影響を及ぼします。また、人手不足の長期化は既存の従業員への過度な負担となり、離職が加速する可能性もあります。
本記事では、人手不足が起きている背景、業界別の事情、人手不足解消に向けた対策をご紹介します。
人手不足の現状
東京商工リサーチが全国の企業を対象に行った「人手不足」に関する調査結果(※1)によると、「正社員が不足」と回答した企業は、大企業で7割超にのぼりました。
その割合は全体でも6割を超えており、人手不足は企業規模に関わらず広がっている様子がわかります。
業種別にみると、特に2024年問題を目前にした 物流・運送業 での正社員の人手不足が深刻化しており、そのほか、 飲食業、宿泊業、サービス業 は、正社員、非正規社員ともに、半数以上の企業が不足を訴える結果となりました。
業界・業種別の状況については後述します。
また、2023年4月の「人手不足」関連倒産は12件と、前年同月(2件)の6.0倍に急増しており、人手不足関連倒産の増加は、今後も続くことが予測されています。
※1:東京商工リサーチ・2023年 企業の「人手不足」に関するアンケート調査(2023年4月3日~11日、企業を対象にインターネットによるアンケート調査を実施、有効回答4,445社)
①人手不足の原因
人手不足が起きる主な原因について見ていきます。
少子高齢化による労働人口の減少
少子高齢化が進む日本では、生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2050年には5,275万人まで減少すると見込まれています。
出典:内閣府「令和5年版高齢社会白書」
このような生産年齢人口の減少により、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題の深刻化が懸念されます。
②都市部への人口集中
日本の人手不足は、少子高齢化による人口構造的なものが理由となっているだけではありません。2つ目に挙げられるのは首都圏など「都市部への人口集中」です。日本の人口が大都市圏に偏在していることにより、都市部以外の人手不足をさらに加速させています。
出典:国土交通省国土審議会政策部会長期展望委員会「国土の長期展望」中間とりまとめ、より当社作成
上の図から東京・名古屋・大阪の「三大都市」の人口は、戦後一貫して増え続けていることがわかります。それに対し「三大都市圏以外の地域」は減少し続けており、今後も人手不足はさらに深刻化していくことが予測されています。
③求人の需給ギャップ
有効求人倍率は、仕事を求める1名に対して、何名の求人があるか雇用動向を示す指標で、厚生労働省が毎月発表しています。求職者数より求人数が多い、つまり人手不足の時は有効求人倍率が1を上回り、反対に求職者の方が多く就職難の場合は1を下回ります。
人手不足の原因の1つに、これら有効求人倍率の偏りも挙げられます。つまり「なかなか採用ができない」という課題を抱える企業がいる一方で、「希望の仕事の求人が(人材が足りており)見つからない」という求職者が存在している状況です。
例えば令和5年6月における全国の有効求人倍率調査を見ると、「建築躯体工事の職業」は倍率が10.68であるのに対し、「一般事務の職業」は0.35と求職者数が求人数を上回っています。
職業 | 有効求人倍率(令和5年6月) |
---|---|
建設躯体工事従事者 | 10.22 倍 |
土木作業従事者 | 6.50倍 |
一般事務従事者 | 0.33倍 |
会計事務従事者 | 0.66倍 |
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和5年6月分)参考統計表」より抜粋
このように企業が求めるスキルや条件のギャップが生じていることも、人手不足を生む理由の1つと言えます。
人手不足が深刻化する業界
人手不足が特に深刻化している業界は、構造的な問題をそれぞれ抱えています。それぞれの背景について見ていきましょう。
物流・運送業界
物流は産業・経済活動の基盤であり、インターネット通販や宅配便など、物流サービスは人々の暮らしに不可欠なインフラとなっています。
その一方で、長年ドライバーなどの人手が慢性的に不足している業界の1つでもあります。
物流・運送業界は業務の特性上、他の業界と比べ所定外労働の時間が長く、低賃金であることが特徴です。
この点も、就業者の就業意欲や労働者の定着率を下げている、大きな原因の一つと言えます。2024年問題により、労働時間に制限がかかることで、さらなる働き手の不足が懸念されています。
宿泊・飲食サービス業界
宿泊・飲食サービス業界は、新型コロナウイルスによる打撃からインバウンド需要の回復で立て直し傾向にありますが、働く担い手の数が追い付いていない状況です。
また、パートや非正規雇用などの従業員が多い業界でもあるため、短期間での離職者が多くなり、慢性的な人手不足を生み出しています。
両業界ともに、長時間労働など労働条件の厳さに対して賃金が低い傾向にあります。これが新たな労働者の確保を難しくしていると考えられます。
これらの問題を解決するためには、労働条件の改善や賃金の引き上げ、さらには柔軟な働き方の導入などが求められます。また、デジタル技術の導入による労働力の効率化や、外国人労働者の採用なども考慮されるべきでしょう。
ホテル・旅館・温浴施設業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)
飲食店業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)
建設業界
建設業界は労働集約的な業界であり、身体的に過酷な作業が多いため、若者の就職志向が低いという問題があります。
また、高度な技術を必要とする職種が多い一方で、熟練の技能者の高齢化が進む中、技術習得に時間とコストがかかるため新たな労働力の確保が難しい状況です。
医療・介護業界
医療・介護業界は高齢化社会の進行とともに需要が増加していますが、賃金問題や過酷な勤務条件(例:長時間労働、休日勤務、夜間勤務など)により、人手不足が深刻化しています。
特に介護人材の不足は深刻です。厚生労働省のシミュレーションによると、2025年に向けた介護人材の需要見込みが253万人であるのに対し、現状の増加率で推移した場合の介護人材の就業者数は、215.2万人にとどまります。つまり、37.7万人もの人手不足が発生します。
2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値) | |
---|---|
介護人材の需要見込み(2025年度) | 253.0万人 |
現状推移シナリオによる介護人材の供給見込み(2025年度) | 215.2万人 |
需給ギャップ | 37.7万人 |
出典:厚生労働省作成『[2025年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について』より一部抜粋
また医療業界では、慢性的な医師不足に加え、医師の数が都市部およびその周辺に偏在していることから、地方の医師不足は深刻な状況です。
IT・情報サービス業
テクノロジーの急速な進展とデジタル化の需要増加により、ITに関する専門知識を有する人材が求められています。
しかし、教育システムが急速な技術の進歩に追いついていないため、特に新しいテクノロジーに精通した人材が不足しています。
また、人材が東京などの都市部を中心に偏在しており、地方は常に人材不足です。その結果、デジタル化社会に向けた都市部と地方の格差は開く一方となっています。
IT業界のM&Aと事業承継の動向・案件情報(2023年最新版)
人手不足を解消するための7つの解決策
人手不足の課題を解決するには、新たに人材を獲得する方法と、既存の人材で工夫を図り人手不足をカバーする方法があります。ここでは主な対策について見ていきます。
①採用要件・基準の見直し
従来の採用要件や基準にとらわれず、本来の採用目的に沿って見直すことで、適切なスキルセットを持った人材獲得の可能性を高めることができます。
またオンライン等を活用して、応募や選考プロセスの効率化を進めることで、より広範囲なターゲットにアプロ―チできます。
②待遇・労働改善
人材獲得や人材の定着に有効なのは、魅力的な労働条件です。待遇・労働条件が求職者の希望に沿わないと、敬遠されてしまいます。既存の従業員にとっても高いモチベーションを維持し、生産性を高めるために魅力的な労働条件は重要です。
労働条件は給料など金額面に限りません。求職者は福利厚生の充実や休暇の取りやすさ、リモートワークなどフレキシブルな働き方など総合的に判断するケースが多く見られます。
求職者のニーズを把握し、働き方改革を含め、待遇・労働改善に取り組む柔軟さが、経営者には求められます。
③研修・教育制度の充実
既存の従業員の業務スキルを高めることで、生産性が高まり人手不足のカバーにつながります。これは長期的な視点から見て、人手不足問題を解決するための重要な戦略です。さらに、従業員が新しいスキルを学ぶことは、雇用の安定性と満足度の向上にもつながります。
また、充実した研修・教育の機会がある会社ということは、求職者にとっての安心感につながり、応募への影響も期待できます。
④生産性の改善・業務の抜本的見直し
人手不足の状況をカバーするには、ITを活用した業務の効率化・自動化によって生産性向上を図ることが重要です。そのために業務フローを洗い出し、単純作業を自動化し、従業員がより高度な作業に集中できるようにします。
人員が限られた中小企業が業務の効率化を進めるためには、大企業以上にITの力を借りる必要があります。人手不足を解消するためには、あらゆる場所で最新のシステムを導入し、業務の効率化を徹底していきましょう。
⑤アウトソーシングの活用
アウトソーシングの活用も、人手不足をカバーする対策として挙げられます。特に繁忙期と閑散期で人材需要の差が大きい会社や、人材が定着せず採用コストが負担になっている会社にとっては有効な対策の1つです。アウトソーシングできる業務は事務や受付、採用、営業など多岐にわたります。
人手不足を解決する方法として、M&Aも選択肢のひとつに
近年は、譲渡する側、譲受ける側ともに、自社の成長を加速させるため、専門人材の確保などM&Aで人手不足、人材確保をカバーするケースが増えています。
人手不足を解消するためには、中長期的に取り組む必要があります。また、確保した人材のスキルをさらに高めるための教育、離職率を回避するための対策を継続的に講じていかなければなりません。しかし多くの時間と費用をかけて取り組める企業は限られています。
こうした状況に、例えば熟練の技術者を多く抱えた会社をM&Aによって自社グループの傘下に迎え入れることで、人手不足を解消に導くことができます。譲渡企業、また人手不足に悩む譲渡企業側にとっても、他社の傘下に入ることで新体制のもと事業を継続し、さらなる成長を目指すことが期待できます。
自社の状況に合った方法でM&Aを行えば、人手不足を解消して事業規模を拡張するチャンスが得られます。
人手不足を解消に導いたM&A事例インタビュー
実際にM&Aによる譲渡を通じて慢性的な人手不足を解決した日本M&Aセンターのお客様事例をご紹介します。
事例①M&Aで人手不足と事業承継の課題が一気に解決した事例
過去最高売上と最高益を達成しながら「人が足りない、育たない」という課題を抱えていた経営者は、M&Aによって事業承継と人手不足という課題を解決しました。
[M&A事例]Vol.88
事例②M&Aで事業シナジー以外に人材採用が成功した事例
人材が定着せず、採用コストが成長の足かせになっていると感じた経営者は、自社の中長期的な成長を考え、M&Aによる解決を選択しました。
[M&A事例]Vol.59
終わりに
以上、人手不足について現状と原因、解決するための対策を見てきました。
多くの企業が人手不足に悩む中、特に地方の中小企業において事態は深刻です。人手不足は日本の人口構造上の問題であり、かつ少子化による問題でもあるので、数年のうちに解決するようなものではありません。
人手不足が長期化すれば、やがて企業の収益は低下し、最終的には事業の継続が難しくなってしまいます。このような事態を避けるためには、本記事で紹介した、人手不足を解消するための対応策や、場合によってはM&Aも選択肢として検討する必要があります。