M&Aをとりまく環境とは?

皆己 秀樹

監修

皆己秀樹

日本M&Aセンター 成長戦略チャネル(2022年12月時点)

M&A全般
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国内外のM&Aの専門家であるDr.M が、独自の視点でポイントをわかりやすく解説する「Dr.MのM&Aワンポイント解説」。第5回となる今回は・・・?

M&Aをとりまく環境とは

—ドクター本日のテーマをお願いします。

Dr.M: 今回のテーマはM&Aをとりまく環境、そしてよくご質問いただくM&A仲介とFAの違いについてお届けしようと思います。
ひと昔前までは映画やドラマの影響によって、「M&A」「企業買収」は、ハゲタカ、身売りなど、あまり良いイメージを連想させるものではありませんでした。また、M&Aをサポートする事業者は数社しか存在しませんでした。
しかし今は、企業存続と発展のための手段として、特に後継者不在や事業承継に悩む中小企業においてM&Aは有効的手段として認知されるようになりました。それは日本M&Aセンターをはじめ大手M&A仲介会社の啓蒙活動や国の支援策の充実によるところもあったと思われます。そして、昨今、多数のM&A支援事業者が出てきました。

―なぜ今M&A支援事業者 の数が増えてきたのでしょうか。

Dr.M: 大きくは2つの理由があります。
一つ目の理由は、「後継者不在・事業承継を解決する手段として引き続き強い需要が見込まれる」からです。
日本は潜在的後継者不在企業、つまり後を継ぐ人が不在の中小企業が多数存在します。帝国データバンクの調査※では、後継者がいない、もしくは未定と回答した経営者が60%を超えています。
※帝国データバンク『全国企業「後継者不在率」動向調査(2021年)』(調査期間:2019年~2021年10月)

その出口として大きくは4つの方法しか選択肢はありません。「上場」、「同族承継」、「廃業」、そして「M&A、つまり第三者への譲渡」です。
「上場」には厳しいハードルがあり、実行に踏み切れるのは限られた企業です。さらに上場したからといって、全株式の譲渡が完了するわけではありません。魅力ある企業に育てなければ当然株を買おうという人たちが現れてきませんし、逆に予期せぬ企業からの株式買い占めリスクもあるため、日々の株主対策が欠かせません。

次に検討するのが、「同族承継、つまり身近な親族に承継する親族内承継」です。ただ、同族承継をしようと考えていても、少子高齢化であり、出生比率の低い日本にとって、そもそもご子息・ご息女がいないという場合もあります。また、仮に候補となる親族がいらっしゃっても、優良な中堅・中小企業のオーナーはお子様に高い教育水準・環境を与えるケースが多く、社会人になられても国内外の大手企業で活躍するなど別の道を歩むことを選択され、同族承継を断念せざるを得ない場合も多々見受けられます。

では「廃業」はどうでしょうか。もちろん、経営者は会社の更なる発展、成長を願うのが当たり前ですから、廃業は最後の手段であり、最初から廃業を選択する経営者はいないでしょう。長年会社を支えてくれた従業員が職を失うことにもなりますし、取引先など関係者に与える影響も大きく、簡単に決断できるものではありません。

となれば、「M&A」の可能性を探ることになります。つまり、日本の中小企業は、多数の後継者不在企業が存在する社会現象が起きていて、経営者の高齢化にともない今後もさらに深刻化することが見込まれています。廃業せず、会社を存続させるその最も有効的な手段(解決策)としてM&Aが脚光を浴びているのです。そうした社会課題ニーズを背景に、M&A支援事業者は近年急増しています。

支援事業者が急増している二つ目の理由は、M&A業界は産業障壁が低いことが挙げられます。M&A支援事業を行うには、大型工場のような大規模な設備投資は必要ありません。また、支援を行うにあたって専門の知識や経験・ノウハウは必要であっても厳格な国家資格・免許などの許認可制度がありません。

その結果M&Aの知識や経験が少ない事業者が乱立し、近年トラブルが増えたことから2021年、一定の基準を満たす事業者の登録制度(M&A支援機関登録制度)や、M&A仲介協会設立といった動きがありました。このように国や大手M&A仲介会社が連携して業界全体のサービス品質向上に取り組んでいるというのがこの直近の状況です。

―そんなに数多くのM&A支援事業者が存在しているのですね。官民連携の取り組みによって、中小企業の経営者が安心してM&Aを決断、実行できる環境が広まるといいですね。

M&A仲介とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)はどう違う?

―ここまでM&Aをとりまく環境について伺ってきました。ところで、上場企業など大手企業で行われるM&Aについては、M&A仲介ではなく、FAを利用しているということが、日々ニュースで耳にします。

Dr.M: そうですね。ではM&Aの質問としてよく聞かれる「M&A仲介」と「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」についてご紹介していきます。

―「M&A仲介」と「FA」、この二つの違いは何でしょうか。感覚的には上場企業・大手企業はFAを活用、未上場の中小企業などはM&A仲介会社を活用しているイメージです。

Dr.M: いいご質問です。そこを勘違いされている方もいらっしゃいますね。企業規模の違いで、FAと仲介を区分して活用するわけではありません。今回このテーマを取り上げたのも、FAと仲介との違いをしっかりと理解してほしいと考えたからです。それぞれについて見ていきましょう。

M&A仲介とは

Dr.M: まず「M&A仲介」とは、売り手と買い手、双方の間に立ち、双方に成功をもたらすM&Aを実現させることです。
譲渡を検討されているオーナー様で「外部のサポートを得て、多くの情報からベストなお相手を見つけたい。」「自力でのパートナーを探しに限界を感じている。」「企業譲渡を検討していることを現時点で周りの人たち(従業員・取引している企業など)に知られたくない。」そんなときにM&A仲介を利用されます。

一方、企業の買収を検討している経営者や経営企画担当者の方は、中長期経営戦略を思考するなか、思考段階の時には不特定である前述のような企業と一緒になることで、自社グループの成長に寄与するものと考え「M&A仲介」を利用します。

つまり、譲渡・譲受ともに「ベストマッチング」を期待しているのです。だとすれば、M&A仲介事業者に求められる重要な機能の一つは、「M&A情報が集約されたプラットフォーム機能」です。そして、それを強化すべく、多岐のルート開拓を行います。地方の金融機関、会計士事務所、そして海外の金融機関などと提携を増やしM&Aを検討する企業情報を入手していきます。また間接的ではなく直接的に候補企業にアプローチできる機能も充実させていきます。


日本M&Aセンターホールディングス決算説明資料(2023年3月期第1四半期)より抜粋

ちなみに日本M&Aセンターにおいては、譲渡企業側について、こうした金融機関などのネットワークを介して案件受託している割合は50%を超えます。マッチングへの貢献度の高い提携先(紹介者)の経済的メリットも考慮することで、提携先とも良い関係が築け、よりプラットフォームとして情報が充実していきます。
直接的に候補企業にアプローチする方法においても、専門チームを組成し、多大なコストをかけ、お相手探しや案件化等のサポートも直接行います。つまりベストマッチングによる理想のM&Aを実現させるために、売り手、買い手双方の支援に関わる関係者が連携しマッチングの準備段階から活動を行っています。

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M&AにおけるFAとは

Dr.M: 続いてFA(ファイナンシャル・アドバイザー)について見ていきます。FAは「ある特定の企業」とM&Aを行う際、売り手・買い手の双方が、自身にとって、より良い条件で実現させたいと考える際に用いられることが多いです。
状況としては、相手とする候補企業は1社または数社にすでに絞り込まれています。よって、FAに求められる重要な機能は、「ベストマッチング」ではなく、「ベストプライス(条件)」です。
M&A仲介との大きな違いとして、FAは売り手もしくは買い手のどちらかにつく点が挙げられます。FAは契約した側の利益の最大化を考えているため、FAを活用することで自社に有利なM&Aを実行できる可能性があります。

FAは大企業同士のM&Aで利用されるケースが多くありますが、もちろん中小企業のM&Aにおいても活用されます。大企業や中小企業の規模にかかわらず、M&AのFAに(プレーヤー)となりえるのは、FA業務を依頼される企業と普段から密にコンタクトを取り、状況を分かってくれるコンサルティング会社や証券会社となります。当然、FA事業者1社かつ、限られた機能だけで、ベストプライス(条件)で成功させることは至難の業です。特に大型案件はそうでしょう。そのため案件に応じて、FA事業社にない機能を持っている法律事務所、広報企業、株主対策企業と提携する(チームを組む)ケースが一般的です。

お客さまの中には「いいお相手を探してほしい。ただ、売り手、買い手双方から報酬を得る仲介会社ではなく、自社だけにつくFAでお願いしたい」というお問い合わせもあります。今までのお話をきちんとご理解頂ければ、この問い合わせは、報酬体系と求める機能(仲介かFAか)を混同されていることが分かるでしょう。

対象となるお相手(企業)が既に1社ないしは数社に特定されているのであれば、FAでも良いかもしれません。しかし、お相手が特定できていない状態の中、FA担当者独自の人脈で、ターゲットとなる企業を探し出す場合と、M&Aの情報プラットフォームの膨大な情報の中から、データ分析にもとづく傾向や専門知識でマッチングを行うM&A仲介会社の機能を利用して企業を探し出す場合と、どちらがベストマッチングへの近道になるかは歴然としています。

―なるほど、よく理解できました。そうすると、日本M&Aセンターの場合は、「M&Aプラットフォーム機能を有する」ということでM&Aの仲介に特化しているということでしょうか。

Dr.M: いいえ、仲介による支援をメインとしながらも企業の経営課題の解決に多面的に取り組んでいます。そのため私自身もFAの役割を依頼されてサポートした実績は過去にあります。長年担当しているある企業からは、その経営戦略や内部事情に詳しいことから、FAとして特定の企業とのM&Aのサポートをしてほしいと依頼されて成功させました。この場合「M&Aプラットフォーム機能」を期待しているのではなく、「M&Aのエグゼキューション(M&Aにおける一連の交渉を含む事務手続き)を期待されての依頼となります。日本M&Aセンターでは仲介業務に限らず、そもそもM&Aが最適解なのか、経営戦略の策定からトータルでサポートを行えることも強みの一つです。

―日本M&Aセンターの知られざる一面がわかりました。最後の質問ですが「M&A仲介」は利益相反にあたらないですか。

Dr.M: 中小企業のM&Aは、FAによる利益のぶつかり合いではなく、売り手と買い手それぞれの要望を調整していく仕事が主となります。ただ、理論的には、売り手と買い手両方の仲介をするわけなので、利益相反の可能性はゼロではありません。
ですので、中小企業庁「M&Aガイドライン」にも記載の通り「仲介であること」「売り手・買い手の双方からお金をいただくこと」「仲介会社は調整役であり、どちらかの利益の代弁者ではないこと」これらをきちんと顧客へ説明をしていくと共に、強い善管注意義務を果たしていくことが重要となります。

依頼する内容に応じて、仲介、FAを選別し、それぞれのM&A支援事業者の特徴を理解し、複数の事業者を利用することが意識しておくべきポイントです。特定の地域を限定としたM&Aを検討ならば、地域の金融機関に依頼することがベストかもしれません。

監修

皆己 秀樹

皆己みなみ 秀樹ひでき

日本M&Aセンター 成長戦略チャネル(2022年12月時点)

一橋大学卒業後、大手金融機関及び大手外資系証券会社で法人営業。その後、大手外資系金融機関プライベートバンキング部の日本支社立ち上げプロジェクトに参画。日本M&Aセンター入社後は、上場企業を中心に M&A戦略からクロージングに至るまで幅広いアドバイスを行う。

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