公募増資による資金調達とは?メリット、企業事例を解説
⽬次
- 1. 公募増資とは?
- 2. 公募増資の仕組み
- 3. 公募増資とその他の増資との違い
- 3-1. 公募増資と第三者割当増資の違い
- 3-2. 公募増資と株主割当増資の違い
- 4. 公募増資で資金調達を行うメリット
- 4-1. 株主層の拡大
- 4-2. 株式の流動性向上
- 4-3. 既存株主の株式の希薄化を低減
- 5. 公募増資で資金調達を行うデメリット・リスク
- 5-1. 配当金の支払い負担増加
- 5-2. 税負担の増加
- 5-3. 会社にとって望まない株主が株式を持つ可能性
- 6. 公募増資を活用した企業事例
- 6-1. ゼンショーの事例(2023年)
- 6-2. GSユアサの事例(2023年)
- 7. 終わりに
- 7-1. 著者
企業が事業活動に必要な資金を調達する方法は、大きく分けると「融資」と「増資」の2種類です。融資は金融機関などから一定期間資金を借りて調達する方法で、あらかじめ定められた期限にしたがって元本を返済していきます。
これに対し増資は投資家からの出資によって資金調達を行う方法で、融資のように返済をする必要がありません。また、出資を受けたお金は資本金となるため、自己資本比率は高まり、会社の信頼性も向上させることが期待できます。
本記事では、この増資の一種である公募増資について、仕組みや他の増資との違い、メリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
公募増資とは?
公募増資(Public Offering)は、企業が追加の資金を調達するために行う手法の一つです。
通常、企業は株式を発行して資金を調達しますが、公募増資では広く一般の投資家に株式を発行することで資金を集めます。株式市場を通し、広く募集するため、基本的には上場企業による増資手段です。Public Offeringの頭文字から「PO」と呼ばれることもあります。
公募増資の仕組み
公募増資を行うためには、まず増資に関する決議をしなければなりません。そのためには株主総会を開催し、特別決議で公募増資による資金調達への合意を得ることが必要です。
公募増資の手続きは、企業が証券取引所や金融機関と協力して行います。企業は、増資の計画や条件を公表し、投資家からの応募を受け付けます。応募者は、一定の手続きを経て株式を取得し、企業に資金を提供します。
また、1億円以上の株式を発行する場合は、有価証券届出書を作成して財務局へ提出しなければなりません。なお、新たに発行する株式の価格は、一般的には投資家の需要状況に応じて公募価格を決める「ブックビルディング方式」によって行われ、その価格で公募が開始されます。
購入希望者を受け付け、出資と引き換えに株式を交付したら、公募増資は完了です。
公募増資とその他の増資との違い
公募増資とその他の増資手段である「第三者割当増資」「株主割当増資」との違いについて見ていきます。
「株主割当増資」と、「第三者割当増資」、そして広く一般の投資家から株主を募集して増資する「公募増資」の3種類があります。ここでは公募増資と株主割当増資や第三者割当増資の違いについてご紹介します。
公募増資 | 第三者割当増資 | 株式割当増資 | 株式譲渡 | |
---|---|---|---|---|
新規株式の発行 | あり | あり | あり | なし |
新規株式の割当先 | 不特定多数 | 特定の第三者 | 既存株主 (発行会社除く) |
― |
資本金や議決権数の変動 | あり | あり | なし | なし |
公募増資と第三者割当増資の違い
第三者割当増資は、自社の役員や従業員、取引先などの特定の第三者に新株を引き受ける権利を与えて行います。
増資後は公募増資と同様に株主構成が変わります。ただし、公募増資が不特定多数を対象に広く株主が増えるのに対し、第三者割当増資では特定の第三者の持株比率だけが増え、株式の発行数次第では株主構成に大きく影響が出ると考えられるでしょう。
また手続きについては、第三者割当増資は特定の第三者との交渉になるため(既存株主の了承は必要)、公募増資と比べると早く進められる可能性があります。
その他、公募増資は、株式が意図しない人などの手に渡るリスクがありますが、第三者割当増資はあらかじめ意図した特定の第三者に株式を割り当てられるという点で異なります。
公募増資と株主割当増資の違い
株主割当増資は、新株の割当を受ける権利を「既存の株主(自社を除く)」にのみ与えて行います。
公募増資は広く株主を募るのに対し、株主割当増資は既存の株主にそれぞれの持分比率に応じた株式が新たに発行されます。
株主割当増資は持株比率に応じて新株が割り当てられるため、既存株主全員が新株を引き受けた場合は株主の構成比率は変化しません。
そのほか、第三者割当増資と同様に条件面の合意がとれれば、公募増資に比べて手続きが比較的早く済む点などが両者の違いとして挙げられます。
公募増資で資金調達を行うメリット
公募増資で資金調達を行うと得られる主なメリットは以下の通りです。
株主層の拡大
1つ目のメリットは、公募増資によって株主層が拡大することです。公募増資を行うと、新たに幅広く多くの投資家が自社の株主となります。
こうした株主層の拡大は、一部株主の意見のみに偏る企業経営を防ぐことが期待できます。また、さまざまな層の株主が増えれば、幅広く株主の声を経営に反映させられるようにもなるでしょう。
株式の流動性向上
2つ目のメリットは、株式の流動性が高まることです。株式の流動性とは、株式の現金化のしやすさや取引のしやすさのことです。人気がなくほとんど売買されていない株式では、株主が売却して現金化しようと思っても、なかなか売買は成立しません。
公募増資を行うと、発行する株式数が増えます。その結果市場に流通する株式数も増えるため、流動性が高まり売買しやすくなります。
既存株主の株式の希薄化を低減
3つ目のメリットは、既存株主の株式が希薄化することをある程度防げることです。増資を行うと、会社が発行する株式数は増えます。しかし増資をしただけでは、会社の企業価値そのものに変化はありません。つまり会社の企業価値に対して発行株式数が増えるため、増資をすると1株あたりの価値が薄まってしまいます。これが「株式の希薄化」です。
普通に増資を行うと、理論上株式は希薄化してしまいますが、公募増資を行う場合は通常時価より割安の価格で募集します。このように、公募増資による資金調達は既存株主の利益を損なわれないように配慮されているため、希薄化が起こりにくくなります。
公募増資で資金調達を行うデメリット・リスク
公募増資による資金調達は、デメリットやリスクもあります。その中でも特に注意しておかなければならないのが、以下の3つです。
配当金の支払い負担増加
1つ目のデメリットは、配当金の支払いが増えることです。公募増資で資金調達を行うと、会社が発行する株式の総数が増えます。そのため、配当金の支払額もこれまで以上に増えてしまいます。
短期的に見れば公募増資によって新たな資金が獲得できますが、長期的に見ればこうした配当金のコストは会社の財務状況に対して大きな負担を与えかねません。
一般的に、増資による資金調達は融資による資金調達と比べ資金調達コストが高いため、増資によって得た資金をできるだけ早く投資に回し、一刻も早く高い収益が得られるようにする必要があるでしょう。
税負担の増加
2つ目のデメリットは、増資によって税負担が増加することです。増資を行うと、それにともない資本金が増えます。税法では資本金1億円以下を中小企業と定めているため、1億円を超えない程度の資本金であれば、中小企業としてさまざまな税制上の優遇が受けられます。
しかし、増資によって資本金が1億円を超えてしまうと、これまで受けていた税制上の優遇措置が受けられなくなるだけでなく、新たに外形標準課税の課税対象にもなってしまいます。
会社にとって望まない株主が株式を持つ可能性
3つ目のデメリットは、会社にとって望ましくない株主が現れる可能性があることです。公募増資は広く一般の投資家に新たな株主になってもらう資金調達方法です。したがって、どのような投資家が新たな株主となるのかはわかりません。
そのため、公募増資によって会社にとって望ましくない株主(アクティビストなど)が増える可能性があります。また、新たな株主が増えた結果、既存株主の持つ議決権割合が低下する点もデメリットとして挙げられます。
また、株式の取引量が少なく株価が低調の時に行われる公募増資は、需給悪化の懸念から株価が下落してしまうケースもある点に注意が必要です。
公募増資を活用した企業事例
最後に、公募増資を活用して資金調達を行った企業事例を2件紹介します。
ゼンショーの事例(2023年)
「すき屋」や「ココス」などを展開する国内外食チェーン最大手のゼンショーは2023年11月24日、公募増資と公募増資と野村證券を引受先とする第三者割当増資で最大約500億円を調達すると発表しました。
【資金調達の目的】
既存事業の強化・拡大や海外展開を進め、世界の食事情を変えることのできるシステムと資本力を持った「フード業世界一」企業となり、世界から飢餓と貧困の撲滅の実現を目指し、さらなる持続的な成長を可能とする事業戦略の遂行に必要となる、強固な経営基盤の確立及び財務体質の強化を図るために、資金調達を実施。
【調達資金の用途】
今回の一般募集及び本件第三者割当増資に係る手取概算額合計上限49,909,700,000円について、全額をM&A待機資金とし、2026年3月末までに国内外におけるマルチブランド戦略の更なる推進と、その拡大を支える調達・製造・物流機能の強化によるマス・マーチャンダイジング・システム(MMD)の更なる進化を図るためのM&Aに充当する予定。
2026年3月末までに充当が出来なかった場合や、未充当額が生じた場合等においては、未充当額に応じて2026年3月期及び2027年3月期における借入金の返済に充当する予定。
【公募による新株式発行の概要】 ※第三割当増資等については割愛
・普通株式 5,218,000株
・募集方法 一般募集とし、野村證券株式会社、SMBC日興証券株式会社及びみずほ証券株式会社を共同主幹事会社とする引受団に全株式を買取引受けさせる。
・発行価格 1株につき 7,285円
・発行価格の総額 38,013,130,000円
出典:
株式会社ゼンショーホールディングス IRニュース(2023年11月24日付、2023年12月5日付)
GSユアサの事例(2023年)
自動車向けの鉛蓄電池で国内首位のジーエス・ユアサコーポレーション(GSユアサ)は2023年11月20日、公募増資とホンダ自動車を引受先とする第三者割当増資で最大約471億円を調達すると発表しました。同社の公募増資は2009年以来14年ぶり。
【資金調達の目的】
GSユアサは、グループを取り巻く事業環境が大きく変化する中で、事業構造の変革によって企業価値を高めることを掲げ、事業領域をモビリティ・社会インフラの分野に、また、提供価値をソリューション&サービス領域にまで、それぞれ拡大することで、エネルギー・マネジメント・カンパニーとなることを目指す。
事業セグメントの観点では、従来の鉛蓄電池を中心とした自動車電池事業及び産業電池電源事業(非常用分野)を基盤とする事業構造から、2050年には高容量・高出力なリチウムイオン電池を使用するBEV用電池及び常用分野を中心とした事業構造へと変革することを掲げている。
一方でBEV用電池及び常用分野の本格的な市場拡大は、2025年以降になることを見込んでいるため、事業構造の変革を成し遂げるまでの収益基盤として鉛蓄電池やハイブリッド自動車(HEV)用リチウムイオン電池が機能すると考えている。第六次中期経営計画期間(2023~2025年度)を、ありたい姿実現に向けた変革のための土台作りの期間と位置づけており、BEV用電池の開発を具体的な実行施策の一つとし、BEV用電池開発の体制強化を図る。
【調達資金の用途】
今回の一般募集、並行第三者割当増資及び本件第三者割当増資に係る手取概算額合計上限47,162,966,688円については、当社連結子会社又は持分法適用会社への投融資を通じて、当社事業のさらなる成長に向けた投資に充当する予定であり、具体的には以下の通り。
①BEV用リチウムイオン電池向けの新工場の設備投資資金
②高容量・高出力なリチウムイオン電池および次世代電池の開発に向けた研究開発投資資金
③HEV用リチウムイオン電池向けの生産工場増設に向けた設備投資資金
【公募による新株式発行の概要】 ※第三割当増資等については割愛
・普通株式 15,219,400株
・募集方法 一般募集とし、野村證券株式会社、三菱UFJモルガン・スタンレー証券株式会社及びモルガン・スタンレーMUFG証券株式会社を共同主幹事会社とする引受団に全株式を買取引受けさせる。
・発行価格 1株につき 2,072.0円
・発行価格の総額 31,534,596,800円
出典:
株式会社 ジーエス・ユアサ コーポレーション IRニュース(2023年11月20日付、2023年11月29日付)
終わりに
以上、公募増資の概要についてご紹介しました。公募増資は、企業にとって重要な資金調達手段ですが、投資家にとってもリスクとリターンのバランスを考える必要があります。投資家は、企業の将来の成長や収益性について慎重に評価し、自己の投資目標とリスク許容度に合わせて判断することが求められます。
運転資金を確保しながら会社の事業活動を円滑に拡大・発展させていくためには、資金調達が欠かせません。本記事で紹介した公募増資は基本的に上場企業が資金調達の手段として用いる手法ではありますが、それ以外にも、中堅・中小企業には多くの資金調達の手段があります。
重要なのは、会社の状況に合った資金調達方法を選択することです。会社の規模や事業戦略、調達の目的などによって、どの方法で資金調達を行うのが良いのかは違います。したがって、自社の状況に最適な方法を選択しなければなりません。資金調達に詳しい専門家のアドバイスを受けながら調達計画の立案を進めていくと良いでしょう。