中堅外食企業が考えるべき3つの出口戦略|外食会社の譲渡売却・EXIT
⽬次
- 1. 外食経営者のケーススタディ
- 2. 上場外食企業と手を組む場合
- 3. ファンドと手を組む場合
- 3-1. 1・ファンドの母体
- 3-2. 2・ファンドマネージャーとの相性
- 4. 自社単独で上場を目指す場合
- 4-1. 著者
当コラムは日本M&Aセンターの食品業界専門グループのメンバーが業界の最新情報を執筆しております。
今回は白鳥が「中堅外食企業が考えるべき3つの出口戦略|外食会社の譲渡売却・EXIT」についてお伝えします。
私がこれまで外食の経営者様にお伝えしてきた3つのケースを、読者(あなた)を49歳の外食企業の社長と仮定して、私がM&Aコンサルタントとしてお伝えしていきます。
気軽にお読みいただけますと幸いです。
外食経営者のケーススタディ
個人事業でお店を出してから18年経たあなた(社長)は、今関東中心に数十店舗経営する外食のバリバリオーナー社長です。
新型コロナウイルスの荒波をなんとか乗り切って、街は活況に沸き、日経平均株価も過去最高に上がっている今日この頃。
店は大繁盛。コロナ前よりも店舗あたりの売上も好調に上がってきています。
上り調子で今後も売上が20億、30億、50億と上がっていくように、はたからは見えます。
しかし、あなたは今後のことを考えるといくつかの悩みも感じていました。
「個人事業の範疇を超えて、経理・総務・人事、いわゆる管理本部機能が本格的に必要になってきた。3店舗目を出店した時の契約書はどこだっけ?6店舗目の損保の期限はいつだっけ?労基署に駆け込んだアルバイトがでてきた。等々、雑務に追われ店舗開発に注げる時間が少なくなってきている。」
「想像を上回るスピードでの原価の高騰。向こう2年間で、3段階ほど仕入れ値があがることが確実であろう。それに伴って盛り付け、皿を工夫して商品の値段もあげていかないといけない。今のところ前年比で108%ほど値上げを行ったが、お客様はついてきている。だけど、一体いくらまでついてこれるか?」
「労働賃金の上昇も問題。世の中的に賃金のベースアップが加速している。先んじて高待遇を打ち出して採用していかないと採用ができない。来年、再来年ももっと人件費はあがり利益率は下がっていくかもしれない」
「日本はもうダメか?海外に売って出る戦略は何かないかな」
「小さい会社を1億円で買うか?」
こういった思いを反芻する中、小さい会社を買おうと探してみたものの、良い会社は少なく、自社の人員が割かれるだけで、さほど自社の成長に意味はなさないと考えました。
まだまだ自社単独でいけると感じる、でも不安もある。
気が付いたら年齢は50歳近くになり、20年近く外食業界の仲間と仕事をしてきた。
これがあと20年もできるのだろうか?
ここまで頑張ってきたのだから自社へ高い評価がついてもおかしくないだろう?
色んな思いが錯綜する中、売却にも最近関心を持ち始めたあなたはM&Aコンサルタントに身の上話をし、今後取れる3つの出口戦略とそのメリット・デメリットを聞くことになります。
上場外食企業と手を組む場合
国内の外食上場企業で有望な買い手候補先といえば、過去M&A実績もあるような、トリドール、ゼンショー、サンマルク、あみやき亭、クリエイト・レストランツ、松屋、ギフト等があげられます。
「これからの企業名×M&A」とグーグルで検索頂ければ過去実績も簡単に確認できます。日本M&Aセンターが関わらせて頂いたクライアントも多数いらっしゃいます。
この手のM&Aは、同業同士のM&Aになりますので、買手企業は貴社の業態を高く評価したうえで、社長の人生に対してもリスペクトしていただけるケースが多くあります。
場合によってはブランドを棄損しないように、あえてチェーン展開しないこともあります。社長としては大変うれしく感じると思います。
そして大きなメリットとしては大手上場企業という護送船団に乗車することで様々なリスクを低減できること、また上場企業の力を借りることで成長のギアを上げることが可能となります。
つまり、会社・従業員は将来に向けてより安泰となるわけです。
先程社長が懸念されていた、管理本部機能はすべからく親会社に機能を補填されることとなります。
資金まわり、システムまわり、人事労務まわりなどは社長が悩む必要は全くなくなります。
そして、米や肉、青果、酒類などの重量の仕入れは親会社の基準で買えることができ確実に利益が出る構造となります。物件探索も容易になります。
しかし、デメリットに関してオーナー会社だからこそ実現できた、お店の粋や空気感、消防法すれすれだからこその雰囲気、頑張る店長へ1,000万円以上の給与を出す(月残業200時間)などは、おそらく出来なくなります。
要は上場企業の傘下の1社となるといことは、社長の好き勝手は基本的にはできません。
ある程度上場企業の色がつくということです。
ただ上場企業グループの一員になれたとなれば従業員のご家族はさぞかし安心されることでしょうし、従業員にとってもチャレンジできるフィールドは以前よりも確実に広がります。
上場外食企業へ譲り渡すことに向いている方は、自分が作った業態を理解、評価してもらい大事にしてほしい、我が子のような存在である業態も従業員も安心できる先へ譲り渡したいという方には、適切な選択肢ではないかと思います。
ファンドと手を組む場合
一方で投資ファンドへ過去売却された外食企業も少なくありません。
有名な例でいえば磯丸水産や鳥良を運営するSFPホールディングス(旧サムカワフードプランニング)、愛知の「がブリチキン。」を運営するブルームダイニング、イカセンターを運営するスプラウトインベストメント、しんぱち食堂等を運営する越後屋などが有名どころかと思います。
投資ファンドの主たる目的は、投資した事業会社を成長させて(彼らの言葉でいうバリューアップ)、次の出口戦略(彼らの言葉でいうイグジット)を行って株式譲渡益を実現させて、資金を出してくれた大元の投資家へ還元するということです。
つまり会社を大きくする大命題があるためニッチな業態ではなく、ブランド力があって店舗展開で成長できる企業を好む傾向があります。
メリットとしましては、上場企業のような親会社の「色」に染まることはありません。
そしてファンドの場合、多くは旧経営陣へ経営を委任される形になるので、事業会社へ売却するよりも、M&A後も比較的旧役員陣のやり方を継続できるため、あまり今までと変わらず経営ができるといいます。
またファンドの場合は経営コンサルや投資銀行など、経営戦略・財務・税務・法務等に対して知見が豊富な関係者が経営サポーターとして関わってくれますので、例えば経理業務の内製化が可能となり、正確な月次PLや部門別PLを迅速に作成できたり、他にも人事労務体制の強化をできるようになります。
ただデメリットとしては、投資ファンドとしてはいずれ売却して譲渡益を出したいので、初回の投資金額は事業会社の買い手よりも低くなる傾向があります。
また飲食が本業ではないので、業態開発や物件取得、仕入れ先などは基本的に自前で行っていく必要があります。
またファンドへ売却をする際に注意したいのが、
1・ファンドの母体
まずどんな規模で何の母体のファンドであるかといことです。
銀行系のファンドであれば管理系が厳しくみられたり、コンサル系母体のファンドであれば仮説を立て、改善することが強みだったりします。
2・ファンドマネージャーとの相性
次に大事なことはファンドマネージャーとの相性はいいかどうかです。
ファンドは1プロジェクトに対して責任者となるファンドマネージャーが存在します。
社長とファンド側のメンバーは異なるビジネス人生を歩んできた、畑違いの人間同士になります。
そういった中、ファンドは社長へある程度経営を委任することになるため、担当者と信頼関係を築けるかどうか、相性が良さそうか、という視点が非常に大事になります。
この辺りはファンドとの面談で、腹を割ってお話できそうな人かを見極める必要があります。
ファンドへ譲り渡すことに向いている方は、まだまだ自社で伸ばせると思っているし、社長も関わり続けたいと思っているが、管理本部機能に課題が出てきており、仮にM&Aをしたとしても、引き続き旧経営陣が中心となって会社を伸ばしていくステージを体験していきたいという方には、適切な選択肢ではないかと思います。
自社単独で上場を目指す場合
最後に、自社単独で上場するケースはどうかを考えます。
過去7年くらいで上場を実現した主な外食企業は、
- 2017年に上場した、一風堂を運営する力の源ホールディングス
- 2019年に上場した、ダンダダン酒場を運営するNATTY SWANKYホールディングス
- 2019年に上場した、町田商店を運営するギフトホールディングス
- 2021年に上場した、博多劇場などを運営する一家ホールディングス
- 2023年に上場した、ロードサイドラーメンチェーン店の雄である魁力屋
- (他、あさくま、浜木綿、等)
等が、挙げられます。
コロナの影響等もありますが、ここ数年において上場を実現している企業が非常に少ないことが見て取れるかと思います。
とはいえ、上場企業となり「信用力」「資金調達力」等が向上することで、企業成長のアドバンテージを得ることはもちろんのこと、店頭公開をし、東証で鐘を鳴らし、上場の盾を事務所入り口に飾ることは経営者として、最大級の名誉が手に入ることだと思います。
おじいちゃんになっても、たとえ死んだ後にも末裔まで語りつがれることでしょう。
ただ一方で上場するには運の要素もありますし、準備に多額のお金がかかります。
コロナ前で毎年約1~2社が上場していましたが、その裏でエントリー待ちの企業は50社並んでいるなど聞きます。
そのうえ上場準備から監査機関をつける必要があり毎年2~3千万円はコストがかかります。
また当然ですが上場して終わりではなく、上場企業として、株主との対話を重ねながら、永続的な成長をしていく‘義務’があります。
また、非上場であれば発生しない、TOBによる敵対的買収をしかけられるリスクもあります。
ただその費用、リスクを背負ってでも業界のリーディングカンパニーとして日本を代表する企業を目指すというのは非常に夢のある話です。
自社で上場するイメージことに向いている方は、「信用力」「資金調達力」等を向上させれば、まだまだ単独で企業成長を実現できるビジョンを持っている方、経営者として最大級の名誉を手に入れることに、大いなる欲と野心を持った社長には適切な選択肢ではないかと思います。
いずれの選択肢を取るにしても、社長自身の「経営者としての人生をどのように歩みたいか?」「会社をどのように成長させていきたいか?」といった価値観に沿った選択をするべきだと思います。
これを機会に是非一度、ありたい姿を模索してみてはいかがでしょうか。
いかがでしたでしょうか?
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