[M&A事例]縮小傾向にある業界で急務となる変革。地元名門企業トップとして、悩みの末に踏み切った決断とは。

株式会社三井の三井克造代表取締役社長(左)と三博工業株式会社の山口陽朗代表取締役社長

譲渡企業情報

  • 社名:
    三博工業株式会社(大阪府)
  • 事業内容:
    印刷業
  • 売上高:
    約3.6億円※

譲受企業情報

  • 社名:
    株式会社三井(徳島県)
  • 事業内容:
    紙卸売業
  • 売上高:
    約58億円※

『会社を“守る”M&A、“伸ばす”M&A』より抜粋 発行:日経BP 日本経済新聞出版本部 発売:日経BPマーケティング ※書籍刊行時

業界も地元も先細り、広域展開を期す

 徳島市に本社を構える三井は、大正2年(1913年)創業。紙卸売業に分類されているが、紙関係の仕事を広く手掛ける老舗企業だ。伝票や帳票類の印刷をするフォーム印刷、段ボールの製造・販売、各種パッケージに使う包装資材の提供など、紙卸に限らず幅広く関連事業を手掛ける。大手文具メーカー、コクヨの徳島地区での代理店となり、ステーショナリー用品、オフィス用品も扱ったことが、業容拡大に拍車をかけた。市内ではBUNZO(文蔵)という名前で、ボールペン、万年筆、ノート、画材、店舗用品などを販売するショップも運営している。 地元ではよく知られた存在で、はた目には順風満帆に見えるのだが、4代目・三井克造社長には悩みがあった。 「“紙を中心に”というスローガンで経営を続けてきたが、これから先、今のままでいいのだろうか」 完全ペーパーレスに切り替わるのはもう少し先だと思われるが、デジタル化のうねりは大きく、一般に紙関連の需要は先細り。毎月の荷動きを見ても明らかだ。特に、少子高齢化で人口が減り続ける徳島でのビジネスは正直言って厳しい。経営者としては、どうしても防衛姿勢が強くなる。 「このままでは展望が開けない。商圏を県外に広げて、さらに事業の領域を増やさないと」 三井社長は1978年生まれの43歳。2013年に、20年社長を務めた3代目の父の後を継いだ。100年ののれんを、途絶えさせるわけにはいかない。ここ50年、紙関連の事業を立ち上げて業容を大きくしてきたが、もっと強い一手が欲しい。そこでたどり着いたのが、M&Aという手法だ。 「会社を成長させるには、M&Aが選択肢の一つになる」 日本M&Aセンターの担当者の浅野から声がかかったのはそんなときだ。 「徳島の企業を調べているなかで、御社が成長機会をうかがっておられると耳にいたしました。ぜひ、御社の事業にプラスとなるM&Aをお手伝いさせてください」 三井社長は当社と話を進めるべく、秘密保持契約を結ぶことにした。

ねらうは相乗効果、大阪商圏への足場を模索

 早速、日本M&Aセンターの浅野は、社内外のネットワークを使って譲渡希望企業のリストアップに乗り出す。同時に、三井社長には、他社の事例を紹介したり、M&Aで得られるものや気を付けるポイントなどを丁寧に説明したりと、M&Aへの理解を深めてもらう。具体的なM&Aのイメージがつかめたころ、いくつかの候補先企業に絞り込み、社名を挙げて提案した。 三井社長の目に留まったのは、大阪のラミネート加工会社・三博工業だった。統合することで生まれる相乗効果が、わかりやすくイメージできる。 第1に、大阪に新しい拠点を確保できる。実は、徳島と大阪や神戸といった関西大都市圏との距離的ハードルは低い。四国―淡路島―本州をつなぐ橋や高速道路によって、徳島―大阪間は、片道2〜3時間程度だ。週末には、徳島の若者が神戸の繁華街で集い、家族連れはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)でしばしば羽を伸ばす。徳島は半分、関西経済圏に組み込まれていると言っても過言ではない。大阪に営業基盤のある会社と統合して拠点ができれば、商圏を広げるまたとないチャンスである。 第2に、相手先のラミネート加工技術を生かせる。ラミネート加工は、複数の材料を貼り合わせて積層させる技術で、例えば接着剤ラミネートと言えばフィルムに接着材を塗り、印刷物にフィルムを熱圧着させる技法のことだ。紙袋、本、食料品容器など、ラミネート加工を望む商材は意外に多い。印刷業界の一角を占め、紙の商売との親和性が高い。三井で扱っている紙器パッケージ製造は、板紙の型を抜いて組み立てるまではできるが、表面加工は外に出している。両社が一緒になれば、今後は紙器パッケージ製造の内製化が進むだろう。大阪の顧客向けへの輸送コストも削減できる。 第3に、近隣業界であるがゆえの相乗効果が見込める。例えば三井の顧客に三博のサービスを提供するなど、互いの顧客を結びつけて取引の上乗せをねらう、いわゆるクロスセルの営業ができるかもしれない。あれこれ期待は高まるばかりだった。

技術に自信、自分たちの良さを生かせる買い手を求めていた

 さて、三博工業がM&Aに至った経緯を見ておこう。印刷加工、それも熟練技を必要とする仕事なので、しっかりと利益が出せる。時々舞い込む特殊加工の注文にも即座に対応するため、取引先からの信頼が厚い。販売先は上位70%くらいが固定しており、高い受注単価をキープできる要因になっている。無理な注文を受けて、社員を残業で困らせることもしない。会社運営の基礎はしっかりできている。が、娘は公務員になっていて後継者不在という問題を抱えていた。 三博工業の山口陽朗社長は、60歳代半ばに差し掛かり、いよいよ会社の行く末が気になりだした。長い時間をかけて培ったノウハウを持つ従業員や、取引先との関係を維持するためにはどうしたらいいか。 「一度、うちの会社を買ってくれるところがないか、探ってみようか」 たとえ買い手が現れなくても、まだ60代。もう少しがんばれる。そんな気持ちもあった。そこで日本M&Aセンターとコンタクトをとったのだった。 仲介契約を結んだのが2019年10月末、案件化が完了したのが翌2020年1月末である。しかしこのころから新型コロナウイルスが広がりはじめ、4月に入ると全国規模での初の緊急事態宣言が発令。山口社長が「これではM&Aはしばらくお預けだな」と思ったのも無理はない。 ところが、しばらくして日本M&Aセンターの担当者から連絡が入る。譲受け企業の候補がいるとのことだ。 「オンラインを活用すれば、打ち合わせなどはかなりカバーできますから、お相手探しがストップすることはありませんよ。皆さん、今からコロナ後を見込んだ対応を考えているようで、M&Aについての問い合わせも多いです」 山口社長は、どのような譲受け企業が望ましいか、事前に細かい注文をつけていなかった。だが、徳島の三井を紹介され、詳細な説明を受けると、「印刷業に関係があり、堅実に仕事に取り組んできた会社のようだ。うちに合うかもしれない」という気持ちになってきた。 「名の知れた大企業に買ってほしいという考え方もあるだろうが、大手すぎるとどうしてもそのグループの色に染めようとするだろう。それでは、うちの良さを出しにくいし、社員は窮屈に感じるかもしれない。今回提示された企業は強引なことはしない気がする。ともかく先方と会ってみたい」

初のM&Aへ、迷いつつも将来へ向け踏み切る

2020年10月30日に行われた成約式にて

2020年10月30日に行われた成約式にて

 三井と三博工業、両社のトップ会談が実現したのは、2020年7月。双方のフィーリングはぴったり合うようだった。三井社長は、三博工業をここまでしっかりとした会社に育てた山口社長に、素直に好感を持った。 しかし、三井社長の内心は揺れていた。初めてのM&A、期待と同じくらい不安も大きい。自分の決断が正しいのか、容易に見極めがつくものではない。買収にあたって必要な資金は、銀行からの借り入れが大半となる。半端な金額ではなく、失敗は許されない。 「業種が近いとはいえ事業内容の異なる会社と組んで、大丈夫だろうか」「価格は適正なのだろうか」「M&A後、三博工業の従業員はわが社になじんで、協力してくれるのだろうか」「そもそも、コロナ禍の今、M&Aをすべきなのか」――今まで何度も点検してこれでOKと結論を出したことが、また心配のタネとなって頭をよぎる。M&A交渉は、途中で打ち切ることもできる。だが、それでは三井の10年後、15年後はどうなる。社業が先細りになるのを放置するのか。やはりやるべきだ。しかし……。 父親である会長には、もちろん最初の段階から相談してきた。だが、最終的に決めるのは社長だと、背中を押される。 「大丈夫だ。お前の考える通りに行け」 父親にしてみれば、M&Aをとおし、経営者としての実績を作らせたかったのかもしれない。息子がひと回り大きく成長することを願っていたに違いない。 そんな迷いを三博工業の山口社長も察していたのかもしれない。口を挟むことはせず、三井社長の気持ちが固まるのを待った。

左から株式会社三井の三井良造代表取締役会長、克造代表取締役社長、三博工業株式会社の山口陽朗代表取締役社長、山口久美子監査役

左から株式会社三井の三井良造代表取締役会長、克造代表取締役社長、三博工業株式会社の山口陽朗代表取締役社長、山口久美子監査役

 そして2020年9月、基本合意契約締結。その3週間後、最終契約が交わされた。 「コロナ禍の今だからという不安はもちろんあるが、むしろ今だからこそ、この先を見据えて新しいことに着手するべきだ」 三井社長はこうしてM&Aへと、踏み切った。それは、危機の中を舵取りしていくリーダーとしての大きな一歩でもあった。 山口社長は会長として2年、三博工業に残ることになった。引き継ぎが終わったら自分のために時間を使いたい、と趣味の釣りなどして悠々自適な暮らしをする予定だ。 三井社長は、週に数回は大阪に顔を出し、新型コロナ収束後の躍進に向け、画策中だ。大きな決断を乗り越え、リーダーも、会社も、成長したM&Aとなった。

日本M&Aセンター担当者コメント

担当コンサルタント

担当コンサルタント

コロナが明けるまでしばらくは無理かなと仰っていましたので、三井様から手が上がったときは本当に驚かれていました。山口様が育てた素晴らしいビジネスモデルと高収益率を誇る会社を従業員と共に見ていただく先が見つかり本当に良かったです。コロナの影響による最終的な業績計画を一緒に作成させていただいたことが良い思い出です。ご趣味の鮎釣りを思う存分楽しんでください。

戦略統括事業部 事業法人三部 ディールマネージャー 浅野 伸吾 (株式会社三井様担当)

戦略統括事業部 事業法人三部 ディールマネージャー 浅野 伸吾(株式会社三井様担当)
戦略統括事業部 事業法人三部 ディールマネージャー 浅野 伸吾(株式会社三井様担当)

コロナがまん延し始めている中で商談が開始し、フェーズ毎に「M&Aをやる未来」「M&Aをやらない未来」を天秤にかけ進めてまいりました。厳しい環境下こそM&Aを活用して会社を成長させることができると考えております。記憶にも記録にも残る良い成約のお手伝いをさせていただきました。今後も多くの企業様にとって幸せを運ぶ青い鳥となります。

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