[M&A事例]Vol.133 「良い仕事をしたい」――。2社譲り受け生き残りを図る創業75年の老舗樹脂素材製品メーカー
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
譲渡企業情報
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2022年7月、抜型製造のパイオニアとして業界屈指の技術力とプレゼンスをもつ株式会社たから抜型工業と、業界上位の大手企業である大創株式会社が資本提携を結びました。業界内で存在感のある2社が手を組み、どんな成長を目指していくのか、両社の会長・社長に今後のビジョンを伺いました。
(本文中の役職はM&A実行当時のもの)
――たから抜型工業は1957年に設立されました。今回、M&Aによる譲渡を決意された理由をお聞かせください。
譲渡企業 株式会社たから抜型工業 石瀬会長: 私どもは段ボールや紙パッケージ用の抜型に加えて、電子基板用の抜型の設計製造を得意としてきた会社です。経営を息子の和文に任せ、私は会長としてやってきましたが、近年、体調を崩したことをきっかけに、会社のより良い発展を考えてM&Aを検討するようになりました。
――石瀬和文社長は会長のM&Aという決断をどう受け止められましたか。
石瀬和文社長: M&Aというと「企業買収」、「敵対的買収」といった負のイメージを持たれる方もいらっしゃるようですが、私は事業承継だけでなく地域経済を担う上でも有効な手段の一つだと考えています。 また、M&Aをすることによって新しいイノベーションが起きて会社が発展すれば、より社会に貢献することができますので、もともとM&Aというものに対して非常に肯定的な認識をもっていました。
――石瀬会長は最初に候補先企業リストを見た段階から大創に決めていらっしゃったそうですね。
石瀬会長: 何社か候補先企業はありましたが、最も将来的に相乗効果の見込める会社はどこかと考えたとき、大創しか考えられませんでした。会社の体制もしっかりしていましたし、TOP面談で大塚社長とお会いした際の印象も、「素晴らしい」の一言でした。
石瀬和文社長: 私も業界における技術の高さは当然のことながら、社風やさまざまな分野に事業を展開されている先進性に共感しました。
――大塚社長は、たから抜型工業のどんなところに魅力を感じましたか。
譲受け企業 大創株式会社 大塚社長: 最初に譲渡の申し出をいただいた時は、率直に言って驚きました。たから抜型工業といえば、北陸・富山のお客様から非常に厚い信頼を得ている会社です。私たちも富山のお客様のところへ伺うことがありますので、正直、太刀打ちできないと思っていたんです(笑)。そんな会社からの申し出は本当に光栄で、さらに石瀬会長から「大創だからこそ譲渡するんだ」と言っていただいたことに、心が震えました。
同時に、M&Aをした今、大きな責任も感じています。たから抜型工業は石瀬会長が常に技術の先端を走りながら、お客様のニーズを先読みした踏み込んだ提案で成長してきた会社です。そうしたたから抜型工業の精神と、そこで働く従業員さんを守っていくことをお約束しなければなりません。今、業界でもデジタル化が進んで「版レス」「型レス」といった言葉が当たり前になってきていますが、今後は両社が手を組むことによる相乗効果によって、抜型というものの可能性を広げていく決意です。
――7月1日に成約式が行われて、同日からたから抜型工業は「大創たから株式会社」と社名を変えて新たなスタートを切りました。経営体制はどのように変わりましたか。
大塚社長: 常務で弟の徹夫が社長に就任し、私も取締役として一緒に経営に携わっています。石瀬会長と社長には、それぞれ相談役と顧問としてサポートしていただいています。特に石瀬会長がもっている技術力は大事に引き継いでいかなければいけませんから、大創の技術の要である常務が新社長として受け継いでいこうとしているところです。
大塚徹夫常務: 私は大創の常務も兼任しますが、新会社の社長として家族と共に富山に引っ越してきました。出向というかたちで大創の営業が1名加わりますが、基本的にはたから抜型工業の社員の力で、これまで大創ではノウハウがなく担えなかった分野に大創のネットワークを生かして進出していく予定です。
――大創は今回のM&Aの前(2022年4月)に、同じく抜型製造を行う静岡県の会社(株式会社ティーディーエス)も譲り受けられましたね。
大塚徹夫常務: はい。たから抜型工業とのM&Aによって、3社が集まる抜型のグループ企業が誕生しました。それぞれに持っている設備が違えば、作る製品も顧客層も違いますので、型によって作られるものはすべて大創グループが請け負えるという環境が整ったのではないかと思っています。各社の技術が融合することで生まれるシナジー効果も非常に期待しています。
――単に規模や市場を拡大するためのM&Aではないということですね。
大塚社長: そうです。市場を取りにいくM&Aではなくて、技術の融合のM&Aです。私は初めて石瀬会長にお会いした際に言われた言葉を今も覚えています。石瀬会長は、「一緒になったらすごいことになるね。わくわくするね」とおっしゃったんです。この言葉に私も深く共感しました。型を通してさまざまな素材を新たな形にできる可能性に、私も大いに期待しています。
――違う会社を迎え入れることは、大創の社内にどんなプラスの効果がありますか。
大塚社長: あらためてM&Aはイノベーションを起こすきっかけになるんだと感じています。大創は2021年に50周年を迎え、今日までの歴史の中で少しずつ企業文化を醸成させてきました。それ自体は素晴らしいことですが、得てしてはみ出さなくなると言いますか、良くも悪くも守りに入ってしまうんです。今回の資本提携で新たに技術が融合することによって、大創社内に勢いが生まれています。たから抜型工業とのM&Aを伝えたときには、「たから抜型工業さんにいつ行けますか?」と聞いてきた従業員もいました。新しいことができるという可能性に、従業員たちもわくわくしていたんでしょうね。
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
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総合印刷会社エムアイシーグループは、約半年の間に3社を譲受けました。M&Aの目的、成約後のPMIについて話を伺いました。
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「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
ファンド部 チーフ 村田 将大 (株式会社たから抜型工業様担当)
たから抜型工業様に、数ある競合仲介会社の中から当社を選んでいただいた際、「必ず良きお相手を見つける」と強い思いを抱きました。大創様とのご縁を取り持つことができ、抜型業界に大きなインパクトを与える組み合わせとなり、また、私の地元である富山のお客様の事業承継のお役に立つことができ、とても感慨深いです。今後もご両社のさらなる発展を祈念いたします。
ファンド部 チーフ 髙橋 真也 (大創株式会社様担当)
大創の大塚社長は、初対面から大変丁寧な対応でした。コミュニケーションを重ねるごとに、「この業界ならば、この社長が譲受けすべきだ」と確信することができました。長い業歴で積み上げた製造業のノウハウに加え、大創様の得意とするIT、DXの力で、両社がさらに発展し、業界を牽引する存在となることを祈念いたします。