[M&A事例]Vol.133 「良い仕事をしたい」――。2社譲り受け生き残りを図る創業75年の老舗樹脂素材製品メーカー
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
譲渡企業情報
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
当社がお手伝いして、2014年にM&Aを実行された天竜精機株式会社の芦部喜一前社長に、M&Aを決意された経緯や心境、現在の様子などをお聞きしました。
芦部様: 天竜精機は、長野県駒ケ根市にある、コネクタの組立装置を中心とした産業用設備メーカーです。私の祖父が、1959年に大企業の下請け会社として創業しました。父は祖父から事業を引き継ぎ、機械メーカーとして会社を成長させました。父の背中を見て、会社経営の“厳しさ”を学びましたね。
私は天竜精機には入社せず、トヨタ自動車に入社しました。社会人になってはじめこそ「天竜精機はいつか誰かが継がなくてはいけない」と思っていたものの、トヨタでの仕事が面白くなるにつれ、事業承継については頭の隅に追いやるようになっていきました。
株式の承継―高額な相続税が降りかかった 自分自身への事業承継
芦部様: そんな私が天竜精機の社長になったのは、父の死がきっかけです。亡くなった時、父は会長職についており、別の人間が社長をしていました。経営と所有の分離ができていたのですが、事業承継には会社の株式承継が必須ということで、当時の社長や番頭さんに「帰ってきて天竜精機を継いでほしい」と頼まれました。当時の社長はガッツがある方でしたが、さすがに株式の買い取りまでは至らなかったのです。そこで株式の相続税を計算したところ、高額で驚きました。
会社を潰すことはできない、そのためには誰かが株式を相続して社長にならなければならない―その葛藤が私を含む兄弟間でありましたが、結局私が天竜精機を継ぐことになりました。いざ社長になると、トヨタで学んだことを活かして改善できる点があり、組織を超えたチームワークができる空気作りに尽力しましたね。
次の世代への事業承継 ―事業承継の主役は“承継する人”
芦部様: 社長として尽力した結果、株式の相続税評価額も上がっていきました。私には4人の娘がいますが、娘たちには私自身が経験したような“高額な相続税を支払い、個人保証を背負う事業承継”はできないと思いました。相続対策として持ち株会社を作ったりしたものの、本質的な解決にはなりませんでした。
今の時代、経営者は“経営能力・資金・意思”の3点が揃っていないとなることができません。優秀で将来を託せる能力のある社員がいたとしても、株式の取得までは至らないため、経営者になることはできません。
株式承継問題を解決するため、上場も検討しました。しかし今の段階で利益を求められる数字優先の経営をしていくことは、天竜精機の目指す姿ではないと思いました。
あらゆる可能性を検討した上で辿り着いたのが、M&Aです。M&Aの検討は日本M&Aセンターのセミナーへの参加がきっかけです。元々知り合いの社長さんがそのときのセミナーで体験談を語られており、M&Aへの親近感が湧きました。話の中で、M&A相手への条件についても触れられたのですが、「相乗効果が見込める」「独立性が維持できる」「雇用が守れる」等の条件に適う相手がいたことも驚きました。M&Aへのマイナスイメージが払拭されましたね。
「売るのは任せてください」 自分では言えなかった、新社長の心強い言葉
芦部様: M&Aの相手先を考えた時、当社はニッチなことをしている大きな会社のため普通の事業会社は買いづらいと思ったので、幅広い相手先提案を希望しました。そんな希望を受けて日本M&Aセンターさんが提案してくれたのが、経営コンサルティング業を営むセレンディップ・コンサルティングさんでした。
実際に面談すると、「日本の中小企業を守りたい」という熱い意気込みの経営者陣で親近感を持ちました。実際には2社の企業が株式取得意向を示してくれたのですが、セレンディップさんは“新社長をおくこと”を提示してくれました。自分には会社拡大への意欲が足りないと思っていたので、新社長をたてることが今後の天竜精機の成長につながると思い、セレンディップさんに決めました。
新社長となる小野さんとも、M&A前にお会いして、じっくり話し合いました。小野さんは日立出身の営業のプロで、私にない販売意欲と営業センスを持っていました。社員にも「良い機械を作ってください、その代わり売ることは自分に任せてください」という言葉を言ってくれます。これは、私には決して言えなかったことです。これまでモノづくり一筋できた社員が多く、営業は苦手分野でしたので、こんなに心強い言葉はないですね。会社がますます発展する未来を感じました。
早い融合が会社の成長につながる
芦部様: 社員はそれほど動揺もなく、新社長を歓迎するムードを作ってくれました。こちらとしても、居酒屋で語り合うようなオフサイトミーティングの場を設ける等、小野新社長がいち早く融和できるような取り組みを行い受け入れ体制を整えていきました。
明確な利益の数値目標を立て、M&A前とは異なるアプローチでさらなる会社の成長を目指しています。社員は小野新社長とも何でも語れる信頼関係を作っています。
芦部様: 新体制がうまく動いているので、会社に顔を出す必要がなくなった分、新たな場への取り組みをいろいろ考えているところです。自分の事業承継の体験を活かして、『事業承継について考える会』を地元の次期経営者たちと行っています。話し合いの場から自分の描く今後の経営に気付くことも多いので、こういった話し合いの場を広げていけたらなと思っています。
M&A成功インタビューは、 日本M&Aセンター広報誌「M&A vol.42」にも掲載されています。
樹脂素材製品メーカーのカツロンは、1年半で2社を譲り受けました。元々成長戦略にはなかったM&Aをなぜ行ったのか、M&Aの目的と現在について伺いました。
ダクトの部品製造を手掛ける森鉄工業のオーナーは70歳を超え、後継者不在や会社の課題解決のために他県の会社に譲渡を行いました。
総合印刷会社エムアイシーグループは、約半年の間に3社を譲受けました。M&Aの目的、成約後のPMIについて話を伺いました。
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「自分でもできる?」「従業員にどう言えば?」 そんな不安があるのは当たり前です。お気軽にご相談ください。
企業戦略部 副部長 金子 義典(天竜精機様 担当)
天竜精機様は、高い技術力とユニークな組織運営を強みとする、地域を代表する企業のひとつです。会社を永続発展させるために、芦部様が早めのタイミングから事業承継の準備をされ、M&Aできうる環境づくりをされてきたことが、本件の成約と会社の成長につながりました。 企業の文化や良い所を残しつつ、さらにステージアップさせる。そのために「プロ経営者」を招聘するという部分でも、本案件は特徴的でした。地域企業のM&Aにおける新しいカタチだったと思います。テレビ東京『ガイアの夜明け』でも取り上げられ、思い出深い案件となりました。M&Aをてこに、さらに飛躍されるであろうことを確信しています!
事業法人部 土井 太久磨(セレンディップ・コンサルティング様 担当)
セレンディップ・コンサルティング様は名古屋に本社を置くコンサルティングファームです。特に、「事業戦略策定」「社員教育」「やりがいの創出」「経理の見える化」等に強みを持ちます。 今回、天竜精機様の特長である設計・製造のノウハウをより活かすために、全世界に販売ネットワークを持つ新社長を招聘し、販売力強化に成功しました。新体制で1年が経過していますが、インタビュー記事の通り、天竜精機様と新社長様が互いの強みを補完することで、会社はさらなる成長を遂げています。このようなマッチングを増やすべく、今後も邁進してまいります。