[M&A事例]Vol.137 心血を注いで開発した製品と事業を存続させるため決断した成長戦略型M&A事例
敏感肌用化粧品のインターネット通信販売を展開するエクラは、3つの課題を解決するために資本提携を決断しました。その決断の背景、現在について伺いました。
譲受企業情報
※M&A実行当時の情報
日本ウエストン株式会社は、2014年6月、同じ岐阜市にあるおしぼりの販売・レンタル業の株式会社ナイステムをM&Aで譲り受けられました。日本ウエストンは、坂本光司教授著書の「小さくてもいちばんの会社(講談社)」「社員と顧客を大切にする会社(PHP研究所)」などで知られる優良企業です。今回は、代表取締役社長の臼井麻紗杜氏に、M&Aを実行された経緯や得られた効果についてお伺いしました。
臼井様: 日本ウエストンは、工場向けウエス(清掃布)やタオル、手袋などのリースを行う会社です。私はもともと大阪の繊維専門商社につとめており、創業者の娘婿として1989年に日本ウエストンに入社し、2001年に社長に就任しました。「活かす」を理念に、人を活かし・物を活かし資源リサイクル活動を通じて社会貢献に努め、お客様と社員が誇りと喜びを共創できる会社を目指しています。長い間取り組んできたことが認められ、2012年第2回「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞の「中小企業庁長官賞」、2013年経済産業省「おもてなし経営企業50選」などに選ばれました。今では年間400名を超える見学者が当社の「おもてなし経営」を学びにきてくださっています。 当社は300年企業となることを目指しており、そのためにはM&Aで他社と如何に連携を組むかというのが重要なテーマでした。私は10年以上前に日本M&Aセンターを知り、セミナーに参加し、然るべきタイミングが来たらM&Aを実行しようと情報を待っていました。そうしているうちに日本M&Aセンター土井さんより紹介いただいたのがナイステムです。
ナイステムは、日本ウエストンとほぼ同時期に設立されました。地元飲食店を中心に約2,500の販売先を持ち、財務は負債がほとんどなく、自己資本比率は90%以上を誇る優良企業です。ナイステムで不要になったおしぼりを当社の工場向けウエスに再利用することで相乗効果が見込めました。社長はオーナー経営者ですがご子息がおらず娘さんだけで、最終的に親族内での引継ぎを断念されたことから、M&Aにより経営権を譲受けることになりました。
M&A後3ヶ月は対象会社に常駐、 自ら文化融合に尽力
臼井様: 最初の3ヶ月は私自身がナイステムの中にみっちり入り、従業員と直接交流し、「掃除する」「明るく」「対話できる」という私共の会社で取り組んでいることを実施してもらい、文化融合のきっかけをつくりました。まず社長の私が率先して社内の掃除に取り組むのです。そしてその重要性について理解してもらい、従業員総出で一斉に掃除し不要なものを処分しました。さらに、簡単なことですが社内の照明を明るいものに取り換えたことで、従業員の表情がよくわかるようになりましたし、職場の雰囲気全体が明るくなり、これだけでも安上がりの“カイゼン”です。また、言われたとおりきっちりやることが当たり前だった従業員に対して、「自ら考える」習慣をつけてもらうため、『ナイステムエキスプレス』という社長に直接モノ申す仕組みを導入しました。意見をもらったら社長もすぐに対応するようにしていて、社内の風通しが良くなりました。こうして、ナイステムの社内はガラリと変わっていきました。いかに変化に対応できるかということは、中小企業で働く者にとっては一層必要なスキルだと考えています。その意味で、ナイステムの社員のポテンシャルはものすごく高かったと感じます。
対象会社の人材登用や採用も積極的に行う
臼井様: 私の経営に対する考え方については、従業員に対し丁寧に伝えました。その結果、私の考えに共感してくれ、これまでより仕事への意欲が高まったという方もいます。新規採用も並行して進めた結果、現在は、M&A実行時より正社員7名増の体制となっています(2016年1月現在)。
工場は全員パート勤務なのですが、その中で能力を発揮しはじめた1人の女性を社員に登用したところメキメキ成長してくれ、工場長になった例も出ました。彼女の眠っていた能力を引き出すことができ、大変嬉しいことでした。
M&Aで既存社員に新しい風を送り込む
臼井様: 当社は財務体質も問題なく、従業員のモチベーションも高い方だと思います。それでも、単一事業で安定して変わらない売上という環境にいると「慣れ」が出てきて、だんだんと変化に対して億劫になってきます。M&Aを行ったことにより、「会社は変化する」というメッセージが、既存の当社の従業員に良い緊張感と刺激を与えてくれました。また、新たに社員の活躍の場を広げることもできました。社歴の長いある社員をナイステムに役員として送りこんだのですが、彼にとって新しい成長環境となり、次のステップに進めてあげることができて良かったと思います。自社では限界を感じていたため良かったと思います。彼もそんな私の考えを意気に感じてくれ、現在精力的に頑張ってくれています。
会社を買うことが最高の事業承継対策
臼井様: には息子2人、娘1人がおり、息子に自社を継がせるつもりです。「自社を可能な限り良い状態にしてから子供に継がせたい」というのは親ならば誰しもが考えることだと思いますが、私もまさにその一人。譲受けた会社の経営を息子に任せ、早くから経営を学ばせることができるので、M&Aで会社を買うことは当社の事業承継対策としても非常に有効だと感じました。後継者は先代と二人三脚、並行して経営していかなければなりません。同じところに両者がいてはギスギスすることもありますし、お互い気を遣ってしまい思い切った経営ができません。グループ内で役割分担をしつつ早くから経営に責任を持たせる環境をつくることで、引き継ぐタイミングでの苦労はお互い少なくてすむと考えています。創業者である先代も、孫の行き先が見えたことで、安心し喜んでくれました。
他社との連携は避けて通れない時代 まずは1件M&Aを実行すべき
臼井様: これは私なりの考えなのですが、ハイテク企業よりローテク企業のほうが長い目で見て高い利益を確保できると考えています。ハイテク企業は収益も大きく一見魅力があるように見えますが、その分競合他社が多く参入してきますし、流行り廃りのサイクルが非常に早いです。ただ拡大していく考え方だけでは昨今の家電メーカーのようにどこかでつまずき大きな後退を余儀なくされることもあります。それに比べてローテク企業の場合、大手が参入してくる心配はありませんし、残存者利益を安定的に確保できると考えます。同じ年商1,000億でも、年商10億のローテク企業100社の連邦経営と年商1,000億の大手企業の経営とでは、前者のほうが生き残る確率は高いと思います。
M&Aで他社と如何に連携を組んでいくのかということは全ての経営者が意識すべき時代です。当社は1件M&Aを実行したことで、各方面からM&Aの情報が多く入るようになりました。リスクを気にしすぎて何もしないこともまたリスク。情報の間口を拡げ、自身でコントロールできそうなM&A案件があれば、1社目はいきおいを持って取り組まれることをお勧めします。
M&A成功インタビューは、 日本M&Aセンター広報誌「NEXT vol.3」にも掲載されています。
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両社は同じリネン業で、買い手は大手工場向け、売り手は小口の飲食店向けと異なりますが、明確な相乗効果が見込める良い組み合わせとなりました。今は両社同じ仲間として、一丸となっていらっしゃるようです。さらなる発展を心より祈念します。