竹内直樹の『成長戦略型M&Aの幕開け』
Think Owner'sプロジェクトリーダー竹内による、日々オーナー様と向き合う中で感じたこと、ぜひお伝えしたいこと、オーナー様の悩みなどを綴る。
51回目の会津若松
2017年12月13日
「Think Owner's」プロジェクトリーダーの竹内です。
私は、先日、福島の会津若松に行ってきました。
会津若松の寒さは、東京とは比べ物にならないですね。猪苗代湖あたりではもう雪が積もっていました。
現地では、「田季野」という元祖輪箱飯(わっぱめし)が有名な割烹屋さんに。
会津名物の“揚げ饅頭”、締めの前のネギ一本が丸々入っている蕎麦、そして最後に輪箱飯・・・。
いつの間にか慣れ親しんだこのコース、この味。久しぶりでも当時の思いが込み上げてきます。
そう、今回私が会津若松まで出掛けてきたのは、自社の株式を譲渡された元オーナー社長と1年ぶりにお会いするためだったのです。
社長が株式譲渡を決断されてから実行されるまでの約3年間で、延べ50回は会津若松に通ったのではないでしょうか。度重なる新幹線と郡山から会津までのバスでの往復で、私のお尻はよくカチカチになっていました。
買収のお手伝い、相続税対策のご相談、そして会社の成長のための譲渡―。
6年前に当社にご相談されてから約4年間、本当にいろいろなことがありました。
社長の会社はいわゆる地域No.1の企業です。
ご相談に見えられた当初はご子息様に継がせるご予定で、同業の企業の買収をお手伝いさせていただいていました。しかし、あるITベンチャー企業の登場で、業界の仕組みが変わっていくことが明白に。ただでさえ、縮小傾向にある業界です。会社の将来、従業員の将来、そしてご子息の将来を考えた社長が選択されたのは、自社単独で生き残る道ではなく、大手企業グループとして成長する道でした。
「竹内さん、やっぱり譲渡することにしたよ。息子も納得している。お相手を見つけてほしい。」
社長がそうおっしゃったのは、2012年のちょうどいま、師走になったばかりの頃だったと思います。
最初にお相手候補として手を挙げたのは、新しく柱となる事業を探していた異業種の会社でした。条件面は悪くなかったのですが、その会社は買い手側のメリットだけを考えているようでした。
「社長、ほかの会社を探しましょう。」
私は社長にそうお伝えし、お相手探しを続けました。
次にお相手候補に挙がってきたのは、近隣業種の上場会社です。こちらも当初提示された条件面は問題なかったのですが、買い手側にM&A経験がなく、リスク対して必要以上に過敏になってM&Aのそもそもの目的を見失ってしまったことで、最終契約の手前で頓挫してしまいました。
そして3社目のお相手候補は同業の大手企業。同業なので、コストシナジーや販路拡大などのシナジーが生まれやすいものの、業界全体として縮小傾向にあることが懸念されたので、最終契約には至りませんでした。
異業種で売り手の成長を考えてくれる企業はないかー。
最終的に社長がお相手に選んだ大手通販会社との話がスタートしたときには、譲渡を決断されてから、すでに約2年半の月日が経過していました。
「いろいろあったな・・・。」
ほろ酔いになった社長が切り出されました。
「売買金額は満足しているが、あの会社の方がシナジーがあったかもしれないし、もっとうちの会社が成長していたかもしれない、と思うこともあるんだ。」
譲渡されてから数年経っても、当時の判断が正しかったのか思い返すことがあるそうです。
「社長、もしかして後悔されていらっしゃいますか?」
私は恐る恐るお聞きしました。
「いや、従業員や取引先は満足してくれているんだ。」
「息子も別の事業を起こして順調だし、私自身も地元の友達と海外旅行に相当数行った。何よりも夜中にふと起きることがなくなったな。」
「1社目と面談した後、何か違うと感じた。でも、“この話進めるしかないのか?”とも考えていた。 竹内さんから“ほかを探しましょう”と言ってくれて、本当にうれしかった。」
「最後まで私のわがままに付き合ってくれた。本当に感謝しているよ。」
―M&Aこそ、急がば回れ
M&Aは、オーナー経営者様の人生の中でたった一度の非常に大きな出来事です。
しかし、その決断を急ぐ場合が多くあるのも事実です。
今回のエピソードでも、業界構造の急速な変化で、 自社の成長のためには、ともに成長できるお相手を急いで探す必要がありました。
もちろん、時機を逸しないために、我々は迅速に動きます。
しかし、M&AのゴールはM&A後に事業が存続し、従業員、取引先、ご家族・・・
会社にかかわる全ての方がポジティブになることです。
ですから、急いでいるときこそ、目先の決断にあせず、じっくり慎重に決断することが大事です。
そう“M&Aこそ、急がば回れ”なのです。