調剤薬局業界におけるM&A事例

臼井 智

著者

臼井智

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター 統括

M&A全般
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メディカルシステムネットワークとトータル・メディカルサービス両社の概要とM&Aの背景

株式会社メディカルシステムネットワーク(以下、「メディシス社」という)は、札幌を本社とする調剤薬局事業を中核とする企業である。1999年創業と比較的若い企業であるが、282店舗を有する業界の準大手で東証一部に上場している。拠点である北海道では109店舗を有し圧倒的なドミナントエリアを形成しているとともに、関東や関西などの都市圏においても、M&Aの活用と新規出店をベースに店舗網と営業エリアを拡充してきた。ドミナント戦略を進めるメディシス社は、かねてより九州エリアを重点強化地域として店舗網拡大を企図していたが、九州全域で5店舗の小規模店舗を展開するにとどまっていた。

一方、株式会社トータル・メディカルサービス(以下、「トータルメディ社」という)はJASDAQ市場に上場し、北部九州を中心に35店舗のドミナントエリアを形成する調剤薬局業界の中堅企業である。同社代表取締役であり約55%の株式を保有する大野繁樹氏は、調剤薬局業界の現状や今後の方向性を鑑み、同社単独で事業を継続するより、店舗の重複の少ないメディシス社との間で、それぞれが有する経営資源・事業基盤や新規出店・従業員教育のノウハウを一体化させることが企業価値を最大化させることにつながると判断した。

2013年8月14日にメディシス社からトータルメディ社宛の意向表明書を提出して以降、両社間での協議やデューディリジェンスなどのプロセスを経て、2013年9月27日に最終契約書を締結し対外公表が行われた。

本件統合前の両社の概要

本件統合前の両社の概要

本案件の概要

本案件は、メディシス社の調剤薬局事業を統括する中間持株会社である株式会社ファーマホールディングがトータルメディ社株式に対して公開買付け(TOB)を行うことにより実行された。公開買付け価格は3200円であり、対外公表日(2013年9月27日)の前日のトータルメディ社株式の終値(1049円)に対して205%のプレミアム率であった。これは我が国の公開買付け事例の中ではグループ再編事例を除き史上最高のプレミアム率(2006年以降)となっている。

2013年9月30日から11月19日までの期間に行われた本公開買付けには、トータルメディ社株式の98.96%の応募があった。2014年1月21日にトータルメディ社の臨時株主総会が開催され、完全子会社となるための手続きについての承認決議が行われた。いわゆる全部取得条項付種類株式スキームにより、2014年2月28日にトータルメディ社は、ファーマホールディングの完全子会社となった。

両社の出店地域の状況

両社の出店地域の状況

まとめ

高齢化の進展や医薬分業率の上昇などにより市場規模が拡大してきた(CAGR7.8%)調剤薬局業界ではあるが、国の医療費抑制政策による薬価基準や調剤報酬の改定(2年ごとに約1.4%のマイナス改定)、さらには薬剤師の獲得競争など、中堅以下の企業にとっては今後も厳しい状況である。当社では、中小規模の調剤薬局企業のM&A案件が更に活発になると共に、今後は他業界と同様に大手企業同士の再編統合が行われると予想している。

トータル・メディカルサービスの株価推移(JASDAQ)

トータル・メディカルサービスの株価推移(JASDAQ)

広報誌「Future」 vol.4

Future vol.4

当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.4」に掲載されています。

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著者

臼井 智

臼井うすい さとし

日本M&Aセンター 成長戦略開発センター 統括

1991年に山一證券株式会社に入社、M&A部門に配属。同社自主廃業後、大手証券会社M&A部門を経て2009年に日本M&Aセンター入社。27年間にわたり一貫して国内外のM&A仲介アドバイザリー業務の第一線に従事。上場企業同士の経営統合から中小企業の事業承継案件まで、規模の大小を問わず幅広い業界にて200件超のM&A成約実績がある。最近は、S&P Global Market Intelligenceに2024年M&A展望についてコメントを寄稿。

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