<FUTURE特別対談>調剤薬局業界(患者/病院/薬局/地域)の将来を考えた末、 戦略的な経営統合を決断した両経営トップ
⽬次
- 1. 新事業展開に自由度の高い店舗規模
- 1-1. 初めに大野社長へお聞きします。今回、譲渡に踏み切った経緯をお教えください。
- 1-2. 田尻社長、トータルメディ社のどのようなところに魅力を感じられたのでしょうか。
- 2. 目指す方向に理解が得られればM&Aの動揺はない
- 2-1. M&Aに関してはネガティブなイメージをお持ちの人もいらっしゃいますが。
- 3. スキルアップに貢献する圧倒的に進んだ教育システム
- 3-1. 本提携に伴う従業員のメリットについてはどのように見ていますか。
- 3-2. グループに参加される企業にとってのプラス面を田尻社長におうかがいします。
- 3-3. 今後の九州エリアでの展開についてはどのようにお考えですか。
- 4. 規模拡大による効率化と、新しいビジネスモデルの構築がカギ
- 4-1. 医薬品卸やドラッグストアでも業界再編が起こってきましたが、調剤薬局業界におけるM&A・再編をどのように捉えていますか。
- 5. 時代は面白い局面へ。チェーン調剤の社会的使命を果たす
- 5-1. 調剤薬局業界の未来像についてお聞かせください。
- 5-2. 著者
現在、在宅の推進や点数誘導をはじめ、調剤薬局を取り巻く環境が大きく変わりつつある。本対談では、メディカルシステムネットワーク(以下「メディシス社」という)とトータル・メディカルサービス(以下「トータルメディ社」という)の先のM&Aについて、田尻稲雄社長と大野繁樹社長の両当事者に、実情と経緯、そしてM&Aの有効性について語ってもらった。
(インタビュー:日本M&Aセンター 企業戦略部 西川大介)
新事業展開に自由度の高い店舗規模
初めに大野社長へお聞きします。今回、譲渡に踏み切った経緯をお教えください。
大野: 2011年11月に、がんを患い手術をしたことがきっかけでしょうね。「ひょっとしたら死ぬかもしれない」と思いました。経過は問題なく順調なのですが、このことがそもそもの始まりとなった気がします。
田尻社長、トータルメディ社のどのようなところに魅力を感じられたのでしょうか。
田尻: 北海道を地盤とする当社が本州以西に店舗展開を進めるうえで、福岡などの中核都市は戦略的にドミナント展開を図りたいと考えている重要エリアになります。そのような時にとりわけ当社薬局店舗の少ない福岡で確固たる事業基盤を築いているトータルメディ社をご紹介いただき、「非常に良い話だな」と率直に感じました。また、当社の店舗と比べて非常に店舗面積が大きく、その店舗空間を利用し新たに付加的サービスを検討する場合の組み合わせの自由度などにも魅力を感じました。
目指す方向に理解が得られればM&Aの動揺はない
M&Aに関してはネガティブなイメージをお持ちの人もいらっしゃいますが。
大野: 数名の知人から電話があり、「上手くいっていなかったのか?」などと聞かれました。M&Aは、倒産する企業に対する救済措置という印象を持っている人も多くいると感じました。社員に対しては、基本的な処遇は変わらず現状を踏襲すること、本人の意図しない転勤はないこと等を数回に分けて丁寧に説明をしました。きちんと理解をしてくれて、退職するなどといったネガティブな反応をする者はおらず、むしろメディシス社の充実した教育研修への期待感が大きいようです。
田尻: 「何を目指し」、「どのようなことをしようとしているのか」という部分を理解していただければ、それほど動揺することはないと思います。先日も、トータルメディ社の従業員忘年会にお呼びいただき、我々が目指す地域薬局のあり方、地域包括ケアを見据えた医療と介護の複合施設等の説明をさせていただきました。
スキルアップに貢献する圧倒的に進んだ教育システム
本提携に伴う従業員のメリットについてはどのように見ていますか。
大野: 圧倒的なメリットとして挙げられるのは教育システムです。当社よりも圧倒的に進んでいると思います。そのようなシステムを活用させていただくことにより、薬剤師のスキルアップ、事務職を含めた従業員のスキルアップに対してプラスに働くものと考えています。
グループに参加される企業にとってのプラス面を田尻社長におうかがいします。
田尻: 従業員の皆さんには、九州あるいは山口県というところから、全国で活躍する場ができたと捉えてくれれば嬉しい限りです。北海道の社員も九州まで行けると考え、それぞれの地域で医療現場を見たり、意見交換を行うことは各々のキャリアパスにとっても良い方向に働くと思います。
今後の九州エリアでの展開についてはどのようにお考えですか。
大野: 30年後の人口動態の予想では、西日本で唯一人口が増えるのは福岡都市圏だけです。そのような予想も踏まえて、福岡の軸足は維持する形で今後も進めていきたいと考えています。
田尻: 開発能力に関しては、私どもよりトータルメディ社の方が高いのではないかと思っているので、大野社長と相談しながら九州エリアを中心に展開していただければと思います。
規模拡大による効率化と、新しいビジネスモデルの構築がカギ
医薬品卸やドラッグストアでも業界再編が起こってきましたが、調剤薬局業界におけるM&A・再編をどのように捉えていますか。
大野: オーバーストアな印象は誰もが持っている感覚。規模が拡大して残っていくところと、そうではないところが選別されていくというか、結果的にはそのような方向で収斂されていくのではないかと思っています。
田尻: 私を含めた団塊の世代の高齢化により、業界全体としては、あと10年は伸びるとは思いますが、分業率は頭打ちで報酬改定も厳しくなるでしょう。規模拡大による効率化と、単純な病院門前モデルを打破する新しいビジネスモデルを構築できるか否か、この2点がカギではないでしょうか。鉄鋼、自動車、卸売、製薬メーカー等、他の業界でも業界再編、規模拡大によって効率化を図ってきました。
大野: 今回のM&Aで感じたことは、大手の教育システムには太刀打ちできないということです。当社もそこそこと思っていましたが、メディシス社は2段階、3段階違いました。メディシス社が作成しているマニュアルやハンドブックのようなものを自前で作ることは正直無理だと思いました。また、人の厚みと言いますか、事業規模を膨らませていく中で新たに知識やノウハウを身に付けてこられた部分を感じました。こういうものは私一人では絶対に作りきれない。今回のM&Aは今までになかったいろいろなソフト、ハードを取り入れられるという点で当社にプラスでした。
時代は面白い局面へ。チェーン調剤の社会的使命を果たす
調剤薬局業界の未来像についてお聞かせください。
田尻: 薬局は地域住民に対する健康・医療・介護のゲートキーパー的な役割を果たしていけると思うので、そのような意味からすれば非常に面白い局面になってきていると思います。今後はより高度な専門的知識やコミュニケーションスキルを薬剤師に身につけてもらう必要があります。会社としては、そのための体制整備を行い、継続的に教育ができるかどうかが非常に重要です。つまり将来に向けた投資を行っていけるかということです。これは一定の規模と体力を持つ大手チェーン調剤薬局の社会的使命だと思います。在宅も同様に、個人薬局や小規模の薬局ではなかなか難しい。大手チェーン薬局の社会的使命として、その役割をきちんと果たしていきたいと思います。
田尻タジリ 稲雄イナオ 様
株式会社メディカルシステムネットワーク 代表取締役社長
北海道小樽市出身。1948年5月20日生まれ。株式会社秋山愛生舘(現株式会社スズケン)の子会社であるメディカル山形薬品株式会社にて代表取締役を務めたのち、1999年に株式会社メディカルシステムネットワークを設立。同年、代表取締役社長に就任。
大野オオノ 繁樹シゲキ 様
株式会社トータル・メディカルサービス 代表取締役社長
岡県北九州市出身。1958年5月11日生まれ、西南学院大学卒。民間病院に勤務後、前身の有限会社シー・エフ・ディに入社。1998年に社名を株式会社トータル・メディカルサービスに変更し、同年に「地域医療への貢献」をモットーに代表取締役社長に就任。
Future vol.4
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.4」に掲載されています。