[M&A事例]Vol.142 互いを尊重し合いながら経営ビジョンを作成。社会的使命を追求し、共に全国展開を目指す
リネンサプライ業のエスオーシーは、「民間救急」事業のアンビュランスを譲受けました。異業種2社がM&Aに至った背景、PMIについて話を伺いました。
譲渡企業情報
※M&A実行当時の情報
2016年9月にM&Aによる事業承継を実行された有限会社リブラ・コーポレーションの前代表である乾宣子様に、創業時からM&Aによる後継者へのバトンタッチに至るまでの経緯を伺いました。
病院・薬局で経験を積み開業患者のために何があっても続けることを決意
乾様: 1979年に薬剤師免許取得後、宝塚市立病院で薬剤師としての仕事の基礎を学びました。西宮市にある北摂中央病院では薬局長として、また川西市にある薬局では管理薬剤師としての経験を積み、薬局でのマネジメントを理解したうえで開業しました。
自分としては、着実にステップアップしたうえでの開業でしたし、外来患者さんたちに正しく納得して薬を飲んでいただきたいとの強い思いもありましたので、きっとうまくいくと考えていました。
ところが、当時はまだまだ医薬分業が進んでおらず「処方箋ってなに?」と聞かれる方が大半で、患者さんも思うように集まらず開業するのが早すぎたかな、と後悔したこともありました。
乾様: 当薬局の第一号の患者さん(当時60代)から「私が死ぬまで私の薬はあなたにつくってもらうからね」と言われ、この患者さんのためにも経営が厳しいからと言って店を閉めることはできない、何があっても店を続ける覚悟を持たねば、と強く感じました。
考えてみたら、薬局・薬剤師の仕事は、人の健康・命を預かる社会的責任のあるもの、継続してはじめて価値のあるものだと思うのです。嬉しいことにこの患者さん、現在80代になられているのですが、今でも元気に当薬局に顔を出していただいています。
患者さんへの丁寧な対応の積み重ねで「ドクターから出店依頼」が来るように
乾様: 分業も進み、1号店(本店)が軌道に乗り始めた頃、患者さんを通じて処方箋を出せるレベルか当薬局が周囲の医療機関から試された時期がありました。この世界は、ドクターの力が強く薬局も「お願い営業」で開業するケースが多いのですが、きっちりした患者対応を続けたおかげもあり、ドクターのほうから出店要請を受けるようになりました。
開業して5年後に2件同時出店、更にその3年後に1件と続けて新規出店しましたが、いずれも要請を受けての出店だったので、ドクターとはあくまで対等な関係を維持できました。しかしそれだけ高い質を期待されていることになりますからこちらも当然手を抜くわけにはいきません。結果としてお互い良い緊張感の中で質の高い医療を提供しあえる、今振り返るとそんな関係が築けたのではないかと思います。
順調に経営が進むなか立ちはだかる困難。事業承継を意識
乾様: 創業以来、私は薬剤師としての店舗運営を、管理部門には取引先社員で仲の良かった人物を役員に据えて、それぞれ役割分担して経営をしておりました。ところが、2004年の税務調査をきっかけに2年間に亘る彼の会社現金の着服が発覚しました。即刻解任しましたが、それにたたみかけるように当時の税務顧問からは「このままでは会社経営がおぼつかなくなるから私を取締役に入れなさい」と迫られ、乗っ取りの危機にも直面しました。誰も信用できなくなり、ひとりで何もかも管理しないと気が済まなくなったのは、この事件があったからかもしれません。
この状況を取引先の支店長に相談したところ、同級生で今でも顧問としてお世話になっている橋脇公彦税理士(姫路市、TKC会員)を紹介してもらいました。橋脇税理士に相談してこの状況全てを委ねることにしましたが、迅速に対応し全てを解決してくれました。
乾様: 幼少期より私自身脚が悪く、働き出してからも立ち仕事は極力控えるように言われていました。30歳の頃には手術も経験し、決して強い身体ではないのですが、2013年くらいから、薬局経営に加えて、母親が要介護となり家事・身の回りのことが一人でできなくなってしまった結果、会社の経営をしながら母の介護・家事をする二重生活がはじまりました。朝の4時に起床し、薬局の経営、閉店後も経理の仕事をこなし、まっすぐ家に帰っても帰宅時間は22時とか23時。やりはじめるときっちりやらないと気が済まない性格なので、睡眠時間が削られても今は何てことないものの、いつまでも続けられないなというのはもちろんわかっていました。
乾様: 前述の橋脇税理士と相談し、5年後の目標設定として「61歳で引退、事業承継を無事果たし3億の自己資金を残す」と決めました。開業前からそうだったのですが、5年後の目標設定をして、今すべきことを決める、このサイクルが私には合っていましたので、自分の引退も同様に考えることができました。
実は10年程前に「薬局を経営したい」と意欲的な女性従業員がいて、やる気のある個人に継がせるのもありかなと思ったこともありました。しかし銀行員である旦那さんから「お金を借りてまで経営したくない」と言われ逡巡する彼女の姿を見るにつけ、個人に継がせるのは難しい、事業承継の相手は第三者の法人なのだろうな、とそのとき既に悟っていました。
乾様: 厚労省は大手に負担を求め中小に生きる道を残すと言っておりましたが、結果として、この改定により20件前後の中堅薬局チェーンが右往左往することになりました。実は当薬局の場合、今年4月で最高ランクが取れ点数が下がらないことがわかりました。これも特定の医療機関に依存するのではなく、地域密着型で来るもの拒まず、しかし人も増やさず効率的に在宅も取り入れて全ての施設基準を満たした、これまでの地道に努力した結果だと思っています。
ただし、私が思うに、この改定で本当に国が言いたいのは、残すべきは大手ドラッグストアや薬局チェーン店であり、その他は業界再編せよ、とのメッセージであると感じました。次の更に次の改定(2年後)では、今はプラスの評価をされている当薬局でも恐らく厳しくなるのは目に見えているし、求められているのは少なくとも当社のような小規模の薬局でないことは明白で、売却するのであれば「今しかない」と考えました。
薬局の経営は、曲芸の「皿回し」に良く似ていると感じます。薬局を皿に例えているのですが、あっちの皿に集中しすぎるとこっちの皿がうまく回らなくなり、そのまた逆も然り、日々その繰り返しなのです。せいぜい1人で回せる皿は4枚くらい、それ以上回そうと思えば新たに回せる人が必要になりますが、小規模の薬局にとってそのような人材を確保するのは非常に困難です。
タイミング良く「専門家」に相談M&Aすることが成功の近道
乾様: 知り合いを通じて、中堅の薬局チェーンを紹介してもらうことになりましたが、私の想定した企業価値を大きく下回る評価だったため、この企業との商談は断念せざるを得ませんでした。タイミングを重視したかった私は、前述の橋脇税理士に譲渡の意思が固いことを告げたところ、これまたタイミング良くM&A専門会社の役員と面識が持てたので会ってほしいとの返事をもらいました。
決算書やレセコン等必要最小限の情報で株価評価してもらったところ、私の想定を上回る金額が確保できそうとの回答を即座にもらえたので、全てを依頼することにしました。この先業界再編が加速したときには、中堅チェーンさえも生き残れないだろうと予測されることから、「どうせ売却するなら大手チェーンが良い」と思うようになりました。アドバイスをしてくれたM&A専門会社の役員も全く同じ意見でしたし、「貴社の場合はずばりこの買手だ」と明確な回答をしてくれました。
もし私が独自で進めていたなら、時間がかかるうえに、買手候補や金額条件面で思うような結果が得られなかったでしょうし、M&Aを進めるうえでこの道の専門家がいることを知って全面的にお任せしたことが良かったと実感しております。
乾様: 東京都文京区にある水野薬局は日本最古の薬局ですが、業界最先端とも言えるICTの活用に積極的で、歴史的かつ先進的な薬局としてシンボリックな存在でした。2016年9月、その水野薬局が大手チェーンの日本調剤に売却するというニュースが業界を駆け巡りました。
私自身、この水野薬局からは、薬剤師としての「心構え」を学びました。当時出版された『調剤実務必携-その基本と取組み方-』という本は、今でも大切に保管しています。時代の流れにより内容が変化している部分はあるものの、薬剤師としての在り方など根幹の部分は時代変われど同じなのだなと実感していることから、薬局経営のバイブルとして新しく入社する薬剤師にも読ませるようにしています。
薬局経営のベンチマークとなるような薬局が売却する決断をしたわけですから、ある意味、私の決断も間違っていないと確信しました。
買手の立場に立って「欲しい」と思われる会社にしておくことが重要
乾様: 当たり前の話ですが、自分が仮に買手の立場に立ったとき、相手に求めるものが何なのかを考えれば「売れる会社」「高く評価される会社」というのは自ずと見えてきます。当薬局が展開している豊中市という街は、人口分布が良く各世代が均等にいる地域です。校区が良く教育レベルも高いため、周りに学習塾も増えており、若い夫婦が住みつき子供の教育に適した地域となっています。地域としてドミナント戦略を打つには絶好の地域であること、各店舗が独立して地域密着で収益をあげていること、在宅についてもこれから増やせる余地が高いエリアであること、薬剤師の人数が十分確保されていること等々、大手が必ず欲しがる薬局経営環境だと自信をもっていました。したがって、キチンと評価されたときは、自分の考えが間違っていなかったと安心した気持ちと、これまでコツコツと積み上げてきたものが評価されたと嬉しい気持ちになりました。
乾様: これまで薬剤師の地位向上を目指しいろいろな取り組みをしていました。6年くらいかけて年10回ペースで全店メンバーを集めた勉強会を定期的に開き、患者さんへの対応に集中できるように裏方の仕事は社長である私が一手に引き受けてきました。
今回代表者変更により運営体制も変わったのですが、私が過保護だったのか、他の薬局では当たり前のことがわからないケースもあったようで、しばらくは戸惑いながらも、徐々に慣れていってくれるものと思います。もちろんクラフトさんには、雇用の維持や給与面等労働条件は今までと変わらないことを約束していただいていますので、安心して業務に取り組んでくれる環境は整っております。
乾様: どの業種にも言えることですが、企業価値を高める(買手に欲しいと思われる)会社にしておくこともさることながら、業界再編の「旬」を逃さないということもそれ以上に重要なことだと考えます。「皿回し」に没頭した挙句、「旬」を逃してしまったのでは、これまで企業を存続させてきた功績を誰にも評価されず、やがて消えてなくなってしまうもったいない結果になるのではないでしょうか。ひと息つく時間をつくって、自社・業界・自分自身の状況を客観的に把握して、「良いタイミングを逃さない」よう意識して経営判断していただくことをお勧めします。
リネンサプライ業のエスオーシーは、「民間救急」事業のアンビュランスを譲受けました。異業種2社がM&Aに至った背景、PMIについて話を伺いました。
当初は譲受けを検討していたものの、介護業界の変化が譲渡検討のきっかけに。譲渡オーナーは、相続税制のハードルもM&A検討の背景にあったと語ります。
資本力や海外ビジネス展開のノウハウ不足に不安を感じていた譲渡オーナーは、大手企業との提携を模索し、M&Aによる譲渡を決断したと語ります。
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上席執行役員 雨森 良治
乾様は、快活で気さくなところと、ストイックで探究心旺盛なところを併せもつ創業社長です。ややピークアウトした感もある薬局業界において絶妙なタイミングでのご決断だったかと思います。地域密着で患者さんに愛されている薬剤師でもありますのでなかなか引退させてもらえないかもしれませんが、時間ができたら夢の海外旅行も実現してください!