プラットフォーム事業における多様なM&A
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卸売事業とは、商品、資金、情報をやり取りして取引を成立させる流通「プラットフォーム(事業)」と言える。一般にプラットフォーム事業は、絶対的な規模が競争上重要である。現在、各種卸売業界で起きている大手企業への集約化の動きは、この事業特性を前提としている。株式会社トーホーの戦略も、規模拡大のための正攻法の戦略といえる。
ここでは、他社事例より、プラットフォーム事業における規模拡大の追求「以外」の3つの戦略を紹介する。
I.外部のプラットフォーム機能を活用する戦略
株式会社インフォマート(東証マザーズ上場)は食品卸売業者の商流と情報流をサポートするアプリケーションサービスプロバイダー(ASP)である。卸売業者は受発注、請求書などの取引情報やカタログ、規格書などの商品情報を同社のASP上でやりとりできる。取引金額ベースで約1兆円に迫る食品卸売業界の商流、情報流のプラットフォームである。
食品卸売業者は、インフォマート社のASP導入により、自社の人材を本来価値の出せる顧客への提案や新商品の企画に集中できる。システム費用の低減、伝票記入、FAX送付などに関わる工数の削減、経理システムへの入力工数の軽減が期待できリソースを効率化することができる。また、付随効果として決算の早期化によるタイムリーな経営判断が実現でき、戦略展開のスピードアップが望める。
食品卸売業者にとってはインフォマート社のような外部のサービスを活用することにより、別の機能に自社のリソースを集中することも戦略的の一つと言える。
II.プラットフォームに新たなサービスを付加する戦略
株式会社ヨシムラフードホールディングス(以下「ヨシムラFHD」)は、本業は食品卸売企業であるが、傘下にシウマイ、温麺、かきフライ、ピーナッツ、鍋セット、日本酒製造企業を持つ、食品製造・卸売の複合型企業である。これらの食品製造企業は、いずれも中小企業であり、単体での管理能力には限界があった。ヨシムラFHDは、これらを買収したうえで、ホールディングスに営業・仕入・商品開発・品質管理・資金調達などを行うプラットフォーム機能(シェアードサービス)を持たせ、縦型の一元管理を可能としている。
ヨシムラFHDは上記のシェアードサービスによって、各食品メーカーに散在していたアドミニストレーション機能を一元化し傘下の食品メーカーの業績を改善している。特に資金調達は中小食品メーカーには重要であり、統合による効果は明確だ。ヨシムラFHDは今後も傘下の中小食品メーカーを増やし、業績を改善し、グループ全体での成長を企図するであろう。
食品卸売業界の大手企業がプラットフォームを横に統合して規模を拡大しているのに対して、ヨシムラFHDの事例は、縦にプラットフォームを積み上げる形で機能強化を図り成長する可能性を示唆している。卸売業者のパラダイムを変えるサービス化の可能性を追求する余地はある。
III.顧客セグメントを絞り込み製造小売化する戦略
株式会社神戸物産(東証一部上場)はキャッシュアンドキャリーの卸売店舗「業務スーパー」のフランチャイズチェーンを展開している。卸売業者の配送サービスの利便性よりも店舗で購入する価格メリットを選択する小規模な外食店舗や消費者を中心に利用されている。市販用と業務用の境界線にポジションをとり、従来の流通では応えられないニーズに応えている。
神戸物産はさらに、食品メーカーの買収を進め、系列メーカーの製品をプライベートブランドで業務スーパーを通して販売する「製造小売モデル」を強化している。商品提案機能を犠牲にし、コストを追求する戦略とも言える。市場の隙間にポジションを取り、製造小売という卸売業とは異なるビジネスモデルを確立している。
神戸物産・ヨシムラフードホールディングス・インフォマートの持つ機能の違い
以上、食品卸売業界で見られる規模拡大以外の戦略オプションについて事例を紹介した。卸売業界の周辺領域で異業種企業を巻き込んで構築しているビジネスモデルの事例であり、当該業界の発想を超えた、今後の進化の方向性を示していると考えられる。すなわち、卸売企業において今後の生き残りを図るとすれば、常にアンテナを高く張り、先入観を排除し、他社リソースを取りこむことを柔軟かつスピーディーに決断実行することが不可欠と考える。
Future vol.7
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.7」に掲載されています。