イオングループのDNAを継承しM&Aを推進~業界の転換期を見越した「選択と集中」戦略が成功の秘訣~
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イオンディライト(東証一部9787)は、2006年に、旧マイカルの子会社であるジャパンメンテナンスと、イオン(東証一部8267)の子会社であるイオンテクノサービスとが合併し誕生した。2015年度の連結売上高は、2,810億円に上り、現在、国内におけるファシリティマネジメント業界の中で最大の企業である。 アジア戦略を含めた2014~2016年度の中期経営計画をウェブサイト上で明示し、2020年にはアジアNo.1となることを目指している。今回は、イオンディライト 執行役員 グループ経営本部長 兼 事業推進部長 藤井 亮太氏に、事業戦略とM&Aの活用方針について伺った。
(聞き手:日本M&Aセンター 企業戦略部部長 臼井 智)
成長戦略の方針に重要な手段の一つがM&A
―現在展開されている事業のご紹介をお願いします。
藤井 弊社は、ファシリティマネジメント業務を中心に幅広く展開しており、商業施設やオフィスビル、病院向けの清掃事業、警備事業、設備管理事業、建設施工事業のほか、資材関連事業、自動販売機事業、また、旅行代理店業務や家事支援事業などのサポート事業も行っています。特に、ファシリティマネジメント業務においては、お客様のノンコア業務を一手に受託し、全体的なコスト削減を可能にする総合FMS(ファシリティマネジメントサービス)事業を展開しています。日本以外にも、中国、マレーシア、ベトナムにおいて事業を展開しており、それぞれの国々でもイオングループ企業を中心にFMSを提供しています。
―貴社の成長戦略について具体的に教えてください。
藤井 基本的には次の二つに注力した事業展開を戦略方針としています。一つは、事業規模(スケール・メリット)を活かした展開。もう一つは、高度な技術・ノウハウの獲得です。この二つの戦略要素に注力することで、これらが互いに相乗効果を生み出し、弊社の競争優位性をさらに高めていくことができ、弊社の戦略の基盤となると考えております。 この基本戦略に則り、さらなるスケール・メリットの追求に向け、一層事業規模を拡大していく考えです。その点では、M&Aはこの目標を達成するための重要な手段の一つであるといえます。新たにグループ入りした企業に対し、弊社の技術やノウハウを移転するだけでなく、採用や教育面でもシナジーを享受し合うことでお互いの収益性の向上を図りたいと考えています。 また、弊社は多岐にわたるファシリティマネジメント事業の中でも、今後特にお客さまからのニーズが高まるであろう衛生清掃分野とエネルギー・ソリューション分野に積極的に経営資源を投下していく方針です。このような事業分野における研究開発投資の面でも、業界最大手である弊社は、多額の投資ができ、上記の通り、スケール・メリットを活かした展開が可能になると考えています。
中期経営計画策定の前に、戦略を議論
―中期経営計画はどのように立てられているのでしょうか?
藤井 中期経営計画を策定する前に戦略の議論を行います。これまで当社は、総合ファシリティマネジメント・サービスを提供するという方針で様々な事業を展開してきましたが、これは欧米の企業が提唱しているIntegrated Facility Management という概念をベースにしています。現在の中期経営計画の策定時には、この意味を見直すことから始めました。Integrated という言葉には“総合的”という意味もありますが、戦略的には“統合的”という概念が適切なのではないかと自らの認識を是正しました。このことは非常に有意義でした。つまり、過去は“総合的”という理解のもと幅広く事業を展開してきましたが、“統合的”と解釈することで、それこそ統合的に展開すべき事業を取捨選択出来るようになりました。
中期経営計画におけるM&Aの活用
―中期経営計画において、M&Aをどのように活用していますか?
藤井 現在の中期経営計画の中の重要な施策の一つとして、事業ポートフォリオの入れ替えを推進してきました。とりわけ、2015年度には、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を営む中国の子会社2社の株式を売却し、この事業からの撤退を完了しました。また、弊社の他の事業との間でのシナジーが見込みづらいマンション事業についても、日本M&Aセンター様にお力添え頂き、穴吹ハウジングサービス様に譲渡することができました。一方、同じく2015年度には、白青舎をグループ会社として迎えることで、今後の2つの注力分野のうちの一つである、衛生清掃分野での事業基盤をさらに一層強固にすることができました。 M&Aを成功裏に収めていくには、当然ながら、事業の選択と集中が不可欠です。事業を選別することは、限りある経営資源を有効活用するために必要であることはもちろんですが、そもそも多数の事業を有した場合、それに比して抱える事業リスクも多くなると考えるべきです。事業リスクが増加する場合、当然、それに比して管理の手間も掛かります。
M&Aで誕生し、成長してきた歴史がアドバンテージに
―貴社のM&Aへの考え方についてお聞かせください。
藤井 今後も事業規模の拡大を目的とし、その重要な手段の一つとしてM&Aの推進に取り組んでいます。このような取り組みは、他の企業も想定しているかもしれませんが、ことM&Aに関して、弊社は既に大きなアドバンテージを有していると思います。 冒頭にある通り、弊社自身、当時の2つの業界大手企業が合併して誕生した経緯があります。また、それ以降、環境整備、ドゥ・サービス、エイ・ジー・サービス、といった業界の有力企業を傘下に収めてきました。その後カジタクを買収し、最近は、J.フロント リテイリングの関係会社であった白青舎を公開買付により100%子会社化しました。 つまり、弊社はM&Aにより誕生し、M&Aにより成長してきた企業と言っても過言ではありません。弊社にはこれらの経験で培ったM&Aに関する多くのノウハウを有していると自負しています。
―M&Aを活用してきた貴社の沿革は、貴社の親会社であるイオンの歴史のようですね。
藤井 イオンもその生い立ちを辿れば、元々は岡田屋、フタギ、シロが合併し誕生しました。その後も積極的にM&Aを活用して成長してきました。イオンの岡田名誉会長が、「イオンという企業の歴史はM&Aの歴史」と語っているように、M&Aを活用するという考えや文化は、イオンにおける大事なDNAの一つでもあります。弊社もイオングループの一社として、このDNAを継承し、これまでもそしてこれからもM&Aを積極的に推進する考えです。
大転換期を迎えるファシリティマネジメント業界技術獲得と
コスト削減への投資が今後を左右
―業界動向をふまえた貴社の経営課題や業界の見方はどのようなものでしょうか?
藤井 ファシリティマネジメント業界の需要は、基本的に国内の不動産のストックの量と密接に連動しています。これまでのところは、緩やかな成長を遂げてきました。 現在のファシリティマネジメント業界におけるプレーヤーは、大きくはゼネコンや不動産業者、小売業者といった大企業の系列子会社ですが、市場は多くの企業に細分化されています。ファシリティマネジメント業界の中でも、とりわけ清掃業や警備業などは、いわゆる“労働集約型”産業に分類され、大きな技術革新も無く、各企業は常に“人手に頼る”ことで事業を拡大してきました。 このような特徴を有するファシリティマネジメント業界ですが、他業界に洩れず現在大きな転換期を迎えていると考えています。なぜなら、都市部の一部地域を除き、不動産のストック量に大幅な伸びが期待できず、将来的な需要の増加は見込めないからです。このような中、(1)REIT市場の発達などにより、これまで以上にお客様からは費用対効果を意識されるようになっており、また、環境・衛生問題に対する意識の高まりから、(2)環境負荷低減などに対する取組みや、(3)衛生清掃分野での高い技術やノウハウを持ったサービスを求められるなどの変化が明確になっています。つまり、企業はこれまで以上に技術獲得やコスト削減に対する投資を行う必要があるのです。 さらに、今後国内全体で労働力が不足していくということを鑑みれば、これからは従来のようなやり方や考え方は通用しなくなると言わざるを得ません。
これから転換期を迎える業界にこそ必要な 「選択と集中」戦略
―M&Aが戦略実現の手段として活用されていく機会がますます増えそうですね。
藤井 最近はソフトバンクが複数の子会社、関係会社株式を売却し資金を算段する一方、ARMの買収を行うなど、変化の速いIT業界ならではの、あるいは孫社長独自ならではの動きを見せています。しかしながら、事業の選択と集中戦略は、このような急成長を見せる業界の企業だけが取り得るものではないと思います。むしろ、弊社が属するファシリティマネジメント業界のように、これまで大きな変化が無かったものの、これから転換期を迎えることが確実な業界にこそ、この転換を見越し、将来の布石を万全にする為にも、急ぐべき課題なのではないかと思います。
Future vol.12
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.12」に掲載されています。