中期経営計画策定で留意すべきこと
⽬次
- 1. 中期経営計画は重要、機能させるための工夫はさらに重要
- 2. 中期経営計画策定にあたって肝になる7つのこと
- 2-1. (1)ユーザ動向・市場・業界動向を幅広に捉える、過去から現在だけでなく将来を見通す
- 2-2. (2)客観的に自社の能力・強みをおさえる
- 2-3. (3)多面的な視点(株主・取引先・社員など)での考察を行う
- 2-4. (4)“ここ”から“そこ”に行くまでの道筋・方法を示す
- 2-5. (5)オーガニック、ノンオーガニックの領域を明確にする
- 2-6. (6)実行する人間の腹落ち感の醸成
- 2-7. (7)不確実要因を意識する
- 3. 「戦略」「数値計画」「行動計画」のバランス
- 4. 最後に ~策定プロセスこそ重要
- 4-1. 著者
中期経営計画は重要、機能させるための工夫はさらに重要
経営計画には計画期間と内容によっていくつかの種類が存在する。たとえば10年単位の長期的な経営ビジョンを記す「長期ビジョン」、年度単位の目標と行動計画を組織別に落とし込んだ「単年度計画」などである。本稿では3~5年の期間をターゲットとする「中期経営計画」について、その重要性と策定にあたっての留意点を考えよう。 大きな事業環境の変化が訪れ、それらに対応するための大胆な経営資源(人・モノ・金)の組み替えが必要とされる昨今、中期経営計画は本来きわめて重要な役割を果たす。だが、最近では逆に「中期経営計画不要論」が一部で盛り上がりをみせている。これらが問題にしているのは「多大な工数が注ぎ込まれているにもかかわらず、魂の入っていない計画ができあがってしまう」、「既に計画が形骸化しているにもかかわらず、それに基づいた実の無い管理サイクルだけが延々と残っている」といった事態である。 参考までに当社がおこなった調査データを引用すると、売上高300~2,000億円の中堅上場企業1,016社のうち、中期経営計画をインターネット上に公開している会社は65%にあたる657社、さらにそのうち中期経営計画で掲げた売上目標値の達成が困難になっていると思われる企業は半数以上の57%にあたる377社であった。(図1)
図1:中堅上場企業における中期経営計画公開状況および達成見込み
中期経営計画策定にあたって肝になる7つのこと
有効な中期経営計画を策定し、かつそれを目論見通り機能させていくためにはどのような点に留意すればよいのか。 7つポイントを挙げておく。
(1)ユーザ動向・市場・業界動向を幅広に捉える、過去から現在だけでなく将来を見通す
単年度ではなく「中期」を見通して大胆な経営資源の組み換えを考えていくためには、事業環境を捉える視野を日常よりも意識的に広げておくべきである。国内から海外、業界内から周辺業界という空間的広がりに加えて、将来の事業環境を予測するという時間的広がりにも意識を向ける必要がある。
(2)客観的に自社の能力・強みをおさえる
「自社の強み」については、部門によって、階層によって、実に様々な意見が飛び交う。この部分の認識がばらついている中で「その戦略・施策が機能するのか?」という議論を噛み合ったものとして前に進めていくことは大変困難である。
(3)多面的な視点(株主・取引先・社員など)での考察を行う
ステークホルダーごとに伝えるべき情報の種類、精度は異なる。中期経営計画はそれらを充足させつつ、全体として整合性が保たれ、首尾一貫したメッセージを発信することができるように組み立てておくべきだ。
(4)“ここ”から“そこ”に行くまでの道筋・方法を示す
向かうべき方向が共有できたとしても、そこにたどりつくまでの道筋は複数存在する。どの道を進むつもりなのかをリーダーが明示できなければ、社員は各々の思う方向に歩を進め、結果として戦力の分散を招いてしまう。
(5)オーガニック、ノンオーガニックの領域を明確にする
過度にM&Aなど外部に依存した計画はもちろんリスクが大きいが、ノンオーガニックの可能性を考慮していない計画は打ち手の幅が著しく制限された計画となってしまう。
(6)実行する人間の腹落ち感の醸成
中期経営計画で掲げられた施策が現場で実行されている様子がない場合、その戦略・施策が「理解されていない」という可能性よりも、実行する人間の中で「腹落ちしていない」という可能性を疑うべきである。「腹落ち感の醸成」のためには策定プロセスの中で双方向のコミュニケーションをタイムリーに実施していくことが有効である。
(7)不確実要因を意識する
中期経営計画を策定する上で重要なことは「ほぼ確実な未来」と「かなり不確実な未来」をクリアに分けて認識することである。そして「かなり不確実な未来」についてはシナリオを策定し、想定されるシナリオごとに打ち手を考えておく必要がある。
「戦略」「数値計画」「行動計画」のバランス
多大な工数をかけて中期経営計画を策定したにもかかわらずそれが機能していない、というケースでは、計画の構成要素である「戦略」「数値計画」「行動計画」のバランスに問題があることが多いように感じられる。 例えば以下のようなものである。
-戦略は非常に分厚く、数値計画も明確だが、行動計画への落とし込みが甘く実行のイメージが不鮮明。結果として現場の動きが非効率 -数値計画と行動計画はきわめて詳細だが、前提となる戦略が曖昧で計画全体に求心力が無い。結果として現場の実行マインドが停滞している
「戦略」「数値計画」「行動計画」のそれぞれの内容をきちんと盛り込むために中期経営計画書のフォーマットを作成しそれを埋めていく、といったやり方もないわけではない。しかし本来は会社が置かれている状況に応じて、どの要素をどういった重みで扱うべきか、という判断と調整がおこなわれるべきである。
図2 機能する中期経営計画の策定に必要な3つのバランス
最後に ~策定プロセスこそ重要
ポイントを押さえながら進めたとしても、現場が腹落ちする中期経営計画を策定するには多大な工数がかかる。だが、中期経営計画が機能するか否かの勝負は策定プロセスからスタートしていると考えると、ここで必要なプロセスをしっかり踏んでおくことこそが王道だ。計画をまとめ上げるまでの工数としては、単に情報収集やデータ分析、資料の作成といった工数だけでなく、いわゆる「すりあわせ」のためのコミュニケーション工数を十分に確保しておくことが必要である。コミュニケーション、あるいはすりあわせこそが策定プロセスの要であり、中期経営計画の成否を決定するといっても過言ではない。
Future vol.12
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.12」に掲載されています。