保守的な会社こそ、M&Aによる成長戦略が有効

竹内 直樹

日本M&Aセンター 代表取締役社長

M&A全般
更新日:
理想の買い手企業が見つかります。会社売却先シミュレーションM-Compass。シミュレーションする

⽬次

[非表示]

数年前、ある企業の社長とCFOにお会いしました。 東京23区内の会社で、売上高は100億円を超え、純資産も潤沢な優良企業です。 その社長も事業承継成長戦略に悩みを抱えていました。

「事業承継については、うちの会社は保守的なので社内で解決したいと思っています」

「今は業績が好調ですが、当社の事業の市場は将来確実に縮小します。でも、うちの役員や従業員は保守的なので…」

いろいろとお話をお伺いしていくうちに、この会社の本当の悩みは「会社が保守的で何もできないでいること」だと感じました。 会社は社長だけのものではありません。役員や従業員の理解が得られなければ、何事も上手くはいきません。

「外部資本が入るなんて考えられない!」 「ファンドなんて絶対無理!」 そういった反応を予想したのか、結局この会社の社長とCFOが出した結論は、現在の役員によるMBOでした。


MBOという決断も、事業承継の選択肢のひとつ

MBO(Management Buyout)って何?

MBOとは、会社の経営陣が今のオーナーから株式を買い取ることです。 とはいえ、通常役員に株式を買い取る資金はないので、会社の資産や将来の利益を担保に金融機関から買取資金を借りることになります。では、その借入はどうやって返済するのか? それは、会社が毎期計上する利益(配当)です。つまり、会社は間接的に金融機関から借金をすることになり、利益の分配(配当金)という形で返済していくことになります。

先延ばしされた会社の成長戦略

MBOは事業承継問題を解決してくれますが、一方で会社の成長という観点から見ると「絶対プラスになる!」とは言えません。 MBOは会社の内部留保や将来の利益の使途を、成長分野への投資ではなく、借入返済に向けることになります。

投資がそれほど重要でなく、キャッシュフローが安定している場合には問題ないですが、投資が必要な場合にはいい方法とはいえないと思います。 例えば、これまでは100の利益をあげれば、税金を支払った後の70を将来の投資に回すことができました。

しかし、MBO後は100の利益をあげても、税金以外に借入返済のための配当50を支払わなければならなくなり、将来の投資には20しか回せなくなります。 成長資金が70と20とでは、どちらが成長できるか一目瞭然です。

もし、競合他社が70投資していたら、どうなるでしょうか。 お会いしたCFOも、これらのことを充分すぎるほど理解されていました。それでも「保守的な会社ではMBOしか選択肢がない」と決断しました。 M&Aなら、成長資金も失わずに事業承継も解決でき、成長戦略も描くことができるのに…

保守的な会社だからこそM&Aのメリットは大きい

これからの事業環境はスピードを上げて変化していきます。企業も絶えず変化していくことが求められるでしょう。 とはいえ、会社の風土や従業員の意識を変えることは簡単ではありません。 だからこそ、M&Aを有効に使っていただきたいと思っています。

M&Aは事業承継問題を解決し、成長戦略を実現するための手段になるばかりか、他社と一緒になることで企業文化を変える絶好の機会です。 実際、M&Aをきっかけにいい方向に変わっていった例をいくつも見てきました。

最初は抵抗感のあった役員や従業員の方々も、変わっていくことへのメリットを感じていただけているのだと思います。

成長を可能にする事業承継

非上場企業にとって、事業承継は避けて通れません。 では、会社の成長を描きながら、どう事業承継したらいいのか。 事業承継対策の方法は複数あります。何を重視するかで、選択すべき方法は変わります。

会社の成長が最優先でないのなら、MBOが答えになることもあると思います。 執筆した『どこと組むかを考える成長戦略型M&A』では、企業の成長と事業承継のどちらも解決した実例をご紹介しています。

M&Aコンサルタントの経験が詰まった1冊になったと自負しております。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
******************
日本M&Aセンターの成長戦略支援サービス
******************

著者

竹内 直樹

竹内たけうち 直樹なおき

日本M&Aセンター 代表取締役社長

1978年生まれ。広島県出身。2007年日本M&Aセンターに入社。主に中堅・中小企業と上場企業に対して買収提案を担う部署の責任者として、上場後のブリッツスケール(爆発的成長)に貢献。譲受企業だけではなく譲渡企業の成長も実現する「成長戦略型M&A」を提唱し、日本経済におけるM&Aの普及・啓発に尽力。2018年から取締役となり、全社の戦略立案と実行を指揮して、連続的な業容拡大を実現。2024年4月より現職。日本M&Aセンターホールディングス取締役も兼務。著書に「どこと組むかを考える成長戦略型M&A」(プレジデント社)がある。

この記事に関連するタグ

「MBO・事業承継・成長戦略・書籍」に関連するコラム

家、家にあらず。継ぐをもて家とす

事業承継
家、家にあらず。継ぐをもて家とす

父の観阿弥とともに能(能楽)を世に広めた世阿弥は、多くの言葉を残しています。一番有名なのは、「初心忘るべからず」でしょうか。その世阿弥の有名な言葉のひとつに「家、家にあらず。継ぐをもて家とす」があります。世阿弥は、「たとえ自分の子供であっても、その子に才能がなければ、芸の秘伝を教えてはならない」と言ったうえで、この言葉を続けています。この「家、家にあらず。継ぐをもて家とす」とは、「家というものは、

「僕には継げない」親子で歩んだM&Aの道のり

事業承継
「僕には継げない」親子で歩んだM&Aの道のり

これは、私が出会ったとある親子の話です。当社が開催したセミナーに50歳代と30歳代の男性が連れ立ってご参加されました。会場の真ん中に座っていた二人は、私の講演をとても熱心に聞いていただいていました。「社長を引き継ぐ息子の勉強のためにセミナーに来たのかな」とはじめは思っていました。セミナー後にその親子にお話をお伺いしたところ、思いもしなかった相談を受けました。父(社長):「M&Aで自社の売却を考えて

年商10億円以上の企業経営者200人に聞いた「引継ぎプラン」

年商10億円以上の企業経営者200人に聞いた「引継ぎプラン」

日本を支える中堅企業の経営者に一斉アンケートを実施国内の全企業の99%を占める「中小企業」。その中でも「中堅」規模の企業は、各地域経済をけん引する、あるいはその高いポテンシャルを秘めた存在です。日本M&Aセンターは、こうした中堅クラスの企業の経営者ご自身のこれからや、会社の今後についてのお考えをお聞きする、「経営者意識調査」を実施しました。経営や承継に関わる課題や、M&Aの活用等に関しての問いに選

【広報誌「MAVITA」Vol.3より】M&Aを戦略の中心に置く成長企業の現在地

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.3より】M&Aを戦略の中心に置く成長企業の現在地

「世界一のエンタメ企業」をビジョンに掲げ躍進を続けるGENDA。推進力の中心にM&A戦略があります。その狙いとは?日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.3で掲載した、M&Aを戦略の柱に躍進を続けるエンターテイメント企業GENDAの申真衣社長と、サーチファンドの仕組みを利用して経営者となり、事業承継後2年目にして売上高を2倍に伸ばしGENDAにグループインしたアレスカンパニーの大

著者インタビュー!『社長の決断から始まる 企業の最高戦略M&A』

広報室だより
著者インタビュー!『社長の決断から始まる 企業の最高戦略M&A』

日本M&Aセンターは、書籍『社長の決断から始まる企業の最高戦略M&A』を東洋経済新報社より発売しました。著者の柴田彰さんに、発刊の経緯と本書に込めた想いを聞きました。M&Aしかないとわかっていても、踏み出せない理由――本書は、経営者が押さえておくべき経営戦略の一つとして、M&Aの特に「譲渡」に特化した書籍です。なぜこのテーマで本を出そうと思われたのですか。日本には二つの大きな課題があります。一つ目

事業承継・引継ぎ補助金とは?中小企業庁が解説!

広報室だより
事業承継・引継ぎ補助金とは?中小企業庁が解説!

本記事では、事業承継・引継ぎ補助金の概要と、本補助金の制度運用を担う、中小企業庁財務課の高橋正樹課長補佐による解説(※)、最新の公募概要をご紹介します。※本記事は2021年6月30日に公開された内容を編集しています。役職等は取材当時の内容です。事業承継・引継ぎ補助金とは事業承継・引継ぎ補助金は、事業承継や事業再編、事業統合を促進し、日本経済の活性化を図ることを目的とした補助金です。具体的には、事業

「MBO・事業承継・成長戦略・書籍」に関連するM&Aニュース

日本創発グループ、キョーコロの全株式をアールエフへ譲渡

株式会社日本創発グループ(7814)は、持分法適用の非連結子会社である株式会社キョーコロ(東京都葛飾区)の全株式を、株式会社アールエフ(東京都葛飾区)へ譲渡することを決定し、株式譲渡契約を締結した。なお、本株式譲渡によりキョーコロは、日本創発グループの持分法適用の範囲より除外され、特定子会社ではなくなる。日本創発グループは、DTP大手の印刷会社。印刷事業をはじめITメディアを組み合わせたセールスプ

元旦ビューティ工業、MBOが成立

株式会社Sunny(神奈川県藤沢市)が2024年11月14日から実施していた、元旦ビューティ工業株式会社(5935)に対する公開買付け(TOB)が2024年12月25日をもって終了した。本公開買付けにおいては、応募株券等の総数(1,963,981株)が買付予定数の下限(902,200株)以上となったため成立している。また、元旦ビューティ工業は現在、東京証券取引所スタンダード市場に上場しているが、所

西本Wismettacホールディングス、MBOが成立

ワイエス商事株式会社(東京都中央区)が2024年11月12日から実施していた、西本Wismettacホールディングス株式会社(9260、以下:西本WismettacHD)に対する公開買付け(TOB)が2024年12月23日をもって終了した。本公開買付けにおいては、応募株券等の総数(8,878,987株)があり、買付予定数に上限及び下限を設定していないことから、その全てを取得することとなった。また、

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース