未払賃金-結構難しい、時効の問題

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今回は、法務室長・横井(弁護士)が、中小企業のM&Aで問題になることが多い未払賃金の問題を取り上げます。

未払賃金-結構難しい、時効の問題

法務・労務DD(デューデリジェンス)の結果、所定労働時間を大幅に超過する労働者の勤務実態や実体の無い管理職(いわゆる名ばかり管理職)の存在が発覚した場合、未払残業代の存在が疑われます。 その場合、対象会社は一体何年前に遡って未払賃金の支払義務を負わなければならないのでしょうか? 一見、条文を調べれば済むような問題ですが、意外と深い法律上の問題点が潜んでいます。

未払賃金請求権の時効は2年間、けれども・・・

未払賃金等の賃金請求権は2年(退職手当は5年)で時効にかかることが労働基準法第115条に規定されています。従って、法務・労務DDを行う場合、退職手当を除く未払賃金関係については過去2年分の調査を行えばいいというのが基本です。 しかし、条文に規定されているからと言って、それをそのまま鵜呑みにできるとは限りません。

不法行為認定されたら時効はもっと長い-広島高判平成19年9月4日

ある会社の広島営業所において、従業員の出退勤時刻の管理が全く行われておらず、時間外勤務時間は1日当たり平均約3時間30分に及ぶものと認定された事例で、2年以上前の未払賃金の請求が認容されました。 一体、どういう理屈で2年以上前の未払賃金の存在が認められたのでしょうか? 以下、判旨を抜粋します(一部当職により修正)。

「広島営業所においては、平成16年11月21日までは出勤簿に出退勤時刻が全く記載されておらず、管理者において従業員の時間外勤務時間を把握する方法はなかったが、時間外勤務は事実としては存在し、従業員の時間外勤務時間は1日当たり平均約3時間30分に及ぶものであった」/「先に認定した同営業所の業務実態からすると、同営業所の管理者は従業員に対し、時間外勤務を黙示的に命令していたものということができる」/「同営業所の管理者は、部下職員の勤務時間を把握し、時間外勤務については労働基準法所定の割増賃金請求手続を行わせるべき義務に違反したと認められる」。 従って、「平成15年7月15日から平成16年7月14日までの間における未払時間外勤務手当相当分を不法行為を原因として請求することができるというべきである」「会社側は、本件提訴が平成18年7月14日であることからすれば、労働基準法115条によって2年の消滅時効が完成している旨の主張をする。しかしながら、本件は、不法行為に基づく損害賠償請求であって、その成立要件、時効消滅期間も異なるから、その主張は失当である」。

まとめ

要するに、あまりにひどい会社側の労務管理状況は、もはや未払賃金の請求を超えて、会社による不法行為であり、従って、時効期間は損害及び加害者を知ったときから3年である(民法724条)というのが本判例の理屈です。 しかも、不法行為の時効期間は「損害」を「知ったとき」から起算されるので、本人が知らなければ理屈的には3年以上前の未払賃金の請求すら視野に入ってくるかもしれません。 未払賃金の問題は、単純に、「労働基準法第115条で時効は2年」と覚えておくだけだと、足をすくわれる可能性があります。 特に中小企業では、全く労務管理を行っていなかったり、必要な届出(36協定など)すら行っていない会社も存在します。こういった会社のM&Aにおいては、買い手サイドは労務リスクを適切に見積もっておくことが求められると言えます。

日本M&Aセンター 法務室長 弁護士 横井 伸

日本M&Aセンターの公認会計士・弁護士・税理士・司法書士

著者

M&A マガジン編集部

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