PMIの現場から ~M&Aを「成功」へと導くポイント~

竹林 信幸

日本PMIコンサルティング代表取締役社長

PMI
更新日:

⽬次

[非表示]

PMIを意識しよう

M&A成約式は新たな門出、スタートラインだというコラムが前回ありました。成約式が終わってほっとしたのもつかの間、次は具体的にPMIを実践していかなくてはなりません。 会社を買うときの動機として、「自力成長に頼っていては、競争に勝てず生き残ることも難しくなる。会社を買ってレバレッジ成長しよう!」…というのは経営者誰しもが考えていることです。 ただ重要なのは買収後、相手の会社との統合と成長を実現するために、何がポイントとなるのかを把握することです。 M&Aを実行するかどうかを判断する2大要素は、以下の通りです。

  • 戦略的整合性(相手企業が保有する経営資源が自社の成長戦略に寄与するかどうか)
  • 経済合理性(リスクを最小限に抑えて投資に対するリターンが得られるかどうか)

しかしM&A実行後、M&Aが成功する(=両社が持続的に発展していく)ためには、組織的な融合が不可欠であり、これはM&A後の実践行動に依存します。M&A後に対処すべきPMI業務は多岐にわたりますが、今日は2つのポイントについてご紹介します。

ポイント1:様子見は混乱のもと

M&A後、買い手から新しい経営者が派遣されてからも「組織や種々の制度、仕事のやり方は変えない」「人心が落ち着くまでは何もしない」というケースがほとんどです。一見、無用な混乱を起こさないための気遣いとして、当たり前のように聞えるかも知れません。 しかし、「これから私たちはどうなってしまうのだろう?」「仕事のやり方や暮らしはどう変わってしまうんだろう?」といった不安を抱えた売り手企業の従業員の立場からすると、どうでしょうか?「様子見アプローチ」は、これらの不安を増幅させることになり、場合によってはモチベーションの低下や生産性の低下を引き起こす可能性があります。 買い手企業は、DAY1(デイワン=新体制発足の1日目)に、「何を変えて、何を変えないか」を明確なメッセージとして発信し、変えることについては早期に手を打つことが、M&Aを成功に導くポイントの1つといえるでしょう。

図 譲渡企業の不安や心配を取り除く

ポイント2:円滑な異文化コミュニケーション

我々は普段、気心の知れた仲間たちと仕事をしています。通常業務の中で、価値観の共有や組織融合のためのコミュニケーションを訓練、習得する機会は、そうそうありません。「異文化コミュニケーション」という点では、M&Aで初めて体験する企業がほとんどといえるでしょう。 成功しているM&Aの多くは、買い手企業のビジョンや経営方針を繰り返し丁寧に発信し、相互に理解していくプロセスを、早期的かつ意図的につくり出しています。成り立ちや仕事のやり方が異なった集団が融合するための「異文化コミュニケーション」の重要さと困難さを知っているからです。

まとめ

業種や規模の大小を問わず、M&A後には以下のような業務や課題が必ず発生します。様子を見る前にまず手を打つことが、M&Aを「成約」から「成功」に導く秘訣です。PMIを円滑に行い、多くの企業にM&Aを成功させてほしいと思います。

<M&A後に発生する主なPMI業務>

  • 新体制による経営会議
  • カーブアウト(事業の切り出しによる譲渡)や対象会社のキーパーソンの引退による業務の引継ぎ
  • 決算の早期化
  • 経営管理資料の作成
  • KPI(重要な経営指標)の設計及び導入
  • 経営体制の整備
  • 将来事業計画(予算)の策定
  • 経営ビジョンの浸透
  • 対象会社社長に対する経営支援
  • PMIノウハウの文書化

PMI支援サービス

著者

竹林 信幸

竹林たけばやし 信幸のぶゆき

日本PMIコンサルティング代表取締役社長

国内外コンサルティング会社にて経営コンサルティング業務に従事。オペレーション改善、BPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)、M&A支援、企業再生、経営者向けのコーチングなど、豊富なコンサルティング経験を有する。 株式会社日本M&Aセンター入社後、2018年に日本PMIコンサルティング設立時に取締役就任、2020年4月より現職。中小企業庁 中小PMI促進戦略検討会 委員。

この記事に関連するタグ

「PMI」に関連するコラム

M&Aのロックアップ(キーマン条項)とは?気になる期間、注意点について解説

M&A実務
M&Aのロックアップ(キーマン条項)とは?気になる期間、注意点について解説

M&Aの成功には、買収後の事業運営をスムーズに移行させる仕組みづくりが欠かせません。そのなかでも重要な役割を果たすのが、「ロックアップ」という契約条件です。本記事では、ロックアップの具体的な内容や設定期間のポイント、売り手・買い手双方のメリット・デメリット、注意点について詳しく解説します。この記事のポイントロックアップは、売り手側の経営者含めたキーマンが、M&A後も一定期間会社に残る契約条件を指す

【広報誌「MAVITA」Vol.3より】M&Aを戦略の中心に置く成長企業の現在地

広報室だより
【広報誌「MAVITA」Vol.3より】M&Aを戦略の中心に置く成長企業の現在地

「世界一のエンタメ企業」をビジョンに掲げ躍進を続けるGENDA。推進力の中心にM&A戦略があります。その狙いとは?日本M&Aセンターが発刊する広報誌「MAVITA」Vol.3で掲載した、M&Aを戦略の柱に躍進を続けるエンターテイメント企業GENDAの申真衣社長と、サーチファンドの仕組みを利用して経営者となり、事業承継後2年目にして売上高を2倍に伸ばしGENDAにグループインしたアレスカンパニーの大

【連載】「伸びる企業の買収戦略」買収成功のロードマップ 『100日プラン』

【連載】「伸びる企業の買収戦略」買収成功のロードマップ 『100日プラン』

日本M&Aセンターの新刊書籍『伸びる企業の買収戦略―実録中堅・中小M&A成功事例の徹底解剖!』が発売されました(2023年9月13日ダイヤモンド社より発行)。中堅・中小企業向けに買収戦略の考え方や成功パターン、デューデリジェンスやPMIなどのポイント、複数社買収の効果や海外M&Aなどについて、豊富な実例を交えて解説した「譲受企業(買い手)」向けの実践的な入門書です。M&Aマガジンでは、全4回にわた

【連載】「伸びる企業の買収戦略」失敗するPMIの4つの落とし穴

【連載】「伸びる企業の買収戦略」失敗するPMIの4つの落とし穴

日本M&Aセンターの新刊書籍『伸びる企業の買収戦略―実録中堅・中小M&A成功事例の徹底解剖!』が発売されました(2023年9月13日ダイヤモンド社より発行)。中堅・中小企業向けに買収戦略の考え方や成功パターン、デューデリジェンスやPMIなどのポイント、複数社買収の効果や海外M&Aなどについて、豊富な実例を交えて解説した「譲受企業(買い手)」向けの実践的な入門書です。M&Aマガジンでは、全4回にわた

買収されるとどうなる?会社の存続や社員にもたらす変化とは

M&A全般
買収されるとどうなる?会社の存続や社員にもたらす変化とは

買収されるとどうなる?生じる変化とは会社が買収されると、会社の存続のほか、社員や取引先への影響が懸念されますが、中小企業のM&Aでは株式譲渡のスキームで、会社の法人格がそのまま存続するケースが一般的です。譲受け企業(買い手)の方針にもよりますが、会社の法人格だけでなく、事業用の機械設備、取引先、顧客、従業員などもそのまま引き継がれるケースが多く見られます。友好的買収がほとんどを占める中小企業のM&

シナジー効果を最大にするPMIは譲渡企業との丁寧なコミュニケーションから

広報室だより
シナジー効果を最大にするPMIは譲渡企業との丁寧なコミュニケーションから

譲受け企業の初動がシナジー効果創出のカギを握ります。日本M&AセンターHDのグループ会社日本PMIコンサルティングは、譲受け企業を対象にM&A後の経営、PMI(PostMergerIntegrationの略M&A後の統合プロセス)のポイントを学ぶセミナー「PMI1日研修会」を2022年12月20日に開催し、日本PMIコンサルティングの竹林信幸代表取締役がPMIの考え方や具体的なアクションを解説。6

「PMI」に関連する学ぶコンテンツ

コラム内検索

人気コラム

注目のタグ

最新のM&Aニュース