M&A成功に必要な戦略と中期経営計画
⽬次
- 1. M&A戦略による計画実現
- 1-1. M&A戦略の類型
- 2. M&A戦略の実現可能性の見極め
- 2-1. (1)市場社数分析
- 2-2. (2)相性分析
- 2-3. (3)譲渡可能性分析
- 2-4. (4)競合他社分析
- 3. 10年先を見据えた中期経営計画を
- 3-1. 著者
企業において、『中期経営計画』は極めて重要なものだ。「この企業を取り巻く環境は、どうなっているのか?」、「その環境を踏まえて、この企業を5年後にどのようにしたいのか?」、「在るべき姿にする為のアクションプランはどのようなものか?」を明確にするのが『中期経営計画』である。また、『中期経営計画』は、自社の成長にとって不足する経営資源を確認する役割も持つ。オーガニックな『自助努力』によって計画した成長を実現できればそれに越したことはないが、現在は「マクロ経済は低成長、かつ変化が激しい時代」であり、成長実現のために自助努力で時間を要したのでは、時代に取り残され敗者となってしまう。
M&A戦略による計画実現
そこで必要になるのが『M&A戦略』である。M&A検討の背景やM&A実施の目的を明確化し…といった立案の手順は西川のコラムで紹介した通りだ。そして数年後の在るべき姿になる為に必要な『新規サービスの開発』、『新しい市場への進出』などは、M&Aの買収戦略で確実に実現させる。一方、不採算部門や時代に遅れた部門に関してはM&Aの売却戦略で雇用を守りながら整理する、といった方針を立てていく。
M&A実施には相手が必要になる。能動的に相手を探す方法が「プロアクティブサーチ」だが、信頼できるM&A仲介会社・コンサルティング会社から相手を紹介してもらう「リアクティブアプローチ」が無効になったわけではない。自社にとってM&Aのターゲットになりうる先のイメージをM&A支援会社とあらかじめ共有しておく方がM&A戦略の可能性が広がる。その際、最低限①ターゲットとすべき業種、②エリア、③1件あたりの投資限度額、の3項目については明示しておきたい。そのための出発点は、自社に合ったM&A戦略に関する仮説を持ち、「こういう案件は積極的に進めたい」というアイデアを持っておくことだ。M&A戦略の類型と概要については、下の表を参照頂きたい。
M&A戦略の類型
①垂直統合型戦略(川上、川下戦略)
自社のビジネスの仕入先、販売先にあたるところを取り込む戦略。
②水平統合型戦略(エリア戦略、シェアアップ戦略)
同業を買収していく戦略であり、卸売業や小売業など規模の経済が効力を発揮する業界でよくみられる。
③本業補完型戦略(隣接業種進出型)
多角化戦略の一環。例えば、自動車販売会社が自動車整備工場を買収し、お客様の利便性向上を図る、ワンストップビジネスへの展開などを試みる場合が挙げられる。
④飛び地戦略(完全異業種参入型)
既存の顧客層、商品・サービス分野の何れとも異なる領域に進出する戦略。事業のリスク分散や企業規模を長期的に大きくしていく上で有効な方法である。
⑤Add On型戦略
A社がB社を買収した後、B社事業の成長を企図して行うB社を核とするM&Aを言う。M&A戦略の権限と責任を一定程度B社に委譲しつつ行うことが有効だ。
⑥ポートフォリオ最適化戦略(選択と集中)
ノンコアビジネスを切り離す戦略である。今一度、下図で、自社内のビジネスを見直して頂きたい。図によるところの「問題児」にある事業の判断が必要である。放置しておけば、「負け犬」となるが、「負け犬」確定前の方が有利な条件で売却できる。
M&A戦略の実現可能性の見極め
M&A戦略の立案自体は、精度を問わなければ難しくないかもしれないが、経営とは『実現させること』にその要がある。確実に実現させる為の「シナリオ」と「アクションプラン」が重要だ。実現可能性を見極めるためには下記の4つのポイントを見ていくと良い。
(1)市場社数分析
ターゲットとすべき企業数がどのくらい存在するか。企業数が多いほどM&Aが実行できる可能性は高まる。
(2)相性分析
ターゲット企業と自社に関して、事業内容、戦略面や企業文化の面でフィットしているかどうか。フィットしていなければM&Aの対象にはなりにくい。
(3)譲渡可能性分析
(1)・(2)を分析した後、そのターゲット企業について譲渡意思があるかどうか。例えば、ご子息が後継者として社内でバリバリ働いている場合、譲渡意思はない可能性が高い。
(4)競合他社分析
過去のM&A事例等もよく調べ、ターゲットとする事業の買収意欲の高い企業が他に存在するかどうかを確認する。他に買収意欲の強い企業が多ければ自社にとってのチャンスは少なくなってしまう。
これら4つのポイントは掛け算で、どれかひとつでもゼロに近ければ、掛け算の法則により、M&Aの実行可能性が低くなってしまう。最近では、M&A戦略立案の段階から当社が入るケースが非常に増えてきている。M&Aを専門に扱う当社だからこそ、「絵に描いたもち」ではない、実現性が高いM&A戦略の立案と実行、成約後のPMIまでサポートすることが可能だ。
10年先を見据えた中期経営計画を
これまで数多くの大企業を中心としたM&Aの支援を行ってきたが、最近のM&A戦略として「タイム イズ マネー(時間を買う)」という考え方がますます重視されている。 日本企業ではないが、象徴的なのがグーグルやアマゾンだろう。グーグルはスタートアップを買収し、新サービスと最先端の技術、優秀な人材を獲得して事業の範囲を拡大し続けている。アマゾンはM&A件数こそグーグルほどではないが、例えば倉庫ロボットを開発するkiva社買収は興味深い。これにより配送センター業務の大幅な自動化を行い、インターネット通販事業における物流面でのスピードと正確性を強化し、他社サービスに対する差別化強化を実現した。 昨年は「フォックス社の映画・TV事業をディズニー社が買収」という衝撃的な記事が日本経済新聞の一面を飾った。コンテンツ提供のプラットフォーム業界にとっては、シェアがとてつもなく重要である。フォックス社もそれを理解し、シェア拡大を急ぐため過去M&Aを繰り返してきたが、自社が思うシェアアップが成し遂げられず、事業承継問題もあってとった行動がディズニーの傘下になるという経営判断だった。 日本はまだまだM&Aの活用が遅れており、経済規模に対する企業数が非常に多いといわれている。また将来の人口減少が明らかな状況を鑑みれば、日本における企業数が減少していくことは目に見えている。2040年には、企業数が今の半数となるといわれることもあるが、今の経済スピードからするともっと早いかもしれない。そのような中で同業同士で価格競争を続けていると、共倒れになる可能性もある。世界のトップ企業の経営者の判断は極めてスピーディである。業種の壁を越え非常に早いスピードで成長する企業が出てきている中、外部資源を活用せず内部資源のみで成長し続けていては生き残ることはできない。10年後を見据え、中期経営計画でのM&A戦略の策定・実行は待ったなしといえるだろう。
Future vol.13
当記事は日本M&Aセンター広報誌「Future vol.13」に掲載されています。