願いが叶った!もうひとつの親族承継のかたち
⽬次
- 1. 経営におけるアクセルとブレーキ、どちらも踏んでしまう
- 2. 「本当は継いでほしい」その一言を話せない父の顔
- 3. 父の想い、娘の気持ち
- 4. “全ての選択肢を検討した”ということ
- 4-1. 著者
「親族承継の可能性80%、社員承継の可能性20%、M&Aによる第三者承継は限りなく0%」 これは、社長から事業承継プロフェッショナルミーティングの場で聞いた言葉です。
事業承継ナビゲーターでは、事業承継プロフェッショナルミーティング(略してプロミ)を、事業承継における各分野の専門家と数名の経営者を集めて開催されます。
その場で結論を出すのが目的ではなく、事業承継の全体像を把握し意見交換をすることが目的のプロミは、「親族承継、社員承継、M&Aによる第三者承継。現時点での優先順位とその理由を聞かせてもらえますか?」という質問からスタートします。 冒頭は、この質問に対するA社長の回答でした。 「自分がこれまでこだわってやってきた経営の方向性を引き継いでほしいから、今の会社がわかる人に引き継いでほしいんだ」 A社長は奥様とともに創業し、自他ともに認める地域密着の経営を実践してきました。 A社長の経営理念に共感して入社を決めた社員も多くいるそうです。
会社に込める熱意そのまま引き継ぐなら、顔の見える相手がよいと考えるのは普通のこと
経営におけるアクセルとブレーキ、どちらも踏んでしまう
「地域密着の経営を突き詰めると、どうしてももう一つやらなければならない事業がある。ただ、この事業を立ち上げると会社もさらに一段上の成長を目指さなければならなくなる」 お話を聞く限り、A社長はその新規事業にかなり魅力を感じているようでした。 しかし、そのアクセルを踏めずにいたのは、他でもない事業承継問題が頭をかすめたからだそうです。 「今から新規事業に取り組んで更なる成長を目指した場合、会社の規模もそれなりに大きくなるし、借入だって増える。親族や社員への承継は難しくなるかもしれない」
「本当は継いでほしい」その一言を話せない父の顔
A社長には娘さんが2人いらっしゃいました。長女は結婚しましたが、夫とともにA社長と同じ職種の仕事についていました。場所や会社こそ違えど、長女夫婦はA社長の会社についての理解は十分にあるそうです。 「長女夫婦はとても幸せそうに働いているので、なんとなく躊躇してしまって、実は一度も事業承継の話をしたことがない。正直、話の切り出し方もわからないのです」 プロミを通じて、家族と事業承継について話し合う場が必要だと考えたA社長。 事業承継ナビゲーターのサポートの下、家族ミーティングを行うことを決断しました。
家族だからこそ、あと伸ばしにしてしまう「会社の話」
父の想い、娘の気持ち
家族ミーティングは事業を承継するか否かの結論を出すことを目的としていますが、その前段階として会社のことを知ってもらい、事業承継の選択肢について知ってもらうことに重きを置いています。 A社長は家族ミーティングの場で、じっくりと会社経営に懸けてきた自分の想いと継いでほしいという意思を長女夫婦に伝えました。 長女夫婦もしっかりと聞き、今すぐこの場では結論が出せないということで持ち帰られました。 家族ミーティングから数日後、A社長は長女からこう言われたそうです。 『お父さんとお母さんが、地域に愛される会社を作ってきたこと、よくわかったし、誇りに思ってる。 でも、私たち夫婦は会社は継げません。今の場所を離れることはできません。 私たち夫婦はお父さんたちの意思を継いで、人に誇れる仕事を、今の場所で、頑張っていきます』 私が家族ミーティングのその後のフォローに伺った際、このように娘さんからの言葉を伝えてくれたA社長は、意外にもすっきりした顔をしていました。
“全ての選択肢を検討した”ということ
プロミの時にA社長が思っていた親族承継という希望は、娘さんの回答で0%になってしまいました。このことについて、私は率直にどう思うのか、聞きました。 「娘夫婦に私と妻が二人三脚で頑張ってきたことが、今回の家族ミーティングで十分に伝わりました。そして、娘たちもわかっていて『会社をどうするのか?』って心配だったんでしょうね。ここに気付けたことが最大の収穫でした。」 「プロミを受けて、もう一つ気付けたことがあります。これまで築いてきた地域密着経営を突き詰めながら、M&Aで会社の可能性を広げることも可能なのだと」 A社長のこの考えの転換には、私も驚きでした。 “長女夫妻に引き継がなければならない”という希望はA社長の中で凝り固まり、“継ぎやすい規模にとどめておかなくてはならない”という意識に変わり、会社の成長も止めていたようです。 「プロミでいろいろ学べたからね、事業承継の準備を進めながら、新しいことにも挑戦しようと思うよ」 今、A社長は以前から打診があった同じ地域の会社を譲り受けるという話を進めています。新事業への挑戦を始められたのです。“事業承継の全ての選択肢を検討した”ことで、ご自身の進むべき道がクリアになったのです。 この“納得感”が事業承継においては一番大事だと、私は考えます。
「事業承継、何からすればいいのかわからない」「事業承継について考えてはいるが具体的には何も行動していない」という方はぜひ一度、ご相談ください。
※当ミーティングは終了しました。