「事業承継のリアル」を学ぶ、若手公認会計士たち ~前半~
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2019/7/23、東京・八重洲において若手公認会計士たちが集った。事業承継を学ぶための青年部による開催だ。今業界で注目度が上がっている、事業承継コンサルティング業務。しかし、その全容を学ぶ機会、しかも現場を知っている経験者から学ぶ場は限られる。 そのような課題感から青年部が企画した本セッションには、事業承継業務を学びたいという若手の公認会計士たち20名ほどが集まった。
後半のQ&Aセッションでは、M&Aや事業承継コンサルなどスポットの仕事について、普段の顧問料以外にどうやって請求するのか、などの彼らにとっての「リアル」な質問も飛び出す、ホンネを語る場となった。
※本コラムは、日本公認会計士協会東京会青年部特別委員会が開催した、「事業承継のリアル」セッションをレポートするものです。
登壇者紹介
花島 宣勝 氏
公認会計士。事業承継・個人の財産承継を含めて考えないと、家族とうまくいかなかったりすることもある。それを含めてトータルでサポートする事業承継支援を行う。
増田 智彦 氏
弁護士。キリンビールでの勤務を経て、司法試験合格。事業再生や倒産、M&Aを扱う。M&A支援の場合は、公認会計士と組んで仕事をすることが非常に多い。事業承継は親族外への承継よりも、親族内承継の支援を行うことがほとんど。
羽田 寛芳
公認会計士。中央青山監査法人を経て、日本M&Aセンター入社。財務・会計・税務の専門家として事業承継M&Aを中心にサポートしており、2019年9月で同社でのアドバイザー歴は14年目。累計関与M&A案件数は1,000件超。
事例
オーナー社長55歳、妻、息子(35歳・社内勤務)、娘(社外)の事例。
花島:
社長がまず、何を求めているかを確認します。死ぬまで会社で働きたいと思っている人がほとんどなので、社長をやめる、会社を手放すということについてはほとんど考えたことがなく、現実的ではないという思いを持っている人が多いように思います。 こういう方々には、自分が辞めた後のことを5~10年かけて想定しておかなければいけないということをお話しします。ただ、話をするタイミングはものすごく難しいと感じます。 まずは社長の話をじっくり聞いて、今後に対する思いを共有します。 またヒアリングの中で財務的な内容を根本的に理解していない社長も多く、それを明らかにするための説明も必要になってきます。 どんな思いで仕事をしてきて、どんなタイミングで継がせて、将来どうしたいのか、これを数年かけて考えていくのですが、気をつけなければいけないのは個人としての借入金があるなど、会社と個人のお金が混在している場合です。事業のことだけを見ていてもダメで、個人ベースでの話もしなければなりません。実際、これが問題になったケースもありました。 会社と個人、両方の観点からみていくことが重要です。 息子については、継がせる場合は経験させる内容や承継プランを一緒に考えていくこともあります。どちらにしても、家族も巻き込んで年単位での実行プロセスが必要だということを理解してもらって、実際に進めていきます。 社員のフォローもします。社長にはついていくが、息子の代になったらついていかないというケースもあります。キーマンとの話をすることで、現場を見ている社員の様子も聞きながら進めます。
増田:
弁護士には、平穏な状態で相談が来ることはありません(笑)。 まずは税理士や公認会計士へ相談がするのが普通ですよね。信託や遺留分の固定、などの制度利用を求めて相談がくることはありますが、きわめて少ないのが現状です。 一番多いのは、ワンマン経営者が突然病気やケガで倒れてしまったパターン。だいたいのケースで、承継の時期を逸してしまっています。いい会社ならば、このタイミングでもM&Aにつながることはありますね。 また親族内の承継の場合でも、借入金に対する保証人の承継についての相談はあり、債務超過だと債務整理をして承継したり、といったことをお手伝いしています。 私の周りでは社長自らがM&Aを選択することはハードルがまだ高いようですが、株主間協定を結んだり、意に反したことが起こらないように対策をするケースはあります。
羽田:
いきなりM&Aをするというのは少なくなってきた気がします。先ほど花島先生がおっしゃったように、経営と財産、両方を見据えたものが事業承継ですから、会社も個人もトータルで考えていかなければいけません。 事業承継には4つの視点があって、それは「会社の成長性」「後継者の有無」「個人の財産」「個人の人生」です。当社では事業承継ナビゲーター(現 ネクストナビ)というグループ会社があって、「経営者ファミリー会議」を開くことを推奨しています。私たちのサポートがなくても自主的に開催できればよいのですが、そうもいかない経営者家族が多いようです。 ポイントは、(1)同族承継でも5~10年必要なこと、(2)M&Aであっても望ましいのは3年、(3)状況により選択肢を変える余裕、です。つまりは、スケジュール感に対する、家族との共通認識がものすごく大事なのです。
増田:
弁護士としては、M&Aにかかわり始める局面はトップ面談くらいからです。DDまでに資料を読んで、当日立ち会います。株式譲渡の場合は株の状態がきちんとしているか、株式価値はなぜその金額たりうるのか、さらにはCOCのチェックなどが主な業務です。 すなわち、M&A後、その株式価値をキープできる状態なのかを見る、ということです。昨今では、労働債務がないかなど、見えない債務の確認が一番のポイントになってきていますので、公認会計士の先生方とも綿密に打ち合わせてチェックを行っています。
花島:
M&Aの話になると、「クライアントがいなくなる」というマイナスなイメージを思ってしまう方も業界にはいらっしゃるかもしれませんが、後継者がいないことは事実で、さらに増加しています。しかも、「企業の成長」という面からみると、残念ながら親族内承継では望めないことがほとんどです。したがって、M&Aを選択された経営者が手に入れた数十億円のM&A資産(個人資産)を、どう運用しどう後世に引き継ぐか、という問題に対して顧問としてアドバイスしていくことが重要になってくるのではないでしょうか。 ちなみに、55歳という年齢については、私の周りではかなり若い印象です。遺言を作って、60歳になったときにどうするかを考えましょうというアドバイスをするくらいですかね。
増田:
疲れたから早く引き継いで引退したい、借入金がある、などの場合は55歳と若くても承継のニーズはあります。1年前のケースをご紹介します。最終的にはM&Aで承継が実現したのですが、買い手も大きかったので債務も全部引き継いでもらいました。スキーム的には、債務超過だったのでプレパッケージ型民事再生を使いました。今となっては結構珍しいですよね。
羽田:
僕の印象はお二人と全く違います。55歳の引退、M&Aのご相談ではかなり来ていますし、増えている印象です。先日も北海道で建設業をしている経営者のご相談を受けましたが、52歳でした。最近では、個人での限界を感じ会社の更なる成長のためにM&Aを検討するケースやまだ働き盛りの経営者の方がご病気などで倒れてしまうケースも多く、珍しくありません。
増田:
事業承継の入り口で接することは少ないのですが、破産になってしまったケースがあって、今でももっとほかに道があったんじゃないかと思うことがあります。 社長がいきなり倒れて半身不随になってしまったんですが、番頭さんもおらず、社長がいなくなったことで事業が立ち行かなくなりました。破産手続きでも95%配当できたので、本来はもっとほかに道があったんではないかと思います。普段から身近な公認会計士の先生方には、もし社長自身が倒れたときに頼る人をどうすればよいか、など具体的なアドバイスをしておいてもらいたいなと思います。 ありがとうございました。後半はQ&Aセッションとなります。