テストでは測れない“生きる力”を育てる、限界集落の挑戦
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日本M&Aセンターは2018年9月に高知県と提携しました。 今回インタビューしたのは、高知県土佐町という人口4000人の町で教育支援などを行うNPO法人SOMAの代表理事 瀬戸昌宣さんと、副代表理事 大辻雄介さん。 お二人とも県外出身で土佐町とは縁もゆかりもないとのことですが、なぜ土佐町に移住し、何を目指しているのかお伺いしました。
ニューヨークから4,000人の町に移住
―ニューヨークのコーネル大学で10年間、農業昆虫学の研究と教育に携わっていた瀬戸昌宣さん。世界最高峰の大学から、なぜ土佐町に来たのですか?
(写真左から)代表理事の瀬戸昌宣さんと、副代表理事の大辻雄介さん
瀬戸:アメリカにいるとき、研究に打ち込む傍ら、現地の学校で出張授業をするなど学びの場を整えることにも関心を持っていました。 自分でも学びたいと思う教育環境について考えた時、旧来の日本型の画一的な教育だけでは違うと思ったんです。 もっと少ない人数、18歳以下の子供が400人くらいの場所で、彼らの学びにじっくり寄り添ったら、おもしろいことが起こるんじゃないか。つまり、毎年20人くらいのこどもが生まれる人口4000人規模の自治体がちょうどよいと考えていたときに、土佐町の教育人材の募集告知を見つけました。 この規模の自治体で教育に力を入れようというところはそう多くありませんから、こんなチャンスはめったにないですよね。すぐに応募しました。 町役場の当時の総務企画課課長がとても特徴的なアイデアマンで、この人とともに働きたいと思い移住を決めました。その後土佐町役場の総務企画課で1年3か月働き、独立してNPO法人SOMAを立ち上げることにしました。
― 4000人の自治体というのはかなり具体的な条件ですね。都市部の人口が多いところで教育に携わることは考えなかったのでしょうか。 瀬戸:4000という数字にはこだわりがあります。 人数が多すぎると顔と名前がわからなくなり、画一的な教育になりがちです。少なすぎても学校や自治体自体の存続が危ぶまれます。 勉強のできる子は、ある枠組みの中では非常に優秀ですが、官僚的に優秀な人だけを育成したいわけではありません。発想の柔軟さや 感受性を刺激し、将来の選択肢を増やしながら、独自の価値観や生き方を体現してほしいと思っています。
病院より学校の有無のほうが、移住の決定要素になる
―NPO法人SOMAは具体的にはどういう活動をされているのですか。
大辻さん(左)は、SOMAに参加する前は、ベネッセで遠隔授業事業をたちあげたのち、
島根県の隠岐島前高校でICT教育ディレクターとして高校の「魅力化」に取り組んでいたそう。
大辻:土佐町にある高知県立嶺北高等学校の「魅力化プロジェクト」を推進しています。 公立高校は全国に現在3600校ありますが、1年間に60校も統廃合されています。 「魅力化」は、特に統廃合が進む離島中山間地域などで、その地域・学校でなければ学べないような独自のカリキュラムをつくり、生徒が集まる魅力ある学校にする取り組みです。 病院と学校の有無が与える影響を調べた北陸大学藤岡慎二教授の研究によれば、学校がないほうが、病院がない場合に比べてUターン率が10%も下がるそうです。移住者は若い世代なので当然かもしれませんが、それだけ学校を魅力化し人を増やすことは重要なのです。 魅力化についてはまだスタートしたばかりで来年度以降本格化していく予定ですが、早くも成果が出てきていて、来年度嶺北高校には県外から11人も入学することが決まりました。
瀬戸:ほかには、農協の直売所を改修してつくったコワーキング・コスタディスペース「あこ」を拠点に、学びの場を提供しています。
あこは、入ってきた人が自由に使える空間です。地域の人が仕事をしていたり、子供が勝手に宿題をしに来たりしていて、コミュニケーションが生まれます。 地元の年配の方が中を覗かれて、「ここは何?」と聞かれることもありますが、「なんでもしていい場所です!」と答えています(笑)。 様々な分野の専門家やスポーツ選手を招いて講演会を開くこともあり、中学生~80代まで幅広い層が参加してくれます。 3世代に同時にリーチすると、子供がなにか刺激を受けてチャレンジしたいと思った時に、親もその上の世代も賛成してくれて挑戦しやすい環境が整いやすい。これは4000人の町だからこそできることですね。
入ってきた人が自由に使える「あこ」は、“なんでもしていい場所”
ラブストーリー仕立てのPR動画で、大人がお膳立てしない成功体験を
小中学校の総合学習の支援については、メディアにも多数とりあげられています。 土佐町総務課勤務時代の上司が今は土佐町の教育長を務めているため、タッグを組ませていただき新たな取り組みを積極的に採りいれてもらっています。 どういう授業をしているかというと、例えば中学3年生の総合学習では、町のPR動画をつくってもらいました。 自治体のPR動画というと綺麗な自然・風景を映しがちですが、美しい自然は日本に数多くあり差別化要素にはなりません。土佐町にしかないものは何か、置換できない価値は果たして何か。 生徒たちで何時間もかけて議論した結果、「ここにしかない価値は、この土地に生まれ育った自分たちだ」という結論に至り、生徒たち自身が出演してラブストーリー仕立てのPR動画をつくりました。花火大会や川遊びなど土佐町の美しい風景を織り交ぜながら、転校生の女の子に一目ぼれした男子生徒の心を描く動画です。
大人がお膳立てしない成功体験をしてもらうため、企画・制作・広報まで中学生自身でやり、結果的には四国コンテンツ映像フェスタ2018のプロ/一般部門で特別賞・審査員特別賞を受賞することができました。映像にはそれなりにお金がかかってしまったので、「町のPRに使ってください!」と言って、町長に買ってもらいました(笑) 活動内容はいろいろとありますが、実は「何をするか、していくか」はそんなに重要視していません。 現状把握を的確にして、今、ここにある土佐町住民のマインドセットの半歩先を常に提供できるように心がけています。大事なのは目の前にいる“あなた”に何を届けたいかなので。
予想できない未来を見たい
―活動内容を “あえて決めない”というのはめずらしいですね。 瀬戸:何かを決めるまでは一生懸命考えていたとしても、決定した瞬間、人は考えるのをやめてしまうんですよ。目的がはっきりするのはよいことかもしれませんが、思考が怠けるリスクがあるので、あえて“決めない”ことを選択しています。 人の成長は線形で右肩上がりになるのではなく、指数関数的なものです。 未来がどうなるかまったく予想できないほうが面白いですからね。ここでの取り組みは、環境さえ整えれば、予測不可能な形で展開していく可能性を秘めていると思います。 自分では予想できないことをする人たちがどんどん増えて、その人たちが掛け合わさるとこんな世の中になるんだ、というのを見てみたいです。
「あこ」は、地域のひとが気軽に入ってこられるようオープンなつくりになっている。
「株式会社嶺北高校」で起業を経験!
―今後の展開について考えられていることはありますか。 大辻:「株式会社嶺北高校」をつくり、学生たちが起業し実際にビジネスをして3年間で結果を出す、という仕組みをつくろうとしています。 嶺北高校には農業コースと商業コースがあり、ちょうど商品開発と営業がいるようなもの。 起業は大半の人が経験したことがないので難しいことだと捉えられがちですが、経験してみればさほど難しくないと気づき、将来事業を始める人が出てくる可能性があります。 起業しないとしても、日本の就職活動は、アルバイトくらいしか社会経験のない学生が就職先を決めなければなりませんから、高校生のうちに生きたビジネスを体感することは必ず役に立つはずです。 特に地方はフリースクールなどが少なく学校以外の選択肢が少ないのですが、学校に行くとか行かないとか関係なく、子供たちが自由に何でもやってみることができる状態をつくれたらと思います。 今の世の中は、検索するとすぐに正解が出てきます。だから、こういう活動を通じて、“探索型”の子供を育てたいです。 瀬戸:自分たちの活動によって、必ずしも若い人が土佐町に根付く必要はないと思っています。 しかし、地元を本質的に知りありのままを愛することや、地域に貢献したいという姿勢・心持ちを、教育の力で醸成することはできると思います。そうすることで、彼らの心に土佐町という足場が確固として形作られ、ぞれぞれが胸を張り、勇気をもって“わたしの未来”へと歩んでいけると思います。 私たちが求めるのは、数字だけで測れる成果ではありません。 一番大事なのは一人ひとりが自らの「価値」を形作れるようになること。土佐町というエコシステムで今まで見たこともないような化学反応を見れたら嬉しいです。
―ありがとうございました。 NPO法人SOMAは現在、8名のメンバーと5名のアルバイトで活動しているそうです。8名のうち高知県内出身者は1名のみ!瀬戸さんの考えや、SOMAの活動の意義に心を動かされ、全国から次々に人が集まってきているのだと感じました。 日本M&Aセンターでは、これからも「高知県」「地方創生」についての情報発信をしていきます!お楽しみに。
日本M&Aセンターと高知県の提携については詳しくはこちら! 「自治体との連携協定ってどんなことをするの?」
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