【IT業界M&A事例】M&Aによって総合交通インフラサービスへ
⽬次
- 1. 譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由
- 1-1. 導入施設の急拡大
- 1-2. 新規事業への想い
- 2. 譲受企業様の概要とM&Aの検討理由
- 2-1. ヴァル研究所とは?
- 2-2. 経営方針の転換
- 3. 本件M&Aで重要となったポイント
- 3-1. 著者
【譲渡企業様】
・企業名⇒株式会社VISH
・業種⇒受託開発ソフトウェア
・売上(M&A当時)⇒約5億円
・オーナー様のご年齢⇒40歳
【譲受企業様】
・企業名⇒株式会社ヴァル研究所
・業種⇒受託開発ソフトウェア
・売上(M&A当時)⇒約20億円
・オーナー様のご年齢⇒51歳
譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由
受託開発の会社として創業し自社サービス提供会社へ
譲渡企業のVISH株式会社は2004年に設立された会社です。創業当時は請負開発案件が中心でしたが、労働集約型のビジネスに限界を感じ、その後自社サービスの開発に着手していきます。
そして2011年頃、バスの位置情報管理(バスロケーションサービス)を特徴とする、業務管理システムであるバスキャッチをリリースします。ターゲット顧客は幼稚園、スイミングスクール、自動車教習所など、主にバスの送迎を行う施設です。
このバスキャッチはクラウド型のSaaSサービスであり、従来までのオンプレミス型のサービスと比較し、機能面・価格面で圧倒的な優位性を持っていたため、導入施設が急拡大していくこととなります。
導入施設の急拡大
2011年のバスキャッチのリリース後、導入施設数は順調に増加しており、2017年にM&Aの検討をした当時、導入施設数が1,000件超という状況でした。
このバスキャッチは平均すると月額約4万円のサービスです。つまり、1,000件の導入があるということは毎月4,000万円、年間で約5億円の確実な売上が見込まれることになります。
このように、会社は順調に成長している状況でしたが、急増するお客様からの問い合わせに対して営業人員が不足して対応しきれないという課題も抱えていました。創業者の藤井社長(当時)も営業に奔走する日々が続いていました。
新規事業への想い
藤井社長がM&Aを検討した当時、既に会社は何もせずとも拡大をしていくという状況にありました。一方で、藤井社長の中で、全く別の新規事業の立案に挑戦したいという想いも同時に芽生えつつありました。
最終的に、現在の会社とは全く別の領域で新しいことに挑戦する、という理由でM&Aを決断するに至りました。
藤井社長のように、若手の経営者が新しいことに挑戦するために会社を譲渡(イグジット)する事例は昨今非常に増えています。
譲受企業様の概要とM&Aの検討理由
ヴァル研究所とは?
ヴァル研究所は1976年に設立された老舗のソフトウェアハウスです。“駅すぱあと”というサービス名の方が有名かもしれません。
駅すぱあとはヴァル研究所の主力サービスであり、日本で最初に開発・販売された、公共交通機関(鉄道)の乗り換え案内ソフトです。
経営方針の転換
この有力な自社製品があるため安定的な成長を続けていましたが、2015年に代表が変わり(当時の太田元社長)、ベンチャー企業への出資やM&Aの検討など、攻めの経営も志向するようになっていました。
具体的には、位置情報管理のシステムのレッドフォックス社への出資(2017年1月)や、位置情報を活用したアドテクノロジーのジオロジック社への出資(2017年3月)などを行っていました。
###MaaSサービス企業へ
昨今、地方の過疎化や都心部への人口一極集中によって、公共交通の在り方も変化しています。ヴァル研究所もまた、社会の変化に対応できるよう、自社サービスを進化させる必要があると考えていました。
具体的には複合乗り換え案内サービスです。鉄道だけではなく、シェアサイクルや、公共バスなど、様々な交通手段を網羅し最適な移動手段を案内してくれるサービス。
そんなサービスの実現に向け、積極的に資本業務提携を検討していたのが当時の状況でした。
本件M&Aで重要となったポイント
両社は鉄道、バス、タクシー、自転車(シェアライド)等々を含めた総合交通情報インフラサービスを提供することを目指しています。
その第一歩として、鉄道とバスの情報インフラ技術の融合が実現しました。このように、自社に無かった技術をM&Aで相互補完するというのはM&Aでは一般的です。
今後両社がどのような成長を遂げて行くのか注目が集まります。