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【IT業界M&A事例】「家族にも社員にも会社を継がせない」という社長の決断

瀬谷 祐介

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

業界別M&A
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【譲渡企業様】 ・企業名⇒株式会社コンピューターシステムハウス ・業種⇒受託開発ソフトウェア業 ・売上(M&A当時)⇒161百万円 ・オーナー様のご年齢⇒66歳(2018年当時)

【譲受企業様】 ・企業名⇒インフォニック株式会社 ・業種⇒受託開発ソフトウェア業 ・売上(M&A当時)⇒1,053百万円 ・オーナー様のご年齢⇒54歳(2018年当時)

譲渡企業様の概要とM&Aの検討理由

自己資本比率96%の健全な財務体質

譲渡オーナーの藪内 利明様は、新卒で日本オリベッティ株式会社に入社し、営業・SEを経て、29歳のときに福島県郡山市で株式会社コンピューターシステムハウス(以下、CSH)を1981年に設立しました。

大企業との取引は少ないものの、中小・中堅企業のお客様向けを中心に500社以上へ基幹系システムの開発を提供してきた実績を持ち、信頼度の高さから仕事には困りませんでした。

譲渡されるまでの38年間で1期を除きずっと黒字かつ無借金経営を続け、自己資本比率は脅威の96%に達していました。経営基盤には何の問題もなかったCSHも創業40年近くになり、承継問題が発生します。

社長職は世襲しない

薮内様はCSH設立時から社長は息子と娘には引き継がないと決めていました。「人からもらった人生なんて、ろくでもないからね」と薮内様。 そこでまず、社員に社長になりたいか聞いて回ることにしました。

しかし、長年の好業績で高くなった株価を買い取り、オーナー社長になるためには多額の資金が必要で、一社員が賄える金額ではありません。このとき、別の会社に会社を引き継いでもらおうとM&Aでの譲渡を考え始めました。

『そろそろ引退しろ』という神様からのお告げ

もう一つM&Aを考えることとなった出来事があります。 学生時代は1年のうち364日野球の練習をしており体力に自信のあった薮内様も、2017年突如疲労で倒れ、入院を余儀なくされてしまいました。

65歳で初めて入院を経験し、「俺、神様なんて信じないんだけど、神様から『薮内、そろそろ経営をやめろ』って言われたような気がしたんです。」と当時を振り返ります。

病気か事故かにかかわらず、いつまで元気でいられるか分からない、とM&Aを後押しする出来事となりました。

譲受企業様の概要とM&Aの検討理由

3件目のM&Aを実施

譲り受け企業であるインフォニック株式会社(以下、インフォニック)は株式会社富士銀行(現:株式会社みずほ銀行)出身の菊地 宏様によって2005年に京都で設立されました。

M&Aを成長戦略の一つを位置づけており、2014年に東京での開発強化のためにコムネックスの株式を、2016年には動画配信のプラットフォームを持つネクプロの株式を譲り受けました。 今回のCSHは3件目のM&Aであり、現在は国内4社、海外1社で事業展開しています。

特定の大企業の案件が売上の大部分を占める

インフォニックは、大手のユーザー企業や大手SIerに対し、主に業務システム開発とネットワーク基盤構築の開発を手掛け、特定の大企業との継続的な取引が売上の多くを占めていました。 特定業務向けのシステム開発を中心に行っているため、ノウハウの拡大が図れず、新しい技術を取り入れる力はありましたが、同様種の企業への横展開は多くないという状況でした。

収益性の課題

元々エンジニア派遣(SES)という自社内に開発ノウハウが貯まりにくい事業から、インフォニックはスタートしました。 現在では受託開発の割合が過半を占めるようになりましたが、特定のクライアントからの仕事が多く、売上は安定する一方で、新たな領域の開発や新規顧客との取引に踏み込めていませんでした。

特定の会社と長年取引をしていると、相手企業の予算や収益性も分かるようになってきて、これ以上の見積もりは通らないだろうというのも分かってくるようになり、収益率が上がらないという課題を抱えていました。

本件M&Aで重要となったポイント

異なる得意分野

CSHとインフォニックは、同じIT企業でも扱っている分野が違います。 CSHが中小・中堅企業向けの基幹システムを長年自社内で開発しているのに対して、インフォニックは大手企業向けのWeb系開発をエンジニア派遣型で行ってきていました。

また、福島を拠点とし関東圏のクライアントが多いCSHと京都・大阪を主にしているインフォニックでは事業エリアも異なります。 クライアントの規模・エリアも、開発スタイルも異なる両社でしたが、M&A後、それぞれの持つ技術と業務ノウハウを融合させることで、大きな相乗効果が生まれることが期待できました。

提示価格が一番低かったインフォニック

CSHは日本M&Aセンターより数社の譲り受け候補企業の紹介を受けました。

各社とトップ面談を行い、中には「CSHを4倍の規模に成長させたい」という提案もありましたが、薮内様はそのようなことは望んでいませんでした。 そんな中、インフォニック菊池様と面談された際に、菊池様に対し、まじめで向上心が強く、いばらないタイプの経営者だと相性の良さを感じました。

実は、面談した企業の中で、インフォニックの提示した金額は一番低かったのです。 しかし、会社の成長ではなく、事業承継として長く継続していくためのM&Aでしたので、後継となる経営者の能力や人柄、資質を重視し、薮内様はインフォニックと一緒になることを決断されました。

会社の力があるうちにM&Aを実施

薮内様は、「経営が弱体化してお金がなくなってから譲渡してもうまくはいきませんよ」と譲渡を考えられているオーナーへアドバイスを送ります。 親会社のパワーを「1」、経営が弱体化した譲渡側の会社を「-1」とすると、M&A後の両社のパワーは「0」になってしまいます。

でも譲渡側の企業に「1」のパワーが残っていれば、「1+1=2」になります。M&Aにも“旬”があって、CSHに体力があったからこそ納得して相手探しをできたと薮内様は振り返ります。

M&Aから1年後の今

薮内様は現在も取締役会長としてCSHの経営に関与するだけでなく、インフォニックグループ全体の改革提案も行っています。 会社の規模としてはCSHの数倍もあるインフォニックですが、決して上に立つわけではなく、むしろ菊池様の方が薮内様に経営者としての能力を学ばせて欲しい、という対等な関係ができています。

事業面でもインフォニックは課題であった収益性に関してCSHの開発効率の良さやコンポーネント化にならい、着実に改善をしております。 今後もこのように、お互いの得意分野の技術やノウハウを活かして更なる成長が期待されています。

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著者

瀬谷 祐介

瀬谷せや祐介ゆうすけ

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

外資系金融機関を経て、日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げメンバーであり、2012年から、調剤薬局業界・IT業界を中心に、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として70件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。顧客満足度評価は、日本M&Aセンターのコンサルタント約500名中1位。

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