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独立系大手SIer・TISのM&Aの歴史

瀬谷 祐介

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

業界別M&A
更新日:

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IT業界とは?

IT業界の定義

みなさんはIT業界というものを明確に定義できますでしょうか?なんとなくは説明できても一言で言い表すことは難しいのではないでしょうか。
それは、IT業界の指す範囲が広いためです。総務省・経済産業省では、IT業界(情報サービス業)を次の8つに細分化しています。

  • 受託ソフトウェア業
  • 組込みソフトウェア業
  • パッケージソフト業
  • ゲームソフトウェア業
  • 情報処理サービス業
  • 情報提供サービス業
  • 市場調査・世論調査・社会調査業
  • その他の情報サービス業

みなさんの思い浮かべるIT企業もいずれかに分類できるはずです。
今回のコラムは、上の8つの分類の中でも一番市場規模の大きい受託開発ソフトウェア業に着目していきたいと思います。

(出典)総務省・経済産業省「平成30年情報通信業基本調査」
受託開発ソフトウェア業は総務省・経済産業省の調査によると、2017年度の日本での市場規模は約8兆円であり、IT業界の8分類中で一番大きな比率を誇ります。
受託開発ソフトウェア業の企業はSIer(システムインテグレーター)と呼ばれ、設立の経緯から大きくメーカー系、ユーザー系、独立系に分かれます。

メーカー系SIer◆

コンピューターなどのハードウェアを製造している企業のソフトウェア部門が子会社化もしくは独立してできた会社
例:日立ソリューションズ、富士通マーケティング、三菱電機インフォメーションテクノロジーなど

ユーザー系SIer◆

企業のシステム部門が分離・独立してできた会社
例:野村総合研究所、SCSK、新日鉄住金ソリューションズなど

独立系SIer◆

特定の親会社をもたない会社
例:TIS、大塚商会、富士ソフトなど

次章では本コラムの主題である独立系SIerとして最大手のTISがどのようにして会社を拡大してきたのかを説明いたします。

日本屈指の老舗IT企業

TISの源流

売上4,000億円を超え、独立系SIerとして最大手のTISですが、その源流をたどると株式会社東洋情報システムと株式会社富山計算センターの2社にたどり着きます。

東洋情報システムは1971年に三和銀行(現:三菱UFJ銀行)を中心とした企業グループが共同出資し設立されました。金融系の開発を中心に事業を拡大し、2001年に社名を「TIS株式会社」に変更します。

富山計算センターは1964年に高価な汎用大型コンピュータを企業や公共団体が共同で利用する目的で設立されました。設立後、日本全国の計算事務や帳票納品のニーズに応えるため、日本各地に事務所を開設し、1970年に社名を「株式会社インテック」に変更します。

ITホールディングスの誕生

2007年、TIS株式会社と株式会社インテックホールディングスは経営統合を発表し、翌年共同持株会社「ITホールディングス株式会社」を設立します。

TIS株に対し、インテックホールディングス0.79株の統合比率で、両社の株式をITホールディングスに移転するというスキームでした。それに伴い、TISとインテックホールディングスは上場廃止し、ITホールディングスが新たに東証1部に上場しました。

この経営統合により、当時で従業員数は1万5,000人、売上高は3,200億円を超えて独立系としては最大手のSIerが誕生しました。

新生TISがスタート

2008年の経営統合によりTISとインテックホールディングスを傘下にしたITホールディングスは、2016年にITホールディングスを合併存続会社、TISを合併消滅会社とする吸収合併を実施。その後、ITホールディングスの商号をTIS株式会社に変更し、新生TISが誕生しました。

そのため、インテックホールディングスを含めその他のITホールディングス傘下の企業も新生TIS傘下の子会社となりました。

M&Aによる事業領域の拡大

TISインテックグループの主要5社

現在TISは、連結子会社45社を抱えていますが、その中核となる5社でグループ全体の売上の85%を占めています。面白いことに実は、その5社すべてにM&Aが関係しています。

TIS、インテックが経営統合、吸収合併を経て現在の体制になったのは前述の通りですので、残りの主要3社(株式会社アグレックス、クオリカ株式会社、AJS株式会社)のM&Aについて触れていきます。

M&Aに積極的な子会社3社

TISの主要子会社であるアグレックス、クオリカ、AJSは子会社化以降もM&Aを実施し、自社の子会社(TISの孫会社)を獲得しています。

特にアグレックスはITホールディングス(現:TIS)の完全子会社となった2015年に興伸とマイクロメイツを買収し、2019年には、買収して4年の興伸と2010年に設立したACメディカルを売却しています。主力のBPO事業を成長させるために積極的にM&Aを活用しているのがうかがえます。

クオリカは現在、株式の80%をTIS、20%をコマツが保有しています。もともとコマツの情報システム子会社として設立された経緯があり、製造業向けの開発に強みがあります。
2018年にIoT事業を強化するためGPS関連システムと通信機器開発に強い埼玉県のデータトロンを買収、2019年に吸収合併しています。こちらも明確な目的、戦略のもとM&Aを実行しています。

AJSは株式の51%をTIS、49%を旭化成が保有しています。ご想像の通り、旭化成の情報システム子会社を2005年にTISが買収しました。

2010年にCAD・CAMシステム開発の旭化成AGMSを買収、2011年に子会社AJSソフトウエアを吸収合併、2013年に子会社AGMの株式をYIN JAPANに売却し、放射線部門システム事業をインフォコムに事業譲渡と、こちらも積極的に事業の選択と集中を行っています。

今後のM&A戦略

これまで買収や合併などを繰り返して成長してきたTISですが、ここ数年はASEANの企業やベンチャー企業への出資に積極的です。2019年の上半期だけでもTISグループで9件の出資を実行しています。

中期経営計画(2018-2020)でも「先行投資型への転換」「グローバル事業の拡大」を基本方針として発表しているので、今後もどのような企業と連携して成長していくのか非常に楽しみな企業です。



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著者

瀬谷 祐介

瀬谷せや祐介ゆうすけ

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

外資系金融機関を経て、日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げメンバーであり、2012年から、調剤薬局業界・IT業界を中心に、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として70件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。顧客満足度評価は、日本M&Aセンターのコンサルタント約500名中1位。

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