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『積極的なM&Aにより広告代理店という枠組を超え総合IT企業へ成長する』株式会社電通

瀬谷 祐介

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

業界別M&A
更新日:

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電通概要

電通について

株式会社電通は連結売上高ベースで世界第5位、日本国内では第1位の規模を誇る広告代理店です。
従来より主要4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)を中心に、各種広告媒体のスペースを媒体企業から仕入れ、広告主(ユーザー企業)に販売するというビジネスを展開しています。

また昨今では、インターネットを始めとするデジタル広告(デジタルマーケティング)や海外という新しい事業領域にも積極的な展開を行っており、世界的な広告エージェンシーへと急成長を遂げている企業です。

国内の競争環境

日本の広告業界では電通が首位、2位が博報堂DYホールディングス(博報堂DY)、3位がアサツー ディ・ケイ(ADK)ですが、電通の規模は競合に追随を許さず、国内2位の博報堂の約4倍であり、実質的に国内1強体制という構造になりつつあります。

(出典:各社有価証券報告書・アサツーディ・ケイのみFY2017)
国内4番手はJR東日本企画で売上115,981百万円、5番手は東急エージェンシーで売上104,686百万円となっており、売上規模で電通の約2%程度という水準です。

広告代理店から総合ITソリューション企業へ

電通は2018年度において、国内情報サービス業への研究開発費として11億34百万円を投じており、その内容は以下の通りです。

  • 金融ソリューション:メディア企業向けライブコマースに関するソリューションに関する調査研究
  • ビジネスソリューション:エンタープライズアプリケーション(ERP)に関するソリューションに関する調査研究
  • エンジニアリングソリューション:自動運転、スマートファクトリー領域のソリューションに関する調査研究
  • コミュニケーションIT:RPAソリューション、Salesforceに関する調査研究
  • その他:ロボットプラットフォーム、運動能力測定システム、AI・機械学習、Microsoft Azureに関する技術調査

(出典:株式会社電通 2018年12月期 有価証券報告書)

背景にはインターネット広告市場の成長と、それに伴うデジタルマーケティング需要の増加、主要4媒体の縮小が挙げられます。

従来型の広告代理店は事業ドメインをデジタル領域にシフトすることを迫られており、電通も例外ではありません。

昨今のデジタル技術の向上に伴い、消費者へのマーケティングにおいては即時性とカスタマイズ性が求められつつあります。

電通はこれらのニーズに対応すべく自前での新しい技術への投資に加え、M&Aも積極的に行っています(後述)。


(出典:電通“日本の広告費”)

積極的な海外展開

(出典:有価証券報告書 FY2015は決算期変更のためLTM換算)
電通は海外事業への投資を非常に積極的に行っています。
上記グラフを見てもわかる通り、国内売上は4年間で500億円の売上増に留まっていますが、海外事業は4年間で3,000億円の売上増を達成しており、国内事業とは桁違いの成長を遂げています。

また現在は145以上の国と地域でサービスを展開しており、海外比率も60%を超えていることなどから、目線は既に海外を見据えているものと考えられます。

具体的には、電通を含めた世界5大広告ネットワーク(通称「Big 5」)が垂直型の代理店網を形成しており、この競争に勝っていくことが電通の目下の目標であり、積極的な海外企業へのM&Aの要因となっています(後述)。


(出典:SPEEDA)

電通のM&A戦略について

電通のM&A実績

電通は非常にM&Aに積極的な企業です。

(出典:レコフデータ)
上記は過去3年間(2016年~2018年)の買収件数(議決権を50%以上取得し子会社化した件数)の国内企業の件数一覧ですが、電通の件数が飛び抜けて多いことがわかります。

では、実際に電通はどのようなM&Aをしているのでしょうか。大まかに分類すると以下の3パターンに分けることができます。

  1. 国内M&A
  2. 海外企業M&A
  3. マイノリティ出資

国内M&Aについて

電通はM&Aに非常に積極的ですが、国内のM&Aに限れば企業規模からして件数は然程多くないことがわかります。

▲過去7年間の国内M&A(マイノリティ出資を除く)
(出典:レコフデータ)
上記の図を見てもわかる通り、2018年を除くと過去8年間で2件のM&Aしか成約をしていないことがわかります。

一方で、2018年には電通の国内のM&A戦略のターニングポイントとなるような象徴的な案件が2件成約しています。セプテーニホールディングスとVOYAGE GROUPの2案件です。

両社はどちらもインターネット広告を扱う企業であり、セプテーニホールディングスはインターネット広告に特化した代理店、VOYAGE GROUPはアドテクと呼ばれるインターネット広告の配信プラットフォームを提供している会社です。

上記2件のM&Aインターネット広告における提案機能とプロダクト機能を強化する垂直統合的な意味合いを持ちます。

このM&Aによって電通はインターネット広告業界において一気通貫での提案力を獲得したととなり、同業界での競争はより熾烈となっていくものと考えられます。

また、川上・風下と機能を抑えつつある電通が、今後国内で更なる同業の買収を行っていくのか、今後の動きが注視されます。

海外M&Aについて

電通の大半のM&Aは海外企業の買収です。国内企業が垂直的統合を目指していたのに対し、海外事業は水平的統合を目指している傾向が強いものと考えられます。


▲2012年以降の国別海買収件数(出典:レコフデータべース)
2012年7月(英・イージスグループ買収以降)以降の件数を見ると、20カ国でM&Aを成約させており、その中にはカザフスタンやエジプトなど、北米やヨーロッパ以外の地域も含まれています。

前述のBig5との競争環境などもあり、電通は今後も積極的に海外企業の買収を進めていくものと考えられます。

マイノリティ出資について

電通はマイノリティ出資に対しても非常に積極的です。
傘下のベンチャーキャピタル(電通ベンチャーズ)を通じてや、本体でも国内を中心に様々な企業へリスクマネーを共有しています。

また、その殆どがAI、ブロックチェーン、メディア、など電通が持っていないデジタル領域の技術を持つ企業への出資です。

今後の電通について

電通は今後も継続的にM&Aを成約させていくものと考えられます。

また、テレビを筆頭に主要4媒体の広告市場規模が縮小する中で、益々事業領域をデジタル方面に拡大していくことも間違いないでしょう。
今後は広告代理店という位置づけではなく、総合的なマーケティング支援という立ち居地に変わっていきつつあるものと考えられますが、電通がどのようなM&Aに舵を切っていくのか注目が集まります。



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著者

瀬谷 祐介

瀬谷せや祐介ゆうすけ

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

外資系金融機関を経て、日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げメンバーであり、2012年から、調剤薬局業界・IT業界を中心に、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として70件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。顧客満足度評価は、日本M&Aセンターのコンサルタント約500名中1位。

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