【2019年】IT業界の歴史とM&Aトレンド-IT業界M&Aコラム

瀬谷 祐介

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

業界別M&A
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2018年、IT業界ではM&A件数が1070件と、国内で初めて1000件を超え史上最多になるなど近年かつてないほどM&Aが活況な業界となっております。
今後こちらのコラムでは、そうしたIT業界のM&Aトレンドや成功事例・失敗事例等を定期的にご紹介させて頂きたいと思います。

IT業界の歴史とM&Aトレンド


先ず、IT業界の歴史と合わせて、M&Aのトレンドを俯瞰して見ると、上記の図のような流れになっています。

1980年代後半のバブルの頃は、日本企業の無謀な海外展開や事業多角化のためのM&Aが主流でした。三菱地所がロックフェラーセンターを買収したり、ソニーがコロンビアピクチャーズを買収したり、というのが世界から注目された時代です。

その後バブルが崩壊して15年くらいは、救済・再生型や、敵対的買収、ハゲタカと言われるようなM&Aがメディアに良く取り立たされることになります。
日本でM&Aに良くないイメージをお持ちの方はこの時代のイメージが非常に強いからだと思います。

バブル期に高値で買収しその後バブル崩壊で経営が悪化し大きく減損した企業などを、ハゲタカファンドが敵対的に買収し、経営改革の名のもとに経営陣を送り込み、乗っ取りと揶揄されるようなことをしたりしていました。

ただ、近年のM&Aというのは全く違っています。事業承継問題の解決や、会社が成長するための手段として前向きなM&Aが主流になっています。
特に若い世代の起業家はM&Aに全くネガティブなイメージをもっていません。

それどころかM&Aを特別なものとも考えておらず、経営手法の一つくらいにとらえており、将来のM&Aを目的に起業されるという方も増えています。

IT業界のM&Aトレンドと、近年のトピックス

上記表の、「国内ITのトレンド」にも大きな流れを記載しておりますが、歴史的に見ると、IT業界は1990年代にかけて大企業がシステム部門として内製化していた機能を分社してシステム子会社とし、それを2000年代前半に経営の選択と集中を進める中で切り離し、NTTデータなどの大手SIが買収していくという流れが顕著でした。

近年では、そうした売上数千億クラスの大手SIは海外でのM&Aを主戦場としており、一方国内では、中堅・中小、ベンチャー企業のM&Aがかつてないほど活発になっています。
国内のIT業界M&A件数は8年連続で増加しており、昨年は1070件と史上最多を更新しました。

これはマイノリティの資本提携も含めた件数ですが、1業種で1000件を超えたのは日本で初めてのことです。2006年のときの355件というのが当時で過去最高件数でしたが、今はその3倍程の水準になっています。

そしてこの件数は、全業種の中でも圧倒的に一番多い件数になっております。
昨年2018年は、国内全体で3073件のM&Aが成立していますが、そのうち約1/3程がIT業界でのM&Aなのです。

※レコフM&Aデータベースより、日本M&Aセンター作成

近年M&Aが活況な5つの要因

近年、M&Aが活況な要因を5つにまとめました。

IT業界全体の好景気

1つ目は、業界の好景気が続いており買収ニーズを持つ企業が多数存在するということです。大手システム15社の決算も8年連続で純利益増となっており、国内上場企業の内部留保金額も過去最高になっています。

また好景気の中、銀行の融資も非常に積極的であり、M&A時の融資実行のために当社へ情報提供を求める金融機関が増えています。

クラウド化によるIT業界の先行き不安

2つ目の要因は、そうした好景気の中、国内全体でクラウド化が進展し受託開発案件の先細りが懸念されていることです。

三菱UFJ銀行が、2年前にメガバンクで初めてAWSの導入を決めたのは記憶に新しいですが、その後みずほ銀行も追随しクラウドファーストを掲げAWSの導入を決定。また金融業界に限らず、AGCや日本通運等、国内産業全体でも同様にクラウド化の流れが顕著です。

ERP大手のORACLEやSAPも、基幹系のクラウド化はこれからが本番だと意気込みを見せており、昨年末IBMもレッドハットを買収しクラウド事業の強化へ大きく舵を取りました。
そうなってくると、これまでIT業界の大きな稼ぎ口であった0からシステムを構築するスクラッチ開発の案件や、そのシステムを保守運用する仕事が減ってくるのは必然の流れです。

自社ビジネスのデジタル化需要の増加

そうした中IT企業はどこに活路を見出すかというと、最初の図の3つ目に記載しているビジネスのデジタル化の波に乗るということです。
あらゆる業種、ビジネスにおいてデジタル化が叫ばれ、その中心であるIT企業には高い期待が寄せられ役割を果たすことが求められるようになりました。

一方、優秀なIT技術者は引く手あまたとなり、これまでIT企業の得意顧客であった大手ユーザー企業や電機メーカー、製造業でも技術者確保に躍起になっています。
最近は、ユーザー企業が自社ビジネスのデジタル化のために異業種であるIT企業をM&Aで譲り受けたり、自前主義に拘らずオープンイノベーションで資本提携する事例も目立ってきました。

過去、日本のユーザー企業は、1980年代から1990年代にかけて情報システム部門を分社独立させ子会社化していたものを、選択と集中という中で2000年前半にグループから切り離し、IT企業へアウトソースするという戦略をとっていました。

今は逆に、システム投資やデジタル化を経営戦略上の最重要課題として、IT企業をM&Aで譲受け内製化したり資本提携を行いデジタル化を実現しようとする企業が増えてきているのです。

IT業界の人材不足と労働集約型ビジネスからの脱却

結果として、上記の図の4つ目、5つ目に記載の通り、特に中小ソフトウェア企業では優秀な技術者の採用難となっており、今後はこれまでのような労働集約型のビジネスでの成長発展は見込めなくなってきます。

また、そもそもデジタル化に貢献できるような高い技術、サービス、ソリューションを提供できる組織でないと、国内IT企業としての付加価値は生み出せず生き残りは難しくなってくるでしょう。
現在は人さえいれば業績は伸ばせる好景気下ですが、いずれ近い将来、クラウド化やデジタル化の波で、2次請け、3次請け等、下請のみの仕事に頼り経営を維持して行くのは難しいため、多くのIT企業経営者は危機感を感じて相談に来られます。

業界景気や経営環境が良いうちに、ユーザーとの直接取引の多い会社を譲り受けたい、自社サービスを持つ会社を譲り受けたい、自社の成長が期待できる事業領域を強化するために人材を確保したい、という様々な買収相談を頂きます。

その一方でそうした将来性のある企業グループに入り、経営リソースを確保し、安定成長を目指すことが、何より会社のため、社員のためになると考えM&Aで株式譲渡を決断される経営者の方も増えています。
上記のような背景、要因が総合的に絡み合い、昨年IT業界では史上最多のM&A件数を記録しました。

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著者

瀬谷 祐介

瀬谷せや 祐介ゆうすけ

日本M&Aセンター業種特化チャネル部長

外資系金融機関を経て、日本M&Aセンターに入社。業界再編部の立ち上げメンバーであり、2012年から、調剤薬局業界・IT業界を中心に、中小零細企業から、上場企業まで数多くの友好的なM&A、事業承継を実現している。これまで主担当として70件以上を成約に導いており、国内有数のM&Aプレイヤーの1人である。顧客満足度評価は、日本M&Aセンターのコンサルタント約500名中1位。

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