【2018年】IT・ソフトウェア業界M&A動向まとめ
⽬次
- 1. 2018年のIT業界M&A動向まとめ
- 1-1. IT業界M&A件数推移(件)
- 2. M&A活発化の背景
- 2-1. 1.後継者問題
- 2-2. 2.エンジニア不足
- 2-3. 3.技術革新・オープンイノベーションの波
- 3. 本業加速型M&A
- 3-1. (株)ラクス & ブレインメール(株)(2018年2月 価格15.75億円 100%取得)
- 3-2. (株)三菱総合 & (株)アイネス(2018年5月 価格29.45億円 8.73%取得)
- 3-3. (株)CIJ & 日本フィナンシャル・エンジニアリング(JFE)(株)(2018年9月 100%取得)
- 3-4. LINE(株)、(株)三菱UFJ銀行等 & free(株)(2018年8月 65億円)
- 3-5. (株)NTTドコモ & (株)オールアバウト(2018年5月 26.77億円 16%取得)
- 3-6. KDDI(株)& (株)カカクコム(2018年8月 793億円 16.7%取得)
- 4. ベンチャー企業と大手との連携
- 5. 2025年の崖
- 5-1. 著者
2018年のIT業界のM&A件数は、11月末時点で979件(公表ベース)と、過去最多であった昨年の748件を大幅に上回るペースで進行しており、今年は初めて日本のM&A市場において、単独業種で1000件を超す見込みだ。国内の全M&A件数の約35%を占めており、業種別に見ても、圧倒的に多くのM&Aが成立している。
2018年のIT業界M&A動向まとめ
IT業界M&A件数推移(件)
地域別で見ると、公表ベースの統計では、売手、買手共に8割が東京の企業となっており、次いで、大阪、神奈川、福岡、愛知等の企業数が多い主要地域が続くが、当社の実績では、地方のIT企業からの相談も年々顕著に増加してきており、この傾向は今後も続くものと思われる。
買収金額で見ると、10億円未満の比率が82%と、中小企業やベンチャー企業の割合が大半となっている。
M&A活発化の背景
M&Aが活発化している背景は、大きく分けると以下の3つの背景に分類できる。
1.後継者問題
IT業界に限った話ではないが、国内2/3の企業で後継者おらず、事業承継の手段としてM&Aを選択する経営者が年々増加。
2.エンジニア不足
良い技術者を中々確保できないため、M&Aに活路を見出す買手企業が増加。
3.技術革新・オープンイノベーションの波
- クラウド化の進展に伴い、労働集約型ビジネスモデルからの脱却
- 新たな技術、サービスの獲得
- ビジネスのデジタル化の促進
これらを実現するため、自前主義に拘らず、外部企業と積極的に連携する企業の増加
上記のうち、1、2は従前から続く傾向であるが、2018年は特に3に関連するM&A、資本提携が顕著に増加した。
第四次産業革命と呼ばれる、技術革新の波、デジタル化の潮流が、国内の全産業に波及しており、その中心にあるIT企業が、異業種を交えて連携を加速しているのだ。
以前の日本企業は、新たな商品・サービスを生み出すために、自らで人材を採用、教育し、研究開発を行っていたのに対し、近年は自動運転技術等で他業種と連携する自動車業界をはじめとしてあらゆる業界において、成長スピードを上げ海外企業を含めた競争に勝つためのオープンイノベーションが浸透している。
本業加速型M&A
これらのM&Aに共通するのは、本業を加速させるためのM&Aであるということだ。
この本業加速型M&Aについて、いくつか事例を紹介する。
(株)ラクス & ブレインメール(株)(2018年2月 価格15.75億円 100%取得)
両社共に、クラウド型メール配信サービスを提供しており、機能・サービス面、価格面はお互いが補完関係にあった。両サービスはそれぞれ異なった特徴・強みを持っていることから、双方のノウハウとリソースを投下することで、売上拡大、利益率、シェアの向上を目指す。
(株)三菱総合 & (株)アイネス(2018年5月 価格29.45億円 8.73%取得)
双方の強みとする、公共・金融分野を中心に、商品開発、営業チャネル、技術・ノウハウ、人材等で包括的な協業体制を築き、先端技術を取り込んだ、サービス及びシステムソリューションの提供と受注機会の拡大を図る。
(株)CIJ & 日本フィナンシャル・エンジニアリング(JFE)(株)(2018年9月 100%取得)
JFEは設立以来、金融システムに強い人材とともに、銀行の業務ノウハウと豊富なシステム構築経験を有している。CIJは2016年に金融ビジネス事業部を立ち上げており、互いの強みを活かして金融事業の一層の拡大を目指し、グループ内の技術者のスキルアップ、営業案件の共有、パートナー調達を連携する。
LINE(株)、(株)三菱UFJ銀行等 & free(株)(2018年8月 65億円)
freeは企業ミッションを、「スモールビジネスを、世界の主役に。」と新たにし、ビジネスの強化に寄与できるプラットフォーム形成の実現へと加速。LINE、三菱UFJ銀行との業務提携を行い、人工知能(AI)技術を使った最先端の機能開発や、バックオフィス業務効率化のソリューションを提供。
(株)NTTドコモ & (株)オールアバウト(2018年5月 26.77億円 16%取得)
両社で新たなマーケティングソリューション(データを活用した広告商品)の開発、生活者向けメディア事業の拡大など、両社事業の発展を目指す。双方が持つデータを連携させ、企業向けコンテンツマーケティングの強化、共同広告商品の開発、販売を行う。
KDDI(株)& (株)カカクコム(2018年8月 793億円 16.7%取得)
「価格.com」「食べログ」などのサービスと、「auスマートパス」等のau利用者向けサービスとの連携を通じて、顧客のライフスタイルにあわせた最適な商品・サービスの提案を実現。両社のサービス・メディアを連携した事業の高度化を加速。
上記は、イメージを頂けやすいよう、大手企業の例を中心に紹介したが、中堅中小企業の間でも、同様に、本業を強化、加速するためのM&Aが増えている。
ベンチャー企業と大手との連携
M&Aが活発な背景には、IPOとM&Aを並行して考える、ベンチャー経営者が増え、EXITの手段、成長の手段として、M&Aが積極的に選ばれているということも挙げられる。以前、ベンチャー企業にとっては、IPOだけが一つの成功であり、成長への道のりであったが、その意識も変わり、売却をポジティブに考える起業家が増えてきた。
一方、大手企業も上記で述べたオープンイノベーションの流れの中で、資金調達のし易い市場環境も相まって、今年も数多くのベンチャー企業と大手企業との提携が実現した。
ベンチャー企業のM&Aは大きく二つに分けられる。経営者が新たな事業を始めたい等の理由で、Exitするケースと、そのまま経営者として残り、シナジー発揮にコミットし加速成長を目指すケースだ。
前者は、0→1を行うことへの興味関心が強く、1→10と、組織や管理体制を作っていくことが余り得意ではない、好きではない経営者に多い。当社への相談でも、IPOの準備を本格的に進めている中、創業者自身が自身の人生と向き合い、本当に望む道を進むために、M&Aを決断するという例も多い。
後者のケースは、単独での成長にもどかしさを感じ、競合の成長スピードも睨みながら、より速く成長するためには、大手グループに入るのが合理的だと判断する経営者に多い。例えば、KDDIのネットワークを利用し、IoT事業の海外展開の加速を目論むソラコム社などが良い例だ。また、1兆円企業を目指すため、Yahooグループに入り、その顧客基盤を活用し、そこからIPOを目指すdely社のようなケースもある。
また、海外IT大手企業から、日本のスタートアップ企業への投資も増えている。代表例はセールスフォースだ。自社の顧客情報管理(CRM)クラウドサービスと親和性のある、マーケティングや顧客分析、EC分野などを投資対象としている。過去に投資してきた企業も、クラウド会計ソフトのfreeや、クラウド名刺管理のSansanなど一貫してクラウド開発企業だった。
このように、大企業が自社のエコシステムを広げるために、直接、あるいはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を通じて、自社の経済圏に近しい事業を行うベンチャー企業へ投資する流れが国内外で加速している。
2025年の崖
経済産業省は、「2025年の崖」と題したレポートを、2018年9月に出した。端的に言うと、日本企業の古い基幹システムの維持、メンテナンスばかりやっていては、急速に進むデジタル競争の敗者になってしまう。システム刷新をせず、技術的負債とリスクを抱え続けることによる、経済的な損失は2025年から5年間で最大12兆円/年にもなる。というものである。
日本のシステム開発業界は、労働集約型の多重下請構造で、これまで大掛りな基幹システムを、各企業の個別業務に合わせ、人を集めて開発し、その工数で対価を得るビジネスを続けてきた。今後は基幹システムにおいても、欧米のようにクラウド化が進むことが予想され、単純な受託開発ビジネスは時間をかけて緩やかに淘汰されていくだろう。
あらゆる産業においてデジタル化が進む中、同レポートではIT企業が目指す姿として、「受託業務から脱却し、最先端技術活用の新規市場を開拓し、クラウドベースのアプリケーション提供型ビジネスモデルに転換していくことが必要である」と述べている。
経済環境、業界環境が良い、今だからこそ、次世代に向けた成長戦略を真剣に考える時期である。そこでの選択は自助努力のみではなく、外部連携も積極的に検討して行くべきであり、そうしなければ、永続的に存続、発展して行くことが出来ない時代になったのではないだろうか。