家電量販店業界再編M&Aの歴史【~2019年】
⽬次
家電量販店業界とは
業界定義
一般消費者が多数の電機メーカーの商品に直接アクセスできる店舗(および近年ではECサービスも含む)が一般的な家電量販店の定義である。
各メーカーの商品を同時に比較検討できる場であり、必要であれば商品知識を備える専門スタッフによる接客を受けられるのが強みだ。
家電量販店は主に大きく3つの種類に分けることができる。「郊外電器店系」「カメラ店系」「電気街・パソコン店系」である。「郊外電器店系」はその名の通り郊外に立地し幹線道路沿いなどを主戦場とし、「カメラ店系」は駅前などの都心部に店舗を構える。「電気街・パソコン店系」は日本橋や秋葉原周辺の店舗を指し、電気街と呼ばれるエリアにルーツを持つ。
業界の特色
抱える店舗数の多さを武器に、メーカーからの仕入れ数の多さを条件に卸値を低く抑えるという薄利多売するというのが、どの量販店も共通する基本の戦略だ。
いかに多くの商品を獲得し、在庫を抱えることなく売り切ることができるかがミッションである。
家電量販店業界の動向
業界の課題
かつての国内家電市場は、地デジ化移行ニーズによる薄型テレビの売上や、家電エコポイントなどを追い風に成長してきた。しかし、それらが終了した2011年を境に、反動からテレビ販売が不振となりメーカーの価格競争が激化して、量販店はおろか家電メーカーへも大きな悪影響をもたらすことになった。
また、ネットショッピングの低価格販売により価格競争も激化。既に価格面では、ネットショッピングに対抗できなくなってきており、家電量販店は窮地に立たされているといえるだろう。
それに対し、小売業界全体は、一時は販売額減少の一途を辿っていたが、平成29年に3年ぶりに増加。その後も堅調に推移している。この要因の一つとして、コンビニ業界、スーパー業界の各社が経営戦略として、多数のM&Aを行ったことにより再編が完了したことが挙げられる。
家電量販店や百貨店は引き続き厳しい状況となっており、今後急速に再編が繰り広げられることが予想される。
業界各社の動向
家電量販店の特徴は、家電製品を大量に仕入れて卸値を抑え、安い価格で商品を提供することだ。そのため仕入れのスケールメリットを取ろうと、競合を買収する動きが活発化する。
しかし、それだけではネットショッピングとの価格競争には勝てず、異業種に参入し事業の多角化を目指す動きも出てきている。
その他、価格競争以外で、家電量販店ならではのサービス提供を積極的に行うなど、各社ネットショッピングとの差別化を積極的に図るのだが、決して順調とは言えない状態だ。
M&Aの活用方法
このような状況から多くの会社がM&Aを行っている。M&Aの目的には、「スケールメリット」と「事業の多角化」という二つの目的が存在する。
まずはスケールメリットを目的としている場合を観察しよう。2012年に、業界7位のコジマを買収し、業界2位になったビックカメラのように、同業他社との経営統合を行っている。スケールメリットと同時にノウハウや人員を強化する効果もある。
薄利多売が基本の家電量販店業界において、仕入れのスケールメリットを獲得したうえでさらに販売エリアを拡大していくというスタイルが定着しており、数社の大手による寡占化は今後さらに進んでいくものと見込まれる。
二つ目の目的である「事業の多角化」を目指している場合、コア事業のみに拘らず、そのノウハウを生かして異業種に進出し、新たな事業を打ち立てていこうとする動きがみられる。
たとえばヤマダ電機は、2011年に中堅ハウスメーカーであるエス・バイ・エルを子会社化したのを皮切りに、次々と住宅・建築関連事業の会社を子会社化。2018年にはそれらを合併し、ヤマダホームズを新たに設立した。
その他にもユニクロと提携したビックカメラなど、異業種の会社と手を組み、他業界に進出していく動きは多く見られ、今後も加速していくことが予測される。
家電量販店業界の今後
成熟期を迎えている家電量販店においても、まもなく業界再編が完了すると断言して良いだろう。
そうなると、2009年に約1200店舗の規模を誇っていたam/pmがファミリーマートに買収されたように、今後の家電量販店業界においてもM&Aの規模がより大型化していくとことが考えられる。
再編が完了に近づけば近づくほど売買価格は下がっていく傾向にある。
既にビックカメラに約140億円で買収されたコジマは、高値で譲渡することに成功したうえ、屋号も残しながら現在もビックカメラの資本やネットワークを活用して営業を続けている。
確実に人口が減少するこれからの日本において、経営者は「どこと組むか?」を素早く判断し、競争から協力へと戦略をシフトしていかなければならない。
大手各社の成長戦略
ヤマダ電機
ヤマダ電機の特徴的な成長戦略としては、大きく二つ挙げられる。一つ目は「地方展開」、二つ目は「M&Aによる積極的な異業種への参入」だ。
地方では、地方店舗をテックランドという店舗ブランド名で展開し、1階に駐車場スペース、2階以上に売り場を持ってくるというロードサイドに適した店舗設計。これによって地方都市に効率良く浸透することに成功している。
このように、地方の郊外型店舗を急速に拡大していくことで成長を遂げていった歴史があるヤマダ電機は、今後も引き続きこの戦略をとっていくだろう。
二つ目の戦略である「M&Aによる積極的な異業種への参入」については、前述の住宅関連事業のほか、金融関連事業、エネルギー関連事業など、幅広い業種に参入している。2018年にリフォーム専業最大手のナカヤマを買収したのも記憶に新しい。ヤマダ電機は今では当たり前になりつつある「家電量販店の異業種参入」の草分け的な存在であると言えるだろう。
ビックカメラ
ビックカメラの特徴的な成長戦略は、「M&Aによる垂直統合」だ。
ビックカメラは、ヤマダ電機と対照的で、都市圏を中心に店舗を拡大してきた歴史がある。2012年にコジマを買収して地方戦略を図ったものの、コジマの利益率はM&A後に年々悪化する。そこでビックカメラは2018年に、元々下請け業者であった、家電の配送及び設置事業を行うSKサービスを子会社化し、物流拠点の統合による利益率の向上を図ったのだ。
ビックカメラはユニクロと提携はしたものの、それ以外で特にM&Aを用いた異業種参入には変わらず消極的な様相である。よって今後も異業種参入よりも、水平統合のためのM&Aを積極的に行っていくことになるだろう。
ノジマ
ノジマの特徴的な成長戦略としては、大きく二つ。「店舗ごとの経営」と「フィンテック事業への参入」だ。
ノジマは、地方か都市圏かのどちらかに注力してきた競合他社とは対照的に、各店舗ごとに経営を一任するスタイルをとっている。
家電量販店業界では、中央集権的に経営を行うことが多い中、ノジマでは地域や店舗の形態(単独か駅ビルか等)によって求められるサービスは異なるという仮説の中で、かねてよりこの戦略を選択してきた。この戦略が功を奏し、大手に負けず劣らずの好業績を収めている。
二つ目の特徴である「フィンテック事業への参入」についても見ていこう。2019年5月に、スルガ銀行とクレジットカードやフィンテック事業の共同展開などに関する業務提携で基本合意したことで、家電量販店業界で初めてフィンテック事業への参入に乗り出した。
ノジマは2015年に携帯販売大手のアイ・ティー・エックス(ITX)を、2017年にインターネット事業のニフティを買収。あらゆる家電製品がインターネットを通じてつながるIoT時代を見据え、大型M&Aを続けて行ってきた。
今回のフィンテック事業への参入を通じ、ノジマのこの路線での積極的な展開の意向が明確になったと言えるだろう。
今後の家電量販店業界で生き抜くには
国内の家電EC市場規模は2005年に4,650億円だったものが2016年には1兆4,278億円となっており、その後も継続して成長している。
そういった中、価格競争で勝つことが難しい家電量販店業界の今後は芳しいとは言いがたく、その中で勝ち抜き、主要プレーヤーへ昇り詰めることは容易ではない。
現在多くの企業が異業種に参入し、家電量販店事業以外で収益をあげようという動きをしているが、これでは焼け石に水だ。
それよりも、同業同士が協力し、強者連合を作り出すことで復活を遂げた業界を手本に、家電量販店業界においても手を取り合うことで、業界を復活させ、ひいては日本の経済を守ることにつながるのではないだろうか。