待ったなし、2019年データからみる中小企業の景況感 ~中小企業の“事業承継問題解決“が急務!~
⽬次
- 1. 2019年「後継者不在倒産」が過去最多に
- 2. 止まらない休廃業企業経営者の“高齢化”
- 3. 中小企業の景況感について専門家にお話しをお伺いしました
- 4. 松永 伸也 氏
- 5. 今後さらなる“事業承継解決=M&A”の普及が重要に
- 5-1. 著者
2019年の中小企業の景況感を示すさまざまな指標が出されていますが、最近社会的な問題となっている中小企業の「後継者不足問題」について、気になるデータが発表されました。 改めて中小企業の事業承継問題の解決が急務であることが浮き彫りとなりました。
2019年「後継者不在倒産」が過去最多に
帝国データバンクの調査では、後継者不在による事業継続の断念などが要因となった後継者不在倒産(後継者難倒産)は2019年に460件発生。これまで最多だった2013年の411件を6年ぶりに更新しました。 要因を詳しくみてみると、経営者の体調不良などから経営意欲を失い事業継続を断念した企業や後継者不在により当初廃業を予定していた企業でも、債務超過から倒産に追い込まれたケースなどが散見されています。
止まらない休廃業企業経営者の“高齢化”
体調不良や経営意欲の低下などは、経営者の高齢化に起因していると考えられます。 2020年1月に発表された東京商工リサーチの2019年「休廃業・解散企業」動向調査では、80代以上16.9%、70代39.0%、60代27.5%と、60代以上が全体の8割超を占めていることがわかりました。 2013年時点の数値と比較すると、60代は8.8%低下していますが、70代以上は11.8%増加となっています。
東京商工リサーチ 2019年「休廃業・解散企業」動向調査より
日本M&Aセンターが仲介を行ったM&Aの譲渡企業における経営者の平均年齢をみても、60代39.3%、50代18.8%をはじめ60代以下の経営者が7割以上を占めています(2018年4月~2019年3月実績より)。経営者が60代以下の企業の事業承継は比較的進む一方で、承継相手をみいだせないまま70代をむかえ休廃業を選択せざるを得なくなった経営者も多くいると考えられます。
中小企業の景況感について専門家にお話しをお伺いしました
今回、後継者不在倒産や休廃業企業の状況をはじめとする中小企業の景況感について、ワールドビジネスサテライト(テレビ東京)や報道ステーション(テレビ朝日)など数多くのメディアにご出演されている東京商工リサーチ 情報部 松永伸也部長にお話を伺いました。
東京商工リサーチ情報部 松永伸也部長
松永 伸也 氏
1989年東京商工リサーチ入社。横浜支社調査部に配属、企業信用調査業務に従事。その後、企業倒産・信用不安情報を専門に扱う情報部に配属となり、倒産取材を担当。2003年10月より現職。
―2019年は11年ぶりに倒産が前年を上回りました。倒産状況の特徴などを教えてください
2019年を象徴する倒産で多かったのが「粉飾倒産」です。「粉飾倒産」は、金融機関に借入返済のリスケ(返済猶予)を要請する際などに粉飾決算が発覚し、倒産に至ってしまったケースが該当します。 実際の事例では、35年間にわたり金融機関や取引先ごとに決算書を粉飾(主に売上や借入金)し続けるも 昨今の米中貿易摩擦や日韓外交問題、台風といった外部環境の変化に耐えられず、自ら粉飾決算を認めて倒産に至ったケースもありました。 また、リーマンショック後の2009年に成立した「中小企業円滑化法」により事業資金を得て、資金繰りは緩和するも抜本的な売上アップのカンフル剤とはならず、経営が行き詰まる「息切れ倒産」も目立った年でもありました。
―過去最多となった2019年の後継者不在倒産に関して、注目すべき点は?
“代表者の高齢化”と“二重保証の原則禁止”という2点がトピックといえます。 一般的に代表者が高齢化すると経営が芳しくなくなるということが言われていますが、実際にそういった事例は多くみうけられており、倒産の要因にもなっています。 二重保証の原則禁止は、中小企業の代表者が代替わりする際、金融機関が新旧代表者から二重に個人保証を取ることを原則禁止することです。後継ぎがみつからず倒産や廃業につながることを防ぐことが目的で、強制力はありませんが2020年4月から適用となります。 現在、この二重保証が負担となっているケースが多くなっており、原則禁止となることで一定の効果は期待されますが、経営者の高齢化は待ったなしのため、引き続き後継者不在倒産は増加することが予想されます。
―後継者不在倒産だけでなく、2019年の休廃業は引き続き高水準だったと伺っています
2019年は一時的に休廃業が減少しました。業種的に企業数が多い建設業の休廃業が前年比22.6%減少したことが主な要因となります。 建設業の休廃業が大きく減少したのは、オリンピック需要、都心部中心の再開発、防災・減災対策の強化など官・民ともに工事が増加し、収益が稼げる間もしくは代替わりまでは経営を続けようとする経営者が多かった点があげられます。ですが、オリンピック終了後は一転休廃業が増加に転じる可能性があります。 また全体的な休廃業は減少してはいますが、倒産に比べ約5倍は発生しており、引き続き高水準であることに変わりはなく、今後も廃業は増えていくことが予想されます。 さらに昔は先行きの見通しが立たない等を理由に企業が廃業を選択していましたが、いまは黒字で廃業するケースも目立ってきています。
東京商工リサーチ 2019年「休廃業・解散企業」動向調査より
―2020年3月現在、大きな話題となっている新型コロナウィルスですが、この影響を含め2020年の中小企業に関する景況感の見通しについて教えてください
中小企業の資金需要で大きな役割を担う金融機関の動向として、融資の際のガイドラインとなっていた金融検査マニュアルが2019年12月に廃止されました。それによって、持続的成長が見込める点などを評価する事業性評価を推進する流れとなっています。融資基準の変化により、中小企業の資金調達の際に影響が出てくると思われます。 また、オリンピック後の景気動向についても注意が必要です。景気を下支えする一端を担ってきた建設業は、2025年開催の「大阪万博」など大都市圏での再開発や、地方では「国土強靭化のための3か年緊急対策」などで引き続き底堅い推移が見込まれますが、トーンダウンする可能性があり、そこから各業界にも波及する恐れがあります。 また直近では、やはり新型コロナウィルスの影響が最も懸念されます。 すでに国内では、インバウンド関連をはじめあらゆる業種で影響が出はじめていますが、今後倒産や廃業が増加する可能性が高くなっています。 海外、特に中国に進出している企業は現地法人が休業に追い込まれ、生産量が落ちているにもかかわらず給与は支払う必要があるため負担が増加しています。さらに、交通、特に物流が回復していないため陸路は省をまたぐと2週間くらい拘束されるなどサプライチェーンが大きな影響を受けている状況です。 まとめると、緊急的な金融支援もありすぐに倒産が大幅に増えることはありませんが、先行きが不透明なため廃業が増える可能性は十分にあると考えています。 オリンピック前後の業績が反映されることを考えると、2021年3月決算への影響度合いは要注意と思われます。この時期には新型コロナウィルスの影響で後押しされたケースも含めM&Aの需要が増えて業界再編がさらに加速する可能性が十分あります。
―今後、事業承継も含めた経営者へのアドバイスをお願いします
経営者の高齢化に特効薬はないため、早めに見切りをつけて自分自身の進退を見極めることが重要となりますが、これまで何十年にもわたって育ててきた会社への思いを考えると、最も難しい判断だと思います。 ですが仮に廃業を選択した場合、従業員が路頭に迷ってしまうなどの影響もあり、事業承継の手段として第三者承継となるM&Aを選択するケースも増えてきています。 M&Aは、企業を取り巻くステークホルダーである株主、経営者、従業員にとって三方よしの手段です。実際に経営に先行き不安を感じる企業や業績不振が続く企業が金融機関にM&Aの相談をする機会が多くなっているという話もあります。すでに活況となっている企業同士のマッチングビジネスも含め、今後の日本経済を考えるとM&Aがさらに浸透していくと思います。また、「第三者承継支援総合パッケージ」など中小企業を支えようとする政策について、今後も引き続き注目する必要があると思います。 新設法人数など起業に関しては最近低調な印象がありますが、ベンチャー企業育成関連の環境は整っている印象もあり、若手経営者やアントレプレナーは特に注目していただければと思います。
今後さらなる“事業承継解決=M&A”の普及が重要に
今後、さらに後継者不在による事業承継の問題は深刻化していくことが想定されます。 この事業承継問題の解決策である“M&A”は、 以前に比べるとだいぶ市民権を得て、一般的に認知されるようになりました。10年くらい前までは、TVなどの影響もあってM&Aは乗っ取りやハゲタカといった印象が強く、良いイメージがありませんでした。 最近では、中小企業庁が廃業対策に第三者承継(M&A)活用を推奨し、年60万者を目標とする指針を出したり、インターネットでの企業や個人のマッチングを含めた民間のスモールM&Aサービスが始まったりと一般化してきました。 しかし、地方を含めてまだまだM&Aの正確な意義についての啓発活動は必須な状況です。今後も日本全国でM&Aが普及し、売り手・買い手・ステークホルダーがWIN&WINになれるM&Aが実現し、日本経済の活性化につながればと思います。