【連載】「経営者と家族のための事業承継」現場でみる最新の考え方と進め方 ~第1回 いい事業承継とは?~
⽬次
- 1. 方向性出すのになぜ15年もかかるのか?
- 2. 全体像を知らないで、経営者は意思決定をしている
- 3. そもそもいい事業承継って?
- 4. いい事業承継のための視点
- 4-1. 著者
中小企業庁の発表では、2025年までに、平均引退年齢である70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり、うち約半数の127万社が後継者未定と言われています(2019年11月中小企業庁「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」より)。
経営者の皆様の多くは、ご自身の会社の事業をどのように継承していくか、考えられたことがあるかと思いますが、その参考にしていただきたく、日々現場から生まれている最新の事業承継の考え方、進め方を連載で紹介させていただきます。 第1回のテーマは「いい事業承継とは?どのような事業承継をしたいか考えられますか?」です。
先日、当社グループ企業が運営する経営者のためのメディアプラットフォーム「THE OWNER」の動画収録に向井珍味堂の元社長の中尾敏彦さんと出演いたしました。 中尾さんは、いまから約7年前の58歳のときに同社の株式を譲渡されました。その決断までにいたる試行錯誤のプロセスや譲渡後の会社の様子やご本人の関わり方などについてのお話を伺いました。
方向性出すのになぜ15年もかかるのか?
中尾さんは、40歳の時にふと自身の後継者について考え始めたそうです。そして44歳から情報収集をはじめ、M&Aを行ったのが58歳のときです。 実に約15年間、銀行や商工会議所などの多くのセミナーに参加し、事業承継の方向性を試行錯誤のうえ結論を出されました。
お嬢様に意思確認し、だめ。
幹部を教育して後継者に育成しようとしたが、難しい。
そして、第三者承継としてM&A検討を始め、最初は自分で相手を探そうとしたが、限界もあり、おそるおそる日本M&Aセンターに相談した。情報収集して、ひとつひとつ確認して、結論をだして、次に着手しながら経営をしていたら15年が過ぎていた。 年齢も55歳になったこともあり最終決断したというのが実感ではないかと思いました。本当にたいへんな時間と労力をかけながら、よくおひとりでご検討されたと思います。 企業を経営され、マネジメントされている経営者がなぜ、事業承継のマネジメントはそんなに苦労しないといけないのか?
全体像を知らないで、経営者は意思決定をしている
一定規模以上の企業の経営者は、税理士、銀行、M&A仲介会社、コンサルティング会社から事業承継のアドバイスや提案を受けていると思います。しかし、それはそれぞれの専門分野からの部分最適提案です。木をみて、森を見ていません。そうやって、いろいろな情報が持ち込まれたり、様々なセミナーで勉強しても、全体像が整理できず、考えるべき優先順位もわかりづらく..そのため意思決定ができず、ずるずる時間が過ぎていき、この状態からなかなか抜けだせなくなっているのではないでしょうか。
方向性を決めれば、その分野の専門家のアドバイスをもらえばいいのですが、それまでは誰に相談したらいいか?医者でいえば、何科にいけばいいのか? 全体を俯瞰しながらきちんとアドバイスできる専門家は、少ないのではないでしょうか。
そもそもいい事業承継って?
もっと大枠の話をします。 いい事業承継とは、成功した事業承継とはどんなイメージですか?
当たり前といわれるかもしれませんが、このような事業承継であれば成功といえるのではないでしょうか。
事業承継は、「経営の継承」と「財産の継承」の両方が表裏一体です。両方成功してはじめて事業承継の成功といえます。両方のバランスがとれた全体最適となる事業承継を検討して実行しないといけません。
経営の継承はうまくいったが引退後の生活が安定しなかった、あるいは相続で争いが起こってしまったら、成功ではありません。 経営の継承がうまくいかなかったら、会社の成長もなくなり、多くの社員や関係者に迷惑もかけます。そして財産である自社株の価値が棄損し、個人の財産も棄損してしまいます。
いい事業承継のための視点
このいい事業承継を考え、検討して実行するために、次の3つが重要だと考えています。
(1)事業承継の全体像を知って、会社、経営者、家族の観点から俯瞰して、方向性を考える。
(2)承継時と承継後のことを一体として検討する。経営の継承と同時に財産の継承のことも考える。
(3)検討と意思決定プロセスをできるだけ家族と共有する。家族の協力と承継後の安心を得られるようにする。
そして、もう少し具体的な検討視点については次の図をみてください。
これらの項目がお互い密接に関連してます。方向性を考えるために、全体を俯瞰しながら、各論を考えることが必要です。次回からは、各項目とその関連性をみていきたいと思います。今回は以上となります。
第2回は、“後継者”について詳しくお伝えします。