【第2回】サーチャーはどんな人?成功の条件#2 個人が主役のM&A「サーチファンド」という新しい事業承継の形
⽬次
- 1. アメリカのサーチャーのバックグラウンド
- 2. スキルよりマインド
- 3. チーム力
- 4. 日本におけるサーチャー
- 4-1. 著者
「サーチファンドをやるには、どんな経験やスキルが必要ですか?」 私への相談でよく聞かれる質問の一つである。
アメリカのサーチャーのバックグラウンド
アメリカのサーチファンドに関する調査によると、黎明期から現在に至るまで、サーチャーの約8割がビジネススクール卒業生で、年齢的には30歳台が中心である。
またサーチャーのバックグランドとしては、2002年以前のサーチファンドでは、コンサルティングファームや投資銀行出身のサーチャーが多かった。これが、2008年以降になると、M&Aファンド(プライベートエクイティファンド)出身のサーチャーが増えてくる。
この背景には、サーチファンドへの適性以外に、ビジネススクール在籍者の構成、経済環境など様々な要因がからんでいるため、安易に示唆は出せないが、M&Aやその後の経営の一連のプロセスを経験しているM&Aファンド経験者が、サーチファンドを始めやすいことは間違いない。
一方で、いわゆる事業会社出身のサーチャーも多い。個人的な経験からすると、中小企業のM&A後に最も必要なスキルは、現場の社員を巻き込み動かす能力である。 PEファンド出身者は、M&Aの経験という意味では確かにサーチファンドをスムーズに始められるが、M&A後の経営となると実はプロフェッショナル/エリート集団のPE出身者よりも、事業の現場を知っている人材の方が適しているのかもしれない。
スキルよりマインド
そもそもサーチファンドの活動は多岐にわたる。魅力的な企業を探し、適切な企業価値を判断し、適切な投資条件を交渉で勝ち取り、その後の経営までリードする。これをすべて一人で完璧にこなすのは現実的には不可能に近い。
したがって、サーチファンドに必要な一連の活動のうち、いくつかでも得意だと思えるものがあれば、サーチファンドに挑戦することは十分に可能だと考えている。アメリカのサーチャーのバックグラウンドも多岐にわたっている。現時点で足りない知識やスキルは必要に迫られれば身につくし、支援を得ればよい。
一方で、オーナーシップ、成果志向、多様な人材と協力的に働ける人柄など、経営者としてのマインド的な部分は、一朝一夕に身に付けるのが難しく、他人に頼るわけにもいかない。サーチャーに求められる資質は、表面的な知識やスキルより、むしろこのようなマインド的な部分だと考えている。
サーチャーを目指すような人材は基本的に優秀なエリートだ。おそらく一緒に働いてきた同僚や友人もエリートが多かっただろう。しかし世の中にはいろんな人がいる。エリートだけが優れているわけではない。投資先の現場の人材の強み・価値観・言語を理解し、巻き込むことができるかどうかが、サーチャーとして成功できるかどうかのカギだろう。
チーム力
サーチファンドは個人が主役のM&Aではあるが、二人チームで活動するケースも珍しくない。
そして、二人チームのサーチファンドの方が成果が出やすいという調査結果もある。
やはり一人が得意とする領域には限界があり、補完しあえるパートナーの存在が大事であることが示唆されているのかもしれない。二人サーチャーという形ではなくとも、顧問やアドバイザーを探す、厚いサポートをしてくれる投資家を入れるなど、何らかの形でチームを作ることを意識すべきだろう。
(※一方で、一般的には共同代表制は亀裂が入りやすくうまくいかない場合が多いという話もよく聞かれるし、私個人の経験からも難しい面の方が多い印象がある。個人的にはチームの組み方としては、共同代表制よりも立場の違うパートナーを入れる方がメリットが大きいと感じている)
日本におけるサーチャー
日本においては未だサーチファンドの例が少なく、実績としてのサーチャーの類型化は難しい。したがって、中小企業経営者やサーチャー候補との個人的なお付き合いからの印象にはなるが、日本でもアメリカの例と概ね近い人材がサーチャーとして活躍していくのではないかと思う。
サーチャーに求められる経験・スキル等まとめ
・ 体系的なビジネスの知識(※日本ではビジネススクールの経験は必須ではないと思うが)はあった方が良い
・ PEファンドから事業会社まで幅広いバックグラウンドの方に可能性がある
・ 年齢は30代が中心になるかもしれないが、制限はない
・ 表面的な知識やスキルよりも、経営者としてのマインドや人を巻き込み動かせることが重要
ちなみに、サーチファンド・ジャパンでは、2020年10月現在、サーチ活動に興味を持っていただいた100名超の候補者からの選考を経て3名のサーチャー候補と活動開始に向けた準備をしている。サーチャーのプロフィールは下記のとおりである。
また、「足元の仕事での成果はさておき、サーチファンドという新しい仕組みに乗れば経営者になれそう」という感覚で相談に来る方もいらっしゃるが、そんなに甘くはない。
サーチファンドは経営者への新しい道ではあるが、道を進めるかどうかは努力と能力と覚悟にかかっている。