【建設業界向け】江戸時代のアイドル鳶職人の株式相続
⽬次
- 1. 工事現場は鳶職に始まり鳶職に終わると言われるほどに重要な存在である鳶職人
- 2. 建設業界における技術伝承と相続税の問題
- 3. M&Aによる事業承継の経済的合理性
- 3-1. 選択肢①
- 3-2. 選択肢②
- 3-3. 著者
工事現場は鳶職に始まり鳶職に終わると言われるほどに重要な存在である鳶職人
誰よりも先に現場に入り、現場の囲いを組み、建物基礎の鉄骨を建て、足場を組む。工事現場では、鳶職人はもっとも重要な存在です。
その役割は大きく分けると3種類、作業用の足場を組む足場鳶、鉄骨を専門に扱う鉄骨鳶、鉄骨を専門に扱う重量鳶があります。この様に現在は鳶職人といえば建設業界の専門家です。
その歴史は遡ること江戸時代、木造建設物が肩を並べて立ち並ぶ町では「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉が有名になる程、頻繁に火事が発生していました。そんな中、命がけで町を火の手から守っていたのが火消です。実はこの消防組織である火消のほとんどは鳶職を本業とする建設現場の職人であったのです。
彼らは自らの命を省みず消火にあたり、消火が終わるとすぐに家屋の解体を行い、そして焼けた町を華麗に再建する立役者的な存在でした。そのため彼らは、大工、左官と並び「華の三職」と呼ばれ、当時の人々にとって憧れの存在でした。当時、歌舞伎役者よりも人々の熱いまなざしを受けていたアイドル、それが鳶職人なのです。
アイドルとして鳶職人は昔からずっと社会が機能する為のインフラである住居、道路、橋、その他様々な構造物を作り出し、人々の生活になくてはならない存在として地域や国の発展に貢献してきました。
そんな鳶職人を筆頭に、江戸時代から現在の日本を作り出してきたのが建設業界です。様々な構造物は昔の職人の技術により作り上げられ、世代が変わり新しい職人の技術により維持修繕が行われ、そして未来の職人へ技術と共に歴史として受け継がれていきました。それはまさに社会そのものの開発であり、日本という国そのものを作り上げてきたのが建設業界です。
建設業界における技術伝承と相続税の問題
歌舞伎と建設、共通するのは技術が根幹にあるという点です。技術が次の世代へと何度も受け継がれていくことで、その業界が発展していきました。
歌舞伎の技術は世襲され自然人から自然人へと受け継がれていき、建設の技術は会社という法人の中に沢山の職人の叡智が蓄積され、大きな組織へと成長していきます。この法人という存在に集約された技術は巨大な貨幣価値を生み出すものとなり、手綱を次の世代に渡すためには相続税が課されます。素晴らしい技術を持つ会社であるほどに相続は非常に困難を極めます。
相続が困難な理由は単純、非上場会社の株式には上場株のような換金性が無いからです。
例えば、10億円の評価額がついた会社を一人の子供に相続させるとすると、相続する側に4億5,820万円の相続税が課せられます。しかしながら、10億円の評価額がついた会社を相続しても1円も換金できません。つまり1円も手元には入ってこないのに4億5,820万円の財産を失う、或いは借入をして借金をして支払わなければならない状況が生まれます。
これは世代が変わるごとに発生し、法人というものは形を変えることが出来ない為、世代が変わる度にそれを支払い続けなければならないのです。これが本当の事業承継問題ではないでしょうか。
経営の承継は出来ても、株式の承継が出来ないのです。
M&Aによる事業承継の経済的合理性
M&Aはこの問題を解決することが出来ます。数字比較で説明しましょう。
説明するにあたり、相続税評価額とM&A株式評価額とでは金額に大きな差が生じるということは改めて認識しておきましょう。
相続税評価額の計算方法は決まっており、一方でM&A株式評価額は譲受側が譲渡企業の超過収益力(のれん)を評価する分だけ評価額が増加します。
具体的に2倍以上の評価の差が生まれる成約事例も多く存在します。
上記を踏まえた上で相続税評価額とM&A株式評価額を比べてみましょう。会社が1年あたり2億円の超過収益力を持ち、これが5年間継続するとの市場評価がされたとの前提をおく、すると次の通りの結果が出ます。
相続税評価額が10億円の会社があるとします。
仮にこれを子供が100%相続した場合、上記でも述べた通り子供には1円も入ってくることはなく、むしろ4億5,820万円が出ていきます。
一方でM&Aを実行した場合、5年間の超過収益力(のれん)が評価され、評価額は20億円となります。
20億円の評価額でM&A成約した場合、株式譲渡税(ここでは簡便的に20%とする)を支払った後、純粋な手取り額は16億円です。
その16億円を一人の子供が相続した場合、相続税は7億2,300万円となり、子供の手元には8億7,700万円の現金が入ります。
なおかつ、現在のM&Aでは譲受企業からは「譲渡企業の社長は残って欲しい」との希望が提示されるケースがほとんどである為、M&A後も将来にわたっての役員報酬を継続的に享受できます。
選択肢①
1円も対価を受取ることなく、4億5,820万円の財産を失い、劇的に縮小する日本の建設市場のなか、単体で会社を、そして何より会社に生涯をかけてくれる社員と彼らの家族の人生に責任を取るという選択肢
選択肢②
8億7,700万円の現金を取得し、かつ従来と変わらない役員報酬を享受し続け、またこれまでの事業運営体制は継続しつつ、なおかつ大手のグループに入り強力な採用力、経営力、資金力を手にして急速に企業を成長させるという選択肢。
マイナス4億5,820万円と、プラス8億7,700万円、このどちらが個人にとって、家族にとって、会社にとって、どちらの選択肢が経済的に合理的であるかは、会社の存続と発展を願う経営者にとっては明らかでしょう。