中小企業庁が中小M&A推進計画を初策定
⽬次
- 1. コロナ禍で悪化する中小企業の経営環境
- 2. 中小M&Aの意義の再定義
- 3. 官民の連携強化
- 4. M&Aの基盤構築のために
- 5. 日本M&Aセンター代表取締役社長三宅もオブザーバー参加
- 5-1. 著者
経営者の高齢化と新型コロナウイルス感染症の感染拡大による経済的な影響を受ける中小企業の貴重な経営資源を守ろうと、中小企業庁は4月28日に 「中小M&A推進計画」 を初めて策定しました。組織強化のために改組した行政機関の「事業承継・引継ぎ支援センター」と、民間のM&A支援機関(専門仲介業者等)の官民が連携して、中小企業における事業承継の支援強化を打ち出しました。今後、5年の期間に官民が取り組む計画をまとめました。
コロナ禍で悪化する中小企業の経営環境
推進計画策定の背景には、経営者の高齢化の進展と新型コロナによる経済的な悪影響があります。2020年の休廃業等の件数が過去最多の約5万件を記録し、うち6割以上が黒字ながら廃業するという事態となっています。黒字経営で企業価値がありながらも後継者問題を解決できない理由から、貴重な中小企業の経営資源が失われている現状があります。
一方で事業承継におけるM&Aの関心は年々高まっており、中小企業のM&Aは年間3~4千件のペースで推移しています。ただ潜在的な需要に対して、官民が供給面で応えきれていない構造的な課題があります。
中小M&Aの意義の再定義
国はこれまで、主に経営者の高齢化対策として中小企業の事業承継の一つにM&A(第三者承継)を推進してきました。今回の推進計画策定からは、 中小企業の生産性向上 と 創業促進 の観点からもM&Aの重要性を認識して再定義し、M&Aを 設備投資と研究開発に並ぶ重要な手段の一つ と捉えました。
また、中小M&Aで期待できる効果として、
- 規模拡大によるコア事業の強化・拡大
- 垂直統合によるコア事業の強化・拡大
- 新規ビジネスへの参入
- 成熟・衰退事業の再編
- グループ内再編
- デジタルトランスフォーメーション(DX)等を含めた経営スタイルの発展
- 従業員の意識改革
が挙げられています。
官民の連携強化
課題解消のために今回の計画では、「経営資源散逸の回避」、「生産性向上等の実現」、「リスクやコストを抑えた創業」という3つの観点から、M&Aを推進することを目指します。加えて小規模・超小規模と大規模・中規模のM&Aを円滑に進めるために、全国にある事業承継・引継ぎ支援センターと民間M&A支援機関の連携強化を図ります。国は中小M&Aにおける費用補助の上限額を増やす「事業承継・引継ぎ補助金」などの支援を拡充。経営者が安心してM&Aを決断できるよう、会計士や弁護士などの専門家によるサポート強化も盛り込んでいます。
M&Aの基盤構築のために
日本M&Aセンターを含めた中小企業のM&Aに携わる民間事業者は全国に370ほどあるとされています。M&Aの支援業務における質を担保するため、2021年度中に民間事業者等が登録制度を創設し、登録機関の支援業務に係る費用を国は補助金の支給対象とする方針です。
また登録事業者は、中小M&Aガイドラインの遵守や成約実績の報告義務などが求められるようになります。登録制度のほかにも公正で円滑な取引を促進するため、中小M&A仲介の健全な発展と中小企業の保護を目的に、民間事業者等を会員とする自主規制団体を設立し、取引ルールの徹底と人材育成のサポート、相談窓口設置等の環境整備を担います。
日本M&Aセンター代表取締役社長三宅もオブザーバー参加
推進計画策定のために2020年11月から計6回にわたり開かれた「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」には、中小M&A業界を代表して日本M&Aセンターの三宅卓 代表取締役社長がオブザーバーとして出席しました。推進計画の策定のため国内最大規模のM&A実績を有する経営者の経験と知見を議論に反映させ、官民一体となった取り組み強化を呼び掛けました。推進計画の策定により今後、官民の連携が進み、より多くの中小企業がM&Aを選択できる環境が整えば、全国的な雇用の確保や新たなビジネス創出などが期待されます。