コングロマリットとは?メリットや企業事例を紹介
不透明な時代を生き抜くための戦略として、コングロマリット型経営は注目されており、国内ではその動きが活発化しています。本記事では、コングロマリットの特徴やメリットなどについて解説していきます。
コングロマリットとは
コングロマリット(conglomerate)とは、異なる業種や産業に属する複数の企業が経営統合を行い、1つの大きな企業グループを形成することを指します。
コングロマリットは、さまざまな事業分野に展開することで、リスクを分散し、収益の安定化を図ることができます。また、異なる業種や産業の企業が経営統合を行うことで、相乗効果を生み出し、競争力を高めることも期待されます。
コングロマリットは、多様なビジネスチャンスを追求することができる一方で、経営の複雑化や統合の難しさといった課題も抱えています。
この記事のポイント
- コングロマリットを形成することで、リスク分散やシナジー効果を狙うことができる。
- メリットにはシナジー効果の創出、経営リスクの分散などがある一方で、経営の複雑化やガバナンスの低下といったデメリットも存在する。
- コングロマリット形成の手法には買収、合併、資本提携があり、目的の明確化やリスク管理、パフォーマンス評価が成功の鍵となる。
⽬次
コングロマリット企業の例
自動車製造、食品製造、不動産、エンターテインメント、金融など、異なる産業でそれぞれ関連の低い事業を所有・運営する企業グループが該当します。
国内企業で代表的な例としては、ソニーグループ、楽天グループ、日立グループ、そして三菱グループや伊藤忠グループなど商社系のグループが挙げられます。
動画では、JR九州の事例についてわかりやすく解説しています。
コングロマリットのメリット
コングロマリットを形成する際のメリットやデメリット・注意点について、まずはメリットから見ていきます。
シナジー効果を狙いやすい
前述の通り様々な業種、ビジネスを保有するため、単一の事業を展開する場合に比べ、各事業間で事業シナジーやコーポレートシナジーなどシナジー効果の創出を狙いやすくなります。具体的には新規事業やサービスの創出、グループのブランド力や強みを活かした営業、採用活動、資金調達などが挙げられます。
なお、このようにコングロマリットの形成によりシナジー効果が発揮され、企業価値が高まる状態を「コングロマリット・プレミアム」と呼びます。
経営リスクを分散できる
コングロマリット企業は様々な業種、ビジネスを展開するため、もし一部の市場環境や事業会社の収益が悪化しても、その他の事業でカバーすることができます。つまり、経営のリスク分散ができる点も、大きなメリットとして挙げられます。
中長期的ビジョンを描きやすい
様々な市場へ進出するため、短期間でのシナジーや成果を期待することは困難です。しかし言い換えると、企業全体で持続的な成長を図るために中長期の計画、ビジョンを描きやすい点もメリットとして挙げられます。
コングロマリットのデメリット・注意点
一方、デメリットや注意点は以下の通りです。
企業価値が低下するリスクもある
複数の事業を展開できる一方で、主力事業に経営資源を集中させることが難しくなる可能性も考えられます。また、想定していたようなシナジーが発揮できず、複数の事業が共倒れに終わる可能性も考えられます。
その結果、市場での競争力、株価も低下し、資金調達が難しくなってしまう状態を「コングロマリット・ディスカウント」と呼びます。
ガバナンスの低下に注意する必要がある
各事業の独立性が高い場合、各社の経営を適切に監視・指導できず、ガバナンスの低下を招く可能性も考えられます。
ガバナンス低下の結果、不正や品質低下などの事態が起きてしまうことを回避するため、経営陣はガバナンス強化の対策やグループ内のコミュニケーションの取り方を入念に講じる必要があります。
コングロマリットの主なスキーム(手法)
コングロマリットを形成する際に用いられる主なスキーム(手法)は、以下の通りです。その他M&Aのスキームについては関連記事をご参照ください。
買収
企業の株式取得を通じて経営権を獲得し、子会社化するのが買収です。後述の合併(吸収合併)と異なり、被買収会社は存続します。
M&Aでは株式を100%取得するケースが多く、資本提携に比べて資本の結びつきが強固になるため、コングロマリット内の企業同士の結束が強まる傾向になります。
合併(吸収合併・新設合併)
合併とは、複数の組織や会社を法的に1つに統合ることを指します。独立した企業同士で合併が行われる場合や、同じグループ内の再編で行われるケースがあります。
合併会社が被合併会社を吸収する「吸収合併」と、被合併会社をすべて消滅させて新設合併会社を設立する「新設合併」の2つがあります。
資本提携
資本提携とは、将来的なM&Aや合併などを見据え、一方(もしくはお互い)が他方の株式を保有することで資本関係を構築し、互いに業務面や資金面で協力し合うことを指します。
経営の独立性を保つため、譲渡する株式を発行済株式総数の1/3未満に抑えるのが一般的です。お互いに経営上の独立性を保ちながら、強固な関係を築けるのが特徴です。
コングロマリットとコンツェルンの違い
企業の集合体を表す言葉として「コンツェルン」があります。これは「グループ(Konzern)」を意味する言葉で、持ち株会社などを頂点にして子会社群・孫会社群を形成し、市場の独占を目的とする企業体を指します。
コングロマリットが事業の多角化を目指すのに対し、コンツェルンは市場を支配・独占することを目的としています。
日本では戦前の「財閥」がコンツェルンに該当しますが、GHQにより解体され、その後独占禁止法によって持ち株会社の設立は禁止されました。しかし、この法律はM&Aを通じて組織再編を行うための障害となっていたため、1997年に改正され、持ち株会社の設立が解禁されました。
その他多角化戦略について
コングロマリット以外の企業の多角化戦略についてご紹介します。
①水平型多角化戦略
水平型多角化戦略は、既存の顧客基盤やブランド価値を活用し、関連する市場で異なる事業領域に進出する戦略です。
例えば、食品小売業界で成功している会社が、新たに食品配達サービスを提供する事業を始める場合、これは水平型多角化です。
既存の事業で得られたノウハウを転用するため、リスクを抑えてシナジー効果の創出が期待できるでしょう。
②垂直型多角化戦略
垂直型多角化戦略は、既存事業の川上または川下の領域に進出し、成長拡大を狙う戦略です。
例えば、農業機械の製造会社が、農産物を販売する小売事業に進出する場合、これは垂直型多角化です。
既存の顧客のニーズが掴みやすいアドバンテージがあるため、リスクを抑えて展開することができるでしょう。
③集中型多角化戦略
集中型多角化戦略は、既存の技術・ノウハウを活かした新商品を、新たな市場に投入する多角化戦略です。
集中型多角化は、既存の強みをさらに発展させ、市場での競争優位性を追求するために使用されます。
デジタルカメラのセンサーを医療技術に転用する例などが、この集中型多角化戦略にあたります。既存の技術と関連性の高い商品を製造するため、開発費削減などのシナジー効果を生みやすい戦略といえるでしょう。
コングロマリット型M&Aを成功させるポイント
主なポイントは以下の通りです。
目的と戦略の明確化
統合の目的と戦略を明確に定めることが重要です。どのようなシナジー効果を追求するのか、統合によってどのような価値を生み出すのかを明確にし、経営者や関係者間で共有する必要があります。
インテグレーションプランの策定
統合を円滑に進めるために、インテグレーションプランを策定することが必要です。組織の統合、業務の統合、人材の配置など、具体的な手順やスケジュールを明確にし、実行に移すことが重要です。
リスク管理とコミュニケーション
前述の通り統合にはリスクが伴います。リスクを適切に管理し、問題が発生した場合には迅速かつ適切に対応することが重要です。また、関係者とのコミュニケーションを密にし、情報共有や課題解決に努めることも重要です。
パフォーマンスの追跡と評価
統合後のパフォーマンスを継続的に追跡し、評価することが重要です。統合の目標や戦略が達成されているかどうかを確認し、必要に応じて修正や改善を行うことが成功の鍵となります。
以上のポイントを考慮しながら、経営者はコングロマリット型M&Aを計画し、実行することで成功に近づくことができます。
終わりに
以上、コングロマリットの概要についてご紹介しました。経営のリスクヘッジに長けたコングロマリットは、これからの時代を切り拓くために相応しい戦略です。