日本M&Aセンター、5番目の海外拠点をタイに開設!その背景、現地M&A事情とは!?
近年増加する日本企業の海外進出および海外子会社の売却などに伴う、クロスボーダーM&A。その中でも特にニーズが高いASEAN地域への対応強化を目的に、2021年11月8日、ASEAN5番目の拠点としてタイ駐在員事務所が開設されました。
開設に至った背景、現地のM&A事情について、所長の井 直大(取材当時)に聞きました。
―日本M&Aセンターの海外事業部および、タイに駐在員事務所を開設した経緯について教えてください
私の所属する海外事業部は、前身の海外支援室発足時から、日系企業の事業承継に係る海外子会社の同時売却のお手伝いをはじめとして、海外に係る案件を手掛けてきました。
海外拠点は2016年のシンガポールを皮切りに、マレーシア、ベトナム、インドネシアと広がっており、今回のタイで5拠点になります。
タイはASEAN、世界でも有数の製造業大国です。日系企業はタイに子会社を持つ場合が多く、事業承継の際にその子会社も同時に譲渡するケースが昔からよく見られました。
そのように案件自体多かったこともあり、日本M&Aセンターがはじめて海外でセミナーを開いたのもタイでしたね。2015年2月にタイのメガバンクと共催で開催したのですが、非常に反響は大きかったです。ただ、当時は人的リソースの面で(タイへの拠点開設は)断念しました。
―それがなぜ今回の開設につながったのでしょうか。
私はもともと1年タイに留学した経験があり、入社3年目のゴールデンウィークにひとりでバンコクに行ったんです。その帰りの機内で「自分はこれからタイに行くしかない」と決めていました。
―それはまた突然ですね。何かきっかけがあったのですか?
日本に住んでいると、豊かで安全で何でも手に入る。もうすべてが完成していて、出来上がってしまっている。つまり社会的な成長を感じづらいですよね。
タイに戻った時、人や街が活力にあふれていて、日本では感じられないこれからの成長に向けた期待感、ワクワクする感じに刺激を受けて。もうこれは自分が一念発起してやるしかないなと思いました。
そうした気持ちの変化もあり、帰国後、社長のもとに海外で自分の力を試してみたいと早速直談判しに行きました。社長は二つ返事で「いいよ」って(笑)。なぜあの時OKしてもらえたのか、後から聞いてのですが「直接自分のところに来るということは、それだけの覚悟をしてきているだろう」と。その場で即決してくださいました。
そしてまずはシンガポールでM&Aを学びながら、語学も習得する日々が始まりました。
―シンガポールではどのようなことをされていましたか?
シンガポール生活2年目の終わりにちょうどコロナ禍になって。去年3年目はタイに直接いけなかったので、シンガポールでできることをやろうと、シンガポールで買い手を見つけるプロジェクトを行いました。期初に100社集めると宣言したのですが、結局200社以上集まりまして。その時に、一定の素地はできたのかなと思っています。
世界の名だたるビッグカンパニーは、アジアのリージョナルヘッドクォーターをシンガポールに置くケースが多く、その業種は様々です。買い手となりえる80億円以上の売上の企業はシンガポールに2千数百社あるといわれてますから、約10%が集まったことになります。当時はロックダウンで対面が叶わなかったので、基本的にはコールドコール(電話営業)、メールでの問い合わせで集客しました。拙い英語でも結果が出せるんだなと自信につながりました。
―そして今年はじめにようやくタイに行かれたんですよね。
引き続きコロナ禍の厳しい状況でしたが、直接現地に行ったことで得るものも多く、中小企業のオーナーが何に悩んでいるのか、M&Aマーケットの可能性はあるのか、対面でヒアリングすべきだと感じました。そして今年11月の駐在員事務所オープンに結び付きました。
―タイの中小企業M&Aマーケットについて教えてください。
もともとM&A自体は昔から大小様々行われていますが、マーケット自体はまったく成熟していません。証券会社、銀行などは経営戦略上、中小企業向けのM&Aに手が回ってない状況です。彼らからしてみれば我々のような中小企業専門のM&A仲介業は珍しいようで、「どうやってやってるの?」とよく聞かれるくらいです。そうした面で提携の可能性があると感じています。
―日本の中小企業M&Aと共通点・相違点はありますか。
タイはシンガポールに次いでASEANの中でも少子高齢化が急速に進んでいます。
なので、M&Aの8割が事業承継。これは日本とあまり変わりありません。優良企業の子息が海外に渡って活躍し後を継がない、という話をよく聞くのも日本と共通していますね。
タイは日本に比べると平均寿命が若いのでご相談にくる経営者の方も10歳近く若いのが特徴です。その他の点でギャップを感じる場面はあまりないですね。M&Aコンサルタントとして、中小企業のオーナーに会って、考えを聞いて、会社を見て、一緒に未来を考える、そういうノウハウはタイに限らず全世界で共通して活かせるものだなと改めて感じています。
経営者の年齢以外で、違う点として挙げるならM&Aに対するイメージでしょうか。日本だといまだに「身売り」「乗っ取り」のようなイメージを持たれる場合もありますが、タイで例えば「日本企業があなたの会社に興味を持っている」と伝えると、反応がとても良い場合が多いです。「ただ、息子が継ぐだろうから、息子に聞いてみて」と言われて、実際話してみると、本人は継ぐ意思がまったくなかったり(笑)そういうところも、日本と似ているかもしれませんね。
―最後に抱負をお願いします。
生産年齢人口の減少していく日本は、成長著しいASEANに活路を見出していかなければいけません。その中で、ネットワーク・人材・ノウハウの乏しい中小企業はM&Aを活用してASEANに進出するのが、成功への一番の近道でしょう。
M&Aは社会的な公器だと思っています。日本でも当社がリードしてこのマーケットを作ってきました。これをそのままタイに受け継ぎたいと思っています。会社を潰さない、成長のためのM&A。それが当たり前になってくれたらすごくいいなと。そうなるためには、当社がタイの中でもすぐに№1にならないといけないと思っています。2番ではだめなんです。現地のスタッフとも一丸となって、その実現を目指しているところです。タイは今後M&Aマーケットとしてより面白くなる国だと確信しています。