後継者不在率は60%前後で推移 TDB・TSR動向調査
⽬次
- 1. 同族承継のリアル
- 2. 60代で後継者不在が逆転
- 3. 事業承継支援で不在率改善に期待
- 3-1. 著者
中小企業の後継者不在が社会問題となっています。大手信用調査会社の帝国データバンク(全国企業「後継者不在率」動向調査)と東京商工リサーチ(2021年「後継者不在率」調査)のデータによると、企業の経営者不在率が6割程度で推移していることが分かりました。それぞれ企業数など調査方法が異なることから単純比較はできませんが、帝国データバンクの調査では61・5%、東京商工リサーチの調査では58・6%の割合で後継者不在となっており、依然として高い数字となりました。事業承継の準備期間は一定程度掛かるとされており、後継者不在で経営者が高齢の場合は廃業リスクも高まります。新型コロナウイルスによる業績悪化などが追い打ちとなって事業継続を断念する企業も予想され、倒産や廃業を救うために事業承継支援が注目されています。
同族承継のリアル
2社の調査結果を比較すると、興味深い違いがあります。事業承継の選択肢となる経営者の親族に引き継ぐ「同族承継」において数字に大きな開きがありました。東京商工リサーチの調査で「後継者有り」と回答した企業の66・7%(4万8,148社)が同族承継を予定していた一方で、帝国データバンクの調査で実際に事業承継した企業に尋ねると、「同族承継」が38・3%と全体の4割に届きませんでした。従業員の「内部昇格」と「M&Aほか」、「外部招聘」を合わせると半数以上を占め、経営者の意向と事業承継の現実との乖離が見てとれます。帝国データバンクは「ファミリー企業でも非同族への事業承継=脱ファミリー化を考える割合が高まっている」と分析します。
60代で後継者不在が逆転
東京商工リサーチの調査では、年齢別の後継者不在率は60代が39・2%(前年比1・1%減)、70代が28・2%(同0・9%減)、80歳以上が22・6%(同)となりました。創業や事業承継から日が浅く、後継者を選定する必要がない働き盛り世代の後継者不在率は高く、50代までは後継者「不在」が「有り」を上回りますが、60代になると逆転します。この傾向は帝国データバンクの調査結果でも同じように表れています。
事業承継支援で不在率改善に期待
高い後継者不在率と年間5万社以上の廃業数を背景に、中小企業庁は2021年4月に「中小M&A推進計画」を策定して、事業承継の有効な手段としてM&Aを官民で推進していく方向性を打ち出しました。中小企業のM&Aに関して補助金などが拡充され、M&A件数も2012年から増加傾向となっています。帝国データバンクは「経営者の後継者問題に対する意識改革は確実に成果を上げているなかで、後継者不在率も改善傾向に向かう可能性が高い」と今後の見通しを示し、高まる事業承継ニーズへのさらなる支援策の拡充が必要とまとめています。