40代若手社長の成長戦略型のM&Aについて
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こんにちは。(株)日本М&Aセンター食品業界支援室の白鳥です。
当コラムは日本M&Aセンターのアパレル専門チームの食品業界支援室のメンバーが執筆しております。
今回は、40代の若くて黒字経営をしている企業が成長戦略型のM&Aで譲渡された事例をご紹介致します。昨今食品業界ではトリドール×ZUND、やあみやき亭×杉江商事など若い社長が成長戦略型のM&Aを選択されるケースが多くなってきています。今回は異業種ではありますが、同様に若い社長が成長戦略型のM&Aを実施された事例をご紹介します。
創業から飛ぶ鳥を落とす勢いで成功した社長の手腕
社長の力で創業から順調に成長を続け人気ショップとなった企業は、どこかのタイミングで組織経営という壁にぶち当たります。創業からしばらくは社長個人のパワーで組織を引っ張っていくことができても、売上や社員が増え規模が大きくなるにつれて、社長一人では経営全般を見ることができなくなります。
2006年にアパレルのセレクトショップを開店したC社長もそうでした。都内に初めてオープンした店舗は売り場面積3坪。同時に立ち上げた会社(A社)の資本金はわずか20万円。文字どおりのスモールスタートでした。
C社長の武器は、並外れた行動力と、音楽仲間を通して築いたヒップホップ系の人脈。狙いを定めたのは、音楽系ブランドのなかでも高価格帯の「ラグジュアリーストリート」と呼ばれるジャンルでした。
右肩上がりで業績が伸びていく中、年商20億円が見えてきたところで壁にぶつかります。重要な仕事をまかせられる人材が不足していたのです。同社に入社してくるのは、ストリートファッションが好きな若者たち。自分たちが取り扱うアイテムに愛情があるのは素晴らしいことですが、ビジネスの感度は高くなく、経営やマネジメントの仕事に積極的ではありませんでした。
若者たちに問題があるわけではありません。社員のモチベーションを高め、ビジネススキルを身につけさせるのは会社の役目です。ところがA社はC社長が一人で立ち上げて急成長を遂げてきたため、労務や人材育成の仕組みが追いついていませんでした。人材の入れ替わりもあり、マネジャーレベルの人材を育てることも容易ではありませんでした。
人を育てる必要性はC社長も強く感じていました。商品の仕入れは、ブランドと直接コネクションがあるC社長が長らく一人でやってきましたが、バイヤーを育てなければ会社の成長もありません。
さらなる成長を実現するため、他社と手を組むことを考える
組織力の課題をC社長が意識してきたころ、ときを同じくして、新たな市場環境の変化が訪れます。
新型コロナウイルスの感染拡大です。
前述のとおり、ショップの人気は海を越えて広がっていました。インバウンドの売上が相応に大きかったため、コロナ禍の影響も小さくないことが想定されました。そのなかで、創業以来多忙をきわめながら右肩上がりの急成長を実現したC社長は、コロナ禍をきっかけに、初めて今後の会社と自身のあり方を考える時間がとれるようになりました。
会社をさらに成長させるためには、どういった方法があるか、EC戦略や海外戦略を早期に実現させるにはどうしたらよいかなど考えを巡らせ、並行して同じように急成長した企業がどんな戦略をとっているかなど幅広く情報収集をしました。
そうして描いた戦略の一つが、他社と手を組むということでした。他社と手を組むことができれば、EC戦略や海外戦略の早期実現が可能になる。人材の補填・育成など組織の課題解決もサポートしてくれる相手であれば、会社はさらに成長できる──。
C社長は「どこかにいい相手はいないか、専門家に聞いてみよう」と考え、いくつかのM&A仲介会社に打診したのち、マッチング力の高さとコンサルタントの信頼できる人間性を感じて日本M&Aセンターに相手探しの依頼を行いました。
お相手探しを始めて、浮上したのがアパレル大手のB社でした。
B社はいくつものブランドを展開する大企業ですが、レディースが中心で、メンズブランドは少数。とくにストリート系は手薄で、A社のショップが加われば足りないピースを埋めることができます。
B社は、単にブランド・ポートフォリオの弱いところを補強したかっただけではありませんでした。C社長個人を高く評価していたのです。C社長のバイヤーやショッププロデューサーとしてのセンス・能力の高さは、A社のショップが世界的な人気を博していることからも明らかです。B社としては、A社の経営を引き続きC社長にやってもらうだけでなく、自社の他のブランドもまかせて開発力を発揮してもらいたいと考えました。
じつは、B社のほかにもA社に関心を示したアパレルはありました。しかし、その会社はA社のC社長個人への依存度が高いことをリスクとみなしていました。いま海外の有名ブランドから直接仕入れられるのは、C社長の個人的なつながりがあるからであって、もしC社長が倒れたりブランドと不仲になったりしたら、供給が止まって業績が急降下してしまう。
これは考え方次第でしょう。たしかに属人性の高さを嫌うのも理解できます。しかし、B社はそのリスクを十分承知したうえで、C社長が自社にもたらすシナジーの高さを評価しました。C社長が率いるA社のグループ入りは確実に自社の成長につながると考えたわけです。
さらにいうと、損得を超えた「共感」があったようです。C社長が描く会社のビジョンは、聞いているだけで心躍るものがあります。B社はその世界観に惚れて、A社そしてC社長に投資をしたいという側面がありました。
お相手とM&Aに期待することと今後について
一方のC社長には、B社はどのように映っていたのでしょうか。シナジー面でいうと、B社は申し分のない相手でした。
A社の成長課題の一つはネット販売の強化でした。コロナの影響で通販の売上は伸びましたが、A社では、注文が入れば店舗で包装して発送するという対応をとっていました。さらにネット販売を拡大させる場合、受注システムやロジスティクスの整備が不可欠です。単独でそれらを整備するには大きな投資が伴いますが、B社と組んでその仕組みに乗れば、新たな投資はほとんど必要ありません。C社長が描く夢やビジョンの実現という意味でも、B社は理想に近いパートナーだったのです。
これらのシナジーだけでもB社と組む十分な理由になりますが、もう一つ、C社長の気持ちを動かしたものがあります。
それは、自分自身の経営者としての成長です。
小さなショップを世界で通用するショップに育てた手腕は、誰しも認めるところです。しかし、経営者としては発展途上。本人もそのことを自覚していて、「経営者としてもっと成長したい」という思いを抱いていました。
C社長が単独で経営を続けても、自力で会社を成長させることができたかもしれません。しかし、C社長はデューテリジェンス(買収監査)を受けて、「大手のグループに入ったほうが学びは大きい」と痛感したそうです。
それまでA社の管理には、今後整備を要することが多くありました。当然、監査でも指摘事項は少なくありませんでした。単独で経営を続けていたら、それら本来是正するべきことに早期に取り組んで改善することは困難だったでしょう。しかし、大手グループに入ることを機に、「是正事項を後回しにしてはいけない」という思いがC社長に強く意識されました。これは大きな気づきでした。
B社の社長は、C社長に「うちの社長をめざしてください。」と話したことがあります。いまは発展途上であるものの、十分な伸びしろがあり、本人も貪欲に成長しようとしていることがわかっているからこそのエールです。
このひと言は、C社長の心に響きました。B社のグループで協業することは、より大きな規模で経営を学ぶ絶好の機会となります。しかも、自分の成長しだいで、より大きなステージで力を試すことができる──。
その可能性にC社長は心躍りました。
株式譲渡の契約は、当社との初面談から約1年後の2021年春に締結されました。
M&Aが成立したばかりでシナジーが出るのはこれからです。
真っ先に変わりそうなのは労務面の体制です。これまでは多忙を極めるなか、C社長一人で管理してきましたが、それでは早期に是正した組織を実現できません。現在、B社とコネクションのあるプロフェッショナルをA社に送り、組織づくりの強化を行っている最中です。組織体制が整備・強化されれば、交渉中に共感した両社のコラボレーションが具体的なかたちで進んでいくものと思われます。
そのとき、A社、そしてC社長はどこまでパワーアップして、グループの中でどのような存在になっているのでしょうか。
この「成長戦略型M&A」の成否を判断するのは、それを見届けてからになります。
いかがでしたでしょうか?
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