譲渡オーナーとの語らい Vol.8 有限会社メリーコーポレーション様(茨城県・調剤薬局)

田島 聡士

日本M&Aセンター調剤支援部

業界別M&A
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近年、調剤薬局を取り巻く経営環境は大きく変わってきている。従来通りの経営を続けていくだけでは処方箋単価は下がり、薬局経営がより厳しくなっていくことを予測する声も大きくなっている。
このような中で、会社の将来を見据えた経営戦略のひとつとして、M&Aを選択される薬局オーナーが増えている。
今回は、茨城県日立市で調剤薬局2店舗を運営している有限会社メリーコーポレーション元代表取締役の藤田広行氏に、M&Aに至るまでの経緯やM&A後についてお話を伺った。藤田氏は、2019年10月にルナ調剤株式会社とのM&Aを実施されている。

事業、業界の将来を考えていかなければならない。

田島:2019年の秋に譲渡されてから1年半程が経ちますが、当時のお話を中心にお聞かせ頂きたいと思います。最初、セミナーに参加頂きましたが、参加しようと思ったきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

藤田様:調剤薬局経営者向けの経営勉強会に参加しておりまして、そこの1人が「M&Aをする」と言ったことがきっかけです。「今すぐではないものの、事業を承継することを考えていかなければならない」と感じました。一方で、M&Aが具体的にどういうものであるのかがわからなかったので、「勉強しよう」と思い、いつもは封も切らずに捨てていたDMを開けて中の資料をみるようになりました。
そこでたまたま、日本M&Aセンターさんが開催する調剤薬局M&Aセミナーを知り、M&Aに関する知識を知りたい、調剤薬局業界がどのような状況にあり今後どのような方向に進んでいくのか具体的に話を聞いて現状の把握をしよう、と、セミナーへ申し込みをしました。

田島:他のセミナーなどには参加されたのでしょうか?

藤田様:他のセミナーには参加していません。日本M&Aセンターさんのセミナーは、水戸で開催されておりましたので、「水戸なら近いし勉強しに行ってみよう」と思い参加しました。

田島:実際に参加をされて、いかがでしたでしょうか?水戸の会場で私がお話をさせて頂いておりまして、セミナー後にもいろいろとお話をさせて頂いたのを覚えています。

藤田様:正直、衝撃を受けました。自分が考えている以上に調剤薬局業界は変化していると知り、危機感を感じました。M&Aについてもっと深く勉強をしなければならない、と改めて考えました。
セミナーに参加し、田島さんから様々なお話を伺い「この人なら大丈夫だ」と感じ、相談したいと思い面談もさせて頂きました。実際にM&Aを進めていく中での田島さんの一言一言はとても説得力がありましたし、とにかく信頼をしていました。田島さんの非の打ちどころのない仕事ぶりが信頼できたため、他の仲介会社さんを検討しようといった事は全く考えませんでした。

田島:ありがとうございます。
調剤薬局業界の現状・今後の動向を踏まえ、M&Aという事業承継の手法があるということを認識されても、なかなか動くことができない経営者様が多い中で、藤田様のお考えがM&Aへ傾いていったのは何故だったのでしょうか?

藤田様:常日頃から様々な不安を抱えて経営をしていました。特に2014年の調剤報酬改定で、経営的に大きなダメージを受けており、今後のことについても考えることがとても多くありました。ドラッグストアの調剤併設店の進出が増えてきたことも一つです。
M&Aについて勉強をしていくうちに、事業を自力で存続をさせていくこと、拡大して存続をしていくことともう一つ、医療資源を地域に残していく手法の一つとしてM&Aという選択もあると思うようになりました。

この会社に任せたらうちの会社は将来に渡っても安泰なのだろう、と決断

田島:初めはM&Aや、調剤薬局業界について勉強をしたいということで、セミナーにご参加頂いており、会社を譲渡するというお考えはなかったかと思いますが、譲渡に気持ちが傾いたきっかけや、お考えの変遷をお聞かせ頂けますでしょうか。

藤田様:一つは自社の企業価値を知りたいと思ったことです。社長は自社の企業価値をきちんと知る必要があると思います。その次として、具体的な方法をとっていくべきだと考えていました。そこで、日本M&Aセンターさんに企業価値を出して頂いたところ、自分が思っていたよりも企業価値が高く、驚きました。実際に譲受け企業さんからどのように評価されるのか知りたくなり、進めていきました。
譲渡については、「どこかでM&Aやめるかも」、「次のステップで考えよう」と思いながら進めており、そう言いながら進んでいくうちにリアリティが出てきた、という感じでした。

田島:結果、数多くの企業さんから手が上がりました。非常に経営状態が良いタイミングで譲渡を決断するということはとても勇気のいることだと思いますが‥。

藤田様:元々やはり、不安はずっとありました。社長業は孤独な仕事です。なかなか相談もできないなかで、セミナーや面談を通じて危機感がつのっていました。
譲受け先であるルナ調剤さんとのTOP面談の際に、社風や社長のお人柄、E-BONDグループさんのビジョン、どのような将来を描いているかといったお話を伺い、「勢いもビジョンもある、この会社に任せたらうちの会社は将来にわたっても安泰なのだろう」と思い、この会社に託そう、と真剣にM&Aに向き合おう、と決めました。

田島:決断に至るまでにものすごくお悩みになったかと思いますが、奥様にはご相談されていたのでしょうか?

藤田様:していました。元々、調剤薬局研究会での話など、様々な情報を共有してました。私が、最初セミナーへ参加すると伝えた際は、「そういうことを考えるようになってきたんだなあ」と思ったことでしょう。M&Aを進めていくことについて反対はしていませんでしたが、一緒に20年間、薬局を守ってきていたので、思うことや感じ取っていたことはあったと思います。
気持ちが100%で固まっていない時に、「最終的に決断するのは自分しかいない」と、背中を押してくれたのは妻でした。

従業員への開示、泣いてしまうスタッフも

田島:買収監査や最終契約等、ディール中のご苦労とかはございましたか?

藤田様:日々の業務に加えて進めていくこととなり、時間的にも精神的にも大変でした。従業員には知られてはいけないという中で書類を集める等、表立って動くことができないことが非常に多かったですし、会社を譲渡しようとしている素振りは絶対に見せられない、とても複雑な気持ちの毎日でした。一番きついと感じたのは精神面でした。

田島:そうですよね。その分、従業員の皆様や処方元のドクター様への開示も大変だったのではないかと思いますが、いかがでしたでしょうか?

藤田様:従業員や処方元への開示は一番心配していたところでした。
どのような説明をすれば納得してもらえるのか、たくさん、色々なことを考えていましたが、
いざ話をするタイミングになると、「もう、格好つけずに自分の気持ちを率直に素直に全部話そう」と、自分の気持ちを話すことで理解をしてもらうしかないと考え、正直にすべてお話をしました。
従業員にはやはり動揺がありましたし、泣き出す者もおりましたが、最終的には私の気持ちも含めて、理解してもらうことができました。
処方元にも、薬局の状態や将来のことなど、自分の気持ちなど全てお話をしたところ、快く理解を示して下さって、とても安心しました。

田島:お話を伺って、泣いてしまう方もいらっしゃったというのは、それだけ藤田様の作り上げた会社に対する愛着や、職場での働きやすさといった居心地の良さを感じていらっしゃったのかと思いますし、ご理解頂けたのも、日ごろの信頼関係があってのことなのかな、と思います。

夫婦で乗り越えてきた20年

田島:従業員の皆様や処方元様への開示と同じくらい、調印式も緊張なさっていたと記憶しておりますが、調印式の前後のお気持ちはどのようなものでしたでしょうか?

藤田様:調印式は非常に緊張しておりまして、前日はなかなか寝付けないほどでした。
当日も緊張のあまり、ハンコを押す手が震えてしまうほどでした(笑)
実際に娘がおりますが娘を嫁がせる気持ちに似て、ほっとした、嬉しいという気持ちと、寂しいという気持ち、色々な感情があり「ああ、20年間が、ここで終わってしまうのか・・」と思うと、20年間の様々な出来事が頭の中を駆け巡っていき、思わず涙が出てしまいました。

田島:藤田様とは色々お話をさせて頂いておりましたし、私も思いが巡ってしまい、調印式では泣いてしまいました。

藤田様:調印式の当日、式の後に妻と食事をしまして「20年間色々あったね。でも、良かったね。」と、とても良い形で良い会社にバトンタッチをすることができたという、安堵感が一気に湧いてきたのか、二人で涙を流しながら、食事をしていました(笑)。傍から見たら、「あの二人、別れ話でもしているのか…」と思われていたことでしょうね(笑)
「20年間、一緒に頑張ってきて、乗り越えてきたんだなあ」と感慨深い気持ちでいっぱいになりました。

2019年10月成約式にて

M&Aはとても良い着地点

田島:譲渡後1年半程経ちますが、近況はいかがでしょうか?

藤田様:1年半が経ちますが、誰も辞めていないと聞いています。従業員の皆様が納得して働いてくれていること、譲渡後のルナ調剤さんの運営もうまくいっているのかな、と思います。M&A後に従業員が大量に辞めてしまうケースがあると聞いたことがありますので、皆さんが残ってくださっているということは、うまくいっているのかな、と思っています。

田島:藤田様ご自身の近況は如何でしょうか?

藤田様:私自身は、昔から55歳までに完全引退をし海外へ移住したいと思っており、現在はそれに向けて準備をしています。会社を譲渡することで様々な重圧や時間的な制限が少なくなったことで、英語の勉強や物件を探すなどの自由な時間ができたことも含めて、M&Aというのはとても良い着地点だったと感じています。田島さんが手を尽くして下さったおかげで、このような最高の結果につながったと感謝しています。

著者

田島 聡士

田島たじま 聡士さとし

日本M&Aセンター調剤支援部

明治大学理工学部卒業後、広告会社にて展示会の企画・立案。日本M&Aセンターに入社。調剤薬局業界の再編にかかるM&Aを専門とし、多くの案件を成約に導く。主に岩手県・宮城県・秋田県・山形県・福島県・新潟県・茨城県・神奈川県・愛知県・岐阜県の調剤薬局を担当している。

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