従業員持株会とは?配当金など仕組み、メリットを解説
従業員持株会とは
従業員持株会とは、 従業員から会員を募り、 会員の毎月の給与や賞与などからの拠出金 を原資として自社株を共同購入し、 会員の拠出金額に応じて持分を配分 する制度を指します。
なお、会社に従業員持株会があっても、 持株会への加入は従業員の任意 とされています。
従業員持株会の会員資格は「当該会社の従業員」であり、 取締役や執行役などの経営陣は、会員となることができません 。
持株会を採用する企業や加入者は年々増加傾向にあります。東京証券取引所のレポート※1によると、東京証券取引所に上場する3,752社(2021年3月末時点)のうち少なくとも3,262社が持株会制度を導入していることがわかります。加入者数も増加傾向にあり、2022年度は約303.3万人に上りました。
近年の超低金利を背景に、有効な運用先として多くの会社が採用する持株会について、まずはその仕組みについて見ていきましょう。
※1 出典:「2022年度従業員持株会状況調査結果の概要について| 東京証券取引所 」(https://www.jpx.co.jp/markets/statistics-equities/examination/tvdivq0000001xhe-att/employee_2022.pdf)
※2 持株会には従業員のほか、役員を対象とした「役員持株会」、取引先を対象とした「取引先持株会」などもありますが、本記事では「従業員持株会」について解説していきます。
この記事のポイント
- 従業員持株会は、従業員が給与から拠出金を出し合い、自社株を共同購入する制度で、会員の任意加入となる。
- 持株会の会員は従業員に限られ、経営陣は参加できない。多くの企業が導入し、2022年度の加入者数は約303.3万人に達した。
- 従業員にとってのメリットは奨励金、少額からの株式購入、中長期的な資産形成の容易さであり、企業側は福利厚生の充実や安定株主の確保が期待できる。
⽬次
従業員持株会の仕組み
持株会の基本的な仕組みは以下の通りです。
- 自社株取得の原資として会員から拠出金を募る(毎月給与等から一定額が天引きされるのが一般的)
- 持株会が自社の株式を共同購入する
- 買い付けた株式は拠出金に応じて会員に配分される
前述のとおり、持株会は株式を取得するための費用として、従業員の給与や賞与から定期的に一定額を拠出し、自社の株式を購入します。従業員は各々の出資額(拠出額)に応じて、配当金を得られる仕組みになっています。
持株会を通して購入した株式は持株会のものであり、 従業員が直接所有するものではありません 。例えるならば、分譲マンションなどと同じで共有持分となります。
組織・運営について
持株会は、設立のために官公庁へ届出を出す必要がないため、一般的に 組合 の組織形態をとります。組合を設立するためには、設立発起人を誰にするのか決める必要があります。
また、持株会の管理運営は、 社内に置く場合 と証券会社などの 社外へ委託する場合 の2種類があります。一般的には社外の証券会社などへ委託する場合が多く見られます。
なお、従業員持株会は上場企業だけでなく、中小企業など未上場企業でも導入されています。
従業員持株会のメリット(従業員側)
冒頭で触れたように、持株会は従業員、会社双方に様々な影響をもたらします。まずは従業員にとってのメリットを見ていきましょう。
奨励金が付与される
従業員にとって最大のメリットともいえるのが 奨励金 です。奨励金とは、従業員が自社株を購入する際、会社が一定割合の金額を上乗せし、その分だけ多く購入できる仕組みです。
持株会を実施する企業の9割が奨励金制度を採用しており、一般的には 5%~10%の割合 のケースが見られます。
たとえば、奨励金が10%に設定されている会社において、「毎月1万円ずつ持株会を通じて自社株に投資する」という場合であれば実際に購入できる株式数は以下です。
(例)株価が1,000円の場合の購入株式数
{毎月の購入金額10,000円+奨励金(10,000円×10%=1,000円)}÷株価1,000円=11株
会社によっては奨励金制度ではなく、その他のインセンティブ制度が付与される場合があります。いずれの場合も、個人で株式取得する場合には無い特典であるため、上手く活用するようにしましょう。
株式を少額から購入できる
株式は通常100株単位(1単元)で取引が行われます。そのため最低単元の株を買うには数万円~数十万円必要になります。
一方持株会では、1株から購入でき、最低拠出額1,000円~数千円程度と1,000円単位で取得できるケースが一般的であり、無理のない範囲で株を保有することができます。
中長期的な資産形成がしやすくなる
毎月一定額が積み立てられ、奨励金によって多く株式を購入できるため、従業員にとっては手間をかけずに資産形成を行うことが可能となります。
業績によっては配当金の増額も期待できます。
持株会のメリット(企業側)
次に企業にとってのメリットについて見ていきます。
福利厚生の充実につながる
奨励金などの便宜を与え、従業員の中長期的な資産形成を支援する持株会は、会社独自の法定外福利厚生として位置づけられ、多くの企業で採用されています。福利厚生の充実は対外的な評価や従業員の満足度にもつながります。
安定した企業経営につながる
会社にとって従業員持株会は、長期に自社の株を保有する安定した株主となります。自社株が外部に流出することを防ぐため、第三者の一般株主から大量に自社株を取得される敵対的買収の防止策にもなりえます。多くの従業員が持株会に加入することで、結果安定的な企業経営につながります。
従業員の経営への参画意識、モチベーション向上につながる
自分自身の頑張り、会社の業績が自らの配当金に還元されるため、従業員の仕事に対するモチベーションや、株主として経営への参画意識の高まりが期待できます。
事業承継対策として活用できる
未上場会社における持株会制度導入のメリットとしては事業承継(相続)対策が挙げられます。
中小企業の株価が高くなり過ぎてしまうと、事業承継や相続などで支払う株式取得のための対価が高額になり、現金で支払うのが難しくなってしまいます。このような問題を解決するために用いるのが、持株会です。持株会を設立し、オーナーが保有する株式の一部(経営権に影響しない割合)を持株会に譲渡・贈与することで、将来的に相続財産となる株式を減らすことが可能となります。
従業員持株会のデメリット・注意点(従業員側)
持株会の検討をする際、認識しておきたい従業員にとってのデメリット・注意点は以下の通りです。
株主優待を受けられない
多くの企業では株主に対して様々な優待を実施していますが、従業員持株会は自社株の購入を個人名義の証券口座ではなく、持株会の名義で管理しているため、株を購入しても株式優待は受けられません。
すぐに売却したくてもできない
持株会を通して購入した株式は、通常の株式投資のように売りたいタイミングで売れるわけではありません。持株会から従業員の個人口座に株式を振り替える手続きが必要になります。個人が証券会社に取引口座を開設するには数週間要することもあります。
また、株を売買する際は最低売買数量である1単元ごとになるため、1単元未満の株を現金化するには持株会を解約して買い取ってもらう手続きが必要になります。これらの手続きに時間がかかるため、持株会で購入した株式はすぐに売却したくてもできない点に注意が必要です。
好きなタイミングで株の購入ができない
持株会を通しての自社株購入は定期的に行われるものであるため、好きなタイミングでの購入はできません。通常の株式投資であれば、値下がりしたときに買って値上がりしたタイミングで売れるため、株価を見ながらリアルタイムでキャピタルゲインを得られます。
しかし、持株会は好きなタイミングで株の購入ができないため、狙った通りのキャピタルゲインが得にくい点はデメリットといえます。(ただし長期的に保有し、順調に値上がりをしていけば、売却するタイミングでキャピタルゲインを得ることも可能です)
会社の業績が悪化した時のリスクが高くなる
持株会制度を活用した資産形成は、非常に効率的で便利である反面、収入や資産の会社への依存度が高くなります。会社の業績が落ちると株価が下落し、保有資産にも影響する可能性が高くなります。
従業員の個人資産という点で考えたとき、万が一勤めている会社が倒産してしまうと、仕事だけでなく資産の大半も失くしてしまうことになります。業績が悪化すれば給料や賞与は下がり、無配当になることも考えられるでしょう。リスクヘッジの観点から、持株会以外の資産運用を検討することが必要です。
従業員持株会のデメリット・注意点(企業側)
一方、企業側にとってのデメリット・注意点は以下の項目が挙げられます。
配当を出し続ける必要がある
持株会制度の導入は、業績が順調で配当を出し続けられるうちは、従業員にも企業にとってもメリットがあり魅力的なものです。しかし、常に安定した状態で企業経営が行えることはあり得ません。世界情勢などの影響によって、業績が悪化することは十分に考えられます。
この際、業績悪化によって無配当にしてしまうと、従業員のモチベーションや会社への信頼度が下がってしまう恐れがあります。だからといって無理に配当を出せば、会社のキャッシュフローは悪化し、経営のかじ取りがさらに難しくなることは間違いありません。
これらを勘案したうえで、業績が悪化してもある程度配当金を出し続けなければならない点はデメリットといえるでしょう。
状況によってはインサイダー取引の対象となりうる
従業員持株会を通じて一定の計画に従い、毎月定時定額の買付(1回あたりの拠出額が100万円未満)を行うことは、インサイダー取引規制の適用除外となります。ただし、情報を得たうえで株式の買い増しをした場合や新たに持株会に入った場合などは、インサイダー取引の対象となりうるため注意が必要です。
従業員持株会制度を導入する際、検討すべきこと(企業側)
持株会を会社に導入するにあたり、検討すべき主な項目は以下の4点です。
① 持株会が持つ株式の保有比率
会社の株式を従業員が取得すると、持株数に応じて、以下の権利が与えられます。
持株数 | 付与される権利 |
---|---|
1株 | 株主代表訴訟、議事録閲覧 |
1%以上 | 株主総会での議案提出 |
3%以上 | 株主総会の開催、帳簿の閲覧 |
33.33%以上(1/3以上) | 特別決議の否決 |
実際経営に大きな影響を及ぼすケースは少ないですが、安定的な経営を維持するためには議決権をなくし、配当を優先する株だけを購入するなどの対策が必要です。最大でどれほどまでの株式を持株会が持てるのかを事前に検討しておく必要があります。
②奨励金の支給について
奨励金支給の有無は「自社株を持ちたい!」と思う従業員のモチベーションに大きく影響します。奨励金の支給を行うのかどうか、どのくらいの比率に設定するのか、専門家の意見を聞きながら検討する必要があります。
③配当金の支払基準の明確化
自社株を第三者に売却してキャピタルゲインを得ることができないため、持株会の会員の期待は配当金によるリターンに集まります。
従業員の加入を促進し、持株会がスムーズな運営を実現するためにも、他の株主に与える影響なども加味しながら、配当金の支払基準を明確にする必要があります。
④退職時など脱退時の株式の買い取り価格について
従業員が退職などで持株会を脱退する場合の買い取り価格も明確にしておく必要があります。
上場企業の株式であれば、株式は退職時などに個人口座へ振り替え市場で売却することが可能ですが、株式が市場で流通していない未上場企業の場合は、持株会が買い取ることになります。
そのため、持株会がどのような条件で買い取るか算出方法をあらかじめ規約などに明記しておく必要があります。
従業員から株式を買い取るためには、株式の評価をして時価を求める作業が必要ですが、前述のとおり未上場企業の株式は市場で取引されていないため、現在の株価がわかりません。
未上場企業の株式は、その株式の所有者によって以下のように評価方法が変わります。
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会社を支配している同族株主グループの場合・・・原則的評価方法
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その他少数株主グループの場合・・・特例的評価方法
会社を支配している同族株主グループとはオーナー社長やその親族などのことで、発行済株式数の50%超を持ち、実質的に会社を支配している株主グループのことです。
持株会の場合はその他少数株主グループに該当するため、特例的評価方法で株価を求めます。
特例的評価方法による株価算定法
特例的評価方法による株価算定法とは、配当金の金額から株価を算定する方法のことをいいます。会社を支配している同族株主グループは、会社の経営方針や取締役を決める権利などを持っています。
しかし同じ株式でも、少数株主は会社に対してそれ程の影響力を及ぼせないため、株式の価値としては配当金がもらえる程度でしかありません。
したがって、同じ株式でも、従業員が持つ場合は配当金の金額から逆算して株価を算定し、それを株式の評価額とするわけです。この評価方法を、配当還元方式といいます。
ただし、最高裁の判例では、従業員から持株会が株式を買い戻す場合は取得価格で買い戻すことは合法であると述べています(最判平成21年2月17日)。
持株会の規約に取得価格で買い戻す旨の規約が書かれている場合は、配当還元方式で計算せずにその価格で買い取っても問題はありません。
譲渡された会社の持株会はどうなるのか
会社がM&Aにより売却を決断した場合は、持株会が保有している株式も譲受企業へ売却することになります。
多くの持株会は組合という組織形態をとっているため、株式を売却するためには、会員全員の同意を得るか持株会を解散して清算手続きを行わなければなりません。こうして従業員の持つ自社株は譲受企業へ譲渡され、従業員はその対価を受け取ることになります。
終わりに
持株会の導入は、オーナー経営者にとって相続税対策や事業承継対策に有効なだけでなく、安定株主を増やすことによる経営の安定にも効果があります。一方、従業員にとっても奨励金が上乗せされる自社株購入は、個人資産の形成や資産運用にも役に立つだけでなく、働くモチベーションを高めて給料や賞与を増やすきっかけにもなります。
ただし、持株会の持株数が増えると議決権を持つため、経営の不安定化を招くことも考えられます。従業員にとっても、給料も株式による資産運用も会社任せにしてしまうと、万が一会社に何かがあったときには取り返しがつかないことになってしまいます。
持株会は長期的な運営となるため、導入についてはこれらを踏まえたうえで外部の専門家を交えて検討することが求められるでしょう。また導入時には事前に従業員に十分に理解してもらうための説明が必要になります。持株会への従業員の積極的な加入やスムーズな運用を維持するために、あらかじめルールを明確化することが望ましいでしょう。