25社譲受して成長するハシダ技研工業の「M&Aは人助け」の凄み
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「M&Aは人助け」を信条に2008年から2022年までの間、買い手企業として計25社を譲受した大阪市のハシダ技研工業株式会社。火力発電所に使用されるガスタービン部品は高い技術力から、ゼネラル・エレクトリック(GE)社や三菱重工業など名だたる企業を取引先に持ち、自動ドアの自社ブランドも好調な製造業のグループ企業です。後継者のいない製造業を譲り受けながら成長を果たしています。事業はグループ売上高200億円を超え、従業員数も1,200人超を誇ります。
インタビューコーナー「巧者に学ぶM&A戦略」の二回目は、トップとしてM&Aを成功に導いてきたハシダ技研工業の吉岡亨浩代表取締役社長にM&Aの哲学を聞きました。
―M&Aのきっかけは
2008年に日本M&Aセンターから飛び込みの営業がありました。「後継者がおらず困っている製造業の会社があるので資本提携しませんか」というのが始まりです。当時社長だった橋田寛会長が「会社ができる範囲で協力して救っていこう。結果的にそれが人助けになる」と考え、そのコンセプトは今も変わっていません。それがきっかけでこれまで25件のM&Aを行いました。ただ根底には、後継者不在が理由で日本の製造業の技術力がなくなってしまうのは非常にもったいないと考えている所もあります。
当社からM&Aの条件で、エリアや業種などを依頼したり、要望したりしたことはありません。あえて言えば、管理は難しくなりますが、自社が持っていない分野に挑戦しようとの思いはあります。だからこそ財務状況は二の次で、債務超過の会社を譲り受けたこともあります。語り尽くせないほどの苦労はしてきましたが、今までM&Aが失敗した事は一度もありません。
―ガスタービン部品やプレス加工部品など事業領域は幅広く、自動車や航空機、新幹線などにも製品が使われています。グループの強みは何でしょうか
グループ全体で強みを考えた時に、どこかの得意先や業界に依存していないことが挙げられます。言い換えれば景気の波に左右されにくいことです。グループでいろいろな業界の仕事をカバーしているので、景気の波を吸収できていると思います。業界によっては繁忙期や閑散期があります。グループ内で手が空いている会社から忙しい会社に技術者を派遣することも多いにあります。例えば機械加工の職人が自動ドアを作ることができるようになるなど、技術者の多能工化も実現できます。
不況だからと言って、第一に社員に仕事を辞めてほしくないと考えています。絶対にリストラなんてしたくありませんし、今までもこれからもするつもりはありません。近年、半導体不足が叫ばれていますが、過去にはあの半導体の業界でも暇な時期がありました。他にも少し前には工作機械はもう売れないとも言われていましたが、コロナを機に工場の省人化ニーズが高まり工作機械の需要が増加しております。そういう意味でも、どこか特定の得意先に依存しないということは非常に重要です。M&Aでグループの事業領域が広がることで、従来は部品単位で受注していた取引先から組み立て工程までをご依頼いただいたり、完成品まで仕上げてパッキングまで受注させていただくようになったりと、予想していなかった相乗効果も出るようになりました。
―M&Aを成功させる秘訣は何でしょうか
M&Aは輸血のようなもので、少なからず拒絶反応はあります。M&Aから最初の三カ月間は譲渡企業の従業員が「この先、どうなるんだろう」と特に敏感になる時期です。前向きな目に見える変化が必要かもしれません。例えば工場のトイレや食堂をきれいに改修したり、老朽化設備を更新したりと新しい仲間に喜んでもらう取り組みを行います。お互いを尊重し合った人と人とのコミュニケーションが大切だと考えております。
テクニカルな部分では、仮に負債が大きい場合には金融機関の返済を進めたり、企業を身軽にしたりすることが大切です。そのためまず固定費を下げる方法を考えます。一般的に金融機関との付き合いから、複数の銀行とやり取りしている場合が多いですが、当社では基本的には一つの金融機関に絞って取引する「一行主義」をお願いしています。管理をシンプルにすることは企業統合にも必要と捉えている事がその背景です。また従業員のために、たくさんの利益を残せるように、譲り受けた会社から私が役員報酬を一切受け取りません。これは会長の橋田もM&Aを始めた当初から一貫しています。黒字の場合には夏と冬の賞与とは別に、決算賞与を設けて、従業員全員で成果を分かち合えるようにしています。
―ご自身も若くしてM&A後の統合プロセスで陣頭指揮に立ちました。社長としての想いを教えてください
私は、工業高校を卒業後、溶接の技術者として入社しました。当時は自分が社長になるとは夢にも思いませんでした。24歳の時に当社が初めてM&Aで譲り受けた会社に取締役として出向し、若くしてチャンスを与えてもらいました。その時は必死に働き続けて従業員と力を合わせて、従来の利益を5倍に改革した経験が自信になりました。あの経験がなければ今の自分はなかったと思います。
当社は「人をつくり、技を売る」の社是を掲げ、人材育成に力を入れています。年齢や学歴は関係なく、やる気のある社員がチャレンジできる社風が当社の魅力です。自分が与えてもらったように、これからもやる気のある若手を積極的に登用して、さらにやりがいのある会社にしていきたいと考えています。