ストックオプションとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説
ストックオプションとは?
ストックオプション(Stock Option)とは、企業が従業員や取締役に対して株式を購入する権利を与える制度です。頭文字をとり「SO」と表記されます。
対象者は、あらかじめ決められた価格で一定の期間内に企業の株式を購入することができます。対象者には一定の要件を満たした外部協力者を含める場合もあります。
アメリカで開始された制度ですが、1997年の商法改正にともない日本でも認定され、導入が始まりました。その後1999年に東証マザーズがスタートすると、ベンチャー企業の上場増加を背景に、導入する企業が広がっています。
この記事のポイント
- ストックオプションは、企業が従業員や取締役に株式を購入する権利を与える制度で、企業の成長に寄与するインセンティブとなる。
- ストックオプションのメリットには優秀な人材の確保やモチベーション向上があり、デメリットには持株比率の低下や経営への干渉がある。
- 導入時には、割当数や付与条件の明確化が重要で、適切な設計が求められる。また、ストックオプションは新株予約権の一種であり、従業員持株会とは異なる。
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ストックオプションはどういう仕組み?
ストックオプションを付与された従業員や取締役は、あらかじめ決められた権利行使価格で自社の株式を購入します。そして、株価が上昇したタイミングで売却することで、購入価格との差額をキャピタルゲインとして獲得することができます。
なお、ストックオプションはあくまで「義務」ではなく「権利」であるため、期間内に必ず自社株を購入・売却することを強要するものではありません。権利行使期間内に株価が下がり続ける場合、権利を行使しないという選択肢もあります。
このように従業員や取締役などストックオプションの権利を付与された人にとっては、企業の業績向上がインセンティブになるという仕組みです。
ストックオプション導入に向いてる企業とは?
ストックオプション導入に向いているとされるのは、将来的に高い成長が見込める企業、つまりIPO(新規上場)を目指す企業です。
特に、起業時は高額な給料や福利厚生の提供が難しいベンチャー企業にとっては、優れた人材を確保する有益な手段となるでしょう。
また既に上場している企業でも、人材確保や従業員の定着化に課題を抱えている場合、状況によってはストックオプションが有用な手段になりえるケースもあります。
ストックオプションのメリット
ストックオプションを導入する主なメリットは、以下の通りです。
優秀な人材の確保、定着化
ストックオプション制度は、人材採用にあたってアピールポイントになります。就職・転職情報サイトの中には、企業の検索条件にストックオプションの有無を設定しているところもあります。
将来的に魅力あるインセンティブとして、より優秀な人材を確保につながるでしょう。また、権利を付与することで人材流出の抑止、定着化も期待できます。
従業員のモチベーションアップ
ストックオプションのメリットとしてまず挙げられるのが、会社全体のモチベーションを押し上げることです。
つまり「自分たちの日々の頑張りで会社の価値を上げれば、キャピタルゲインが増える」ため、一般の社員から役員まで「会社の価値向上」という共通の目的を持ち、それを達成するためのアクションを自発的に促します。その結果、企業の持続的な成長が期待できるでしょう。
ストックオプションのデメリット
ストックオプションを導入するにあたって想定されるデメリットは、以下の通りです。
株価の変動がモチベーションに影響する
ストックオプションはモチベーションアップというメリットがある反面、株価下落によってモチベーションの維持が難しくなるというリスクもあります。
業績に大きく左右されるのがストックオプションの特徴ですが、業績は企業努力だけで決まるものではありません。地震や台風などの自然災害、世界規模の景気低迷、など想定外の外部要因の影響を受ける場合もあります。そのため企業側は株価の動向を見越し、株価上昇の対策をとることが求められます。
社内で不公平感が生まれかねない
一部の社員や役員がストックオプションを付与されている場合、社内に不公平感が生まれ、モチベーションに差が生まれる可能性もあります。そのため、業績への貢献度や勤続年数など、ストックオプションを与える基準をはっきりと定める必要があります。
権利行使後に離職する可能性もある
ストックオプションが人材確保に有利に働く反面、権利を行使後に、離職してしまう可能性も考えられます。
企業によっては、多額のキャピタルゲインを獲得した直後に離職が発生するリスクを回避するために、一定期間が経過するまでの間、権利を行使できないようにする条項(べスティング条項)を設ける場合もあります。
ストックオプションの税制優遇措置
ストックオプションは原則として給与所得として扱われるため、権利行使により得た利益に対し税金が発生します。
権利の行使で得られる利益に対して税制優遇措置がある「税制適格ストックオプション」と税制優遇措置が設定されない「税制非適格ストックオプション」それぞれについて見ていきます。
税制適格ストックオプション
税制の優遇を受けられるストックオプションで、ベンチャー企業などでの導入が多く見られます。
権利を付与される際に金銭の支払いなどが発生しませんが、税制優遇を受けるには厳しい要件を満たす必要があります。具体的には、租税特別措置法第29条の2の要件を満たす必要があります。
要件例)
・権利行使価額の年間の合計額が、千二百万円を超えないこと。
・行使に係る一株当たりの権利行使価額は、権利付与時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること
・譲渡をしてはならないこと 等
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションは、税制優遇措置が設定されていないストックオプションです。
厳しい要件が無い反面、権利行使により得た利益に対して、最大約55%の給与所得課税が適用されます。
出典:国税庁「No.1543 税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1543.htm)
ストックオプションの種類
ストックオプションはその他にも様々な種類があります。
株主報酬型ストックオプション(1円ストックオプション)
株主報酬型ストックオプションは、税制非適格ストックオプションの活用型です。権利行使価格を「1円」などの低い金額に設定するため、「1円ストックオプション」とも呼ばれます。
権利行使時にその時点の株価とほぼ同等の利益が得られるため、退職金として使われるケースも見られます。
有償ストックオプション
有償ストックオプションは、一定の価格を支払うことで株式を購入する権利を得られるストックオプションです。
税制非適格ストックオプションでは最大約55%の給与所得課税が発生しますが、有償ストックオプションでは最大約20%の譲渡課税のみが課されられる点が特徴です。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションは有償ストックオプションの活用型です。発行した全員分のストックオプションを信託に預けて、満了期間まで保管するものです。
保管されている期間は、ストックオプションに交換できるポイントを権利行使者に付与し、信託満了時にポイント数に応じてストックオプションが割当てられる点が特徴です。導入コストなどの金銭的負担、税務上の取扱いに注意する必要があります。
ストックオプションの導入に必要な手続き
ストックオプションを導入する際に必要な手続きをご紹介します。
募集要項の決定
ストックオプションの導入には、権利付与の条件を記載した募集要項を株主総会などで決定する必要があります。会社法第238条に定められた募集要項の主な内容は以下の通りです。
- 募集新株予約権の内容及び数
- 無償発行か否か
- 募集新株予約権の払込金額またはその算定方法
- 募集新株予約権を割り当てる日
- 募集新株予約権と引換えにする金銭の払込みの期日を定めるときは、その期日 等
募集事項が決まったら、割当対象者や割当数を決めます。割当が決まったら、企業はストックオプションの発行日以降に、新株予約権原簿を作成して記録する必要があります。また、新株予約権は登記事項であるためストックオプションの登記も必要です。
ストックオプションの導入には、会社法をはじめとした関連法令に則る必要があるため、弁護士や会計士などの専門家へ依頼して手続きを進めましょう。
M&Aにおけるストックオプションの取り扱い
M&Aが行われた場合、それまでのストックオプションはどのように扱われるのでしょうか。ケース別に見ていきましょう。
譲渡先の完全子会社になる場合
すべての株式を譲渡し、譲渡先の完全子会社になる場合、ストックオプションは事実上消滅します。ストックオプションを行使されると、親子会社の関係、優位性が崩れ、買い手にとって不利な状況になりうるためです。
一般的には、譲渡先が対象企業のストックオプションを公正な価格で買い取るケースが多くあります。
そのほか、権利行使者が「新株予約権買取請求権」によって発行会社(売り手企業)に対してストックオプションを公正な価格で買い取るよう求めるケースや、譲渡先である買い手企業が、自社のストックオプションを対象企業の権利保有者に交付するケースもあります。
合併等で法人格が消滅する場合
吸収合併や新設合併などで法人格が消滅する場合、ストックオプションも同時に消滅します。
この場合も権利行使者の不利益を避けるために、存続会社または新設会社(買い手企業)のストックオプションを対象企業の権利行使者に交付したり、金銭的補償を行います。
存続会社または新設会社のストックオプションが付与されない、もしくは内容が不十分な場合は、権利行使者は発行会社(売り手企業)にストックオプション買い取りを請求できます。
合併する際には、このようなストックオプション交付や金銭的補償について契約内容に明記する必要があります。
ストックオプションを導入する際の留意点
ストックオプションを企業のインセンティブとして有効に機能させるためには、慎重にシミュレーションして設計することが大切です。最後に導入時に留意しておきたいポイントをご紹介します。
割当数は株数ではなく持分比率で考える
ストックオプションは株数ではなく、持分比率(発行済み全株式に対して対象者が所有する株数の割合)で考えるようにしましょう。
一般的にストックオプションの持分比率は10%前後で設定するケースが多く見られます。比率が高くなり過ぎてしまうと、多くのストックオプションが行使された際、既存株主の株式の希薄化につながるため注意が必要です。
そのため「いつ」「誰に」「どの程度」を交付するかについて、入念に検討する必要があります。
付与する条件を明確にする
付与対象者の条件が曖昧な場合、従業員など関係者間で不満や不公平感が生じかねません。結果的に離職やモチベーション低下につながってしまっては、本来の目的を達成できません。
そのため、業績への貢献度、勤続年数など明確な条件を設定する必要があります。
ストックオプションと新株予約権の関係
新株予約権とは、会社があらかじめ決められた価格で株式を取得できる権利を指します。ストックオプションは、従業員や取締役、社外協力者など会社関係者に対象を限定し、報酬として付与します。一方、新株予約権は、ストックオプションのように対象を限定することなく、一般投資家等が取得できるという点で違いがあります。ストックオプションは新株予約権の一つであり、あくまで社内向けの制度です。
ストックオプションと従業員持株会の違い
従業員持株会とは、会員の毎月の給与や賞与などからの拠出金を原資として自社株を共同購入し、会員の拠出金額に応じて持分を配分する制度を指します。
ストックオプションでは「自社の株式を決められた価格で購入する権利」が付与されますが、従業員持株会では実際に従業員が株式を保有するという点で違いがあります。
終わりに
以上ストックオプションについてご紹介しました。
ストックオプションは、企業の業績が上がり株価が上昇すれば、権利保有者にとって魅力的な制度です。適切なストックオプションは大きなインセンティブとなり、関係者のモチベーションアップ、結果的に企業価値向上につなげられるでしょう。
ただし、導入にあたっては専門的な知識が求められます。よく制度を理解したうえで、自社の資本政策と照らし合わせつつ、入念に準備を進めましょう。