会社の解散から清算までの流れとは?手続きを詳しく解説
会社の「解散」とは
会社の解散とは、事業活動を停止し、債券債務を整理する手続きに入ることを指します。廃業の準備に入った状態ともいえます。通常、特段理由がない状態で解散は認められません。業績悪化や後継者不在などの理由で事業継続が困難になった場合のほか、会社法により定められている事由のいずれかに該当すると、会社は解散し清算の手続きに入ります。
実際に、会社を解散すると決めた時にどのような手続きが必要となるのか。本記事では解散の概要、解散にともなう各種手続き、注意点など詳しく解説していきます。
この記事のポイント
- 会社の解散理由には業績悪化や後継者不在などがあり、通常は株主総会での特別決議が必要である。
- 解散後は清算手続きが行われ、資産や負債の整理、債権者保護手続き、残余財産の分配などが進められる。清算には通常清算と特別清算があり、最終的に法人としての会社が消滅する。
- 解散から清算結了までの期間は会社によって異なり、公告期間が2ヶ月以上必要なため、清算完了までに2、3年かかる場合もある。また、登録免許税や専門家への手数料などの費用も発生する。
⽬次
会社の「解散」事由
会社法で定められている解散事由 は以下の通りです。
会社法で定められている解散事由 |
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定款で定めている存続期間の満了 |
定款で定めている解散事由の発生時 |
株主総会の決議 ※「解散する」と決議した日に解散となる |
合併により会社が消滅するとき ※吸収合併の場合 |
破産手続きを開始したとき |
裁判所から解散命令を受けたとき |
休眠会社のみなし解散 ※最後の登記から12年を経過している株式会社は解散したものとみなされる |
出典:会社法第8章第471条
手続きを進める前提として、基本的に株主総会を開催して特別決議を提議しなければなりません。(株式会社の場合は、株主全員による書面決議でも対応可能です。)
決議後には必要な登記や清算人の選任、税務関係、社会保険関係などの届出、そして取引先など会社の利害関係者を保護するため、後述の「清算手続き」を行います。これらすべてが終わった時点で完全に会社が解散したことになります。
また、休眠会社(最後の登記から12年が経過している株式会社)においては、通常の手続きで行う場合とは異なり、みなし解散によって廃業したとみなされるため、区別が必要です。休眠会社は、2ヶ月以内に役員変更等の登記もしくは事業を廃止していない旨の届出をするように公告され、登記所から通知が送られます。登記所からの通知を受け取ったあとにも上記の届出をせずに放置していると、みなし解散の登記が行われます。ただし、解散の登記後3年以内に会社継続の申請を行うことでを会社を継続することができます。
会社解散後の「清算手続き」とは
会社は事業を停止し、解散しても、直ちに消えてなくなるわけではありません。
会社が所有する資産や負債を処分する法的な手続きを行う必要があります。これを清算手続きといいます。
「清算」は英語で「Liquidate」であり、「負債などの額を決定する・決済する・整理する」という意味を持ちます。
解散後には会社の事業活動が停止しますが、清算をすべて完了するまで会社は存在するものとされます。
具体的には、清算人によって以下の「清算手続き」が行われます。
- 現務の結了(取引先や従業員との契約解除、解消)
- 債権の回収(売掛金などの債権の回収)
- 財産の換価処分(換価できる財産の処分)
- 債務の弁済(借入金などの、債務の返済)
- 株主等への残余財産の分配(残った財産を株主等に分配)
また「清算手続き」は会社の状況に応じて2つの方法があります。
通常清算 | 解散した会社が残った債務を試算の売却などで全額支払うことができる場合の清算方法。 |
特別清算 | 解散した会社が会社の資産では債務を完済できない、いわゆる債務超過の場合に、裁判所の監督のもと行われる清算方法。いわゆる倒産手続き。 |
なお、倒産手続きとしては、もう一つ「破産手続き」があります。特別清算と同様に残っている資産で債務を完済できない場合に行われ、特別清算と同様に、裁判所に「破産の申立て」を行い、裁判所の監督下で清算を進めます。破産手続の開始にあたって裁判所が「破産管財人」を選任、破産管財人が清算手続を行う点が特別清算と異なります。
これら清算手続きが終了すると、法人としての会社が消滅します。※本記事では通常清算を想定して説明を続けていきます。
会社の解散決議から清算結了までの流れ
次に具体的な流れを見ていきましょう。株主総会による決議によって解散する場合の主な流れは以下のとおりです。
- 株主総会による解散決議
- 解散・清算人選任と登記
- 解散の届け出
- 財産目録と貸借対照表の作成
- 債権者の保護手続き(官報公告と個別の催告の実施)
- 解散確定申告書の提出
- 残余財産の確定・株主等への分配
- 清算確定申告書の提出
- 決算報告書の作成・株主総会での承認
- 清算結了
- 清算結了の届け出
大まかな流れを挙げるだけでも複数のプロセスが存在します。
解散決議から清算終了まで、届出の期限に遅れないように計画を立てて、処理を進めることが大切です。
1つひとつを簡潔に見ていきましょう。
1.株主総会による解散決議
解散決議は特別決議の要件によって行われます。つまり、議決権を行使できる過半数の株を持つ株主が出席し、出席した株主の2/3以上の賛成をもってする決議されます。
この解散の決議と同時に、その後の清算手続きを行う「清算人」選任も行われます。
※株主総会を開かずに全株主の同意を得て「書面決議」を行った場合にも決議は有効となります。
2.解散・清算人の選任と登記
決議が有効となれば、資産・債務などを清算する処理に移行します。
清算業務は前述の決議で専任された「清算人」が行います。
清算人の選任方法は「定款に定めている者が清算人になる」「取締役が清算人になる」「裁判所が選任する」などがあります。しかし定款に清算人の選び方まで定めているケースは少なく、一般的には取締役が清算人にされることが多く見受けられます。
選任された代表清算人は、会社の解散日から2週間以内に解散の登記と一緒に「清算人選任登記」を行います。
登記申請先:会社の本店を管轄する法務局
「解散と清算人選任」の登記申請時には、決議を行った株主総会の議事録、定款などの提出、登記免許税を支払う必要があります。
(登録免許税)・・・解散の登記:3万円、清算人選任の登記:9,000円
もし2週間を過ぎて解散登記が行われない場合、法人住民税などの納付義務が生じ、法人税等の確定申告を行う必要があります。登記上では会社が存在し続けるため、会社の存在を利用したトラブルに巻き込まれる可能性が残るなど、さまざまな問題が生じます。
3.解散の届け出
登記が完了したらすみやかに「異動届出書」と「登記事項証明書」を作成・準備して、解散のための処理が必要な各公的機関に届出を行います。
届出先:税務署・県税事務所、市税事務所、年金事務所やハローワーク、労働基準監督署などの公的機関
4.財産目録と貸借対照表の作成
清算人は財産目録・貸借対照表を作成して会社の財産を明確にし、株主総会の承認を受けます。
5.債権者の保護手続き(官報公告と個別の催告の実施)
会社の利害関係者となる債権者の保護も重要です。
清算人は債権者に対して会社が解散する事実や、一定期間内に保有する債権の申し出るべき旨を「官報公告」と「個別の催告」を通じて伝えます。
官報公告 | 国が発行する機関紙。会社を解散した場合、解散公告を出すことが義務付けられている。全国にある官報販売所にて掲載の申し込みを行う。 |
個別の催告 | 会社が解散した事実をより確実に気づかせるため、会社が把握する債権者に直接行う通知。 |
6.解散確定申告書の提出
解散日から2ヶ月以内に、事業年度開始日から解散日までの期間で解散確定申告書を作成し、税務署に届け出る必要があります。解散確定申告は基本的には通常の確定申告と同様に会計処理を行います。
7.残余財産の確定、株主等への分配
清算人は会社の資産・負債を調べてから売掛金など会社の債権を回収し、未払いになっていた買掛金、借入金などの債務の支払いを行います。
解散時に保有していた現金・預金以外の資産は、時価で売却して債務の弁済を行う必要がありますが、債権者の申し出を待つ官報公告期間中には、どの債務であっても弁済できません。債務の弁済は、債権申出期間が過ぎて債権者が確定してから実施します。
残余財産とは、清算手続きをして債権者に債務の支払いをしたあとに会社に残った資産のことです。清算人が債務の支払いをすべて終えて残余財産が確定したあとには、会社の株主に残余財産を分配しなければなりません。
8.清算確定申告書の提出
「清算確定申告書」は、解散後の会社の清算手続きについて申告するための書類です。残余財産が確定した次の日から1ヶ月以内に完成させて提出しなければなりません。
清算所得に対してかかる税金や法人税、法人税額の納付に関係しているため、清算中には解散した日の翌日から1年間の事業年度ごとに確定申告書を作り、提出する必要があります。確定申告書の提出により、税金の納付額などが決まるため、適切に処理を行うよう注意が必要です。
9.清算事務報告の承認
清算の決算報告書は、解散日の次の日から残余財産が決まる日までの期間で作成します。
資産を処分して換価した金額、回収した債権額などの金額を収入金額として、債務の弁済と清算業務などにかかった金額を費用にし、収入から費用を差し引いた金額が残余財産です。
残余財産が決まったあとには、さらに1株に対して分配できる金額を算出します。これらの内容で作成した清算事務報告書を株主総会に提出し、承認を得ます。この承認によって、会社の法人格が消滅することになります。
10.清算結了の登記
株主総会で承認されたあとに、清算結了の登記を行います。
登記は承認されてから2週間以内に済ませなければならないため、注意しなければなりません。
当期には、登記申請書、株主総会議事録、登録免許税(2000円)の用意が必要です。
11.各公的機関への清算結了の届け出
清算結了の登記完了後すみやかに税務署、都道府県税事務所、市区町村役場など各公的機関に清算結了の届け出を行います。届け出には「異動届出書」「登記事項証明書」が必要になります。
会社の解散から清算結了までにかかる期間
登記や届出、会計処理などを行い、清算まですべて終わるまでの期間は、基本的には会社によって異なります。取引先や、固定資産の多い会社などは、債権や債務すべてを処理し、資産を換金しなければならないため、すべてを終えて清算を結了するまでに相応の時間を要するでしょう。場合によっては、清算結了までに2、3年もの期間がかかる会社もあります。
前述のとおり、会社解散の事実を債権者に知らせ、債権の保有について申し出ることを促す公告を官報に載せる必要があります。この公告期間が2ヶ月以上と定められているため、この間は清算を終えることができません。そのため解散から清算まですべてを終えるまでは、最短でも2ヶ月以上かかります。
会社の解散から清算結了までにかかる費用
会社の解散から清算結了までには、登録免許税や官報公告費用、専門家への依頼手数料といった費用が発生します。そのほかにも、さまざまな手数料や株主総会の開催費用など、間接的に必要になる支出を準備する必要があります。
費用 | 備考 |
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登録免許税 | 「解散及び清算人選任の登記」「清算結了の登記」を行う際に必要。 参考) 「解散及び清算人選任の登記」:39,000円、「清算結了の登記」:2,000円 |
官報公告費用 | ・官報公告への掲載料:約36,000円(1行あたり約3,600円、10行想定) ※全国一律で、どの官報販売所に申し込みをしても金額は変わらない |
専門家への 依頼費用(※) |
会社の解散について依頼できる専門家は、主に弁護士、税理士、司法書士。 参考) ・弁護士への依頼:数十万円~ ・税理士への依頼(税務申告):約8万円~数十万円 ・司法書士への依頼(登記手続き):約7万円~ |
その他諸費用 | 参考) ・登記事項証明書の取得:数千円 ・株主総会の開催:(開催規模、場所等によって異なる) |
※会社の規模、依頼内容によって変わります。
会社解散・清算の手続きは専門家に依頼するべき
会社解散・清算時には、さまざまな手続きを行わなければなりません。関係書類の作成や決算処理など、難しい業務でも専門家に依頼するとスムーズかつ確実に処理してもらえます。
税理士に相談する
顧問税理士がいる場合、解散の手続きを依頼することが可能です。顧問税理士は会社の経営状況をよく把握できているため、確定申告書や貸借対照表の作成なども依頼しやすいというメリットがあります。
通常清算の場合には前述のとおり「解散確定申告書」「清算確定申告書」2種類の申告書を作成する必要があるため、実務面のサポートが期待できます。
税理士に依頼した場合、解散や清算時に行う登記手続きについては司法書士に依頼しなければなりません。ただし、税理士法人が司法書士法人と連携して業務を行っている場合には、登記手続きまで任せることができます。
司法書士に相談する
会社の解散時などの登記申請業務は司法書士に依頼することができます。
可能な範囲で自分たちで手続きを行い、法務局での登記業務だけを司法書士に依頼するなど分担することで、解散手続きの費用を抑えることもできます。ただし、司法書士は税務関連の業務を行っていないため、会社の確定申告書作成などの書類作成の依頼は行えない点に注意しなければなりません。
弁護士に相談する
会社に多額の負債があるなどの理由から特別清算や破産を行う場合、裁判所の手続きや金融機関・取引先といった債権者との交渉を行わなければなりません。法的な手続きや交渉が必要になるこれらの手続きを専門家以外が行うことは難しく、十分な注意が必要です。債権者とやり取りをしながら手続きを適切に進めていくためには、弁護士に相談・依頼して行うと安心です。
終わりに
会社の解散から清算までには、株主総会で解散決議を行い清算人の選任、登記などの手続きを定められた期間で行う必要があり、貸借対照表などの書類作成や確定申告などの会計処理も行わなければなりません。会社の解散手続きは複雑で大変な作業ですが、手続きを後回しにして放置していると法人税などの税金が課せられるため注意が必要です。ただ会社を解散するのではなく、M&A事業承継によって課題を解決する方法もあります。まずはお気軽にご相談ください。