【図解】債務超過とは?倒産リスクや赤字との違い、解消方法、M&Aの可能性を解説

経営・ビジネス
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債務超過とは、単なる「赤字」とは異なり、企業の資産より負債が多い財務状態を指します 。この状態が続くと、追加融資が受けられなくなったり、取引先からの信用が低下したりするなど、会社の存続が危ぶまれる深刻な事態につながる可能性があります。

しかし、多くの経営者は「具体的にどうすればいいのか分からない」と悩み、動き出せないのが現状です。

本記事では、債務超過の基本的な仕組みや倒産リスク、赤字との違いをわかりやすく解説します。また、実際に債務超過の成約件数もご紹介していますので「債務超過とは何か?」を理解し、状況を打破するための第一歩を踏み出しましょう。

この記事のポイント

  • 債務超過が続くと、新規資金調達が困難になり、倒産リスクが高まる。
  • 債務超過の主な原因は赤字経営、投資による負債増加、資産評価損である。
  • 解消方法には利益改善、増資、借入見直し、資産売却、負債の資本化がある。

債務超過とは

債務超過とは、企業が持っている資産よりも借金や支払うべき負債の総額が多くなっている状態を指します。 債務超過の状態を、図で表すと以下のようになります。

例えば、資産500に対して負債が800あると、負債が資産を超えているため300の超過債務があることになります。この状態では、資産をすべて使い切っても負債を返済できません。

企業が債務超過に陥ると、以下のような負のスパイラルに陥る可能性があります。

  • 金融機関からの融資が難しくなる
  • 新たな投資ができず競争力が低下する
  • 利益率の低下により資金繰りが悪化する
  • 信用の低下により新規取引先との契約が難しくなる

債務超過が発生するとすぐに倒産になるわけではありませんが、債務超過の状態が長期間続くと深刻な影響を及ぼします。すべての資産を売却しても負債を返済できないため、会社の存続が難しくなるためです。

また、決算書上では債務超過に見えない場合でも実際は債務超過に陥るケースがあり、これを「実質債務超過」と呼びます。

具体的には、以下のような状況です。

  • 多額の売上債権が回収できず、不良債権となっている
  • 貸付金の金額が大きく、返済の見込みがない
  • 土地の価値が大幅に下落し、含み損により時価純資産がマイナスになる

資産や負債を時価で計算し、資産より負債が多くなる場合、「実質債務超過」とみなされます。

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倒産リスクが高いのは資金ショート。「債務超過」「赤字」が続く

「赤字」や「債務超過」は企業の経営状態を示す重要な指標ですが、必ずしもすぐに倒産につながるわけではありません。以下では、「赤字」「資金ショート」の違いを解説します。

赤字との違い

赤字 債務超過
・損益計算書に発生する ・貸借対照表に発生する
・短期間で見る ・累計で見る

「赤字」は、短期間(1ヶ月や1年)の支出(費用)が収益を上回る状態のことです。赤字は損益計算書で判断します。 一方の「債務超過」は、貸借対照表で資産より負債が上回っている長期的な財務状況を示します。

例えば、1年間赤字を出しても、過去に利益を積み立てていれば資金繰りが保てるため、倒産には至りません。しかし、赤字が続くと資産が減少し、最終的に負債が資産を上回る「債務超過」に陥る可能性があります。

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資金ショートとの違い

資金ショートとは、手元の資金が不足して、支払いが不能な状態に陥ることです。 債務超過との違いは、手元に資金があるかどうかです。債務超過でも手元に資金がある場合、支払いは可能です。

企業は日々の支払い(仕入れ代金や借入金の返済など)を、手元のお金でやりくりする必要があります。

黒字経営で利益を上げている場合でも、以下のような状況が起きれば資金ショートが発生する可能性があります。

  • 売上代金の入金が1ヶ月後になる一方で、仕入れ代金の支払いは今月中に必要
  • 設備投資の支払いで多額の現金が必要だが、手元資金が不足している

一時的な現金不足が資金ショートを引き起こし、結果的に倒産するリスクが高まるのです。

債務超過の原因・予兆

債務超過に陥る企業には、いくつか共通する原因や兆候があります。 ここでは、債務超過を引き起こす原因や、見逃してはいけない予兆について詳しく解説します。

赤字経営の常態化

赤字経営が続くと、金融機関や取引先からの信用を失い、企業の存続が危ぶまれます。あくまで目安にはなりますが、過去3年間で2回以上赤字を出した場合は危険信号だと考えられるでしょう。 これは、安定して利益を出せる企業と見なされず、金融機関からの信用を失うためです。

赤字が3年以上続いた場合、金融機関だけでなく取引先や従業員にも不安視され、経営全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります でしょう。

投資による負債の増加

大規模な投資による負債の増加は、債務超過に陥る主な原因の1つです。 投資が期待通りの成果を生まなければ、収益が増えない一方で借入金の返済負担だけが増え、財務状況が悪化するリスクが高まるためです。

例えば、新しい事業の立ち上げや設備の導入に多額の借入金を利用した場合、その事業が不調に終われば返済が困難になり、資金繰りが悪化する可能性があります。 投資を検討する際には、リスクを十分に考慮した上で慎重な判断が必要です。

資産の評価損・特別損失

企業が保有する資産の評価損や特別損失の発生は、債務超過に陥る原因となる可能性があります。資産価値が下落すると、その評価損が純資産額の減少を引き起こし、負債が資産を上回る状態になるリスクが高まるためです。

また、自然災害や訴訟などによる一時的・例外的な特別損失も、企業の財務基盤を脆弱にする要因となります。

資産の評価損 特別損失
保有する不動産の市場価値が急落した場合や、株式の評価損が発生した場合、純資産が減少する 自然災害による被害(倉庫の浸水や社屋 社屋の屋根の倒壊など)や、訴訟に伴う損害賠償金の発生は、一時的な損失として計上され、財務状況を大きく悪化させる可能性がある

リスクを防ぐためには、資産価値の定期的なモニタリングやリスクヘッジの計画が必要です。

債務超過の目安や判断は貸借対照表のどこを見る?

債務超過を判断するには、貸借対照表(バランスシート)で「純資産」の確認が重要です。純資産の利益剰余金がマイナス(▲)になっている場合、債務超過の状態に陥っている可能性があります。

貸借対照表は、企業の財務状況を以下の3つの要素で表しています。

資産 負債 純資産
会社が持っている財産(現金、不動産など) 返済しなければならない借金や支払い義務 資産から負債を引いたもの、会社が実質的に持っている財産

純資産がマイナスの場合、「債務超過状態」にあるので、資産をすべて売却しても負債を返済できない状態です。

企業の財務健全性を把握するために、定期的に貸借対照表を確認するのが重要です。

債務超過の予防策

債務超過は、企業の財務状態を悪化させる深刻な問題です。

一度債務超過に陥ると、資金調達が難しくなり、取引先や従業員との信頼関係にも影響を及ぼしかねません。

ここでは、債務超過を未然に防ぐための具体的な方法について見ていきましょう。

実態貸借対照表を作成する

債務超過を予防するには、実態貸借対照表を作成し、定期的なモニタリングを行うことです。資産の減少や負債の増加などの危険な兆候を早期に発見し、対策できるためです。

通常の貸借対照表では、未回収の売掛金や回収が難しい貸付金などが資産として計上される場合があります。そのため 正確に評価せずに放置すると、実際の財務状況が見えにくくなり、債務超過に気づくのが遅れるリスクがあります。

正確な実態貸借対照表を作成する際には、以下の点に注意が必要です。

  • 未回収資産を除外する:売掛金や貸付金など、現金化が見込めない資産を省く
  • 役員未払金を調整する: 役員未払金を負債から純資産へ振り替え、より実態に即した数値を反映する

このように実態貸借対照表を定期的に見直すと、財務の健全性の維持ができるので、リスクを未然に防げます。

経営管理を整え、集計を正確に行う

債務超過を予防するには、定期的に資産と負債を集計し、常に正確なキャッシュフローを把握しておくのが重要です。

資産や負債の集計が不正確だったり、タイムラグが発生したりしている場合、実際の財務状況が正しく見えなくなり、問題の発見が遅れるリスクがあるためです。 特に、 大きな借入金や有価証券を扱っている場合、タイミングによるズレが生じやすいため、実態レベルでの把握が必要 です。

定期的に資産・負債の詳細を正確に集計し、キャッシュフローを把握していれば、問題が起きても迅速に対処できます。

定期的に専門家にチェックしてもらう

債務超過を予防するためには、公認会計士や税理士、経営コンサルタントなどの専門家に定期的に相談し、経営の状況をチェックしてもらいましょう。

専門家は豊富な知識と第三者視点を持っているため、企業経営における問題点を的確に指摘してくれます。

自分一人では気づけないリスクや改善点を見つけ出し、的確なアドバイスをしてくれるため、経営の安定化につながります。

顧問料や相談料などの費用はかかりますが、問題を放置した結果、より大きな損失を招く可能性もあるので注意が必要です。将来的なリスクを未然に防ぐための投資と考え、専門家へ相談するのが賢明でしょう。

債務超過の解消方法

ここでは企業が債務超過に陥ってしまった場合の、主な解消方法を紹介します。

利益を上げて資産を増やす

債務超過を解消する最もシンプルな方法は、不要なコストを削減し収益の向上を目指すことです。不必要な支出が積み重なると収益を圧迫するので、債務超過に陥る原因となる場合があるためです。

具体的なコスト削減方法は、以下の4点が挙げられます。

  1. 人件費の削減
  2. 不要な経費の見直し
  3. 業務プロセスの効率化
  4. 経営状態の中長期的な見直し

削減策を実行するだけでなく、中長期的に経営状態を見直し改善を繰り返すと、企業の安定した財務運営を実現できるでしょう。

増資を行う

債務超過を解消するには、増資によって純資産を増やす手段があります。 増資とは、企業が新たに資金を調達するために資本金を増やす手法 です。

以下のような方法で増資を行います。

  • 新たに株を発行する
  • 社長や役員からの借入金を資本金化する
  • 外部ファンドからの出資
  • 第三者割当増資として経営者・創業者が出資する

増資は、即効性のある手段ですが根本的な経営赤字の解消にはつながりません。また、株主構成や経営権に影響を与える可能性があるため、慎重な判断が求められます。

借入の見直し

債務超過を解消するためには、借入金の条件の見直しも行いましょう。 借入条件の改善で、返済負担を軽減し資金繰りに余裕を持たせられるため です。

金融機関に相談して金利の引き下げや返済期間の延長が認められれば、毎月の返済額を減らせます。その結果、資金繰りが改善され、経営の立て直しに役立つでしょう。

一方で、借入条件を見直さずに現状を放置すると、返済が滞り経営がさらに悪化するリスクがあります。金融機関との協議を積極的に行い、現実的な返済計画を立て、長期的な経営の安定を目指しましょう。

資産の売却

債務超過を解消するには、資産を売却し、売却益を債務の返済に充てるのもいいでしょう。資産の売却は、現金を迅速に調達し、債務超過を解消するための有効な手段です。

売却益が得られる可能性があるケースは、以下の通りです。

  • 土地や有価証券などの含み益を抱えているもの
  • 車両や機械などの減価償却資

非上場企業の株式を売却する場合は、買い手を見つけるまでに時間がかかるため、計画的な売却が必要です 。また、不動産を担保にしたローンを活用すると、一時的に現金を調達し、債務超過を解消する方法も検討できるでしょう。

負債の資本への切り替え

債務超過を解消するには、負債を資本に切り替える方法もあります。 この方法には、DES(Debt Equity Swap)や債務免除などが挙げられます。

DES(Debt Equity Swap)とは、簡単に言えば借金を返済する代わりに、その借金を株式に切り替えてもらう仕組み です。負債を減らし、純資産を増やせるため、債務超過の解消や財務体質の改善に役立ちます。しかし、この方法は信用力の高い上場企業でなければ実現が難しく、中小企業にはハードルが高い方法と言えるでしょう。

債務免除とは、借金や債務の返済義務を債権者が放棄することを指します。 簡単に言えば、「借りたお金を返さなくてもよい」と債権者が認め、債務者の負担を軽減する方法です。しかし、債務免除益には法人税が課税されるため、負担を考慮したうえで実施する必要があるでしょう。

負債を資本に切り替える方法は、債務超過を解消する効果的な手段ですが、どちらの場合も慎重な計画と専門家のアドバイスを受けてからをおすすめします。

債務超過企業はM&Aできるのか

債務超過となってしまった企業は、M&Aを行うことができるのでしょうか。ここでは当社でご成約いただいた事例をもとにご紹介します。

債務超過企業の受託件数・成約件数の推移

下の図左側のグラフは当社でご支援したM&Aのうち、債務超過企業の受託件数(具体的にご相談いただいている件数)の推移です。

ご覧の通り件数は増加傾向であり、債務超過企業からのご相談が増えています。具体的には、おおよそ10社に1社が債務超過の状態です。

一方右側のグラフは、実際にお相手企業が見つかったM&A成約件数の推移です。成約件数も、概ね増加傾向にあります。

もちろん財務が優良な会社に比べると成約の可能性が低くなるものの、 債務超過が理由でお相手が見つからないわけではありません 。(※なお、直前期はコロナの影響を受け、一時的に件数が減少しています。)

債務超過企業が成約した際の株価相場

では、債務超過企業のM&Aにおいて、成約時の株価相場はどのようになっているのでしょうか。債務超過企業が成約した際の、株価相場の分布を調べてみました。

実は、債務超過企業でも実質無対価(株価100万円以下)となるのは、5社に1社程度しかありません。また、約6割の債務超過企業が2,000万円を超える株価がついて成約しています。

これは貸借対照表で債務超過であっても、営業利益が出ていれば「のれん代」がつき、結果として株価がつくケースがあるためです。

また、営業赤字の場合でも、お相手次第では統合することによるシナジー効果が見込まれ、株価がつくこともあります。もしくは、役員等借入金を債務免除することで債務超過を脱却できる場合もあります。

そのため、 債務超過だからといって必ずしも株価がつかないわけではありません 。会社の状況や、お相手によっては株価がつくケースも多く見られます。詳しくは専門家までご相談ください。

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【図解で解説】債務超過企業のM&Aスキーム(株式譲渡)

債務超過企業のM&Aは、具体的にどのようなスキーム(手法)で実行されるのでしょうか。

当社がご支援した事例において「株式譲渡」もしくは「事業譲渡」 のケースがほとんどです。債務超過企業のM&Aではそれぞれのスキームにおいて特有の論点があるため、まずは「株式譲渡」をケース別に見ていきましょう。

金融機関等から多額の借入金がある場合

中小企業M&Aの現場で約9割のケースに採用されているのが「株式譲渡スキーム」です 。当社が支援するM&Aでも多く活用されています。

債務超過企業の場合、金融機関からの多額の借入金がネックとなり、株価として評価される価格がつかないのが一般的です。そのため、実務上は1株1円など形式的な価格で株式譲渡が行われます。

一見すると、株価がつかない企業のM&Aは成り立たないように思えるかもしれませんが、実はそうではありません。

買い手が企業の借入金を引き継ぐことが、実質的な取引の対価となります 。売り手は、借入金の個人保証が外れるので、この一点だけでも、M&Aを検討する価値があると言えるでしょう。

株価の評価が難しい債務超過企業でも、株式譲渡スキームを活用すると再建の道が拓ける可能性があります。

対象会社がオーナー経営者、親族等から多額の借入金がある場合

債務超過企業では、オーナー経営者やその親族からの借入金(以降、「役員等借入金」)が多額にのぼるケースもあります。 オーナー経営者が、これまで対象会社に多額の資金援助(資金の貸付)をしてきたものの、財政状況が悪いため返済できないような場合です。

株式譲渡時の役員等借入金の処理方法は、以下の通りです。

① 役員等借入金の返済 企業側との協議で対価がつく場合には、株式譲渡と同時に役員等借入金の返済を行うケースがあります。 例えば、買収条件として3,000万円の役員借入金返済が設定されている場合、以下の流れで進行します。

  • 株価1円で株式譲渡を実施する(債務超過のため株価評価が低い)
  • 買収企業が対象会社に3,000万円を貸付ける
  • 対象会社がその資金を用いて、役員に借入金3,000万円を返済する

買収企業が一時的に資金を貸し付け、役員借入金の返済を完了させます。

② 役員等借入金の免除 なお、役員等借入金がそれでも残ってしまう場合には「債務免除」を検討します。 売り手のオーナー経営者が貸し付けていた借入金を放棄し、対象会社の負債を減らす手段です。

例えば、役員借入金が1億円あり、そのうち3,000万円を返済した後でも、7,000万円が残る場合を考えます。

この場合、以下の手順で進めます。

  • 売り手のオーナー経営者が、が残り7,000万円の債権を放棄し、対象会社に債務免除を行う
  • 対象会社は、債務免除益として7,000万円を利益に計上する

債務免除益が発生した場合、過去の繰越欠損金や当期の赤字と相殺すると、課税対象額の軽減が可能です。

この仕組みによって、税負担を軽減できるかどうかが、債務免除を実施する際の重要なポイントとなります。 債務免除は、企業の負債を減らす有効な手段ですが、債務免除益による税負担が発生するため、慎重に検討するのが重要です。

③ その他の手法(疑似DES) 前述のように債務免除をする場合、役員等借入金の金額が大きすぎると、進行期の赤字や繰越欠損金と相殺しきれず、対象会社に大きな税負担が生じてしまうことがあります。

このような場合には、「疑似DES」という手法を検討します。 疑似DESとは、前述した通常のDES(Debt Equity Swap)の仕組みをアレンジした手法で、 債権を株式に直接振り替えるのではなく、現金を介して増資と債権の回収を行う方法 です。

疑似DESは、以下の流れで実行されます。

  • 対象会社が債権と同額の現金で増資を行う
  • 増資によって得た現金で、対象会社が債権を返済する

実際に債権を株式に振り替えるわけではなく、現金を介したスキームを採用するため、通常のDESとは異なります。

疑似DESは債務免除ではないため、債務免除益が発生せず対象会社の税負担を抑えられます。また、通常のDESで問題となる可能性のある「税務リスク」を軽減可能です。

しかし、疑似DESを実行するには、多額の資金が必要です。

このスキームは、 買い手と売り手の合意が不可欠であり、双方の協力を得て初めて実行可能 となります。

【図解で解説】債務超過企業のM&Aスキーム(事業譲渡)

株式譲渡のほか、 事業譲渡も債務超過企業のM&Aで多く用いられるスキームの一つ です。事業譲渡は、取引の主体が株主ではなく「対象会社そのもの」になる点が、株式譲渡との大きな違いです。そのため、M&Aによる対価は対象会社に入るのが特徴です。

事業譲渡では、複数の事業を保有する企業が不採算事業だけを譲渡したり、逆に優良事業だけを譲渡したりするケースがあります。それぞれのケースについて、主に税務面にスポットを当てて解説していきます。

不採算事業の譲渡の場合

不採算事業は赤字事業である場合が多いため、たとえ譲渡事業の純資産がプラスであっても、譲渡対価が1円といった形式的な価格になる場合があります。

この場合、対象会社には事業譲渡益が発生せず、税負担は生じません。 しかし、買い手側では支払対価よりも譲受けた事業の時価純資産が大きい場合、その差額が「差額負債調整勘定」として扱われ、5年間にわたり益金(課税対象となる収益)に計上されます。

【例】  買い手が対価1円で譲り受けた事業の資産:時価3,000万円 譲受けた事業の負債:300万円

この場合の「差額負債調整勘定」は以下の通り計算されます。

差額負債調整勘定 = 資産3,000万円 - 負債300万円 - 支払対価1円 = 約2,700万円

買い手はこの差額を5年間で益金として計上します(税務上は一定の例外規定もあります)。

毎年の益金算入額 = 2,700万円 ÷ 5年 = 約540万円

上記の通り、買い手側には毎年540万円分の益金が計上され、税負担が発生します。

買い手は、将来発生する可能性のある税負担を事前にシミュレーションし、それを踏まえての財務計画が重要です。

優良事業の譲渡の場合

優良事業を譲渡する場合、対象会社には事業譲渡益が計上され、税負担が発生します。優良事業は黒字であるため、譲渡対象となる事業の価値に見合った対価が設定され、さらに「のれん代」(事業のブランド力や顧客基盤などの無形資産に対する評価額)が追加される場合があります。そのため、譲渡益が発生し、対象会社には税負担が生じるのが特徴です。

次の条件で優良事業を譲渡する場合で考えてみましょう。

  • 譲渡対価:1億円(買い手が支払う金額)
  • 資産の時価:3,000万円(譲渡する事業が持つ資産の価値)
  • 負債:300万円(譲渡する事業が抱える負債)

この場合、対象会社で以下の計算を行います。

事業譲渡益 = 1億円 -(3,000万円 -300万円) = 7,300万円

税負担 = 7,300万円 × 34%(法人税等の実効税率) = 約2,500万円

対象会社には、事業譲渡益に基づく約2,500万円の法人税等が発生します。

ただし、債務超過企業には繰越欠損金が溜まっていることが多いため、生じた事業譲渡益と相殺して税負担を軽減できます。 一方、買い手は法人税等がかかりません。場合によっては営業権(税務上の資産調整勘定)が計上され、将来的に節税効果を得られる場合もあります。

また、事業譲渡スキームを用いることで、対象会社に紐づくリスク(過去の税務リスクや違法行為等についての潜在的なリスク)を遮断できるメリットがあります。 なお、いずれのケースにおいても、債務超過企業で事業譲渡を実行する場合には「詐害的な事業譲渡」の論点に注意が必要です。

債務超過企業を売却するときのポイント

債務超過企業の売却では、「個人保証の解除」が売り手にとって重要な取引条件のポイントとなります。個人保証は売り手に大きなリスクを残すためです。

そのため、最終契約書では万が一保証責任が売り手に戻る事態を想定し、損害賠償の上限を撤廃するなどの対策が必要です。

買い手の信用力や契約内容を十分に確認し、リスクを最小限に抑えるための準備を行いましょう。もし個人保証が解除されない場合、売り手は会社を譲渡した後も、個人保証の責任を負い続ける必要があります。

一方で、損害賠償の上限を撤廃しておけば、万が一の場合も買い手に全額を請求できるため、リスクの軽減が可能です。

債務超過企業の売却は、弁護士やM&Aの専門家と連携し、売却後に売り手が不要な負担を抱え込むリスクを防ぎましょう。

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債務超過企業を買収する際のポイント

債務超過企業を買収する際の買い手側のポイントはいくつかあります。

①企業価値評価と買収監査を徹底する

債務超過企業を買収する際は、買収監査(DD:デューデリジェンス)を徹底しましょう。 財務諸表に記載されていない負債である「簿外債務」や他の問題を把握しないまま買収を進めてしまうと、買い手側が多額の負担を抱える可能性があるため です。

株式譲渡は、たとえ株価が1円であっても、買い手は対象会社の資産だけでなく全てのリスクも引き継がなければなりません。

例えば、以下のような簿外債務が発覚した場合、負担は買い手にのしかかります。

- 未払残業代 - 社会保険の滞納 - 訴訟リスク

通常のM&Aでは、簿外債務が後から発覚した場合、「表明保証違反」として売り手に請求できます。しかし、債務超過企業の株価が1円のように低い場合、損害賠償請求の上限も1円に限定されることが多いため、買い手は事実上すべての負担を負わざるを得なくなるのです。

例えば、株価1円で買収した企業に1,000万円の未払残業代が発覚した場合、表明保証違反として売り手に請求できるのは1円のみです。

また、DDで見つけられないリスクが発生する可能性も考え、「表明保証保険」への加入も検討しましょう。表明保証保険は、事後的に発覚した問題をカバーしてくれます。しかし、保険の内容や適用範囲によっては利用できないケースもあるため、事前に保険会社へ相談してみるといいでしょう。

事前準備を怠らず想定外の負担を回避する体制を整えておくと、リスクを最小限に抑えたM&Aの実現が可能になります。

②詐害的な事業譲渡の論点に注意する

債務超過企業の事業譲渡を行う際には、「詐害的な事業譲渡」と判断されるリスクに注意しましょう。 事業譲渡によって債権者が権利を侵害されたと判断された場合、買い手が債権者から直接債務の履行を求められる可能性があるため です。

これは、会社法第23条の2に基づく規定で、次のように定められています。

譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。 (出典:「会社法第23条の2」法令検索e-Gov)

履行請求の限度額は、「承継した資産の総額」とされています。 「純資産額」や「譲渡対価」ではなく、承継した資産そのものが基準となる点に注意が必要です。また、営業権が付いた場合は、その価値も総額に含まれます。

このようなリスクを防ぐためには、以下の対策が必要です。

  • 事業譲渡後に債務超過が解消されるかを確認する・・・事業譲渡の対価によって債務超過が解消される場合、このリスクは発生しない。
  • 債権放棄や役員借入金の債務免除を活用する・・・残存債権者の債権放棄や、役員等借入金の債務免除を活用し、債務超過を解消できるかを検討する。
  • 債務履行請求権を行使しない同意書を取得する・・・債務超過が解消されない場合には、残存債権者から「債務履行請求を行わない」旨の同意書を取得できるかを検討する

万が一の場合に備えて、弁護士や会計士、M&Aの専門家などの専門家を交えた対応を行いましょう。

次のような戦略をお考えの方へ

・事業を拡大したい
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これらはM&Aを通じて実現可能です。
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③許認可が論点になる場合がある

債務超過企業を買収する際は、許認可要件や会社法上の手続き、税務上の規定が重要な論点となります。許認可を必要とする業種では、要件を満たしていないと事業の運営が困難です。また、債務超過企業の買収には、会社法や税務上の規定に基づく厳しい条件が課される場合があり、予期せぬリスクに直面する可能性があるためです。

例えば、以下のようなケースが考えられます。

ケース 注意点
特定建設業の許可更新の場合 許可更新時に「直前の決算書で純資産が4,000万円以上」が求められる。事前に純資産を回復させる計画が必要。
吸収分割で債務超過を承継する場合
買い手が承継する債務額が資産額を超える場合、簡易分割の要件を満たしていても株主総会の決議が必要(会社法796条2項ただし書)。
繰越欠損金の活用に関する税務リスク 債務超過企業を買収し繰越欠損金を活用する場合、不当な租税回避防止のため厳しい税務規定が適用され、税務メリットを得られない可能性がある。

債務超過企業の買収は、許認可の要件や税務リスクなどに注意し、事前に十分な計画を立てる必要があります。組織再編や税務に詳しい専門家に相談し、適切な対応を行いましょう。

債務超過企業と「のれん」の関係

債務超過企業を買収する際の「のれん」の考え方は通常の企業買収と同じです。 前述していますが、「のれん」とは、企業の買収時に、株価(買収価格)と時価純資産との差額として計上される無形資産を指します。この差額は、ブランド力や顧客基盤などの「目に見えない企業価値」を反映したものです。

以下は、債務超過企業を買収する際の「のれん」の計算例です。

【時価純資産がマイナス4,000万円の会社を1億円で買収する場合】 のれん = 1億円(株価)-(-4,000万円)(時価純資産) のれんは1億4,000万円です。

【株価が1円の場合】 のれん = 1円(株価)-(-4,000万円)(時価純資産) のれんは4,000万円です。

ここで言及しているのは、株式譲渡の場合における会計上の「のれん」です。 のれんは、買収後の事業再建や収益化を進める際の投資額を反映したものとして重要な指標となります。

債務超過に陥っても再建や売却の道はある

債務超過企業の特徴や解消方法、M&Aの可能性について解説しました。 中堅・中小企業のM&Aにおいて、債務超過企業が譲渡対象となることは決して珍しくありません。

債務超過に陥った企業でも、適切なスキームや計画を立てれば、再建や売却の道が開ける可能性があります。特に、事業の引継ぎや再生に向けたM&Aは、経営者にとって有力な選択肢の一つと言えるでしょう。

企業の財務状態が厳しい状況にあっても、専門家のサポートを受けることで最適な解決策を見つけられる場合があります。 自社の課題を正確に把握し、未来に向けた新たな一歩を踏み出しましょう。

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著者

岩木 保樹

岩木いわき保樹やすき

株式会社 日本M&Aセンター 公認会計士(2022年6月時点)

監査法人トーマツを経て2016年に日本M&Aセンターに入社。事業譲渡、会社分割、株式交換、合併など様々なスキーム構築で成約に貢献。近年では小規模M&Aに特化したサポートや組織再編に関する顧問税理士へのアドバイス、M&Aに関する各種研修なども実施している。

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