債務超過でも会社売却できる?倒産との違い、解消方法をわかりやすく解説
債務超過とは
債務超過とは、 企業が抱える負債の総額が、資産の総額を超えている財務状況 を指します。
「債務超過=即倒産」というわけではありませんが、債務超過の状態が続くと、全資産を売却しても返済ができず負債だけが残るため、結果的に会社の存続が難しくなります。
企業が債務超過に陥ると、金融機関からの新たな資金調達は難しくなり、また投資家からの出資も難しくなります。
「新たな投資ができない」→「企業競争力が低下」→「利益率が低下」→「さらにキャッシュフローが悪化」 という負のスパイラルが続くため、倒産の確率は高くなります。信用能力も低下するため、新規の取引先との取引が難しくなる、あるいは既存の顧客との取引が停止になる場合もあります。
また以下のケースのように、 決算書上では資産超過であるものの、実態は債務超過 に陥っている場合もあります。
- 経営者への貸付金が多額にあるものの、返済可能性が低い場合
- 土地の時価が大幅に下落して大きな含み損を抱え、実態の時価純資産がマイナスになった場合
このように資産・負債を時価評価した結果、時価純資産がマイナスになる場合には、実質債務超過と言います。本記事では、債務超過とは「 実質債務超過」であることを指します。
この記事のポイント
- 債務超過が続くと、新規資金調達が困難になり、倒産リスクが高まる。
- 債務超過の主な原因は赤字経営、投資による負債増加、資産評価損。
- 解消方法には利益改善、増資、借入見直し、資産売却、負債の資本化がある。
⽬次
債務超過と倒産の関係
企業が倒産する直接の原因は、 キャッシュフローの悪化 です。債務超過や赤字に陥っても、手元に資金があり、資金繰りが上手く行っているうちに倒産することはありません。ただ、早めに解消しなければ倒産も時間の問題でしょう。
キャッシュフローを悪化させる主な原因は「収益の減少」と「金融機関などからの資金調達の悪化」です。
債務超過に陥ると、大手取引先との取引が中止されて収益が減少しキャッシュフローが悪化するため、倒産に近づきます。また、債務超過が何期も続くと、新規の借り入れは不可能となりキャッシュフローが悪化し、倒産のリスクが高まります。
このように債務超過と倒産には直接の関係はありませんが、債務超過による影響により、倒産のリスクは高まります。
債務超過の原因
企業が債務超過に陥る主な原因は以下の通りです。
赤字経営の常態化
一番大きな原因は、収益を上げられず損失を出し続ける「赤字経営が続く」ことです。赤字が続くと企業の自己資本が減り、最終的に債務超過に陥る可能性が高まります。
投資による負債の増加
将来に向けた投資として大規模な借入れを行い負債が増加することも原因の1つに挙げられます。投資に見合った成果が得られない場合には、財務状況が悪化する可能性が高まります。
資産の評価損・特別損失
企業が保有する資産、例えば不動産や株式の価値が大幅に下落すると、資産に関連する評価損が生じ純資産額が減少するため、債務超過に陥る可能性が高まります。
また、例えば自然災害による「倉庫が浸水」「大雪で本社の屋根が倒壊」など被害への対応、訴訟関連など一時的、例外的な特別損失も債務超過の原因になりえます。
債務超過の解消方法
ここでは企業が債務超過に陥ってしまった場合の、主な解消方法を紹介します。
利益を上げて資産を増やす
最もシンプルな方法ですが、不要なコストを削減することで、収益を改善し債務超過を解消することができます。
具体的な費用削減策としては、人件費の削減、不要な経費の見直し、効率化のための業務プロセスの見直しなどがあります。また、中長期的に改善し続けるには、経営状態を見直すことも必要です。
増資
純資産を増やすことで債務超過を解消します。その方法としては新株の発行、経営者の出資、ファンドなど外部からの出資などが挙げられます。
例えば、オーナー経営者や創業一族が、債務超過を解消するだけの「第三者割当増資」を引き受けることは、債務超過解消に役立ちます。
債務超過企業の第三者割当増資の引き受けは、一見リスクがあるように見えますが、企業が立ち直ることで、配当金などによって増資分を回収することは決して不可能ではありません。
借入の見直し
債務超過を解消するために、借入金の見直しを行います。これには、金利の交渉や債務の再構築、返済計画の見直しが含まれます。金融機関との協議や再融資を検討し、負債の返済条件を再調整することで、債務超過を克服することができます。
資産の売却
土地や有価証券などは含み益を抱えている場合も多いため、事業の継続に困らないものがあれば売却して、その売却益を計上すると、債務超過を解消する助けになります。また、車両や機械などの減価償却資産は償却後の簿価であることが多いため、売却すれば売却益が出る場合があります。
負債の資本への切り替え
最後に挙げる方法はDES(Debt Equity Swap)によって「負債を資本に切り替えてしまう」方法です。
金融機関に第三者割当増資を引き受けてもらい、その資金で借入金を返済して、債務超過を解消します。
ただし、この方法は上場企業のように信用能力が高い企業でなければ難しいため、中小企業の債務超過解消の手段としてはハードルが高い方法と言えます。
また、オーナー経営者などが会社に貸し付けている貸付金(会社から見ると借入金)がある場合は、会社に対する債権を放棄して債務免除すると、その分だけ債務超過を解消できます。ただし、債務免除益には法人税が課税されるため、法人税の支払いとの兼ね合いも考えなければなりません。
債務超過企業はM&Aできるのか
債務超過となってしまった企業は、M&Aを行うことができるのでしょうか。ここでは当社でご成約いただいた事例をもとにご紹介します。
債務超過企業の受託件数・成約件数の推移
下の図、左側のグラフは当社でご支援したM&Aのうち、債務超過企業の受託件数(具体的にご相談いただいている件数)の推移です。
ご覧の通り件数は増加傾向であり、債務超過企業からのご相談が増えています。具体的には、おおよそ10社に1社が債務超過の状態です。
一方右側のグラフは、実際にお相手企業が見つかったM&A成約件数の推移です。成約件数も、概ね増加傾向にあります。
もちろん財務が優良な会社に比べると成約の可能性が低くなるものの、 債務超過が理由でお相手が見つからないわけではありません 。(※なお、直前期はコロナの影響を受け、一時的に件数が減少しています。)
債務超過企業が成約した際の株価相場
では、債務超過企業のM&Aにおいて、成約時の株価相場はどのようになっているのでしょうか。債務超過企業が成約した際の、株価相場の分布を調べてみました。
実は、債務超過企業でも実質無対価(株価100万円以下)となるのは、5社に1社程度しかありません。また、約6割の債務超過企業が2,000万円を超える株価がついて成約しています。
これは貸借対照表で債務超過であっても、営業利益が出ていれば「のれん代」がつき、結果として株価がつくケースがあるためです。
また、営業赤字の場合でも、お相手次第では統合することによるシナジー効果が見込まれ、株価がつくこともあります。もしくは、役員等借入金を債務免除することで債務超過を脱却できる場合もあります。
そのため、 債務超過だからといって必ずしも株価がつかないわけではありません 。会社の状況や、お相手によっては株価がつくケースも多く見られます。詳しくは専門家までご相談ください。
債務超過企業のM&Aスキーム(株式譲渡)
債務超過企業のM&Aは、具体的にどのようなスキーム(手法)で実行されるのでしょうか。
当社がご支援した事例において「株式譲渡」もしくは「事業譲渡」 のケースがほとんどです。債務超過企業のM&Aではそれぞれのスキームにおいて特有の論点があるため、まずは「株式譲渡」をケース別に見ていきましょう。
金融機関等から多額の借入金がある場合
中小企業M&Aの9割で最も多いスキームであり、当社がご支援するM&Aの多くにおいても、株式譲渡が採用されています。
債務超過企業では、金融機関から多額の借入金を抱えるケースが多く見られます。借入が重い場合、残念ながら株価として価格がつかないケースが多くみられます(実務上は備忘価額をつける趣旨で、1株1円などで実行されます)。
こうしたケースでは、多額の借入金をお相手に引き継いでもらい、また借入金の個人保証が外れることがM&Aの実質的な対価となります。買い手としては、M&Aの時点で対価を支払うわけではありませんが、借入金を引き継ぐことが実質的な対価(負担) となります。
オーナー、親族等から多額の借入金がある場合
債務超過企業では、譲渡オーナーやその親族からの借入金(以降、「役員等借入金」)が多額にのぼるケースもあります。
譲渡オーナーが、これまで対象会社に多額の資金援助(資金の貸付)をしてきたものの、財政状況が悪いため返済できないような場合です。
株式譲渡時の役員等借入金の処理方法として、以下の方法が挙げられます。
① 役員等借入金の返済
企業側との協議で対価がつく場合には、株式譲渡と同時に役員等借入金の返済を行うケースがあります。
例えば、買収企業との条件が3,000万だとすると、債務超過であるため株価1円で譲渡しますが、役員等借入金3,000万円を対象会社から返済してもらいます。
ただし、対象会社は資金が無いケースが大半です。そのような場合、買収企業から対象会社に資金を貸付けて、そのお金で返済をしてもらうという流れになります。
② 役員等借入金の免除
なお、役員等借入金がそれでも残ってしまう場合には「債務免除」を検討します。
例えば上記の例で、役員等借入金が元々1億円あった場合を想定します。3,000万円を返済すると役員等借入金が7,000万円残るため、これを整理する必要があります。
そこで、対象会社は譲渡オーナーから債務免除を受けます。貸し付けている譲渡オーナーからすると、債権放棄することになります。
ただしその場合、対象会社では『債務免除益』という利益が計上されるため、税負担について検討することがポイントとなります。
なお、債務超過企業では「繰越欠損金」が多額に計上されているケースも多くあります。「進行期の赤字と繰越欠損金を考慮して、債務免除益を相殺しきれるかどうか」が一つの目安となります。
③ その他の手法(疑似DES)
前述のように債務免除をする場合、役員等借入金の金額が大きすぎると、進行期の赤字や繰越欠損金と相殺しきれず、対象会社に大きな税負担が生じてしまうことがあります。
その場合には、「疑似DES」という手法を検討します。DESとはデット・エクイティ・スワップ(Debt Equity Swap)の略で、債権者が所有する債権を現物出資することで株式に振り替えることを指します。DESのうち「疑似DES」は、実際に債権を直接株式に振り替えるのではなく、同額の現金で増資したのちに、債権を回収することをいいます。
本記事で詳細は割愛しますが、疑似DESを行うことで、債務免除ではないため税負担を抑えることができ、かつ通常のDESの場合に生じうる「税務リスク」を軽減することができる、というメリットがあります。
なお、疑似DESを実行するときには、多額の資金が必要になります。その場合、資金を一度買い手から売り手個人に貸し付ける必要があるので、買い手の協力が不可欠となります。両者の合意があってはじめて、疑似DESを活用することができます。
債務超過企業のM&Aスキーム(事業譲渡)
株式譲渡のほか、事業譲渡も多く用いられるスキームです。
株式譲渡との大きな違いは、取引の主体が株主ではなく「対象会社」自身になることです。そのためM&Aの対価は、オーナー株主ではなく対象会社に入ります。
事業譲渡の中でも、複数事業を保有する企業が債務超過に陥った場合、不採算事業だけを譲渡するケースあります。もしくは反対に優良事業だけを譲渡するケースもあります。それぞれのケースについて、主に税務面にスポットを当てて解説していきます。
不採算事業の譲渡の場合
不採算事業は赤字なので、譲渡事業の純資産がプラスであっても、対価がつかないことがあります(備忘価額1円など)。
この場合、対象会社に事業譲渡益は生じないため、基本的に税負担が発生しません。譲渡対価と譲渡事業の純資産との差額が事業譲渡損として計上されます。
一方、買い手側には、将来的に思わぬ課税が生じる可能性があるため注意が必要です。
具体的には、支払対価よりも譲受けた事業の時価純資産が大きい場合、その差額(税務上、差額負債調整勘定と呼びます)について、5年間をかけて税務上の益金に計上されます(税務上は一定の例外規定もあります)。
- 差額負債調整勘定→(3,000万円-300万円- 1円=約2,700万円
- 買い手における毎年の益金算入額→ 約2700万円÷5年(60か月)=約540万円
買い手においては、上記による将来の税負担についても予めシミュレーションしておくことが重要です。
優良事業の譲渡の場合
優良事業は黒字のため、譲渡事業の純資産に見合った対価がつくことが多く、また「のれん代」もつくことがあります。
このとき、対象会社において事業譲渡益が計上されます。
- 事業譲渡益→ 1億円-(3,000万円-300万円)=7,300万円 - 対象会社の税負担→ 7,300万円×34%=約2,500万円(法人税等の実効税率を34%と仮定)
ただし、債務超過企業には繰越欠損金が溜まっていることが多いため、生じた事業譲渡益と相殺して税負担を軽減できることがあります。
一方、買い手においては法人税等がかかりません。場合によっては営業権(税務上の資産調整勘定)が計上され、将来的に節税効果を得られることがあります。
また、事業譲渡スキームを用いることで、対象会社に紐づくリスク(過去の税務リスクや違法行為等についての潜在的なリスク)を遮断できるというメリットがあります。
なお、いずれのケースにおいても、債務超過企業で事業譲渡を実行する場合には「詐害的な事業譲渡」の論点に注意する必要があります。
債務超過企業を売却するときのポイント
売り手側の最も重要なポイントは、 「借入金の個人保証の解除が本当にできるか」 という点です。
株価が付かない場合、売り手の実質的な対価は前述の通り「借入金の引継ぎ」と「個人保証の解除」になります。
通常はM&A実行後、買い手が速やかに親会社保証に切り替えますが、ここで買い手の信用力が低いと、金融機関から断られる可能性があります。個人保証が外せないと、譲渡オーナーは会社を譲渡したにも関わらず、個人保証の負担を担い続けることになります。
万が一、そうした状態で譲渡オーナーに保証責任が生じた場合には、最終契約書をもとに損害賠償の請求をするという、非常に逼迫した状況になることが想定されます。そのため最終契約書で個人保証解除に関する損害賠償の上限を撤廃しておく(万が一の場合に、買い手に全額請求できるようにしておく)ことなどの対策も重要です。
債務超過企業を買収する際のポイント
買い手側のポイントはいくつかあります。
①企業価値評価と買収監査を徹底する
株式譲渡の場合、たとえ株価1円でも、買い手は対象会社をそのまま引き継ぎます。つまり 対象会社のあらゆるリスクもそのまま引き継ぐ 、ということです。
例えば対象会社に「未払残業代」や「社会保険の滞納」、「隠れた土壌汚染」などがある場合、それらは実質的に買い手の負担となってしまいます。通常のM&Aの場合は、これらのような簿外債務が事後的に発覚した場合「表明保証違反」として売り手に請求することができます。
しかし、債務超過の場合は都合が違います。なぜなら、 表明保証違反についての損害賠償の上限は、「株価」を上限としていることが多い ためです。
仮に株価が1円の場合、買い手は売り手に1円しか請求できません。つまり事後的に簿外債務が見つかった場合でも、実質的には全て買い手が負担することになってしまうのです。
そのため、予めDD(買収監査)をして、しっかりリスクを洗い出した上でM&Aの意思決定をすることが重要です。
また、DDでも簿外債務等を見つけられない場合を想定し、 表明保証保険に加入しておく のも一案です。
ただし保険の内容によっては適用されないケースもあるため、保険会社に相談しておくことが重要です。
②詐害的な事業譲渡の論点に注意する
対象会社が債務超過の場合、事業譲渡後に買い手は対象会社の債権者から、直接債務の履行を求められる可能性が残ります。
専門的な話になりますが、これは会社法において、
という規定があるためです。
なお、履行請求は「事業承継で承継した資産の価額」を限度とされています。承継した資産から債務を差し引いた純資産の金額を意味するのではなく、また事業譲渡の対価ではありません。あくまで承継した資産の総額が限度となります。また、この総額は正味売却価額と考えられるので、営業権がついた場合には営業権も含まれると考えられます。
この詐害的な事業譲渡のリスクに対する実務上の対策としては、
詐害的な事業譲渡のリスクに対する実務上の対策 |
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・まずは対象会社が事業譲渡後に債務超過になるかどうか確認する (事業譲渡の対価によって債務超過が解消される場合は問題にならない) |
・債務超過になる場合であっても、「残存債権者による債権放棄」等により債務超過が解消されないかどうか確認する(役員等借入金などの債務免除の活用ができないか) |
・それでも債務超過が解消されず、残存債権者に対する債務の弁済が難しい場合には、 残存債権者から買い手に対して「債務の履行請求権を行使しない」旨の同意書を取得できるか検討する |
といったことが考えられます。いずれにしても、債務超過が解消されない場合には、専門家を交えた慎重な対応が求められます。
③許認可が論点になる場合がある
例えば、特定建設業の許可は、5年に1度の許可更新時において、「直前の決算書における純資産が4,000万円以上であること」が求められます。
そのため、許可更新のタイミングまでに対象会社の純資産を回復させる道筋を立てる必要があります。最終的には親会社となった買い手からの資金援助(増資や寄附 など)を視野に入れることもあります。
また、会社法上の手続に留意すべき場合もあります。例えば買い手が吸収分割で債務超過(純資産マイナス)を承継する場合です。
承継債務額が承継資産額を超えるときには、買い手側で簡易分割の要件(支払対価が買い手の純資産の5/1以下)を満たしたとしても、株主総会の決議が必要となります。(会社法796条2項ただし書)
債務超過企業の繰越欠損金を目的としてM&Aを検討するような場合にも注意が必要です。買い手において、債務超過企業を買収した後に合併し、買い手に繰越欠損金を引き継ぐことを検討することがあります。
税務上、繰越欠損金の引継ぎに関しては、不当な租税回避を防止する趣旨で、かなり厳しい規定が設けられています。予め組織再編に詳しい専門家へしっかり相談するようにしましょう。
債務超過企業と「のれん」の関係
債務超過企業を買収する際は、いわゆる「のれん」はどのように考えたらよいのでしょうか。これは通常の企業を買収するときと考え方は同じです。あくまで株価から時価純資産を差し引いた金額を「のれん」と考えます。
例えば、時価純資産がマイナス4,000万円の会社を1億円で買収した場合は、のれんは1億4000万円。株価が1円の場合には、のれんは4,000万円です。
※なお、ここでは株式譲渡の場合の「会計上ののれん」について言及しています。
終わりに
中堅・中小企業のM&Aにおいて、債務超過企業が譲渡対象となることは決して珍しくありません。大切なのは、債務超過企業のM&Aのポイントを押さえ、当事者にとって最適なスキームで実行することです。