零細企業とは?中小企業やベンチャーとの違い、M&Aを行うメリットを解説
中小企業庁が公表しているデータによると、日本の小規模事業者数は304万8千万社にのぼり、企業全体の84.9%を占めます。つまり、小規模事業者、零細企業が日本の経済活動を支えているとも言えます。
本記事では零細企業の概要、零細企業がM&Aを行うメリットや注意点についてご紹介します。
零細企業とは
零細企業は、法律上明確に定義されていませんが、一般的には小規模事業者など規模が小さい事業者を指します。中小企業基本法における小規模事業者(小規模企業者)の定義は以下の通りです。
※参考:中小企業基本法 第2条 をもとに作成
この記事のポイント
- 零細企業は日本の中小企業の大部分を占め、後継者不在のためM&Aによる譲渡が増加している。
- 零細企業がM&Aを行うメリットには、事業承継の実現や資本・技術の獲得があり、デメリットとしては顧客離れや人材流出のリスク、簿外債務の引き継ぎがある。
- M&Aの方法には株式譲渡と事業譲渡があり、株式譲渡は相対取引で行われることが多く、事業譲渡は特定の資産・権利義務を売却する方法である。
⽬次
零細企業の特徴
零細企業に見られる主な特徴は、以下の通りです。
地域社会に密着した事業展開
零細企業は地域社会に根ざし、そのニーズに応える形で事業を展開しているケースが多く見られます。これが、大企業では難しい「地域に密着したサービス」を提供できる強みとも言えます。
経営者によるスピーディーな意思判断
経営者自らが中心的に業務に携わるケースが多く、素早く柔軟な経営判断が行われる傾向にあります。
専門性と独自性
特定の分野や技術に特化した事業を展開し、その専門性、独自性を強みにする傾向が見られます。
零細企業は以上のような特徴を持ちながら、資金調達や、市場での競争力という面で課題を抱えているケースが多く見られます。
零細企業と中小企業、ベンチャー企業の違い
上記図の通り、中小企業基本法では、中小企業は資本金、従業員数などの規模が小規模企業者より大きく定められています。
ベンチャー企業は、法的な定義は存在しませんが、一般的には革新的なアイデアやビジネスモデルでイノベーションを生み出す企業を指します。ベンチャーキャピタルなどからの投資を受け、国内外でのスケールアップを積極的に行うケースも多く見られます。
一方、零細企業は安定した収益を目指し特定の地域や市場で事業を展開します。資金調達も主に地域の金融機関から行う傾向にあります。
零細企業がM&Aを行うメリット
零細企業がM&Aを通じて、外部の会社に譲渡する主なメリットは以下の通りです。
事業承継が実現できる
オーナーが高齢化して後継者がいない場合、M&Aは事業継続の一つの手段となることがあります。適切な譲渡先が見つかれば、長年築いた事業やブランドが消えることなく継続する可能性が高まります。
事業や顧客基盤、従業員がそのまま引き継がれるため、単に事業を停止するよりも、多くの関係者がメリットを享受できます。
事業展開、成長のきっかけになる
零細企業は資本規模が小さいため、拡大や新たな事業展開には資金が必要です。M&Aによって大きな資本、経営資源を調達することができます。
例えば、大企業の傘下に入ることで、その経営資源(人材、資金、ノウハウなど)を活用し、単独で成し遂げられなかった事業展開や成長が可能になることもあります。
零細企業がM&Aを行う際に注意すべきポイント
零細企業がM&Aを通じて、外部の会社に譲渡する際に注意しておきたいポイントは、以下の通りです。
企業価値の適切な評価
譲渡を行う際に、会社の価値を正確に評価してもらう必要があります。過大評価は買い手を遠ざける可能性があります。企業評価は専門性が高い領域であるため、第三者の専門家による評価を受けることをお勧めします。
また自社の強みを明確にし、譲渡先候補へのアピール材料にすることで、企業評価にプラスの影響が期待できます。
譲渡先を選ぶ条件の設定
いざ譲渡先の候補が複数上がった場合、どのような譲渡先であれば、自社が目指す目的を実現できるのか、会社の歴史や想いをどこまで尊重してもらえるのか、譲れない条件などをあらかじめ明確にしておく必要があります。
譲渡先との交渉では、価格だけでなく、価値観の共有、M&A後の方針などもしっかりと確認しておく必要があります。
契約内容の精査
譲渡契約には多くの条項が含まれます。買収完了後の保証期間、責任の範囲、ペナルティ等についてもよく理解しておく必要があります。専門の法律家と協力して、契約内容をしっかりと確認しましょう。
関係者への情報共有
M&Aのニュースは内外に大きな影響を与えます。成約前には情報管理を徹底する必要ますが、成約後は特に従業員に対して早めに情報を開示し、不安や疑問を解消する努力が必要です。
以上のように、零細企業がM&Aで譲渡を行う場合には、多くの側面で慎重な検討と準備が必要です。専門家の協力を得つつ、戦略的に、かつ慎重に進めていくことが成功への鍵となります。
零細企業がM&A・売却を行う方法
零細企業がM&A・売却を行う方法は主に「株式譲渡」「事業譲渡」の2つがあります。
本記事では概要をご紹介しますので、詳しくは関連記事を参照ください。
株式譲渡
株式譲渡はM&Aで用いられるポピュラーな手法の1つです。
オーナー経営者が保有する株式を譲受け企業(買い手)に売却する手法でとして、零細企業のM&Aにおいても用いられます。
株式譲渡には、相対取引、市場買付け、公開買い付け(TOB)の3種類がありますが、零細企業、中小企業など非上場株式の場合は相対取引しか利用できません。
相対取引は、取引所を通さずに買い手と売り手が直接交渉で行う取引です。あらかじめ当事者同士が売買する価格や数量を決めてから、取引所外で取引します。
非上場企業では、経営者が会社の株式の過半数を保有していることが多く、そのため相対取引で、株式譲渡が完結します。ただし、株式が多くの株主に分散している場合は、個別に交渉する必要があります。
事業譲渡
事業譲渡も同様にM&Aにおける代表的な手法の一つです。
特定の事業に関連している資産・権利義務などを売却する方法であり、企業の経営権が企業に残る点が株式譲渡と大きな違いです。
複数事業を展開しているうちの一部だけを譲渡し、主力事業に注力したい場合などに用いられます。譲受ける側にとっても、必要な事業だけを譲受けられるというメリットがある一方で、包括的に交渉を行う株式譲渡に比べて、個別に契約を締結するなど手続きが煩雑になるなどの注意点もあります。
終わりに
以上、零細企業についてご紹介しました。零細企業に限らずM&Aでは会社をどうしていきたいのか、目的を明確に定めておくことが重要です。また、会計や税務、法務など専門的なプロセスを含むため、外部の専門家をパートナーに進めることが成功の鍵となります。