スクイーズアウトとは?M&Aにおける重要性や4つの手法、手続きの流れを解説
⽬次
- 1. スクイーズアウトとは?
- 2. M&Aにおけるスクイーズアウトの重要性
- 3. スクイーズアウトと株価の関連性
- 4. スクイーズアウトを行うメリット
- 4-1. 1. 意思決定を迅速化できる
- 4-2. 2. 手続き・事務処理にかかる手間を削減できる
- 4-3. 3. 株式の分散を防止できる
- 4-4. 4. 訴訟リスクを削減できる
- 4-5. 5. 税制上のメリットが大きくなる
- 5. スクイーズアウトの4つの手法
- 5-1. 株式併合を用いた手法
- 5-2. 株式等売渡請求を用いた手法
- 5-3. 株式交換を用いた手法
- 5-4. 全部取得条項付種類株式を用いた手法
- 6. スクイーズアウトの手続きを行う流れ【株式併合の場合】
- 7. スクイーズアウトの事例
- 7-1. 佐渡汽船での事例
- 7-2. LINE×Zホールディングスでの事例
- 8. 終わりに
- 8-1. 著者
企業を経営するにあたり、重要な決議事項については株主総会で株主の合意を得なければなりません。
大抵の場合は出席株主の過半数もしくは三分の二以上の合意があれば重要な議題について決議できますが、場合によっては少数株主の反対意見が、企業の迅速な意思決定や企業経営そのものを阻害してしまうことがあります。
本記事では、少数株主と意見が対立した場合に行われるスクイーズアウトについて解説していきます。
スクイーズアウトとは?
スクイーズアウト(Squeeze Out)とは、少数株主から株式を強制的に買い取り、株主全体の合意形成をしやすくする手法を指します。
日本では「締め出し」あるいは「キャッシュ・アウト」とも呼ばれ、意見の対立する少数株主に対して金銭等を交付して強制的に株式を買い取り、株主から排除する方法です。
M&Aにおけるスクイーズアウトの重要性
中小企業によるM&Aの多くは、株式譲渡によって行われています。買い手側は、売り手側の株主から全株式を買い取って買い手企業の完全子会社化するのが通例です。しかし、もし一部の少数株主がこのM&Aに反対していたらどうでしょうか?買い手側は全株式を取得することができないため、完全子会社化できません。
このとき、買い手側にとっては、M&A後に少数株主と対立して会社経営がうまく行かないリスクが生じてしまいます。こうなると、M&Aそのものが不成立に終わるか、仮に成立したとしても譲渡価格が大幅に減額されるリスクが生じてしまいかねません。
そのような事態を防止するために、少数株主から株式を強制的に買い取って退場してもらう手法がスクイーズアウトです。
スクイーズアウトと株価の関連性
スクイーズアウトを行うにあたっては、少数株主から買い取る株式の株価は公正妥当なものでなければなりません。スクイーズアウトによって株式を買い取る大株主側などから見れば、買取 価格をできるだけ安い値段で設定したい気持ちも分からなくもありませんが、買取価格が低すぎると裁判所に売却価格決定の申立てをされてしまいます(会社法第179条の8)。
したがって、株価を算定するにあたっては、少数株主も納得できる公正妥当な方法で算定された株価を用いなければなりません。
スクイーズアウトを行うメリット
ではここで、スクイーズアウトを行うメリットについて解説します。スクイーズアウトのメリットは、主に以下の5点です。
- 意思決定を迅速化できる
- 手続き・事務処理にかかる手間を削減できる
- 株式の分散を防止できる
- 訴訟リスクを削減できる
- 税制上のメリットが大きくなる
1. 意思決定を迅速化できる
上述のように、会社の経営を行う上で重要な決議を行うためには株主総会を開催しなければなりません。もしも、その決議に反対する少数株主がいる場合、重要な意思決定を行うまでに時間がかかってしまいます。
しかし、あらかじめスクイーズアウトによって少数株主をなくして株式を大株主グループなどに集中させておけば、決議に時間がかからないため意思決定を迅速化できます。
2. 手続き・事務処理にかかる手間を削減できる
株主総会を行うためには、その事務処理に多くの手間や時間がかかってしまいます。株式が少数株主に分散している場合などは尚更です。
しかし、例えばスクイーズアウトによって少数株主が保有していた株式をオーナー経営者1人に集中できれば、わざわざ株主総会を開催せずに書面の作成のみで省略することが可能になります(会社法第319条、第320条)。
3. 株式の分散を防止できる
株主が亡くなると、その株式は相続財産となって相続人が新たな株主となります。その結果、株式が相続人ごとに細かく分散してしまうと連絡を取れない株主や面識のない株主が増え、会社を運営する上でリスクが増大する場合があります。
しかし、スクイーズアウトによって株式を集中させておけば、このようなリスクを回避することが可能です。
4. 訴訟リスクを削減できる
株主の中に主要株主グループに反対する少数株主グループがいると、会社を運営している取締役等は常に株主代表訴訟のリスクを背負いながら経営判断を行わなければなりません。しかし、少数株主に配慮しすぎた経営を行っても、かえって正しい判断が行えないことがあります。
このような場合に、スクイーズアウトによって少数株主をなくしておけば、訴訟リスクが削減されて会社が運営しやすくなります。
5. 税制上のメリットが大きくなる
スクイーズアウトによって少数株主をなくしたうえで売り手企業をM&Aによって買収すると、売り手企業を完全子会社化できます。完全親・子会社の関係となると連結納税制度が選択できるため、税制上のメリットが大きくなります。
親会社も子会社も別法人のため、本来はそれぞれに決算を行い、それに基づいて納税しなければなりません。しかし、連結納税を選択すると親会社と子会社の利益を損益通算することが可能になります。例えば、子会社が赤字であれば、その分を親会社の黒字から差し引いた上で税額を算定します。
このように、スクイーズアウトによって完全親・子会社となると、親子間の損益通算により節税が可能になります。
スクイーズアウトの4つの手法
スクイーズアウトには、主に以下の4つの手法があります。
株式併合を用いた手法
株式併合とは、例えば発行済株式10株を1つの株式にまとめることをいいます。株式併合によって株式の単位が切り下げられると、1株未満の端株が発生します。この端株を会社が買い取ることにより少数株主をスクイーズアウトします。
ただし、株式併合をするためには株主総会で2/3以上の同意を得なければなりません。
株式等売渡請求を用いた手法
90%以上の議決権を持つ株主もしくは株主グループ(これを「特別支配株主」といいます)は、株主総会の決議を経ずに少数株主から強制的に株式を買い取ることが認められています。
特定支配株主が株式の取得日や買取価格を定めて、会社に株式売渡請求を通知して会社の承認を経た上で少数株主に対して株式等売渡請求が行わると、スクイーズアウトが成立します。
株式交換を用いた手法
親会社が子会社を完全子会社化する対価として、子会社の株主に親会社の株式を交付することを「株式交換」と言います。株式交換を行うと、子会社から少数株主を排除することが可能です。ただし、今度は親会社の株主になるため、完全にスクイーズアウトをするためには、株式交換の対価を現金で支払うか、株式交換後に端株を買い取る方法などを用いなければなりません。
全部取得条項付種類株式を用いた手法
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議を経れば、株式を強制的に買い取ることができる株式のことを言います。いったん発行済みの全株式を全部取得条項付種類株式に変更したうえで少数株主の端株を大株主や会社が強制的に買い上げてスクイーズアウトし、その後残った株式を普通株式に戻す手法になります。
スクイーズアウトの手続きを行う流れ【株式併合の場合】
株式併合によってスクイーズアウトを行う場合を例に、その手順を解説します。
①取締役会の開催 |
---|
取締役会を開催し、株式合併の決議と株主総会の招集決議を行います。決議後は、株式の併合に関する概要や株式の併合割合、最終年度の財務関係書類などを会社本店に据え置き、株主総会開催の2週間前(もしくは株主への通知・公告の日のいずれか早い日)から6ヶ月間開示します。 |
②株主総会の招集通知 |
---|
株主総会開催の2週間前までに、株主に対して株主総会招集の通知を発送します(会社法299条1項)。 |
③株主総会の開催・株式併合の決議 |
---|
株式合併は、株主総会の特別決議で承認されなければなりません(会社法309条2項4号、180条2項)。出席した株主の議決権数の2/3以上の賛成が得られれば、株式合併が承認されます。 |
④株主への個別通知 |
---|
株式併合の効力が発生する日の20日前までに、全株主に対して株式併合に関する詳細を記載した通知書を送付します(会社法181条1項、182条の4第3項)。 |
⑤裁判所への売却許可の申し立て |
---|
株式併合により生じた1株未満の端株を買い取るために、裁判所に売却許可の申し立てを行います。 |
⑥株式併合の効力発生・株式の買い取り |
---|
株主総会にて決議された効力発生日が到来し、株式併合の効力が発生します。裁判所から売却を許可されている場合は、端株を会社が買い取り、少数株主のスクイーズアウトが完了します。 |
スクイーズアウトの事例
最後に、スクイーズアウトの事例をご紹介します。
佐渡汽船での事例
債務超過に陥り再建中だった佐渡汽船は、2022年2月7日にみちのりHDの傘下に入り、ジャスダックでの上場を廃止すると発表しました。
この発表に併せ、27万株の普通株式を1株に併合する株式併合を行い、端株に関しては発表前営業日に1株あたり202円だった同社株を30円で引き取るスクイーズアウトを行うことが公表されました。通常であればこのような価格でのスクイーズアウトは株主からの訴えられるはずですが、再建中で債務超過であったことから、法律上問題なく行われることとなりました。
LINE×Zホールディングスでの事例
2020年の9月、LINEに対して、ソフトバンクと韓国のネイバーは全株式の取得を目指してTOBが行われました。しかし、一部少数株主からの同意が得られなかったため、全株取得に失敗してしまいます。そこで、残った少数株主をスクイーズアウトする目的で2021年1月4日に株式併合が行われました。その後、LINEはヤフーを傘下に持つZホールディングスに経営統合されることとなりました。
終わりに
株式が分散してしまうと、少数株主の反対意見によって、株主総会の特別決議などで議案が否決されてしまうことがあります。株主の意見がまとまらなければ迅速な経営判断が難しくなってしまうため、企業を経営する上で大きなリスクを背負うことになってしまいます。
このような状態を切り抜ける手段として、スクイーズアウトが用いられることがあります。株式の分散は相続や事業承継の際にも問題となるため、できるだけ早い段階から、専門家などを交えた対策を行った方が良いでしょう。