株式分割とは?メリット、企業事例をわかりやすく解説
個人投資家が投資しやすい環境を整備することを目的に、上場企業に対して株式分割を促す動きが強まる中、株式分割への注目度が高まっています。本記事では、株式分割の概要や、企業、投資家それぞれの視点によるメリットやデメリット、手続きの流れ、実際に株式分割を行った企業事例をご紹介します。
この記事のポイント
- 株式分割は、企業が発行済み株式を分割し、株式の数量を増やして価格を下げる制度で、投資家の参加を促進する。
- メリットには流動性向上、配当の代替、上場市場区分の昇格などがある。
- デメリットには短期投資家の増加や管理コストの増加などがある。
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株式分割とは?
株式分割は、企業が発行済みの株式をより多くの株式に分割することです。これにより、株式の数量が増え、一株当たりの価格が下がります。
分割によって、株式の価格が低くなり、より多くの投資家が参加しやすくなるという効果があります。
例えば、1株1000円の銘柄を1対2で株式分割を行うと、理論的には1株500円になります。(分割によって増えた株式は、既存の株主に割り当てられ、株主が保有する株式数は倍になります。)
2023年7月に行われたNTTによる1対25の株式分割では、それまで約41万円だった最低投資金額が約1.6万円になりました。このように株式の購入に必要な最低投資額が下がるため、若年層を含め個人が投資しやすい環境となり、投資家層の拡大を図ることが期待できます。
株式分割は、企業が株主の利益を追求し、株式市場での取引を活性化させるための手段です。また、より多くの投資家が参加しやすくなることで、企業の資金調達や株式の流動性の向上にも役立ちます。
また、株式分割は1株を2株や3株など整数倍だけでなく、1株につき1.5株などのような分割が行われることもあります。
株式分割を行う企業が増えている背景
東京証券取引所は、個人が投資しやすい環境を整備するため、望ましい投資単位の水準を「5万円以上、50万円未満」と定めています。
かねてより投資単位が50万円以上の上場企業に対し、投資単位の引き下げの検討要請を行ってきたことから、株式分割を行う企業が増加傾向にあります。
2023年は、2024年1月から始まった新「NISA」を前に、個人投資家がより株式を買いやすくなるよう株式分割に踏み切る企業が増え、150社以上の企業が、2023年中に基準日を設けて株式分割を実施しました。
2024年に入っても株式分割の動きは続いており、日立製作所(5分割)、三井物産(2分割)、ソニーグループ(5分割)、三井住友フィナンシャルグループ(3分割)、ソフトバンク(10分割)など大型銘柄が株式分割を実行しています。
株式分割を行うメリット
株式分割のメリットを、分割を行う企業側、投資家側それぞれの観点でご紹介します。分割を行う企業側の株式分割の主なメリットは、次の通りです。
株式の流動性を高められる
株式分割で得られる最大のメリットは、株式の流動性を高められることです。つまり分割比率に応じて株価も下がるため、より多くの投資家が株式購入のチャンスを獲得できます。新たに株主となる投資家が増えるため、株主数の増加も期待できます。
配当の代替にできる
株式分割後も1株あたりの配当を変更しなければ、株主は株式分割によって新たに取得した株式数分だけ、受け取る配当が増えることになります。この方法を活用すれば、1株あたりの配当金額を変更することなく配当増額の代替として株主に利益を還元することができます。
市場区分の昇格を狙える
上場するためには、株主数や流通株式数などに関する一定の基準をクリアしなければなりません。株式分割を行うと、株主数や流通している株式数が増えるため、上位市場への昇格が狙いやすくなります。
続いて、投資家側のメリットについてご紹介します。
株式購入の敷居が下がる
株式分割によって1株あたりの価格が下がるので、個人投資家が株を購入しやすくなります。これによって、より多くの人が投資を始めることができ、新たな投資家層を引き込むことが可能になります。
例えば、1株あたり2万円の株価がついている株式を100株単位で購入するためには、最低でも200万円が必要です。
しかし、1:5の割合で株式分割が行われれば理論上株価は4千円になるため、100株単位でも40万円で購入することが可能になります。
株式の売買自由度が上がる
株式の売買単価が下がると、「少しだけ買い増す」ことや「値が上がっているうちに少しだけ売却する」など、株式の売買の自由度が上がり、市場での取引が活発になることが期待できます。
配当利回りが維持できる
株式分割を行うことで、1株当たりの配当が下がりますが、投資家が保有する株数が増えるため、全体の配当利回りはほぼ変わらない場合が多いです。これにより、投資家は安定した利回りを期待できます。
これらのメリットを通じて、企業は株式の市場での需給状況を改善し、より広い層の投資家から支持を集めることができるようになります。
ただし、株式分割は企業の実質的な価値を変えるものではないため、その効果は企業の基本的な健全性や成長性に依存する、という点も理解しておくことが重要です。
株式分割を行うデメリット
続いて株式分割デメリットについて、企業側のデメリットから見ていきます。
短期的な投資家を集めるリスクがある
1株あたりの価格が安くなるため、株を売買する際の心理的な障壁が低くなり、投資家が短期的な利益を追求する取引を行いやすくなる場合があります。
これが株価の急激な下落につながる可能性も考えられます。
管理コストが増加する
株式分割によって株式の数が増えると、株式の管理(株主名簿の管理、株主総会の運営等)にかかるコストが増加します。また、株式分割の手続きには、時間とコストがかかります。これには、関連する法的手続きや、株主への通知、証券取引所への報告などが含まれます。
企業イメージに影響する懸念もある
株式分割は一般にポジティブに受け取られることが多いですが、分割によって1株の価格が大幅に下がると、一部の人々から「安い株」という印象を持たれ、企業のイメージに影響を与える場合もあります。
続いて投資家側から見た株式分割のデメリットは、主に以下の通りです。
単元未満株(端株)が発生する場合がある
株式分割を行うと、比率によっては単元未満株(端株)が生じる場合があります。
例えば、100株持っている株式が1:1.1に株式分割された場合、1株が1.1株に分割されるため、保有株式数は「100株×1.1=110株」になります。
しかし、市場での売買単位は100株ですから、増えた10株に関しては市場で売れません。
そのため、この単元未満株を売却しようと思ったら、株式を発行している会社に対して買取請求を行わなければなりません。この際に、指値でなく成行注文するしかできず、場合によっては手数料負けしてしまうこともあります。
株価の安定性が損なわれる場合もある
一般的に株主が増えると、株価は安定する傾向にありますが、投機目的の投資家が増えることで、株価のボラティリティ(価格の変動幅)が大きくなる可能性があります。その結果、株価の安定性が損なわれる場合もあります。
投資家の混乱を招く懸念がある
株式分割は、特に初心者の投資家にとっては、理解しにくい場合があります。これにより、株の取引に対する投資家の不安が高まる場合もあります。
これらのデメリットは、株式分割によって引き起こされる可能性のある問題をいくつか示しています。したがって、企業は株式分割の実施を検討する際に、これらの点を慎重に評価し、全体としての利益がデメリットを上回る場合に、実施を決定することが重要です。
株式分割を行う手順
株式分割を行う場合の具体的な手順は、主に以下の4つです。
①取締役会での株式分割決議
株式分割を行うためには、取締役会設置会社においては取締役会での決議(非設置会社の場合は株主総会の普通決議)を行う必要があります。
決議では、以下の3点が決定されます。
- 株式分割の効力発生日
- 株式分割する株式の種類
また決議の前に、定款で定められている「発行可能株式総数」を確認する必要があります。
株式分割の比率によっては、現在の定款で定められている「発行可能株式総数」を超えてしまう可能性があります。そのような場合は、株式分割の決議前に、取締役会の決議で定款の「発行可能株式総数」を変更しなければなりません(会社法184条2項)。
②株主への公告
取締役会で株式分割が決議されたら、どの時点で分割された株式が株主に割り当てられるのかを伝える必要があります。
株式分割により新株を割り当てられる株主を確定する日を「基準日」といい、基準日の2週間前までには株主に対して基準日公告を行わなければなりません(会社法124条)。
③株式分割の効力発生
株式分割の効力発生日を迎えると、株主には分割によって増えた株式が与えられます。またこの時、1株に満たない端数が生じた場合は、その端数を合計したものを競売等で売却した後に売却代金を株主に交付します。
④法務務局への変更登記申請
株式分割を行ってから2週間以内に、本店所在地を管轄している法務局で、株式分割に関する変更登記申請を行います。
なお、株式分割の変更登記申請を行う場合、分割する株式の比率や株式数に関係なく一律30,000円の登録免許税が必要となります。
株式分割を行った企業の事例【2023年最新】
最後に、株式分割を用いた企業の事例をご紹介します。
任天堂による株式分割の事例
任天堂は2022年10月1日付で発行済みの普通株式を1株につき10株への分割を行いました。これにより、投資単位が約600万円から約60万円に引き下げられ、個人株主が参入しやすくなったとされています。
背景としては、かねてより「株価が高く投資しづらい」など、分割を求める意見が個人投資家から多く寄せられていたことから、購入層を広げることを目的に、31年ぶりに株式分割が行われました。
2023年6月26日には、投資単位の引き下げ(株式分割)について「投資家層の拡大・株式の流動性を高めるための有効な施策」とし、今後については「多面的な視点で慎重に検討する」との方針を開示しました。
オリエンタルランドの株式分割の事例
東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、2023年4月1日付で株式1株を5株とする株式分割を行いました。
これは、投資家層の拡大や流動性の向上につなげることを目的に行われ、さらに株式を長く持ってもらうために、個人投資家に人気の株主優待制度も分割に伴い見直されました。
トヨタによる株式分割の事例
トヨタ自動車は、2021年9月12日に、1991年以来30年ぶりとなる株式分割を1:5の分割比率で行うことを発表しました。
トヨタ自動車の株式は、発表当時1株あたり約1万円強で売買単位は100株のため、トヨタの株式を購入する場合最低でも100万円強が必要でした。
これが5倍に分割されるため、最低売買単位は20万円強まで下がり、流動性はかなり改善されることになります。
トヨタ自動車は国内企業の中で時価総額がトップであるのに対し、株主数は15位であるため、株式分割によって投資家にとって買いやすい売買金額にまで下げ、長期保有してもらえる個人投資家を呼び込む目的があると言われています。
また同時に、2,500億円の自社株買いを行うことも発表されました。企業が自社株買いを行うと、市場に出回っている株式数が減るため、株価は一般的に上がる傾向にあります。したがって、既存の株主や今回の株式分割で新たに株主になる投資家に対し、絶好のアピールが出来たといえるでしょう。
Zホールディングスによる株式分割の事例
Zホールディングスの前進であるインターネットポータルサイト大手のヤフーは、1997年11月4日の上場以降株式分割を繰り返してきました。上場時の公募価格70万円に対し、初値が200万円ほど着いたあと、ITバブルの波に乗ったことなどもあり企業価値は急上昇し続け、株価は上昇の一途を辿ります。
その対策として、急激に上がり過ぎる株価に対して株式の流動性を持たせるために、株式分割が行われます。
1999年の3月、初めての株式分割が1:2の割合で行われて以降、2006年の3月までの間に同じ比率で13回の株式分割が行われ、14回目の2013年9月26日には1:100の株式分割が行われました。こうして、上場当初からヤフーの株を持っていた人は、1株が何と81万9,200株にまで増えることになりました。
この結果、ヤフー側は株式の流動性を高めることに成功し、投資家側は株式分割によって多くの株式を得ることとなりました。
アップルによる株式分割の事例
2020年7月30日、iPhoneなどを製造販売している米国アップルは、1980年の株式公開以来5回目の株式分割を行うことを発表しました。
株価が過去1年間で約80%も上昇したことを受け、株式の流動性を確保しより多くの投資家に株式を買いやすくする目的で、1:4の株式分割を行うこととなりました。
アップルのように業績も順調で、企業価値も高い企業は、株価が急激に上昇することもあるため、株式分割によって株価が一定の範囲内に収まるよう、コントロールすることは、投資家に対して有効なアピールになりえます。
終わりに
株式分割は、株式の流動性を高めて個人の投資家を新たに呼び込めるなどのメリットがある一方で、管理コストなどのデメリットもあります。メリットとデメリットの双方を天秤にかけながら、最善策の選択を行う必要があります。